※注:このお話では「ありえない!」というようなおかしな設定になっているので、それでもいいならお読みください。





















――――助けて・・・・・・・!




漆黒の空間で聞こえるはずのない声が聞こえた。

助けを求める彼女の声が・・・・・・・・・・・・・。









相手をきちんと選びましょう。








脇目も振らずに果てしなく続く玄<くろ>の空間を疾走する。
目指している方向から悲痛な声が聞こえたから。

彼女が助けを呼んでいる。
この恐ろしく冷たい世界の中で。


早鐘を打つ心臓を落ち着けられない。

焼き尽くさんばかりの焦燥感が心の中を満たす。


ぎしぎしと軋み悲鳴を上げる体を無視し、尚走る速度を速める。



向かう先に、恐ろしい法力で織り成された結界を見つけた。


――――彰子!!!


人の力で打ち砕けない結界も、人ならざる気を放つ怪僧も、無数に蠢く幻妖も昌浩の眼には映ってはいなかった。
その瞳に映るのは只一つ。
護ると誓った少女のみ――――――。

しかし、彰子の様子を見て取った瞬間、昌浩の目の前は真っ赤に染まった。

単衣のところどころが破れ、そこから赤が滲んでいる。
更には彼女の珠のような肌から赤の雫が流れ落ちている。

それを見た瞬間、昌浩の理性は木っ端微塵に吹き飛んだ。


ざわりと空気が動き、今まで感じたことがないほどの強大な霊力が迸る。





「彰子に、触るな―――――!」





怒号と共にありったけの霊力を結界に叩きつける。
甲高い破砕音と共に、結界が壊れる。


「ば、かな・・・・・・・化け物の力を解放せずに、結界を破壊した・・・・だと?!」


さすがの丞按もこれには酷く驚き、固まる。

それはそうだ。
天狐の血の力を使わずに己の霊力だけで結界を叩き割ったのだ、「ありえねぇーだろ普通!!!」というのが当たり前の感想だ。
さしものこれには物の怪や六合も唖然としている。

さすがは晴明の孫!等々人を超えてしまった!!!

恐ろしいものを目の当たりにしてしまった神将二人は、思わず天を仰いだ。
あぁ、現実から眼を逸らしたい!!!
彼らの切なる願いは叶うことがなかった・・・・・・・。

そんな外野は完全無視の状態で、昌浩は真っ直ぐに彰子に駆け寄る。
もちろん、周辺をうろついていた
ごみ(幻妖達)はさっさと掃除して―――――。


「彰子!大丈夫かっ!!?」

「――――昌浩・・・・。えぇ、私は大丈夫よ」

「何言ってるんだ!こんなに血を流して!!!――――っ!」


膝を折り、心配げに顔を覗き込んでくる昌浩に、彰子は努めて気丈に返した。
しかし、そこは彰子一筋の昌浩。
彼女の頬の傷に気づき、その顔色を変えた。


「・・・・・・・昌浩?」


突然俯いた昌浩を不審に思い、彰子はそっと声を掛ける。
と、そこで昌浩の肩が小刻みに震えていることに気がつく。


「昌浩?どうしたの?」

「・・・・・・さ・・・・・ない」

「・・・・・・え?」


昌浩の掠れた呟きに、彰子は疑問の声を上げる。

彰子の疑問の声には答えず、昌浩はゆらりと立ち上がる。
その表情は俯いているために窺うことができない。

そのまま後ろ―――丞按の方へ振り返り、徐に顔を上げた。


その表情をまともに見てしまった物の怪と六合は、そのことを激しく後悔した。
背中を冷たい戦慄が走り抜ける。


顔を上げた昌浩。
眼が完全に据わっていながら口元は笑い、その背後には暗雲が垂れ込めている。
耳を澄ませば、
『オオオォォォォッ!』という不気味な効果音が聞こえてきそうだ。

思わず丞按も後ずさる。
そんな丞按を見て、昌浩は不敵にも似た笑みを浮かべる。
ちなみに、言葉で表現するなら
『にやり』だ。
そんな笑いを見た日には、冷や汗が滝の如く流れ落ちるのは免れないだろう。


ぜっったいに許さないからな?覚悟しろよ、このハゲ!!!!


怒号が闇を切り裂く。
それと共に霊力が爆発する。


「ぐっ・・・・・・・・・!!」


昌浩の放った術は、恐ろしい破壊力を伴って丞按を吹き飛ばす。
もう、人に向けて術を放ってはいけないという晴明の教えもあったもんじゃない。
完全に無視だ。

ざりっ!という地面を踏みしめる音と共に、倒れ伏す丞按の背に重圧がかかる。
昌浩が丞按の背を
思いっっっきり踏みつけてるのだ。
みしみしと骨の軋む音がする。


「よくも彰子の顔に傷を付けてくれたな・・・・・・・・それ相応の代価は払ってもらうぞ?」

「なっ・・・・にを・・・・・戯言を・・・・・ぐっ!!」

「うるさいよ?そんな反論は受け付けない」


反論する丞按を黙らせて、昌浩は冷笑を浮かべた。


いつにもまして男らしさが上がっている昌浩。

愛する女性のためならば何処までも強くなれる男なのだ。


丞按の背をぐりぐりと踏みつけながら、昌浩は刀印を結ぶ。
それと同時に、昌浩の体から霊気が立ち上る。


「これで終わりだ・・・・・・」

「・・・・・・・・・っ!」

「待って!!!」


まさに刀印が振り下ろされようという瞬間。
昌浩に制止の声が掛かる。


「やめてっ!昌浩・・・・・・お願いだから」

「彰子・・・・・・・・」


制止の声を上げたのは彰子。
昌浩は思わず刀印を解き、彰子に視線を向ける。


「どうして止めるの?彰子。こいつは彰子に害を加えようと・・・・・いや、加えたんだよ?罪はそれ相応に償ってもらわないと・・・・・・・」

「いいえ。もう、いいのよ・・・・・十分だわ、昌浩。だからもうやめて?」

「・・・・・・・彰子・・・・・・・・わかったよ」


彰子に説得されて、昌浩は渋々ながらも丞按から足をどける。
どける際に、こん身の力を込めて踏みつけたのは仕返しを兼ねてだ。
ぐえっ!と、蛙が潰れた様な声が聞こえたが、敢えて聞こえなかった振りをする。


「彰子、こんな奴なんか庇うこと、ないのに・・・・・・彰子が許してくれるならこんな下衆、
跡形も無く消し去ってやるのに・・・・・・・・」

「昌浩、気持ちはとっても嬉しいけど、人を殺すのはよくないわ。
こんな奴のために手を汚すなんて・・・・・・私がなの」

「彰子・・・・・・。うん、そうだね。彰子の言うとおりだ・・・・・・・こんなの、放っておこう」

「えぇ、それが一番いいわ!!」


二人の間に流れる空気はとても甘いのに、会話の内容が辛辣だ。
そのギャップに思わず身を引きたくなる物の怪達。


「くっ!おのれ・・・・・安倍の子ども!!!」

「これ以上彰子に近づくな・・・・・・・・穢れる。あ、あと         」

「っ!?・・・・・・・・んの!!!覚えていろ!!!!」


彰子に気づかれないよう、昌浩の言った言葉に丞按は科白を捨て置き、身を翻した。
そんな丞按に、昌浩は
『はっ!』と鼻で笑う。

もう傍観するしかない物の怪と六合。


「・・・・・・・・先に帰ってるか・・・・・・・・・・」

「・・・・・・あぁ、そうだな」


お互い、意味も無く慰め合いながら二人はその場を後にした。




後には昌浩と彰子の二人が残された。












「ところで昌浩、さっき最後に何て言ったの?」

「ん?秘密v」


聞きたげな顔をする彰子に、昌浩は綺麗な笑顔を浮かべてそう言った。








『二度目は無いからね?』







不敵な笑みと共に告げた言葉は、本人と告げられた者のみが知ることとなる。













皆さん、彰子だけは決して傷つけたりはしないようにしましょう。
















※言い訳
またまたギャグです。
冥夜の帳を切り開けの派生話。
昌浩なら彰子のためになんでもやっちゃいそう・・・・・・・ていうか、天狐の血の力が発動していないことにびっくり。
丞按虐められまくってますね・・・・・・・・・。

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2006/3/11