あの明るい陽だまり







なにもかも、光に満ちていた。







あの瞬間







全て「無」に帰ったのだけれど。










夢は痛みと共に去る2









人影などない大路に、佇む二つの影。
ひとつはまだ幼さを残す少年と大きい猫か小さい犬のような体躯の真っ白な物の怪。

「・・・昌浩。」
「何。」

物の怪の低い問いかけに昌浩はちらりと一瞥を投げかけ、答える。

「何でここに来たんだ。」
「・・・この前の妖怪のことを探るために・・・。」
「ほう・・・。占いでもしたのか?」
「・・・。」

物の怪の問いかけに口をつぐむ昌浩。
その様子を見て物の怪は溜め息をついた。

「昌浩や・・・。いくら占いが苦手だと言っても核心も無いのに出かけるのは、無謀じゃ・・・」
「だぁ―――っ!分かってるよっ!でもわかんないだからしょうがないだろうっ!?」

物の怪の言葉を遮り、昌浩が叫ぶ。
と、物の怪が周囲の気配の異変に気がつき、その場を飛び退く。
昌浩がその様子を見て気がつくが時、既に遅し。
後ろを振り返り、黒い巨大な影に気がつき飛び退こうとする。
ちなみにここまで至るのに約一秒。

「孫ぉ―――っ!!!」

雑鬼どもが昌浩の上に勢いよく落ちてきたのは言うまでもないだろう・・・。

昌浩の上にうずたかく積まれた雑鬼達。昌浩の姿は見えない・・・。
物の怪がその様子を見て目頭を押さえる。

「うぅ・・・。毎回毎回潰されて・・・。なんと不憫な・・・。」

物の怪の言葉を聞き、昌浩が雑鬼達のしたから這い出てくる。

「逃げたくせに・・・。」
「許せ。俺の愛らしい姿がぺしゃんこになったらどうする。」

物の怪の言葉に昌浩は脱力した。
いつまでも埋まっていた昌浩を見かねたのか六合が引っ張り出す。
昌浩は地に足をしっかりつけると衣の埃を払う。
そして後ろを振り返ると半眼で雑鬼達を睨んだ。

「おーまーえーらー!!」

低い声に雑鬼達は懲りた様子も無く昌浩を見る。

「だって、なぁ?」
「一日一回は潰さないとなぁ。」
「そうそう。なんたってお前は」
「「晴明の孫っ!!」」

最後の部分は仲宜しく全員で言う。
その言い草に昌浩は肩を震わせた。

「だーかーらー・・・」

思いっきり息を吸うと怒号宜しく吐き出した。

「孫、言うなぁ―――っ!!!」

雄たけびが大路に響く中、物の怪はそっと溜め息をついた。
その時、一瞬にして空気が震えた。

「「!!」」

六合と物の怪が大路を振り返る。
一瞬遅れて昌浩も気づく。

「・・・なんだろう。」
「さぁな。だが、あまりいいものじゃないのは確かだな。」

物の怪も警戒しながら大路を睨む。
大路の奥になにかが揺らめいた。

「・・・人?」

昌浩は見えた影に呟く。
しかし物の怪は警戒を消さない。頭の奥で警鐘が鳴り響く。
纏う空気が異質なものに感じた。

「    」

黒髪をひとつに括り上げた少年が何か呟く。
しかし遠すぎて昌浩には聞こえない。
隣りに立つ栗色の少女がなにか呟いた。

一陣の風が吹く。思わず昌浩は目つぶり、風をやり過ごす。
次に目を開けた時、銀色に輝く狼に似た生き物が目の前に居た。

「安倍の後継。・・・覚悟っ!」

少年は叫ぶと銀狼を叩く。主の命令に従い、銀狼は昌浩の喉笛めがけてその口を開いた。

「昌浩っ!!」

物の怪の叫びと同時に六合が昌浩に向って走る。
銀狼より先に昌浩の身を掴み、その場から離れた。
物の怪は一瞬にして本性に立ち戻ると、昌浩と六合の傍に近づく。

「紅蓮。」
「大丈夫か?」

紅蓮の問いかけに小さく肯き、昌浩は少年と少女を見た。
少年はじっとこの大局を見つめ、少女は微笑をうかべて昌浩達を見ている。

「何者なんだ?!」
「敵である事に、間違いはなさそうだな。」

紅蓮の苛立った声に六合は静かに答える。
昌浩は懐から数枚の呪符を抜くと正眼に構えた。

「とりあえず、あの銀狼をなんとかしなきゃ。」

昌浩の言葉に二人は肯くと、銀狼に向って走り出した。

「オンアビリティホラマンダマンダウンハッタっ!!」

真言を叫ぶと呪符を放つ。しかし銀狼はすばやく動いて、呪符から脱がれた。

「六合っ!紅蓮っ!」

昌浩の言葉を聞き、六合の腕輪が光り、銀槍が現れる。
紅蓮は何匹もの炎蛇を召喚し、銀狼に向って放った。

『ウゥゥ・・・』

銀狼の身体は六合の銀槍によって裂傷を負い、さらに紅蓮の炎蛇が傷をなぶる。
銀狼は低く唸ると、昌浩を睨んだ。しかし、立っているのがやっとなのだろう。それ以上、動こうとしない。

「陽炎、おいで。」

少年が銀狼に向かって言う。「陽炎」と呼ばれた銀狼はおとなしく少年の側に行った。
少年は暫く陽炎の傷の様子を調べると、小さく呪文を唱える。
陽炎の体は淡い光りが包み、次の瞬間には傷が消えていた。

「なっ?!」

突然の出来事に昌浩は絶句する。それは隣に立つ紅蓮と六合も同じなのだろう。少年は昌浩を軽く睨むと陽炎に跨り、飛翔する。そのまま屋敷の屋根を越え、暗がりに消えていった。

少女がひとり、暗がりに残る。
口元には笑みを浮かべて。

「安倍の後継。…私達は絶対にお前と安倍晴明、式神を倒すから。」
「「!!」」

その言葉に、紅蓮と六合は目を見開く。少女は昌浩を見つめると目元を細めた。

「私の名前は朧。覚えておいて。」
「朧…。」

昌浩が呟くのを確認すると朧は暗がりにすっと消えた。
昌浩が慌てて追い掛けたがすでに姿はなかった。


「どういうことなんだ?」

紅蓮は歯がゆそうに呟く。それを見て、昌浩は小さく首を振った。

「わからない。でも…何かが起こっているのは確かだよね…」

謎の少年、少女にその式神。謎は深まるばかりだった。







陽だまりはもうない。









それでもやらなくては行けない。








そのためだけに









これまで生きて来たのだから………。











「夢は痛みと共に去る」第二弾です!!

ついに少女の名前が分かりましたっ!!読み方はそのまま「おぼろ」です。

まだまだ先が読めない展開ですね。
話は決めているのですけど、なかなか文字に出来ないのが悲しい・・・。

次はいつになるかな?
フリーですので自由にお持ち帰りください☆