※注)お話は果て無き誓い(略)後、じい様達は先に都に戻り、昌浩とその護衛についた神将数名のみがいまだに出雲に残っている設定です。その上、原作の流れは完全無視の方向となります。 まつろわぬ者達の哀咽〜中編〜 |
かさり・・・と、足を一歩踏み出すごとに葉と葉が擦れ合う微かな音が聞こえてくる。 人など滅多に来ないような森の奥深くに道らしい道もあるはずがなく、それも当然かと昌浩は耳に届く音を聞きながら取りとめもなく考えていた。 「昌浩―――?」 遠くから聞こえてきた声にはっと現へと意識を引き戻した昌浩は、慌てて足元へと向けていた視線を上げる。 すると、随分と距離を空けた所で立ち止まり、こちらへと振り返っている比古とたゆらの姿が目に入ってきた。 考え事をしている間に彼らとの距離が空いてしまったことに気がついた昌浩は、慌てて彼らの許へと駆け寄った。 「・・・・なにやってんだ?」 「ごめん、ごめん。ちょっと考え事をしてた」 「考え事は大いに結構だが、気づかねば置いていくところだったぞ?」 「うん、ごめんなさい・・・・」 呆れた様子で比古が話すだけではなく、その上灰黒色の狼にまでそれとなく注意された昌浩は、しゅんとした様子で謝った。 そんな昌浩の様子に、厳しい表情を保っていた比古はぷっと小さく吹き出した。 いきなり笑われた昌浩は数回瞬きをした後、半眼になった。 「ひぃ〜こぉ〜〜?」 「くっ!わ、悪い・・・つい、な」 「ついじゃないよ!まったく、こっちは真剣に謝ってるのに・・・・」 「だから悪かったって。そう拗ねるなよ」 「拗ねてない・・・・」 そう言いつつも不機嫌そうな表情をを改めない昌浩に、やっぱり拗ねてるじゃないかと比古は内心で突っ込んだ。 「言い合いはそのくらいにしておいたらどうだ?いい加減、帰らねば日が完全に沈んでしまうぞ?」 ふいに掛けられたたゆらの言葉に、昌浩と比古は同時に空を仰いだ。 青かった空は綺麗な橙色へと染め上げられ、東側の空は紺色へと染まり始めている。 「うわっ!本当だ。早く戻らないともっくん達が心配しちゃうよ!」 「あのなぁ、一体誰の所為で・・・・まぁいいか。それより、さっさと行くぞ。あまり帰りが遅いと、お前のところの神将達が煩いからな」 慌てて歩みを再開した昌浩達は、森の中を勇み足で進んで行った。 道反の聖域までもう少しという所まで来て、ふいに昌浩は歩みを止めた。 首の後ろあたりにちりりと微かな痛みが走り、昌浩は思わずその箇所に手をあてがった。 危険が間近に迫っている時に感じる感覚とは少し違うように思い、昌浩は視線を遥か彼方へと飛ばした。 「―――昌浩?」 足を止めた昌浩に気がつき、比古が胡乱げに問いかけてくる。 しかし、昌浩はそれに返事を返すことなく、じっと遠くを見つめたままでいる。 「どうし――「たいへん、たいへーん!!」 どうしたんだ?という比古の問いかけの言葉は、急に飛び込んできた幼さを多分に含んだ高い声に遮られた。 一体何事かと声の聞こえてきた方へと視線を向けると、幼い容姿をした神将――太陰が風を巻き起こしながら姿を現した。 「太陰?どうしたんだ??」 いつの間にか遠くへと馳せていた視線を元に戻していた昌浩が、太陰へと訝しげに首を傾げながら問いかけた。 「大変なのよ!今、白虎から連絡が入って、都に怨霊の大群が押し寄せてるって――!」 「なっ!それで、じい様達は・・・?」 「晴明も調伏に出るって!ついこの間までの闘いの疲労がまだとれてないのにって、青龍や天后がかんかんに怒ってても取り合ってくれないらしくて!だから!!」 蒼褪めた顔で必死に言い募ってくる太陰に、昌浩は即決を下して首を縦に振った。 「・・・わかった。俺達も急いで都に戻ろう。太陰、疲れているところ申し訳ないけど、都まで皆を運んでくれないか?」 「もちろん良いわよ!っていうか、騰蛇達もそのつもりらしいから昌浩を迎えにくるよう言われてここに来たのよ」 「うん、それじゃあ直ぐにでも行こうか。道反の方達にはきちんとお礼を言えないけど、日を改めてお礼を言いに来なくちゃね。―――比古、そういうことだから俺達はこれで・・・「俺も行く」・・・え?」 比古の口から放たれた言葉の意味を数瞬後に理解した昌浩は、それでも尚信じられずに驚きを湛えた眼で比古を見つめた。 そんな昌浩の様子を見て、昌浩が聞き損じたとでも思ったのか、比古は再び先ほどと同じ言葉を繰り返した。 「俺も、一緒に行く」 昌浩の目を真っ直ぐと見据え、比古ははっきりとそう告げた。 「比古?何言って―――」 「この間の一件。お前達に随分と迷惑を掛けた。だから今度は俺がお前達の力になりたい」 「比古・・・でも」 「何を言っている。比古」 「たゆら・・・・」 ふいに口を開いたたゆらに、比古は気まずげに視線を逸らす。 自分の申し出が唐突であることは十分に理解している。それをすぐ隣にいる狼に一言も相談せずに言い出したのだ。彼の怒りを買っても仕方ない。 己と視線を合わせようとしない比古を見、たゆらは呆れたように息を吐き出した。 「俺ではない。“俺達”、だろう?」 「え・・・・・」 たゆらから発せられた言葉に、比古は驚きに目を瞠った。 驚きの表情を浮かべる比古に、たゆらは機嫌悪げに言葉を続けた。 「何故一人で行こうとする?俺の存在を忘れられては困るな」 「・・・・・いいのか?」 「いいも何も・・・お前の行く所が俺の行く所だ」 さも当然のことのように言葉を告げてくるたゆらに、比古は思わず顔に笑みを浮かべた。 「たゆら・・・ありがとう」 「さて、礼を言われる覚えなどないな。・・・・・・そういうわけだ、俺と比古もお前達と共に行く。一緒に連れて行ってくれ」 「ど、どうしよう?昌浩・・・・・」 「どうしようって・・・・・・・・」 「連れて行っても構わないのではないか?」 困惑の表情を浮かべる昌浩と太陰に、思わぬところから言葉が返ってきた。 反射的にそちらへと顔を向けると、太陰以外の現在出雲に残っている神将達の姿が全員あった。 「!皆、どうして・・・・・」 「急ぎ知らせの係りとして太陰を遣ったのだが、帰りが遅いようだったからな。我々が出向いた方が早いだろうと思って来た」 どうしてここに?という昌浩の疑問を感じ取ったのか、勾陳が代表として答えを口にした。 「そっか・・・・。ところで、比古達のことなんだけど皆はどう?」 「はっ!そんなの聞くまでもないだろう。そっちが勝手についていきたいと言ってるんだ、好きなようにさせればいいだろう」 昌浩の質問に、間髪入れずに白い物の怪が言葉を返した。 皆、物の怪の意見に賛成なのか一様に首肯している。 そんな彼らの返答を受け取った昌浩は、一つ頷くと改めて比古達へと向き直った。 「――ということだから、一緒に来てくれる?」 「当たり前!というか、そもそも俺自身が言い出したことだからな。申し出を受け入れてくれて助かる」 「うん・・・・・それじゃあ、行こうか。太陰、お願い」 「まかせて!飛ばすわよ〜♪」 「は、ははっ・・・なるべく安全にお願いします・・・・・・」 未だに太陰の風流に慣れない昌浩は、口の端を引き攣らせながらそう言うことしかできなかった。 そんな昌浩の様子を見て、事情を知らない比古達は不思議そうに首を傾げるのであった。 その事情を悟るのは太陰の巻き起こした風に乗ることとなる数秒後。 そして、彼らは出雲の地を離れ、都へ向けて飛び立ったのであった―――――。 ※言い訳 まず、初めに。たゆら偽者警報です!(ヲイ) たゆらの一人称がわからない!というか覚えていない?!果たして、「俺」でいいのでしょうか?違っていたら誰かご指摘下さい!! たゆらがこんなこと(お前の行く所が〜)を言うのか?言うのか??と己自身多大な疑問を抱きながらたゆらの台詞を打っていました。(笑) 比古とたゆらの話し方がいまいち把握し切れていないことが悩み。うろ覚えの記憶で書いているので、かなり偽者っぽくなっているやも・・・(それはもう別人では?) というか、今回全然お話が進んでいない!?駄目ジャン!!次回からは都に舞台を移します。 それでは、このお話はフリー配布なので、ご自由にお持ち帰りください。 2008/12/6 |