恋





「お帰りなさい、昌浩」


「ただいま、彰子」



陰陽寮の仕事から帰ってきた昌浩を彰子は迎える。



「―――?昌浩、それは何??」


「あぁ、これ?」



彰子は昌浩が何やら大事そうに物を抱えているのを見て、問い掛ける。

問い掛けられた昌浩は自分が抱えているものに視線を落す。

その後、すぐに抱えていた物を彰子に差し出した。



「はい、これ・・・・・彰子に」


「・・・・私に?くれるの??」


「うん・・・・・・////」



昌浩が彰子に差し出したのは小ぶりな花を咲かせている桜草。

元来、人(とくに女の人)に贈り物をすることなどほとんどない昌浩はとても照れくさそうに俯いてそれを彰子に差し出している。

そして彰子はというと―――こちらはこちらでとても嬉しそうに頬を薄紅色に染めながら微笑んでいる。



「嬉しいわ・・・ありがとう昌浩!!」


「うん。彰子に喜んで貰えてよかった」



とても嬉しげに笑っている彰子に、昌浩も自然と頬が緩む。



「でも、これどうしたの?」


「あー、うん。帰ってくる途中花売りの人を見かけたんだけど、その花が眼に止まっちゃったから・・・・・・・・」



彰子にお土産として買ってきたんだ。

そう言って昌浩は彰子に手渡した桜草に眼を向ける。

珍しい花なわけではないが、こうして見ていればそれなりに可愛らしく眼に映る。



「本当にありがとう、昌浩」

「うん」



そうして二人は談笑に入る。

ちなみに、昌浩と共に帰ってきたはずの物の怪は、あまりの居心地の悪さ(というより入り込む隙がないだけ)に二人からだいぶ距離を離れて観客に徹している。

その物の怪の隣には何故か勾陳の姿もあった。



「お熱いことで・・・・・・・・」


「なんだ?妬いてるのか??」


「違うわっ!!!」



二人の様子を見てげんなりとしている物の怪を勾陳はからかう。

勾陳の言葉に物の怪はくわりと牙を剥いて否定する。



「・・・・・・・・・しかし、あれは天然でやっているのか?」


「あ?何がだ??」


「あの花は・・・・・・・・いや、何でもない」


「―――――?」



勾陳はくつりと面白そうに笑みを浮かべて二人の様子を見ている。

物の怪はそんな勾陳に怪訝そうな視線を向けるのであった。
















※言い訳
桜草。花言葉は初恋。
物知りな勾陳だったらこれ位知っていそうな気がします。
今回はほのぼのなお話を書いてみました。

2006/1/30