注)このお話は、風音が死なずに安倍邸に引き取られていたらという設定の下に書いております。














(うっわぁ〜、物凄く珍しい・・・・・ありえないもの見ちゃったな・・・・・・・・)


(まじか?一体どうしたんだ・・・・・・?)


(ほぅ・・・・なかなかに貴重な光景が見れたな・・・・・・・)




談笑していた昌浩・物の怪・勾陳の三人は、やや離れたところに立っている人物を見て其々驚愕を噛み締めていた。

その人物とは十二神将・六合。

今現在は額に軽く手を当てている。
彼の表情はやや遠目なので窺うことはできないが、その背が何やら重苦しい空気を背負っているように見える。

普段から感情の起伏が捉え辛い彼が、そのように傍から見ても分かるような落ち込みようを見せるのは大変珍しい。


が、そんなことは些末なものにしか感じられない位に衝撃的なものを彼らは見てしまったのだ。









どうしても譲れないこと











事の起こりはほんの少し前に戻る。


「――――んもぅ!わからずや!!!」

「・・・・・・・・風音」


突如として上がった怒声は、安倍邸に響き渡った。
声の主は最近新たに安倍邸の住人になった風音。

主の裏切りによって瀕死の重傷を負った風音であったが、辛うじて一命を取り止めそのまま安倍邸に引き取られたのであった。
本来であれば彼女の母や守護妖達がいる聖域で傷の回復にあたるはずなのであるが、彼女はそれを拒んで想い人である六合がいるこの安倍邸で静養しているのだ。

六合はそんな風音の傍から離れず、言葉少ない会話の中でも穏やかな空気に満たされていた。
もちろん風音は嬉しさを隠さずに六合に四六時中べったりくっついている。
六合も満更ではないようで、拒むどころか率先して風音の傍にいるようだ。

少し前まで敵対していたようにはとても思えない。というか甘いのだ、空気が。
そりゃあもう、朱雀と天一と張れる位に甘い空気を漂わせているのだ。
傍から見ていると誰がどう言おうとも恋人同士のそれにしか見えなかった。

というわけなので、上のような喧嘩染みた会話など聞いたこともなく、一体どうしたのかと距離を置いたところから昌浩達は様子を窺っていたのだ。


「〜〜〜もういいっ!六合なんか大っっ嫌い!!!」


とうとう耐えかねた風音は、素早く立ち上がると六合の傍から立ち去る。
風音のそんな行動に、六合は珍しく慌てた様子を見せる。


「Σなっ・・・・・・・待て、風・・・・」


ごんっ!!!


「〜〜〜・・・・・・・・・・」


どうやら思いの外動揺していたらしい。
風音の後をすぐに追いかけようとした六合は、柱に頭をぶつけるという常に無い大失態をおかしてしまった。
そうこうしている間に、風音の姿は見えなくなってしまった。





そして冒頭に戻る。





「・・・・・・えっと・・・・六合?」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・六合・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・;;」

「・・・・・あぁ、どうした?昌浩」

「・・・・あ、うん。なんか珍しく慌ててた様だから・・・・・・・大丈夫?」


声を掛けてもなかなか反応を返してくれず昌浩が途方に暮れだした頃、六合は漸く声を掛けられていたことに気づいたらしく、かなりの間を空けて返事を返した。
そんな六合の様子に、昌浩は声を掛けたにも拘らずなんと話し掛ければよいのか戸惑う。

流石に「喧嘩したの?」なんて直球で質問するわけにもいかず(雰囲気的にその問い掛けはできそうにないと判断)、口篭りながら当たり障りのない言葉しか言えない。
昌浩の僅かばかり後方には物の怪と勾陳もいるのだが、援護はしてもらえそうにない。


「どうやら怒らせてしまったらし・・・・・・・」

「・・・・・・風音さん?」

「あぁ・・・・・お願いをされたのだが、それを断ってしまったからな」

「お願い?六合が頼まれごとを断るなんて珍しいね」


きっと余程の理由があったのだろう。
六合は確固たる理由がなければ、大概のお願い事には付き合ってくれる。
そんな彼の性情を差し引いたとしても、六合が”あの”風音のお願い事を断ったのだ。それなりの理由があって然るべくだろう。


「・・・・・流石にあれは・・・・承諾し難かった、と思う」

「どんなお願いだったの?あっ!言いたくなかったら言わなくてもいいけど・・・・・・」


憂い顔の六合をなんとかして元気付けたく、昌浩は必死に頭を働かせる。


「・・・・・・・・そ・・・いの・・・・・って言われたんだ」

「え?」


六合が常よりも低い声音で何かを呟く。
昌浩は聞き取ることができず、思わず聞き返した。


「その・・・・・・・自分と同じ髪型にしてくれと、言われた」

「・・・・・・・えっと;;高い位置で一つに結って、髪の毛の先を二つに分けるっていうあの髪型?」

「あぁ・・・・・・お揃いにしたいという気持ちはわからなくもないのだが、流石に自分がその髪型をするとなると抵抗がな・・・・・・・・・・」

「あ〜、なるほど」


喧嘩の理由を聞いてみて、今回の話の流れが大体見えてきた。

お揃いの髪型にしたいと言い出した風音。そしてそれを断った六合。
当然、風音にしてみればおもしろくないだろう。
口論の末、風音は怒鳴って立ち去ってしまったというのが事の顛末。

言葉にまとめてみれば酷く単純に聞こえるが、当事者としてみればやはり複雑な心境なのだろう。

六合にしてみればできることなら彼女の願いを聞いてやりたい。けど、その願いの内容が内容なだけにどうも叶えがたい。

六合から話を聞いた昌浩は、しばらくの間う〜んと唸り悩む。
そして何かを思いついたように顔を上げた。


「じゃあ、条件を譲歩してもらったらいいんじゃないかな・・・・・?」

「?どういう意味だ?」

「だからね・・・・・・・」


昌浩は名案だと言わんばかりに、その内容を六合に嬉々として話した。









そしてしばらくした後。満足そうに笑みを浮かべる風音と、それを見て内心安堵の息を吐く六合の姿が見られた。


「だからね、風音さんは六合とお揃いの髪型をしたいんでしょ?だったら六合は風音さんに交換条件を出せばいいんじゃないかな?」

「交換条件を・・・・・?」

「そ。六合がこの髪型までだったらできなきこともないっていう譲歩をすればいいんだよ。それで風音さんにも同じくここまでだったら許せるっていう譲歩をしてもらう。これだったら六合が完全に風音さんの髪型にする必要もないでしょ?」

「確かに・・・・・・」


上記の昌浩の提案を六合は風音に持ちかけた。風音もその条件を呑んだ。
その結果。二人とも同じ髪型をしており、その髪型とは髪の毛を高い位置で結い上げるといった極質素なものになった。
六合が風音に、髪を二つに分けることだけはやめてくれと懇願した結果である。










「珍しくいい提案をしたな」

「まぁ、普段からお世話になってるからね。力になれるときはなってあげたいと思うよ」


仲直りをした二人の姿を、少し離れたところから昌浩、物の怪、勾陳が見ていたのであった。



とにかく、これで一件落着である。












※言い訳
六合のギャグということでしたが・・・・・これってギャグですか?!書いた張本人ですけど、いまいち分かっておりません;;(←ヲイッ)
文子様、大分遅くなってすみませんでしたっ!!

2006/5/25