月下閑談 月の綺麗な夜。 昌浩と十二神将の太裳は、簀子で会話をしていた。 常に昌浩の傍にいる物の怪は、今は晴明に呼ばれていて丁度席を外している。 何故太裳と昌浩が一緒にいるのかというと、太裳は以前昌浩に昔の話を話してくれるよう頼まれていたからである。 晴明の呼び出しがあればちょくちょく異界から人界にやって来ている太裳である、昌浩が知らない昔のことなどは彼に聞けば大概教えてくれると物の怪が言っていた。 自分の知らない昔のことをあれこれと聞いていた昌浩は、話の途中でふと疑問に思ったことを口にした。 「ねぇ太裳、もっくんって普段はどうしてたの?話を聞いてる分には、あんまり人界に来てる様じゃないんだけど・・・・」 「騰蛇ですか?・・・・・・・そうですねぇ、確かに自分から人界にはあまり来ようとはしませんでしたね。来るとしても晴明様に呼ばれたら来るくらいで、自主的には皆無と言っていいくらいでしょう」 本当は”皆無と言っていいくらい”ではなくて”皆無”なのであるが・・・・・・。 そう思った太裳であるが、決してそのことを口にすることはなかった。 ここ十数年の騰蛇の行動を思い出したからである。 「自分からは、あんまり来なかったの?」 太裳の言葉を聞いて、昌浩は不思議そうに首を傾げる。 そんな昌浩を見て、太裳は薄く笑う。 この子どもはつい最近の騰蛇しか知らないのでそういうことを意外に思えるのだろう。 「はい。騰蛇が人界に来るようになったのは本当につい最近ですからね・・・・・・・・」 「ふ〜ん。そうなんだ?どうして??」 「さぁ、そこまではなんとも・・・・・・それは騰蛇ご本人に聞いてみた方がいいでしょう」 根本的な理由はこの昌浩という存在だとはわかっているが、それに追従する騰蛇の想いまでは知る由も無いので、太裳はそうとだけ答える。 「・・・・そうだよね、そういうことは本人に聞くのが一番か」 尤もだと頷く昌浩は、「そういえば、六合からも似たようなこと言われたっけかな?」などと想起していたりする。 太裳は隣で物思いに耽っている昌浩を、とても暖かい眼差しで見ている。 十二神将最強にして最凶と言われる騰蛇を、根本から変えた子ども。 晴明の後継と謳われている彼の末孫。 つい最近までその才を封じられていて、自分達はその才を知らずにいた。 唯一知っていたのが騰蛇。 自分が昌浩達と会う機会などそうないが、それでも彼らの言動の端々、仕草の一つからでもその信頼の深さが窺えた。 自分はそれに少なからず衝撃を受けたが、それと同時に納得もした。 『あぁ、これが”騰蛇”なのだ』と。 それはとても新しい発見―――――――。 「相手をよく理解しようとする心。それがとても大事ですよ」 「うん、そうだね」 柔らかな笑みを浮かべる太裳、そしてそれに笑い返す昌浩。 そんな二人を頭上に輝く月は、ほの白く照らし出すのであった。 新たな”真実”に気づかせてくれたことを感謝します―――――――。 |
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太裳 |
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藤堂綾香様の27300キリリクで、太裳のイラストとミニ小説を書き(描き)ました。 藤堂綾香様ご本人のみ、お持ち帰りできます。 2006/3/17 |