いつも傍に居る。




他愛もない約束事だけど





大事にしていた。





だから





失うのはすごく、すごく





嫌だったんだ・・・。









夢は痛みと共に去る









闇の色が深まる丑の刻。
昌浩は連日の激務と夜の見回りで疲れていたため今日は何もせず、すぐに寝ることに決めた。
規則正しい寝息が褥から聞こえてくる。
物の怪は昌浩のすぐ隣りで寝ていた。


「もっくん・・・。」

昌浩はいつの間にか知らない場所に立っていた。
寝ていたはずだからこれは夢なのだろう。
そう分かっているのに、なぜか妙に胸騒ぎがする。
何時も傍に居る物の怪は、なぜか離れたところに一人居た。

「もっくん。どうしたの?」

呼びかけても何の反応も示さない。
昌浩は少しムッとなり、きつい声音で叫んだ。

「やいっ!物の怪!無視するな!!」

いつもなら返ってくる『物の怪言うな!晴明の孫っ!!』と言う言葉がない。
昌浩はそっと物の怪に近づき、その白い体躯を抱き上げた。

「え・・・?」

その瞬間、物の怪の白い体躯は塵とかし、風に飛んでいった。

開いたその手には何も残っていなかった――――・・・。


「――――っ!」

昌浩は荒い息のまま飛び起きる。
心臓はまるで全力疾走したかのようだ。
そして隣りに寝ていた物の怪を抱き上げ、そのふさふさの毛に顔をうずめる。
物の怪が突然の事態に目を覚まし、じたばたもがく。

「おっ!!なんだなんだ?!」
「・・・。」

そして抱きしめてるのが昌浩だと気づくともがくのをやめて大人しくなる。
しばらくそうしていると物の怪は静かに口を開いた。

「夢、見たか?」

小さく肯く昌浩を見て物の怪は大げさに溜め息をつく。

「ただの夢って場合もあるぞ〜?しっかりしろよ晴明の孫。」
「・・・孫言うな。」

小さくながらも反論する昌浩を見て笑い、物の怪は頭をやさしく叩いた。

「ほれ、まだ寝てろ。」
「うん・・・。」

昌浩は肯き、桂を被る。
近くで眠る物の怪を見て、小さく息を吐き出した。


似たような夢が現実になったことを昌浩は思い出せなかった。



昌浩は大路を駆ける。
その隣りを物の怪も駆ける。

「おいっ!いくらなんでも追いつかないぞっ!!」
「分かってる!!」

昌浩は物の怪に向って大声で叫ぶと懐から数枚の呪符を出す。

「足を止めよ!アビラウンケン!!」

同時に呪符を放つ。
呪符は妖怪の足に張り付き、仄かに発光すると妖怪の足を地に縫いとめた。

「止まった!」

昌浩は妖怪と対峙する。
妖怪は瘴気を纏わりつかせ昌浩と物の怪を睨む。
ふとした違和感を感じ、物の怪は首を捻る。

「こいつ・・・。」
「え?」

昌浩が物の怪の呟きに気がつき、物の怪を見る。
物の怪は目元を険しくしながら呟いた。

「こいつ・・・式か?」
『オォォォォォッ!!』

物の怪の呟きと同時に妖怪が妖気を爆発させ、二人に襲い掛かった。
昌浩はすばやく刀印を切る。

「オンアビラウンキャンシャラクタンっ!」

手刀を放ち、白刃の霊気となって襲い掛かる。
しかし予想以上に膨らんだ妖気がそれを跳ね返した。
昌浩は素早く手刀を収めると締めに手を突き、線を引く。

「禁!!」

不可視の壁が昌浩の前に出現し妖怪の攻撃を阻む。
妖怪が苛立ったかのように足踏みをした。
その隙に物の怪が火炎を吐き出す。
妖怪の周りを囲み、じりじりと焼いていく。

『オォォォォォ・・・』

妖怪が苦しそうに呻いた。
昌浩は九字を切る。

「臨める兵闘う者、皆陣列れて前に在り!」

霊気をもろにくらった妖怪は塵と化し、やがて霧散した。

「もっくん?」
「いや・・・。」

物の怪の態度に変なものを感じた昌浩が物の怪を抱き上げる。
物の怪は小さく頭を振るとそのまま昌浩の肩へと移動する。
昌浩はそれ以上聞かず、大路をくるりと向きを変える。

「帰ろうか。」
「あぁ。」

昌浩の肩で物の怪は悶々と考える。

(あの気配・・・。あれは式だ。じゃあいったい誰の・・・。)




昌浩の居た大路に在る一軒のあばら家。
その屋根に影が二つ。

「使えないな・・・。傷のひとつも負わせられないのか・・・。」

少年はぼそりと呟く。高めで括った黒い髪が風に遊ばれている。
隣りに座る少女は少年とは対照的に口元に笑みを浮かべている。

「でも、実力は分かったよ。それに安倍晴明のお気に入りの式神も。」
「・・・そうだな。」

少年も答えに満足したのか、少女は結っても腰ぐらいまで長い栗色の髪を押さえ、微笑んだ。




昌浩の知らないところで、確かに采配は振られた―――――・・・。











フリー小説を配布します!!
次はディグレにしようと思っていたのに・・・(泣)

これは連載にする予定です!
この話は「朧の狂花」の中にある「夢は痛みと共に去る」の元話です。
なんかあの部分から始まると意味不明だな・・・。とか思ったので。
でもラストとかはちょっと変えるつもりです。


まぁ気長にやるつもりです・・・。気に入ってくださった方はどうぞお持ち帰りください!