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亡者の嘆きを切り払え~伍~













己の担当区分の妖を十二神将達と殲滅した晴明は、成親達を初めとする陰陽師達がいまだに調伏を行っている現場へと向かっていた。
すると、先行していた太陰が焦りの浮かんだ表情でこちらに振り返るのが見えた。


「せ、晴明!昌浩が大変よっ!!」


どくり・・・・。
太陰の言葉につられるかのように、己の胸がふいに強く脈打った。
己は知っている。この感覚は・・・・・。
現場へと向かう足を急がせ、孫の許へ一刻も早く駆けつけようとする。
そして、その視界に孫の姿を捉えた瞬間、


どくんっ―――!


一際高く、胸が騒ぎたった。


「う・・・・・ぁ、うわぁあぁああぁぁぁぁっ!!!


そして孫の口から絶叫が迸るのは同時であった。
視界が、一気に白へと染め上げられた。
次いで強烈な衝撃波が襲ってきた。


「晴明っ!!」


玄武が咄嗟に前へ出て、主を守るべく強固な障壁を瞬時に築いた。
生じた白き津波は、宙を駆け巡っていた怨霊達を次々と容赦なく滅していく。
そして、その場に居合わせた陰陽師(陰陽生)達も共に衝撃波に吹き飛ばされ、全員意識を刈り取られた。
そして晴明が視界の元の色彩を取り戻した時には、怨霊達も女の怨霊と、その周囲を飛び交っているものだけになっていた。


「な・・・に。一体、何が起こったのっ?!」


事の成り行きについていけないのか、女の怨霊はひどく狼狽しているようであった。
そしてその視線の先には、いまだに白き焔の影をちらつかせて苦しんでいる子ども――昌浩の姿があった。
そして同じように昌浩の姿を見た晴明は、芳しくない現状に眉を寄せた。


「いかん、どうやら天狐の血が暴走しているようじゃ。・・・お前達、残りの怨霊共の相手を頼んだぞ」

『わかった(わ)!』

「・・・・晴明」


主の命に返答を返した神将達は、怨霊達の残党を倒すためにその場から離れていった。
しかし、その中で一つだけ動かぬ影があった。
その影の主は、蒼髪蒼眼の神将――そう、青龍だ。


「宵藍。すまぬがお主も行ってくれ」

「何故だ。俺はお前の護衛役だ。あんな雑魚共の相手など、他の奴らで十分に間に合うだろうが」

「わしの護衛には玄武がおるから心配はいらん。・・・行ってくれるな?」

「ちっ!・・・・・くれぐれも無茶な真似はするな。玄武、しっかりと見張っていろ」

「無論。言われずとも」

「・・・・・・・お主ら、わしを一体なんだと思っておるのだ」


二人の神将の間で交わされた会話の内容に、流石の晴明も思わず半眼になった。
が、そんな主の反応など知ったこっちゃないと、青龍と玄武は無視を決め通した。
いまだに不満顔のまま、青龍はさっさと怨霊達を消し去るべくその場から離れていった。
そして改めて孫――昌浩の方へと向き直ると、物の怪が何とか近づこうとしている様が見えた。


「昌浩!昌浩!くそっ!!」


苦しむ昌浩へと近づきたいのだが、それを昌浩を取り囲むように立ち上る白い炎が邪魔をするのだ。
それを無視して更に近づこうとすると、その炎の勢いを更に増させる。そうなると昌浩の苦しみ様も更に酷くなるのだ。故に近づきたくても近づけない。
そして、そんな状況に歯噛みする物の怪に、ふいに背後から声がかかった。


「紅蓮」

「!晴明・・・・・」


声を掛けられて背後を振り返ると、玄武を連れた主の姿があった。


「ばっ!近づくなっ!お前まで引きづられて血を暴走させる気か!!?」

「そんなことはせんよ・・・・。それより、昌浩は一体どうした?暴走するなどと・・・巫女から頂いた丸玉があるからそう容易くは」

「ない。道反の巫女から貰った丸玉は、今は昌浩は持っていない」

「なんじゃと?どういうことじゃ、紅蓮」


物の怪の思わぬ言葉に、晴明は驚いたように目を瞠り、ついで真剣な表情へとしながら疑問の言葉を紡いだ。
そんな晴明の言葉で物の怪は何かを思い出したのか、苛立ちをその夕焼け色の瞳に浮かべつつも忌々しげに言葉を吐き捨てた。


「どうやら陰陽生の馬鹿共にとられたらしい。昌浩を気を失わせてまでな!」

「心当たりは?一刻も早くその者達から取り返さねば、昌浩が危うい」


晴明はそう言って、いまだに苦しそうに呻き声を上げている昌浩へと視線を落とす。
このままでは天狐の血が昌浩の魂を焼き滅ぼしてしまいかねない。
己の天狐の血もまた、さきほどからずっと騒ぎ続けている。立っていられないほど辛いわけではないが、集中力を欠いてしまう恐れがあるくらいには晴明にも影響が出ていた。


「生憎俺は運悪くその現場にいなかったからな、顔はわからない。わかってたら直ぐさま取り返しに行っているんだがな・・・・くそっ!」

「・・・・誰か知っておる者はおらぬのか?」

「知ってる奴?・・・・!それなら確か敏次の奴が――「昌浩殿っ!?」


敏次の奴がいた。という物の怪の言葉を、ふいに他の者の声が遮った。
はっとなってそちらへと視線を向けると、つい今まで話に上っていた人物――敏次が驚愕に目を大きく見開いた状態で立っていた。










一方、その頃の十二神将達はというと、


「もぅ、鬱陶しいわねぇ!皆吹き飛んじゃえ!!」

「本当に数だけだな」

「あぁ・・・・・・・・」

「ちっ!さっさと失せろっ!!」


怨霊達を太陰が風で吹き飛ばし、勾陳が筆架叉で切り伏せ、六合が銀槍で薙ぎ払い、青龍が大鎌で叩き切るという実に一方的な戦闘になっていた。
そして怨霊達は見る間にその数を減らしていき、とうとう主犯である女の怨霊を残すのみとなった。


「どうしてっ、一体何が悪いというの?!私はただ父を殺した陰陽師に復讐したいだけなのにっ!!」

「そのような言い分がまかり通るとでも思っているのか?お前の父とやらを殺した陰陽師が誰かは知らぬが、陰陽師全員というわけではないだろう?それはただの八つ当たりというものだ」


己の意見を声高に主張する女の怨霊に、勾陳は呆れたように言葉を返した。
女の怨霊はそんな勾陳をきっと睨みつける。


「それでも!私は陰陽師が、憎いっ!」

「恨むのはお前の勝手だ。だが、晴明にまで手を出すというのなら俺達は容赦しない」

「そうよ!迷惑もいいところだわ!!」

「女々しい奴だな。鬱陶しい」

「――ということだ。悪いが貴様には消えて貰おう」

「そんな・・・そんなのって・・・・・・きゃああぁぁぁあぁぁっ!!!」


女の言い分には一切耳を傾けず、神将達は容赦なく攻撃を繰り出した。
神将達の一斉攻撃に、女の怨霊は跡形もなく消え去っていった。











「敏次!お前、丁度良いところにっ!」


機会を計って登場したかのような敏次に、物の怪は思わず声を上げた。
そんな物の怪の言葉など敏次の耳に届くはずもなく、敏次は目の前で起こっている明らかな異常事態にとても困惑していた。


「晴明様!昌浩殿は一体どうしたのですかっ!?そ、その白い炎のようなものは・・・・・」

「敏次殿、でしたかな?丁度良かった。事は一刻も争います。昌浩から丸い玉を奪い取った者達の顔を知っていると聞いておりますが、相違ありませんかな?今はあれが必要な事態なので・・・・・」

「丸い玉?それならつい先ほど、彼らから返して貰い、ここにありますが・・・・・」

「何、それは本当ですかな?ならば急ぎその玉を渡していただきたい」

「は、はいっ!どうぞ!!」


あまりにも真剣な晴明の表情に敏次は混乱を極めながらも、懐に丁寧にしまっていた直丁の持ち物である丸玉を取り出し、晴明の手へと急ぎ渡した。
晴明はそれを受け取ると、素早く身を翻して喘ぎ苦しんでいる昌浩へと歩み寄った。


「敏次・・・・普段からいけ好かない奴だとは思っていたが、今回ばかりは褒めてやるっ!!」


物の怪はいつもなら絶対に口に出さないような言葉を口にした。・・・・まぁ、一言余計なことも言っているようではあるが。
しかし敏次に意識を向けていたのはほんの少しの間だけで、直ぐさま自分も昌浩の許へと駆け寄っていった。


「昌浩、昌浩。聞こえておるか?」

「・・・・ぃ・・・・・じい・・・ま・・・・・」


晴明の声に反応して、昌浩は苦しそうに顔を歪めながらも視線を晴明の方へと向けてきた。


「道反の丸玉じゃ。敏次殿が取り返してきてくれたようじゃ」


晴明はそう昌浩に簡単に説明すると、立ち上る炎の存在を無視してその手へと丸玉を渡してやった。
その際、ちりりと炎が指先を煽ったが、それ以上は炎が暴挙に出ることはなかった。

丸玉を昌浩に渡してからしばらくすると、昌浩を多い囲む炎の勢いが段々と弱くなっていき、最後には何事もなかったかのように治まった。
炎が治まった後も昌浩はしばらくの間荒い呼吸をしていたが、それも時間を経るごとに正常のものへと戻っていった。


「大丈夫か?」

「は、い・・・・・・もう大丈夫です。完全に治まりました」


晴明から掛けられた言葉に、昌浩は呼吸を整えながら返事を返した。
そしてつと晴明の背後へと視線を向け、いまだに何が起こっていたのかいまいち把握できていない敏次を見遣った。


「敏次殿も・・・・玉を取り返してくださってありがとうございました」

「いや・・・私は大したことはしていない。その玉は・・・・今のようなことを、抑える働きがあるのか?」

「えぇ、これがないと・・・・・その、色々と大変で・・・・・・」

「そう、か。私にはいまいち現状を把握できていないのだが・・・・何はともあれ、無事事なきを得たようでよかった」

「はい。本当に、ありがとうございました」


昌浩の先ほどの尋常ではない様子は一体何だったのか、敏次にはそれがわからなかったが、あの玉を渡すことでそれを抑えることができたというのなら、あの玉を取り返すことができて本当に良かったと思う。
と、そこで敏次は己がこの場へと来た理由を思い出した。


「!時に晴明様、確かつい先ほどこちらの方角に向けて大量の妖気を感じて急いで来たのですが・・・・・」

「あぁ、それなら調伏し終えたところです。これ以上何かが起こる心配はないので、安心して宜しいですよ」

「そうでしたか・・・・大事にならなくてよかったです。―――ところで、陰陽寮の方々が皆気を失っているようですが・・・・・一体何が」

「そのことなら心配ありません。皆、調伏で疲れて気を失っているだけですからな、もうしばらくすれば目を覚ましますよ」

「そう、なのですか?」

「えぇ、そうですとも」


心配げな表情の敏次に、晴明は鷹揚に頷いて返した。
彼らが気を失った本当の理由は実は違うのだが、それを話すとまたややこしいことになってしまうので敢えて伏せておく。
実は成親達を除いたその場で気を失っている者達には、混乱に乗じてこっそりと忘却の呪を掛けていたりする。これで彼らは調伏のために力を使い果たして気を失ったと思うはずである。


「さて、先ほどのことについて、敏次殿にも説明致しましょう。私の孫についても・・・・・貴方なら安心して話すことがでるでしょう」

「は、はぁ・・・・」

「じ、じい様?!」


一体何をどこまで話すのだ?!と昌浩は慌てて祖父へと声を掛ける。


「昌浩、お前はもう少し休んでいた方が良いじゃろう。説明はわしに任せなさい」


むしろ余計な口出しは無用だと、その目は言っていた。
そんな晴明に逆らうわけもいかず、昌浩は「はい・・・」とのみ返事を返すのみであった。

そして気を失っている彼らをそのままに(酷っ!)、晴明は敏次を連れてその場から離れていった。





ちなみに、晴明が敏次に行った説明は天狐の血云々を伏せ、色々と真実を屈折させた、けれども実に真実味のあるものであったらしいと、晴明の『説明』を聞いた後の敏次の昌浩に対する態度から昌浩はそう察したのであった―――――。













※言い訳
お、終わったぁ―!終わりがいまいち締まらない気もしなくはないですが、とにかく終わらせることができました!!じい様がとっしーにどんな説明をしたのかは、皆さんの想像にお任せします。とっしー、何かじい様に騙されてる感が否めない。じい様は可愛い末孫のためであれば、真顔で嘘を吐けます(笑)。十二神将の出番が少なくて、ほんと申し訳ないです・・・・・・・;;



2007/9/13