※注:このお話は、もし十二神将に十三人目がいたら・・・・という設定の下で書いております。
    それでもOKという方だけお読みください。












君の傍で・・・・・















「まっさひろっ!」

「うわっ!?びっくりしたぁ〜。どうしたの?舜麗<しゅんれい>」


安倍邸の自室で書物を読んでいた昌浩は、いきなり抱きつかれたことに驚き、抱きついてきた人物を振り返る。

振り返った昌浩の眼に映ったのは、紫色を帯た銀髪を高い位置で結い上げ、晴れた空を切り取ったような碧い眼を嬉しそうに細めて微笑んでいる女性。外見で判断するなら、年の頃は丁度勾陳や天后と同じ位だろう。

白と薄緑色(黄緑色ではなく、緑色を薄めたような色)を基調とした菩薩の様な衣装を纏っており、衣の裾はやや短めで機能重視のデザインだ。肩には領巾<ひれ>を纏っていて、他の神将達のそれより布幅が広い。
腕には細い銀の腕輪が幾重にもしてあり、彼女が腕を動かすごとにシャラシャラと涼しげな音を奏でる。

実は彼女、十三人目の神将なのだ。


「ん〜?晴明が昌浩のことを呼んでるって言いにき来たの」

「そうなんだ。わざわざありがとう、舜麗」

「いーの、いーの!んもぅ!昌浩は素直で可愛いんだからvvv」


お礼を言う昌浩に、舜麗は抱きしめる腕に少し力を入れる。

いくら神将といえど見た目は女性。
抱きつかれている昌浩は、頬を紅く染めながらあたふたと慌てる。

実は、舜麗は無類の可愛いのも好きなのだ。
だから、太陰や玄武(本人にとっては不本意)、天一などを見てもこうして抱きつくというスキンシップを取っているのだ。
それは晴明の末孫の昌浩も例に漏れないらしい。
昌浩が小さい頃(二・三歳位)初めて見かけてからというもの、「かわいい〜v」と絶叫しつつ構い倒していた。(昌浩は覚えていない)

それ以降は、騰蛇こと紅蓮と共に昌浩の成長を一番近くで見守っていたのだ。
昌浩が見鬼の才を取り戻してからは、白い物の怪と共に昌浩の護衛についている。


「これがあの腹に一物どころか十個も二十個の抱えてるような晴明の血を引いてるなんて・・・・・・信じられないわ」

「これって・・・・・・舜麗、俺は物じゃないよ;;」

「昌浩、これで少しは俺の気持ちがわかったか?」

「あ〜・・・・・うん」


じと眼気味でそう聞いてくる物の怪に、昌浩は覇気のない様子で同意した。
舜麗から”これ”呼ばわりされた昌浩は、何時ぞやの物の怪とのやり取りを思い出し、今度からはそう呼ぶのは止めようとこっそり心に誓ったのだった。


「もちろんわかってるわよ。さ、早く晴明のところに行きましょう!じゃないと、またくどくどと小言を言われるわよ?」

「それは・・・・・嫌だなぁ」

「でしょ?もっくんも行くわよ!!」


常日頃の晴明とのやり取りを思い出しているのか、昌浩の頬がやや引き攣っている。
そんな昌浩の様子を気にも留めずに、舜麗は足元にいる物の怪をついて来るよう促している。


「俺は物の怪と違う!!」

「いいじゃない別に!大体その見てくれに”紅蓮”なんて大層な名前は不釣合いじゃない!!」

「そっ!そんなの関係ないだろう?!」

「大有りよ!名はその人の体を表す。名前負けしてるような格好じゃ話にならないわ!!」

「なんだとぅ!!!」

「はいはい、そこまでにしといてね。じゃないと二人とも置いてくよ?」


激しい言い合いをしている物の怪と舜麗を、昌浩が諌める。
そんな昌浩の言葉に、二人はぴたっと言い合いを止める。


「ごめんね?昌浩。あんな猫もどきはほっといてさっさと行きましょう」

「おい!舜麗!!」

「うん、そうだね。いつまでも待ってたら、それこそじい様にねちねちと小言を言われちゃうよ」

「こら!昌浩!!}


素晴らしいほどの変わり身の速さで、舜麗は昌浩の下へ移動する。
一人置いてきぼりをくらった物の怪は、二人の会話に入り込めずにいる。

二人はそんな物の怪を放置して、晴明のところへと向かう。
物の怪はそんな二人の後を、肩を落しつつ追っていく。
哀れもっくん。







「じい様、昌浩です」

「うむ。入ってきなさい」

「失礼します」


部屋に入ってきた昌浩達が腰を落ち着けるのを待ってから、晴明は話を始めた。


「実は陰陽寮から妖の調伏を頼まれてな・・・・・・」

「はぁ・・・・・・」

「何でも悪戯好きで、近くにいた人にちょっかいを掛けては移動して、また悪戯をすると。実にはた迷惑極まりない輩が居るらしくてな・・・・・・・・・」

「・・・・・・・それって、雑鬼達のことじゃないんですか?」


悪戯好きといわれて思い出されるのは、一日一潰れと称してはじぶんの元へやって来る彼らの顔。
その昌浩の言葉を、晴明は顔を横に振ることで否定した。


「いや、違うじゃろうて。雑鬼達はそれなりの見鬼の才がなければ見ることはかなわん。そ奴は徒人にも手を出しておるから、もう少し力があるものじゃろう」

「それはわかりましたが・・・・・それってじい様に態々頼むような相手ですか?」


晴明に依頼される調伏の内容は、どれもこれもそこらへんの陰陽師には手に負えないような類のもの。
悪戯をする妖ごときなど、それこそ陰陽寮の誰かがやれよ!と言ってしまいたくなる。

そんな昌浩の疑問に、晴明は一つ頷くと答えた。


「そこなのじゃが・・・・・・確かにそれほど力も無い、雑魚としか言えない様な相手なんじゃが・・・・・・・・数が多すぎて、払っても払ってもきりがないらしい。それで何とかできないかと泣き付かれてしまったのじゃよ・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「情けないわねぇ、陰陽寮のやつら」

「というか、この先本当にやっていけるのか?近い未来都がかくなるんじゃないか?」


何とも情けない話に昌浩は唖然とし、舜麗と物の怪は呆れたようにそう言った。

それを見ていた晴明は、開いていた扇をパチンと閉じると、昌浩に向かってその先をビシッ!と指す。


「というわけじゃ。昌浩、ちょっと行って払ってこい」


いっそ朗らかと晴明は告げた。







*    *    *





「――――って、これのどこがちょっと行って払ってこれるんだあぁ――っ!!!」

「昌浩!叫んでいる暇があるならこいつらをちゃっちゃかと調伏しろ!!」

「はぁ!?無理だってこんなに大量!!!」

「しかし、本当に沢山いるわねぇ〜」


目の前を埋め尽くすほどの妖妖妖。
どうすればこんなに集まるのか?と疑問に思うほど大量にいるのだ。


「オンアビラウンキャンシャラクタン!」


昌浩の凄絶な霊力が迸る。


「邪魔だ!」


紅蓮の召喚した炎蛇が地を舐める。


「あぁ、もう!うざったいわね!!!」


全てを凍てつくさんばかりの、氷の雨が降り注ぐ。

ちなみに説明すると、舜麗の司属性は”無”。
とこの力にも属さない―――逆を言えばどこの力でも属せる、ある意味では反則的な力なのだ。

先程の氷も、大気中の水分を温度調節することによって氷を生み出したのだ。
この氷は水と風の合わせ技なので、両方の属性を操れないと扱えないもの。
どの属性も扱える舜麗だけができる技なのだ。


「陰陽寮の人達が、じい様に泣き付いたのも分かる気がする・・・・・・・・・」

「何泣き言を言ってるんだ!さっさと片付けないと睡眠時間が減る一方だぞ!!!」

「わかってるよそんなこと!ナウマクサンマンダ、バサラダンカン!!」


裂帛の気合と共に真言を妖に叩きつける。
その術で、妖が五・六匹ほど一気に消し飛ぶ。


「っ!どこが”悪戯”だよ?!めちゃくちゃ襲ってくるし!!!」

「ちっ!目障りだ、消えろ!!」

「昌浩の睡眠時間のため、消えてちょうだい!」


約一名、少しずれたことを言っているようだが、三人はとにかく妖退治に勤しんだ。

しかし、状況が一転したのはそのすぐ後。


「うわっ!」


昌浩が悲鳴の混じった叫び声を上げる。
それと共に赤が飛び散った。

妖の攻撃を避けきれず、腕をその爪に引っかけってしまったのだ。
傷の方も思ったよりも深かったのか、指先から地面へとポタポタと血が滴り落ちている。


「なっ!貴様らっ――――――!!」

「雑魚の分際で・・・・・よくも私の可愛い昌浩に怪我を負わせたわね!!!」


昌浩に関しては沸点が低い紅蓮。
そんな紅蓮よりも激しい怒りを隠さない―――派手にぶち切れてしまったのが舜爛。

紅蓮が炎蛇を繰り出すよりも早く、強大な神気が爆発した。

出所は舜麗。

言い忘れていたが、舜麗は紅蓮に匹敵するほどか、それを上回るほどの甚大な神気を持っているのだ。
そんな舜麗が妖を本気で叩き潰そうとすれば、見るも無惨な惨状になることは必須である。

爆発した神気が漸く治まった頃には、その場には妖一匹も残ってはいなかった。


「すごっ・・・・・・」

「いくらなんでもやりすぎだぞ、舜麗・・・・・・・」


その光景を見て昌浩は呆然とし、紅蓮は呆れたように溜息を吐いた。

すべての妖を退治したことを確認した舜麗は、満足げに頷いた。


「よしっ!紅蓮、昌浩を運んで。早く怪我の手当てをしないと・・・・・さっさと邸に帰るわよ!!」


次の瞬間には紅蓮に指示を飛ばす。
紅蓮は気圧されつつも、言われたとおりに昌浩を抱き上げる。


「それじゃあ帰りましょう!」

「うん・・・・・・」

「あぁ・・・・・・」


一人突っ走る舜麗に、二人は頷くことしかできなかった。




彼女の暴走を止めることは、最早誰にもできないことだった――――――――。











その後。


妖退治から帰った舜麗に、晴明が散々文句を言われたことは割愛しておこう。















※言い訳
サイト開設一周年記念のフリ配布小説です。よかったら貰ってやってください。
今回のお話は、もし神将が十三人いたら・・・・・・という設定の下に書きました。十二神将なのに十三人いるって・・・・とつっ込んだりはしないでください。スルーです、スルー!!
ところで、これってパラレルになるのかな・・・・・・?疑問だ。

ここでオリキャラの舜麗について簡単に説明したいと思います。

・十三人目の神将。ちなみに女。(神様って性別あるの?)
・髪は紫がかった銀髪、眼は碧色をしている。
・属性は無。だから何でもありに色んな攻撃ができる。(炎とか、水とか、風とか・・・・・)
・無類のかわいいもの好き。
・紅蓮に匹敵するほど、強大な神気の保持者で、普段は意識して力をセーブしている。
・昌浩至上主義。

・・・・・とまぁ、こんな感じです。
感想などを聞かせて貰えたら嬉しいです。

2006/3/15