※注)お話は果て無き誓い(略)後、じい様達は先に都に戻り、昌浩とその護衛についた神将数名のみがいまだに出雲に残っている設定です。その上、原作の流れは完全無視の方向となります。








まつろわぬ者達の哀咽〜前編〜














忌々しや


憎らしや


恨めしや


我らの命を刈り取った


滅ぼした


何故だ


どうして殺されなければならない!


この怨み、晴らさずにはいられるか


この苦しみ、ぶつけずにいられるか


待っていろ




天つ神の血を引く者どもよ――――!







                        *    *    *







出雲での一件を終え、昌浩と一部の神将達を除いて晴明達は都へと帰ってきていた。

上へと出雲の件を報告し終えた晴明は、断りを入れて静養するためにしばらくの間邸へと篭っている。
そうして体をゆっくりと休めねばならないほど、晴明は心身共に疲労困憊していた。
ここの所立て続けに大きな事件が続き、体を休める暇などほとんどなかったことがその要因の一つでもあった。
ただでさえ(この時代では珍しいほど)高齢の身であり、身体面では若人に比べ衰えているのだ。それで疲れを感じないはずがなかった。

神将達より油断なく向けられる厳しい視線の下、がっちり監視されながら晴明は養生生活の日々を送っていた。
少しでも体を動かそうものなら鋭い視線が突き刺さり、「座っていてください!」と檄を飛ばされ、行動を先回りされる。
お陰でここ数日は邸内を移動することを除けば、晴明は殆ど動くことはなかった。
あまりにも過保護過ぎる神将達の言動に苦笑を零しつつ、久々に静かで穏やかな時を過ごした。

が、そんな束の間の平穏も不穏な影によりあっさりと崩されてしまった。


突如として湧いて出た膨大な妖気によって――――。



「!なっ、これは・・・・・」


書物を捲る手を止め、弾かれるように顔を上げた晴明は驚きに眼を瞠った。
その視線は部屋の壁を通り抜け、遥か遠くへと向けられている。

と、一拍の間を置いて、都様子を見に行って貰っていた白虎が晴明の前に顕現した。


「晴明、都内に大量の怨霊達が侵入してきたぞ。どうやら内裏の方へ向かっているようだ」

「なんじゃと!・・・・・急ぎ内裏へと向かわねば・・・・白虎、済まないが――」

「許さん。そんなぼろぼろの身で、何をしようとしている」

「宵藍・・・・・・」


晴明の言葉を遮り、その場へと姿を顕したのは青龍であった。
彼の眉間の皺は常より濃くはっきりと刻まれており、向けてくる視線も触れれば斬れてしまいそうな位に鋭く、剣呑だ。


「晴明様、よもやご自分の体の状態がわからないなどと仰りませんよね?お体の疲れは未だ取れていません。その上で更に疲労を重ねるような真似をなさろうとしないでください」


青龍に続き天后までもがその場に顕現し、晴明の行動を止めようとする。


「天后、お主もか・・・・・・」

「晴明、お前がしゃしゃり出る必要はない。陰陽寮の奴らにでも対処させておけ」

「青龍の言うとおりです。晴明様がわざわざ赴く必要はありません。どうか、このまま邸でお休みになってください」

「青龍、天后・・・・しかしじゃな、この様な非常事態でそんなことは言っておれんじゃろうて。白虎、内裏の様子はどうなっている?」


晴明は厳しい表情を保ったままの神将二人に溜息を零しつつ、庇で風読みを行っている白虎に声を掛ける。
晴明に声を掛けられた白虎は、閉じていた目を徐に開ける。そして、しばしの逡巡の後に口を開いた。


「・・・・・・・・あまり、状況は芳しくないようだ。陰陽寮の者達が総動員で事に当たっているようだが、向こうの方が遥かに上回る量で押しているようだ」

「白虎!」


白虎の言葉を聞いた天后が批難の声を上げる。
そのような不利の状況の話を聞けば、晴明をこの場に止め置くことが難しくなる。それをわかっていながら言葉を口にした白虎が少々恨めしい。

一方の白虎も、渋い表情を浮かべていた。
天后の言いたいことはよくわかっているのだが、如何せん主の命を聞かぬわけにもいかず仕方なしに話したのだ。でなくば白虎とてあまり言葉にしたくなどなかった。


「天后、白虎をそう責めるでない。・・・内裏へ向かう。お前達、共に来てくれるな?」

「晴明様!」

「天后、諦めろ。こうなった晴明の意思を曲げることなど不可能だ」

「何を言い出すのですか白虎!晴明様をこれ以上――」

「じゃからお主らも共に来いと言っている。わしを少しでも疲れさせたくないと言うならば、お主らも力を貸せい」

「〜〜っ!わかりました!晴明様の御身は必ずやお守り致します!いえ、それ以前に近づけさせません!!」


晴明のあんまりと言えばあんまりな発現に、とうとう折れた天后は半ばやけになって言葉を吐き出した。
そんな天后に、晴明は内心安堵の息を吐いた。そしてもう一人の反対者である青龍へと視線を向ける。
青龍はそれはもう凶悪な顔つきだった。不機嫌な様子を隠しもせず、怒気を全開に周囲へと放っている。


「宵藍――」

「・・・・・この阿呆が!」


青龍はそう一言だけ吐き捨てると、その場から姿を消した。
といっても、隠形しただけで今この場には留まっている。何だかんだと言っても、結局はついてきてくれるらしい。

散々文句を言いつつも、最後には許してくれた神将達に感謝しつつ、晴明は立ち上がった。





「では行くぞ―――」





そしてさほど時間を空けずに、安倍邸より内裏へ向けて風が駆け抜けた――――。













※言い訳
やっと、300000hit企画最後のお話を書き始めることができました。ほんと、もう遅すぎてすみません;;
今回昌浩と比古がでなかった;;晴明達だけでお話が終わりました。
と、ここで振り返ってみると、今回出番の多かった天后や白虎(青龍はちょくちょく書いてる気が・・・)は普段あんまり書かないので新鮮でした。晴明との遣り取りを書いていて面白かったです♪
次回は昌浩達もきちんと登場させます。

さて、このお話はフリー配布なので、ご自由にお持ち帰りください。



2008/11/18