かわいいものは好き。 だって、見てるだけで和むでしょ? 見ていて飽きなんかこないから 永劫の時の中に生きる者にとっては、時なんて有って無いようなものだし? 退屈凌ぎにはもってこいでしょ? 気まぐれな神将 あの子と出会ったのは、春のとても暖かい日だった。 「おっひさ――――っ!皆元気にしてた?」 「!舜麗か・・・・・久しぶりじゃのぅ」 「久しいな、舜麗。元気にしていたか?」 「本当にお久しぶりです、舜麗・・・・・・・」 安倍邸の一角、晴明の自室に明朗な声が響いた。 声の主は、紫色を帯た銀髪を高い位置で結い上げ、晴れた空を切り取ったような碧い眼をした女性。ひらひらと手を振るのに合わせて、腕に幾重にも重なっている細い銀の腕輪がシャラシャラと涼やかな音を立てている。 そんな彼女の姿を見た晴明は、懐かしそうに目元を和らげ、勾陳と天一は久方ぶりに姿を見せた彼女に暖かな笑みを向けた。 「お久しぶりね、晴明。十年ぶりかしら?相変わらずしぶとく生きてるわねぇ〜。勾陳も久しぶり〜、あっちこっち見て回ってたから思いのほか時間が経っちゃった♪きゃ―!久しぶりね、天一ぅ〜v相変わらず可愛いわvvv」 一人一人に言葉を返しつつ、最後の方では天一に思いっきり抱きついたりなどしている。 天一はそんな行動はわかっていたのか、にこにこ微笑みつつも大人しく抱きつかれていた。 舜麗はそんな天一を見て、『可愛い〜!!』と言いつつぎゅうぎゅうと抱きしめる腕に更に力を入れた。 「十年か・・・・・・その間全くといっていいほど音沙汰なしじゃったからのぅ、危うく忘れるところじゃったわい」 「やだぁ〜。たった十年ごときで私のこと忘れるようじゃあ、晴明もやっぱりもう年なのね」 「お主がなかなか姿を見せないのが悪い」 「え〜?だって私神将だけど、晴明の式神じゃないし〜。朋友ってはいえるけど、そんなずっと傍にいるだけっていうのも退屈じゃない?だからあっちこっち放浪してるんだし・・・・・・何か文句ある?」 晴明の愚痴めいた言葉に舜麗はにっこりと微笑みつつ、その表情を裏切るかのような強い口調でそう言った。 傍から見れば狐と狸の化かしあいの様にも見える。 二人の背景には黒い不穏な影が見える。 ここで余談だが、舜麗は十三人目の神将である。が、実は晴明の式神には下っていない。 舜麗にとって晴明は朋友と呼べるものではあるが、他の神将達のように彼の下につきたいとまでは思わない。 舜麗は基本的に普遍とか退屈というものが嫌いだ。 彼の元に下ればそれなりに楽しいこともあろうが、ずっと同じ所に留まるというのは窮屈に思えたのだ。 だから舜麗は神将の中で唯一、晴明の元につかなかったのである。 「まぁ、そんなことは脇に置いといて・・・・・・・私がいない間に何か大きい変化はあった?」 何かを期待するように、キラキラと瞳を輝かせながら舜麗は晴明に問い掛ける。 晴明はそれを見て苦笑気味に笑いつつも、それは嬉しそうに眼を細めて笑った。 「そうさのぅ・・・・・・・二つばかり、大きく変わったことがある」 「へぇ〜。どんなこと?」 「簡単にわかることじゃ。この邸の気配をよーく窺ってみればすぐに知れる」 「気配・・・・・・・・?」 広げた扇で口元を隠しつつ、晴明はさも愉快そうに話す。 晴明の言葉を聞いた舜麗は、言われたとおりに邸の気配を窺ってみる。 そして何かに気づいたようにぱっと顔を輝かせた。 「私の知らない気配!もしかして孫でも生まれたの?!それに紅蓮の気配がする・・・・珍しいわ」 自分の知らない新しい気配に、晴明の孫が生まれたのだろうと当たりをつけた舜麗。しかしそのすぐ傍に非常に珍しい、それでいて見知った気配があることに純粋に驚きを感じた。 舜麗のそんな反応を見て、晴明は満面の笑みを浮かべる。 「そうじゃ、二年前に生まれたわしの末孫じゃよ。今、昌浩には紅蓮がついておる」 「昌浩?それが新しい孫の名前??」 「あぁ、若菜の面影を誰よりも色濃く受け継いでおるよ・・・・・・・それに間違いなく、あの子がわしの後継になる」 「後継?二年前って・・・今二歳なんでしょ?なんでそんなにはっきりと言い切れちゃうのよ??」 嬉しさを隠すことなく頬を緩め、しかし晴明ははっきりと後継は昌浩だと言った。 舜麗はそのことを不思議に思い、首を傾げつつ疑問の言葉を晴明に投げかける。 「あれは紅蓮を恐れない。紅蓮が傍にいるだけで終始笑っておる。逆に傍におらんと泣き出してしまう始末じゃ・・・・・・・それが答えじゃよ」 「ふーん。紅蓮を恐れないどころか逆に笑いかけるなんて、その子相当肝が据わってるわねぇ〜。晴明!その子に会える?」 「もちろんじゃよ。今は昼寝の時間のはずじゃから、こっそり顔を覗くことくらいはできるじゃろうて」 「やったvじゃあ早速見に行ってくるわvvvそれじゃあまた後でね、晴明。勾陳!天一!!」 「あぁ・・・・」 「はい」 舜麗は元気よく挨拶をした後、紅蓮の神気を頼りに昌浩のいる部屋へと向かう。 「やっほー!お久しぶり、紅蓮v」 「!舜麗・・・・・・全く、突然現れるな。思わず大きな声を出しそうになったじゃないか」 「久しぶりだってのにつれないなぁ〜。まっ!いいや。それよりその子が晴明の末孫?」 「そうだ。名前は昌浩だ」 「(うわ〜)・・・・・・」 舜麗は声には出さずに、心内で驚愕の声を上げる。 昌浩と彼の子の名前を口にした時、紅蓮がやんわりと微笑んだのだ。 同じ神将として共に過ごした年月は計り知れないが、紅蓮の”笑み”(冷笑を抜く)はついぞ見たことがない。 とっても珍しいものを見たということと、思いのほか紅蓮に笑みが似合うことの両方に驚いて言葉もなく呆然とする。 舜麗の心情など紅蓮は知る由もなく、訝しげな視線を送る。 「舜麗、なにをぼ――っとしてるんだ?」 「へ?あ、うん。何でもない・・・・・・・しかし、本当に紅蓮のこと怖がらないんだ〜」 放心状態から立ち直った舜麗は、紅蓮に寄り添うようにぴったりとくっついて眠る昌浩に視線を移した。 紅蓮は舜麗の言葉に苦笑を浮かべつつ、穏やかに眠る幼子の頭を優しく撫でてやる。 「・・・・・まぁな。初めてだ、泣くのではなく笑いかけられたのは・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・」 「それどころかこうして一日中俺にべったりなんだ・・・・・・・・本当に稀有な存在だよ」 金色の目を細めつつ、嬉しそうに紅蓮は言葉を紡ぐ。 舜麗はそんな紅蓮に驚きっぱなしである。 (変われるものは変われるのねぇ〜。かなり意外だわ・・・・・) 眠る昌浩の頬を指先で突っつきつつ、舜麗はそんなことを考えていた。 (あ。ほっぺふにふにしてて気持ちいい・・・・・・vvv) 「舜麗。あまり触ると昌浩が起きるだろうが・・・・・・」 「え〜。だって気持ちいいんだもん、この感触・・・・・・・・」 「あのなぁ・・・・・・」 「・・・・・ぅ、ん・・・・・・?」 舜麗があまりにも頬を突っつきすぎたのか、昌浩は少し身じろぎした後ゆっくりとその瞼を上げた。 半覚醒なのか、しばらくぼ〜っと焦点の合わない目をしていたが、その視線をそろそろと上に移動させて紅蓮の黄金の瞳を見とめた瞬間。 「・・・・・れ〜んv」 「―――っ!vvvvvv」 ほにゃりと笑った。 (かっ、可愛い!!!!) 舜麗はその笑顔を見て言葉もなく悶える。 紅蓮はそんな舜麗の様子は綺麗に無視をしつつ、昌浩に金の瞳を和らげて応じる。 「なんだ?昌浩・・・・・・・」 「れ〜ん、いるぅ〜v」 「あぁ、俺はいつでもお前の傍にいるぞ?」 「えへへへっ!」 紅蓮の暖かく大きな手のひらに頭を撫でられて、昌浩は嬉しそうに笑った。 が、昌浩はそこでふと何かに気づいたように、舜麗の方へと顔を向けた。 ぱちりと目線が合った。 今まで楽しそうに昌浩を見つめていた舜麗は、不意打ちを食らったかのように動きを止める。 そのまましばらくの間、互いに見つめあう。 「・・・・・・・・だぁれ?」 じぃ〜と舜麗を見つめていた昌浩は初めて見るその人に、不思議そうにこてんと首を傾げてそう言った。 「〜〜〜っ!あぁん!もう駄目。かわいすぎるぅ〜〜!!!!」 我慢の限界を超えた舜麗は、ぎゅぅうっと昌浩に抱きついた。 それだけでは飽きたらないのか、その頬にすりすりと頬ずりまでする。 「あ〜、やわらかい!すべすべなうえ、このもちもちとした肌触り!!癖になりそう〜〜vvv」 「舜麗・・・・・・・」 「眼なんかおっきくて、くりくりしてて可愛いわぁ〜〜v」 「舜麗!!」 「・・・・・・なに?紅蓮」 暴走状態の舜麗に、紅蓮はややきつめの口調で彼女の名を呼ぶ。 楽しい時間を紅蓮に邪魔された舜麗は、やや不機嫌そうな口調で聞き返す。 「・・・・・いい加減に放してやれ。そのままでは昌浩が圧迫死か窒息死してしまう・・・・・・・」 「え?あ、ごっごめん!昌浩!!大丈夫?!!」 紅蓮に指摘されて、漸く自分が結構な力で昌浩を抱きしめていたことに気づき、舜麗は慌てて昌浩から腕を放す。 一方、昌浩はというと状況を今一理解していないのか、きょとんとした顔つきで不思議そうに舜麗を見ている。 が、目の前の人物は、先ほどの自分の疑問に答えてくれなさそうだと思い、頼みの綱である紅蓮を仰ぎ見た。 「れーん、だれ?」 「ん?あぁ・・・・・俺と同じ神将の舜麗だ」 「しゅーれ?」 「”しゅんれい”よ。昌浩」 「しゅ・・・・・う゛〜・・・・・れ・・・ぃ」 二歳の昌浩には”しゅんれい”ときちんと言うには難しそうである。 何度も練習するが、どうしても”しゅんれい”とは言えないようだ。 見かねた舜麗が、昌浩を慰める。 「あ――、わかったわ。だったら”れい”・・・・・これだったらちゃんと言えるでしょ?」 「!れいっ!!!」 舜麗から妥協策を出して貰った昌浩は、それだったらと嬉しそうに瞳を輝かせて舜麗の名前を呼んだ。 にぱっと笑顔を向けられた舜麗はその笑顔の可愛さにくらっと眩暈を感じた。 この瞬間、舜麗は晴明の末孫こと昌浩の笑顔に陥落したのであった―――――。 その後、昌浩の傍には必ずといっていいほど紅蓮と舜麗の姿があり、昌浩はそんな二人に挟まれて嬉しそうに笑っている姿がよく見かけるようになるのであったが、そこは割愛しておこう。 ※言い訳 はい!”久遠の光華”シリーズが始まりました。 このお話は一周年記念小説の《君の傍〜》を基に書いていこうという作者の考えの下に書かれています。 これは基本的に一話完結のお話を書いていこうと思います。 多分、他の長編が終わってないのであまり更新速度は速くないと思います。というか遅いでしょう。 まぁ、のんびりと書いていこうと思います。 感想などお聞かせください→掲示板 2006/4/9 |