偶然知ったその存在。












尋常ならざる力を持っていた。











それなのにお前は笑っていて。










自分との『違い』を見せ付けられた気がした―――・・・。













夢は痛みと共に去る3












「何者かが、都を暗躍しておるな。」

晴明は式盤を前にふむ、と唸った。
その呟きに玄武と天一が顕現する。

「何者、とは?」
「ふむ・・・。それがなかなか分からん。ただ・・・」
「ただ?」

晴明の言葉を玄武は聞き返す。晴明は昌浩の部屋の方を見ながら嘆息した。

「昌浩にまた何かが起こっているらしい・・・。」
「それは・・・」
「また・・・」

晴明の言葉に天一も玄武も言葉を濁す。
まぁ、これまでいろんな事に巻き込まれ、死にかけたのも一度や二度ではないからある意味仕方のない反応と言えるだろう。
晴明はやれやれと息をついた。

「今度はなにがおこるのじゃろうな・・・。」



「む――――っ」
「・・・昌浩君?」

文机とにらめっこすること約半刻。
時間がたつごとに昌浩は唸り声を上げていった。
物の怪はその背中を見ながら、そっと呼び掛ける。
しかし綺麗に無視される。それでも物の怪は諦めず何回も呼び掛けるが、反応を示さない。
さすがにむっとなり、物の怪は小さく呟いた。

「晴明の孫。」
「孫、言うなっ!!」

物の孫の呟きをしっかり聞き取った昌浩ががばりと振り返り、物の怪を睨んだ。

「・・・。」
「・・・。」

暫く沈黙が流れる。
先に視線を外したのは昌浩だった。

「どうしたよ?」

物の怪は文机に近づいて昌浩の前にある式盤を見る。
昌浩ははぁと溜め息をつきながら、寝転がった。

「それがサーッパリ分からないんだよね。」
「自分に関係あるんじゃないのか?」

占いは自分に関係あることは占えないのだ。
昌浩があの謎の術者たちについて占っていたのなら、出ないのも仕方ないと言える。

「うん。だからあの術者の動機を占おうとしたんだ。」
「それで?」

物の怪の言葉に昌浩は身体を起こす。
それから神妙な顔で物の怪を見た。

「・・・『天津神』『国津神』」
「何っ?!」

昌浩の言った言葉に物の怪は反射的に叫ぶ。
天津神とは創生神話に名を連ねる神の事で、高天原に居るといわれる「天照大御神」などがそうだ。
国津神とはここが豊葦原と呼ばれる頃に居た倭国に住まう神々のこと

「どういうことだ。」

物の怪は唸る。
まさかここで神のことが出るとは考えてもみなかった。
昌浩は物の怪を見ながらふと思い出す。

「彼女・・・朧だっけ。俺たちのことを『倒す』っていったよね。」
「それがどうした。」
「どうして、『殺す』じゃなくて『倒す』なんだろう・・・。」
「言葉を間違えたのかもしれないだろ。」

物の怪はたいした事でもない、というように言う。
しかし昌浩はそこに引っかかりを覚えて仕方ないのだ。

「まるで、そうしなくちゃいけないみたいだ・・・。」
「そうする・・・。」

物の怪と昌浩は唸る。
そのまま昌浩は突っ伏した。

「あ―――っ!!わかんないっ!!」

そんな昌浩の肩をやさしく叩き物の怪h首を振った。

「あきらめろ。明日も早いだろう。もう今日は寝ろ。」
「そうする・・・。」

昌浩はよろよろ起き上がり褥にもぐりこみ桂を頭まで持ち上げる。
やがて穏やかな寝息が聞こえてきた。

「・・・天津神、国津神、か・・・。」










都はずれにあるあばら家。
そこに少年と銀狼はいた。
不機嫌そうに立つ少年に銀狼は心配そうに近づく。

「あんまり不機嫌にしていると陽炎が心配するわよ。」
「・・・誰のせいだ。」

朧が面白そうに少年をからかい、少年はぶすっと答える。

「私のせいだって言うの?『生き神』様。」
「その名を使うなっ!!」

朧がからかって言うと少年は鋭い声で朧に言い放った。
朧は軽く肩をすくめると屋根から飛び降り、素直に謝る。

「ごめんなさい。亜羅耶。」
「・・・もう、言うな。」

朧が素直に謝ったのを見て少年、亜羅耶も態度を和らげた。
しかしまた厳しい視線を向ける。

「朧・・・勝手に会っただろう。あの子供に。」
「だって興味あったんだもの。」

朧は悪びれもせず、ぷいっと顔を背ける。
亜羅耶ははぁと溜め息をついた。
それを見て、朧は不思議そうに亜羅耶を見た。

「亜羅耶も興味あったんでしょう?」
「・・・あぁ。」

亜羅耶の言葉に朧も満足そうに肯く。
それを見て亜羅耶は先ほどより大きい溜め息をこっそりとついた。
その様子を軽く笑った後、朧は遠くを見るような目でただずんだ。
その様子を見て、亜羅耶が不思議に思い、名を呼ぶ。

「朧・・・?」
「今更ひけないのに。・・・戻れはしないのに。」

朧の呟きに亜羅耶は目を見張る。そして目を閉じた。
まぶたの裏に遠い日の出来事がよみがえる。
捨ててきた過去だ。

「あぁ。・・・もう戻れない。」

そう呟いた亜羅耶と朧の真ん中で陽炎は不安そうに主を仰ぎ見る。



昌浩を巻き込む不穏な影が密かに忍び寄っていた―――・・・。















「夢は痛みと共に去る」第三弾です。
ついに少年の名前も分かりました!!「亜羅耶」と書いて「あらや」と読みます。

これからのキーワードになるのは「朧」「亜羅耶」「生き神」「天津神」「国津神」ですね。これからも沢山重要なことは出ますが、もう少し先になるかな。

今回は朧の亜羅耶の会話が多かったですね。
なんか書いてて良く分からなくなったりしたんですが・・・。

これからもしっかり更新していかなきゃ。



それではこれはフリー小説ですからご自由にお持ち帰りください☆