バースデー















 チュンチュン、雀がさえずる。太陽の光も暖かく窓から差し込んでいて、とても清清しい朝だった。
 それと対称的に昌浩は不機嫌だった。いや、不機嫌というより、ただ疲れているだけか。というのも、この一週間祖父である晴明の令で駆けずり回っていたのだった。 その仕事も昨日でひと段落、今日は久しぶりにゆっくりしようと思っていたにもかかわらず、早々に起こされてしまったのだった。

 「何じゃ、昌浩。そんなダラダラとして。若いんだからもっとシャキっとせんかい」
 晴明が声を掛けると、昌浩はうんろげな視線を返した。
 「誰のせいですか、誰の」
 怒気の混じった口調で言う。
 「ほぅ、あれぐらいでくたばったのか。情けないのぅ。わしなんか老いぼれと言うのに、ほれ、この通りピンピンしとるぞ。要修行じゃな」
 飄々とした物言いに昌浩はムッとする。
 文句を言っていても起きたものはしょうがない。昌浩はさっさと用事を済ませることにした。



 さぁ今日は何をしようかと考えていると電話がなった。たまたま近くにいた紅蓮が出る。
 「もしもし・・・あぁ、いるぞ・・・昌浩、彰子からだ」
 受話器を離して呼びかける。
 「えっ、彰子?」
 昌浩は慌てて受け取った。
 「もしもし。彰子、どうした?」
 『あ、昌浩今日空いてる?』
 「うん。用事は入ってないけど・・・」
 『じゃぁ、お出かけしましょう。昌浩に見て欲しい物があるの』
 「わかった。どこで・・・」
 どこで待ち合わせする、と聞こうとしたが彰子に遮られる。
 『今から昌浩のとこに行くから、待っててね』
 ほぼ一方的にそう言うと、電話が切れた。昌浩はちょっと唖然としている。
 「昌浩、どうかしたか?」
 固まっているのを不審に思い紅蓮が声を掛ける。
 「え?あ、いや、なんでもない」
 慌てて答えると自分の部屋に駆け上がった。





 数十分後、彰子がお付の人ともにやってきた。
 「お待たせ」
 「いや、そんなに待ってないから。それよりなんで車?」
 「当たり前じゃない。場所が遠いし、荷物が重くなったとき困らないようによ」
 昌浩が尋ねれば、彰子はそれが当然と胸を張って答える。
 (当たり前なんだ・・・)
 昌浩は乾いた笑みを浮かべ、胸中で呟いた。





 彰子の案内の下、始めにやってきたのは洋服店。
 「ね、なかなかいいと思うの。」
 彰子の言葉に昌浩は頷く。あまりファッションにこだわらない方だが、気に入りそうなのがいくつかあった。
 「昌浩、どんなのが好き?」
 「う〜ん、こういうの、かな」
 問われ、手に取る。
 「他にはない?」
 さらに聞かれ、店内を見渡す。
 「これとか・・・これもいいかなぁ。でも、全部は買えないよ」
 「あら、いいのよ。私が昌浩のほしい物を知りたいんだもの」
 「そうなの?」
 昌浩が聞けば頷きが返ってくる。
 「次の店に行きましょう」
 彰子は昌浩を促すと、控えていた付き人に目配せをしたのだった。





 昌浩と彰子が買い物に行っている間、安倍家では少々慌しかった。
 「あれはどこだ?」
 「隣の部屋じゃないか?」
 「これはどこに置くの」
 「それ、あっち。あ、それここにもってきて」
 さながら戦場か。
 実は今日は昌浩の誕生日。折角だからパーティーをしようということになり、約一週間前から計画を進めていたのだった。ちなみに発案者は晴明だったりする。
 当の昌浩本人には知られないようにするため、手始めに用事を言いつけたのは計画の一端。予想通り、自分のことなんかすかっり忘れてしまっている昌浩だった。そして飾りつけなどをするため、彰子にも手伝ってもらい昌浩を外に連れ出したのだった。
 「昌浩は気づいておったか?」
 「いや、あの様子じゃ全然気づいてないだろう」
 晴明の問いに答える紅蓮。
 「彰子は何気に丸め込むのがうまいし」
 それに相手が昌浩だから、と言うと準備に勤しむ。





 「昌浩これは?前、こんなの欲しいって言ってなかった?」
 雑貨屋で彰子は手にした商品を昌浩に見せる。
 「そうだけど、よく覚えてたね」
 「あら、昌浩だって私のほしい物、覚えてるじゃない」
 にっこり微笑んで答える。
 「お互いってとこか」
 昌浩も納得し、頷く。

 「そろそろ時間かしら?」
 「ん?何が?」
 彰子の呟きを聞きとめ、尋ねる。
 「ううん、何でもないの。そろそろ帰りましょう」
 「もう、そんな時間なんだ」
 昌浩は何の疑念を持つことなく彰子の言葉に従ったのだった。





 行きと同様、帰りも彰子のとこの車で帰った昌浩、家の前に着いて訝った。妙に静まり返っているのだ。
 「あれ?皆いないのかなぁ」
 ぼそりと言う。
 「昌浩、どうかしたの?」
 そんな昌浩を不審に思って声を掛ける。
 「あ、何でもない。彰子ちょっと上がってく?」
 「いいの?じゃぁ、お邪魔します」
 昌浩と彰子が連れ立って玄関に入る。そのまま真っ直ぐリビングに向かった。
 「うわっ、真っ暗」
 そう言って電気をつけるとともに盛大な音が鳴り響いた。

 パンッパパパパンッ

 「え?」
 昌浩は呆然とする。

 「「「「「ハッピー バースデー!!!!!」」」」」

 「え、えっ」
 昌浩は混乱をきたしていた。
 「もう、今日は昌浩の誕生日でしょう」
 彰子が後ろから言う。
 「おぅおう、見事に忘れているわ」
 「でも、それこそ、やりがいがあったというものですわ」
 「たしかに。ほら、早くこっち来い」
 「主役が来なきゃ始まらないのよ」
 「とっとと来る」
 紅蓮、天后、勾陣、太陰、朱雀と口々に言われ、いまだ唖然としているものの、とりあえず椅子に座る。
 「これは、晴明の作戦通りだな」
 勾陣が言えば、昌浩が不思議そうな顔で見返す。そこで初めて今日のことについて知ったのだった。
 「途中で気づかれないかひやひやしたからな」
 「ほっほっ、それはないと言ったではないか」
 白虎の言葉に晴明が受ける。
 「でも、昌浩さんは時折鋭いですから」
 「私もいつ気づくかハラハラしていたもの」
 天一の反論に彰子も賛同する。
 「とりあえず乾杯ですね」
 太裳の言葉にパーティーが始まった。



 「何かうれしいより驚きのほうが強いんだけど・・・」
 昌浩がそういえば、そういうものよ、と返ってくる。
 「改めて、昌浩、お誕生日おめでとう。はい、これは私から」
 彰子がそういって出したプレゼントは昌浩がいいなと言った物。
 「ありがとう、彰子」

 「昌浩、他にもあるぞ」
 紅蓮がそう言って包みを渡す。それをきっかけに、あちこちからプレゼントをもらったのだった。
 「みんな、ありがとう。やっぱお祝いしてもらえるのってうれしい」
 昌浩が満面の笑みで言えば、同じように笑顔で返す。
 「料理も出来ましたよ」
 母親の露樹と六合が料理を運んでくる。

 その後、ゲームもして盛り上がり、大騒ぎで終わった。






ちょっとと言うかだいぶ盛り上げに欠けるお話ですが、
誕生日を題材に書いてみました。
どんな小さなことでも”おめでとう”の一言はうれしいですね。

こんなんでよければお持ち帰りくださいませ。



華の雫様より、一万打記念のフリー小説を頂いてきました!
ここのお話はもう素晴らしくて!!毎回更新されるのを楽しみにしているのですよ!
最後に、一万打おめでとうございます!!