貴方と繋がる浅紫









「ありがとう、昌浩。買い物に付き合ってくれて」

「そんなこと気にしなくていいよ。それに、彰子を一人で市に行かせるわけにはいかないしさ」

「いつもは十二神将の誰かがついて来てくれてるけど・・・・・今日は誰もついて来ていないないみたい」

「そうだね、もっくんもどこかに行っちゃったし・・・・・」


昌浩は何気なく足元へ視線を落とすが、見慣れた白い体躯は視界に入ってこない。

今日、彰子と市に出かける際に物の怪は、「お前ら二人で行って来い。俺は別に用があってついていかないからな」と言って二人を送り出したのだった。
もちろん、物の怪に用事などない。なのにどうして二人の買い物に同行しなかったのかというと、ひとえに老婆心からくる気遣い故のことであった。

普段は十二神将達を拝み倒して彰子の護衛として同行してもらっている。が、それは普段昌浩が仕事があって彼女の買い物について行ってやれないことで生じた心配によるものである。
同行者に昌浩の母である露樹がつけば、神将達のお役目は御免となる。

そして今日、久しぶりの休みが取れた昌浩がその同行者として彰子について来ているのだ。
折角二人きりでの買い物を行うことができる機会なのだ、邪魔者は大人しく留守番することに限る。
二人仲良くやってくれ、という暖かい気遣いに他ならないだろう。

そういった裏事情によって、昌浩と彰子は市へとやって来ていた。
買わねばならないものは粗方買い終わり、今は二人のんびりと市を見回っている。


「それじゃあ、彰子はここで待っててね。俺、残りの必要なものを買ってくるから」

「えぇ、わかったわ」


昌浩は彰子に一言そう言い置くと、直ぐ傍にある店へと向かって行った。

昌浩が買い物を行っている間、彰子は周囲の店々へと視線を巡らせた。
そこで彰子の眼にふと留まったのが装飾品を売っている店であった。
彰子とて女の子である、綺麗なものを眼にするのはやはり好きなのである。
彰子は何気なくその装飾品を売る店に近寄った。
様々な色の石を使った、様々な装飾品が整然と並んでいた。


「綺麗ね・・・・」


ほぅ・・・と吐息を吐きながら、彰子は物品を眺める。
何となく視線を滑らせていた彰子は、ある一点でその視線を止めた。
薄い紫色をした石を中央に置いてその他の雑種な石と連ならせた二つの腕輪がそこにあった。
何故その腕輪に気を引かれたのかはわからないが、それでも気になってその腕輪を注視した。


「何を見てるの?彰子」

「!ま、昌浩・・・・・」


彰子の斜め後ろに、買い物を終えた昌浩が立っていた。
昌浩の視線は彰子を素通りして、彰子が視線を向けていたであろう場所を見ている。


「な、何でもないわ。ただ、綺麗だなと思って眺めていたの」

「ふ〜ん?何か気になるものでもあったの?」

「えっ!いいえ、違うの。本当に眺めていただけよ?」


そう言いつつも、彰子の視線はちらりとあの腕輪へと向いてしまう。
慌てて言い繕う彰子に、昌浩は気のない返事を返しつつも彰子の視線を追い、その先にあるものへと視線を固定する。
そう、彰子がずっと眺めていた薄紫色の石を使った腕輪に・・・・・。

しばらくの間それに視線を注いでいた昌浩は、何か納得したように一つ頷くと、その店の主人にへと話し掛けた。


「すみませーん、この腕輪をください」

「まいど!この腕輪でいいんだね?」

「はい」

「えっ、ちょ、ちょっと昌浩?」


二つの腕輪を指差し、昌浩はさっさとその腕輪を購入する。
それを見ていて慌てたのが彰子。
確かに気になってはいたのだが、まさか昌浩が買ってくれるなど思ってもいなかったのだ。
あたふたとする彰子に、昌浩はこれ位なら自分の持ち金で余裕に買えるからと笑って返した。
そして購入した二つの腕輪のうち片方を彰子へと差し出す。


「はい、これ」

「えっ、あ、ありがとう/////」

「この真ん中の石、蛍石みたいだね」

「蛍石・・・・・?」


若干戸惑いつつ腕輪を受け取った彰子は、聞き慣れない名前に首を傾げる。


「そう、蛍石。火にかけると蛍みたいに燐光を放つから蛍石って呼ばれるらしいよ。結構その話が印象深かったから覚えてるんだ」

「そうなの?」

「うん。・・・・・ところで、お揃いで俺がもう片方を持っていていいかな?」

「え?・・・・・えぇ!もちろんよ!!」


一瞬何を言われたのかわからずにぽかんとした彰子は、次いで嬉しいやら恥ずかしいやらでその頬を薄紅色に染める。
昌浩はにこにこと微笑みながらそんな彰子を嬉しげに見ていた。己が何気に爆弾発言していることに全く気がついていない。


「本当にありがとう、大事にするわ」

「そう?よかった」


嬉しげに微笑む彰子を見て、昌浩の機嫌も最高潮に達する。







その後、邸へと帰ってきた二人の空気が、幸せ感たっぷりの空気を醸し出している様を見て、物の怪がやはりついて行かなくてよかったと密かに安堵の息を漏らすのであった。












※言い訳
はい、バレンタイン企画第一弾!
今回のコンセプトはずばり「昌浩は天然でタラシだ!!」です。いや、原作の昌浩だったら顔を真っ赤にしながら渡してそうですけどね。知らず知らずのうちに大胆なことをしている昌浩というのを書いてみたかったのですよ。(自己満足?!)天然でそういうことをしていても全然違和感ないかな〜?と思って書いてみたんですけどね、少々強引過ぎましたか?
こんな話でよければ貰っていってください。

2007/2/13