※注)本編の流れではどうなるかはわかりませんが、このお話では果て無き誓い(略)後、じい様達は先に都に戻り、昌浩とその護衛についた神将数名のみがいまだに出雲に残っている設定です。









白妙の闇を振り解け〜弐〜















「昌浩ー!昌浩、どこにいるんだ!?」


鬱蒼と生い茂る木々の合間を駆け抜けながら、比古は友の名を呼ぶ。
しかし比古の呼び掛けに声が帰ってくることはなかった。

比古は駆けるその足を一旦止め、薄っすらと浮かび上がっている額の汗を軽く拭った。


「まったく、あいつ一体どこに行ったんだ?」

「そうだな、もう探し始めて一刻半も経つ。いい加減見つかっても良い頃だとは思うんだが・・・」


気配が全くと言っていいほどないな。

たゆらは周囲を軽く見回してそうぽつりと言葉を漏らした。
比古もそれに頷いて同意する。

ここ最近、睡眠が足りない所為かいまひとつ元気がない昌浩。
それが気になって仕方ない比古であったが、当の本人もその理由をよくわかっていないようであった。
大丈夫だと本人は笑って言ってはいたが、くまが浮かんだ顔で言われても説得力の欠片もない。

そんな状態の昌浩を見て、神将達は一体何をしているんだと思い、彼らにそのことについて言及してみた。
神将達も昌浩の睡眠不足には気づいているらしいのだが、どうして睡眠不足になっているのかその原因がわからないらしい。何故なら、夜、昌浩は傍から見たらきちんと寝ているのだという。
悪夢に魘されている素振りもなく、静かに寝ているようにしか見えない。けれども昌浩自身はあまり睡眠を取れているように感じていない。それは彼の目の下にできたくまがありありと物語っている。
この矛盾に神将達も頭を抱えているらしい。

その話を聞いて、胸の内で感じていたざわめきが段々と強くなってきているのを比古は感じた。
嵐の予兆、とでも言えばいいのか。とにかくあまり良い気分はしない。
何か良くないことが起ころうとしている。そんな予感がして、比古はいてもたってもいられずに昌浩に今日も会いに来たのだが・・・・肝心の彼の姿が見えない。
神将達も朝から昌浩の姿を見てはいないらしく、比古が昌浩に会いに来る前から昌浩のことを探していた。
そして比古達も昌浩の捜索を手伝うことになり、現状に至っている。


「どうする、比古。一旦神将の奴らと合流するか?」

「そうだな・・・・もしかしたらもうあいつらが見つけているかもしれないしな。そうしようか」


比古はたゆらの提案に頷き、来た道を引き返す。
たゆらも比古の後に続き、その身を翻す。

胸のざわめきが消えない。
寧ろそのざわめきは強くなっていく。


「昌浩・・・・・・」


思わず昌浩の名が口から零れる。
重く沈んでいく思考を振り払うために軽く頭を振り、比古は駆ける足の速度を上げた。



その後神将達と合流したが、結局昌浩の姿を見つけることはできなかった。

何となく仰ぎ見た空は曇天だった。
まるで、これから起こることを予兆させるかのように―――――――。







                        *    *    *







明かりのない漆黒の闇。

人一人通らない道の真ん中に、佇む人影が一つあった。
結われることなく肩へと流された黒髪は風に揺れ、その人物の顔を隠す。
同様にその人物が纏っている濃紺色の衣の裾も、風に吹かれて翻る。

ふっと、唐突に風が吹き止んだ。
辺りをしんと耳が痛いほどの静寂が包み込む。
それと共に道の真ん中に佇んでいた黒髪の人物は漸く動きを見せた。

徐に手を己の髪へと持ってくる。そして一房にも満たない量の髪を抓むと、その爪先でぷつりと切り取った。
己の髪を切り取った当人は、じっとその切り取った髪へと視線を注ぐ。と同時にその人物から濃厚なまでの妖気が立ち上った。そしてその妖気は段々と手の中にある髪へと集まっていく。
全ての妖気がその髪へと集まったことを確かめると、その切り取った髪を足元の地面へと埋め込む。
誰にも気づかれることがないように、地面の深くへと・・・・・・。

やがて髪を埋め込み終わった黒髪の人物――いや、この場合は妖か・・・は、ゆっくりとした動作で立ち上がる。
髪を埋めた場所は綺麗に均されていた。


「狂わすには四つ辻、殺すには宮の下・・・・・」


ふいに妖から声が零れ落ちる。
静まり返ったその場には、思いの他よく響いた。


「ふふっ、じわじわと狂っていけばいい・・・・じわじわと、な」


どこか愉悦の含んだ笑い声が低く紡ぎだされる。
顔の前に垂れ下がる髪の隙間から、月影のような銀の瞳が覗いた。
妖はもう一度足元へと視線を落とした後、ここにはもう用は無いといった風にあっさりと身を翻した。

その姿はあっという間に闇夜の中へと溶け込んでいった。


そして再び風が吹き始めた。
道と道が交わる四つ辻の上を――――――――。







                        *    *    *







昌浩が姿を消してから早十日が経った。

その間、神将達と比古達は昌浩の行方を追っていたが、一向にその姿を見つけることはできなかった。
彼らは昌浩を探し出すことができずに、日に日に焦りを募らせていた。


さわり・・・。
風が緩やかに吹き抜けていく。
そんな中、十二神将・太陰は宙に浮かんだまま静止し、目を閉じていた。
彼女の額にはじんわりと汗が滲み出ている。

風読み。

それが彼女が今行っているものの名である。
以前から好いていない繊細な術である風読み。それを彼女は自ら進んで行っていた。

滲んだ汗が頬を伝い落ちる中、彼女は必死に子ども――昌浩の行方を捜す。
しかし、一向に彼に関する情報は伝わってこない。
焦りと苛立ちの中行われている風読みは思うように上手くはいかず、とうとう彼女の集中力切れがきてしまった。


「―――っ、あ〜もう!何で昌浩についての情報がこれっぽっちも入ってこないのよぅ!!」


苛立ちが込められた言葉が紡がれると共に、彼女の周りを些か荒れたような風が吹く。


「・・・・ご苦労だな、太陰」

「!勾陳・・・・・・」


強めの風が吹く中、同じ十二神将である勾陳が姿を現した。
太陰が勾陳に気がつくと同時に、荒れ吹いていた風も元の穏やかなものへと戻っていった。


「その様子をみると、情報収集は思うように行ってはいないようだな」

「思うようにいくどころか、情報なんて一っつも入ってきやしないわよ!どんな瑣末なものでさえね・・・・・・・」

「そうか・・・・。晴明の方は?何か言ってきているか?」

「・・・いいえ。晴明の占いの方も上手くいってないみたい。何かに邪魔されたように結果がはっきりと見ることができないって白虎が・・・・・」


昌浩達より一足先に都に帰った晴明達。
もちろん昌浩がいなくなってしまったことは都にいる晴明達にも知らせた。
その知らせを聞いた晴明は、すぐにでも出雲に引き返そうと思ったのだが、先日の戦いによる心身(特に精神)の疲労が完全に回復していないために敢無く断念した。
その代わりに昌浩の行方について占じたりもしているのだが、その結果は先に述べたように芳しいものではなかった。


「晴明の方もか・・・・・。一体何が起こっているのやら・・・・・」


勾陳は困惑の混じった溜息を落とした。
そんな勾陳に、太陰は遠慮がちに声を掛ける。


「勾陳、他の皆は・・・・?」

「ん?あぁ・・・・。玄武はここにいる。六合と騰蛇は少し里の方へと降りている。比古とたゆらも私達とは別に昌浩の行方を捜している」

「そう・・・・・」


昌浩が姿を消してから十日が経った。
その間昌浩を必死に探しているのだが、その姿どころか影さえも掴めぬ有様であった。
彼の傍に常にいる騰蛇の憔悴ぶりなど、傍から見ていても痛ましいの一言に尽きるくらいである。
彼ほどにないにしても、他の神将達もまた同様に昌浩のことを心配していた。
先ほど太陰が不慣れな風読みを行っていることからにしても、その様子は窺える。


「・・・・まぁ、手がかりがない以上、私達も虱潰しに昌浩を探す他ない。もう日も暮れる頃だ、今日の捜索はここまでで打ち切りだな」

「えぇ、わかったわ・・・・」


しゅんと落ち込んだ様子を見せる太陰に、勾陳は励ますように軽く肩に手を乗せる。






そして他の者達と合流すべく、その場を後にするのであった―――――。














※言い訳
本当に久しぶりの更新です。前回から一ヶ月近くも間が空いてしまって申し訳ないです;;
さて、今回のお話では昌浩が失踪してしまいました。場面がころころと変わって読みづらかったかもしれません。まぁ、昌浩を探すために奔走する神将達&比古達というものを重点的に書いてみました。
あー、あと書き忘れていたことなのですが、昌浩の護衛として出雲に残ったのは紅蓮、六合、勾陳、太陰、玄武の五人です。他の神将達はじい様の所にいます。
次回には何とか昌浩を出したいなぁと思っています。



2007/12/16