叶えよう、願いを。









紡ごう、詩を。









望みは儚きものだけど









決して見えぬものではないのだから―――・・・。











夢は痛みと共に去る4










「そろそろか・・・。」

亜羅耶は大路に立ち向こうを眺める。
そのとき金狼に跨った朧が降り立った。
金狼の首筋をなで、朧は笑んだ。

「ちゃんと蛍火と探してきたよ。」
「で?」
「こっちに向ってる。神将は二人。」
「この間のか・・・。」

亜羅耶は鳶色の長い髪をした青年と紅い髪のすさまじい神力を持った青年を思い出した。


少し邪魔だな・・・。


朧は亜羅耶を見て軽く息をつく。
亜羅耶は少し考えすぎるところがある。もう少し楽に考えてもいいのに。
そんなこと言ったら、「お前は楽観すぎなんだ。」って言われるから言わないけど。
亜羅耶の目が一点を見つめた。

「来た。」


昌浩は物の怪と共に家路を急いでいた。
六合はいつものように穏形してついてくる。

「結構、遅くなっちゃったね。」
「あぁ。彰子が心配してるぞ。」

そう物の怪が言うと明らかに昌浩の進む速さが速くなった。それを見て、物の怪は苦笑する。
唐突に昌浩が立ち止まる。物の怪が訝って昌浩を見ると昌浩は通りの向こうを見つめていた。

「おい、どうし・・・」

突然、霊力が爆発して二人に襲い掛かる。
その瞬間、物の怪が本性に立ち戻り、炎で障壁を築く。

「やっぱり、邪魔だな・・・。」

呟きを耳にし、顔を上げればそこにはあの少年が立っていた。

「お前っ!!」

紅蓮が瞠目して叫ぶ。しかし少年はそんな紅蓮には目もくれず、ただ昌浩だけを見ていた。
昌浩は亜羅耶と視線を合わせ、ただ見つめかえす。

「安倍の子供…容赦はしないっ!」

突然後ろから狼の咆哮がした。その瞬間、六合が顕現し銀槍で狼を止める。

「わ…。びっくりした…」
「しっかりしてくれ。晴明の孫よ。」
「孫言うな。」

紅蓮が呆れ口調で昌浩をからかう。六合はあいかわらず寡黙だが、瞳は亜羅耶と朧に向けられていた。
昌浩はゆっくり二人に近づく。

「俺分からないんだけどさぁ。どうして俺やじい様を『倒す』の?」
「必要だから。」

昌浩の疑問に朧が答える。
紅蓮が朧を見て眉根を寄せる。

「必要だからって・・・。何でだ?」
「お前達が晴明を守るのに理由がいるのか?」

亜羅耶が紅蓮と六合に言い放つ。二人は目を見開いた。
二人が晴明を守るのは主だから。だがそれだけじゃないのも確かだ。
昌浩を守るのだって同じこと。紅蓮はともかく、六合だって昌浩を守ろうとしてくれる。
そんな二人の様子を見て亜羅耶は微かに笑う。
そのまま右腕を上げ、術を繰り出す。

「くっ……。」

昌浩はその容赦のない攻撃に片膝をついた。
それを見た紅蓮が白い炎蛇を召喚する。

「駄目だ!紅蓮!!神将は人を攻撃しちゃいけないっ!!」
「だがっ………!」

紅蓮は歯噛みする。
理に縛られて、昌浩をちゃんと守ることができない。昌浩はそんな紅蓮の気持ちを察したのか、立ち上がり刀印を切る。

「縛縛縛。不動縛!!」

亜羅耶の動きが止まる。昌浩はさらに真言を唱える。
「ナウマクサンマンダ…」
「封殺。」

亜羅耶の低い言葉が昌浩の術を解く。
同時に朧が昌浩に向かって術を放つ。

「縛!」

言霊が昌浩に見えない枷となって襲いかかる。
昌浩は素早く刀印を構えた。

「砕!!」

朧の術に向かって放ち、相殺した。
朧は楽しそうに笑う。

「天狐の血を使わずにここまでとは。さすがね。」
「なんで…」

昌浩は朧の言った言葉に目を見開いた。
知らないうちに胸に下がった道反の玉に手を伸ばす。
それを見て、朧は面白そうに笑った。

「神に通じる天狐の血…果たして神の子にはどれだけあらがえるのかしら。」
「どういう意味だ!!」

紅蓮が朧に向かって言う。朧はおかしそうに二人を見るだけだ。

「言葉の通りよ?手掛りは自分の手にあるでしょう?」
「あ…。」
「朧。余計な事はいい。」

朧の言葉に昌浩は何か引っ掛かりを覚える。
それを見て、亜羅耶は苛立たしげに朧を制した。
それを聞いた朧は不服そうだが、素直に口を閉じた。
亜羅耶は腰に佩いた太刀を抜き、昌浩の傍に投げ、射す。

「伏して願わくは・・・。」

亜羅耶は真言を唱える。
紅蓮はそれを見て昌浩に向って叫んだ。

「昌浩っ!!離れろ!!」
「え・・・?」
「・・・雷電神勅。急々如律令!!」

純白に輝く稲妻が昌浩の近くにある太刀に向って落ちてくる。
紅蓮はとっさにその身で昌浩を庇った。

「ぐっ・・・。」
「紅蓮っ!!」

徐々に光が消えるとそこには左半分が黒焦げになった紅蓮が昌浩を庇っていた。

「なんでっ・・・!!」
「俺が守りたかったんだ。気にするな・・・。」

紅蓮は口角をあげて笑い、昌浩の頭を軽くなでた。
昌浩は泣きそうな顔で紅蓮を見上げてくる。
その様子を朧は離れたところで冷めた目で見ていた。

「朧・・・。」
「美しき主従愛ね。」

朧の言葉に紅蓮が剣呑な表情で朧を見上げる。

「何・・・?」
「身を挺してまで助けるのはなぜ?」
「大事だからだ。」

その言葉に朧はつまらなそうに顔をしかめた。

「分からないわ。愛されることなんて私には分からない。」
「朧っ!!」

亜羅耶が朧の名を呼ぶが、朧は止まらなかった。

「でもお前達を倒せば、私はきっと認められるのよ。要らない子なんて言われない。『贄の巫女』なんて呼ばれないっ!!」

突然朧の霊力が爆発する。何本もの刃となって昌浩に襲い掛かった。

昌浩はぼうっとそれを見ていた。
否。その目はどこも見ていなかった。
遠くで紅蓮が叫んでいる。
昌浩は脳裏に駆け抜ける映像を見ていた―――・・・。














ようやく半分くらいいったかな・・・。
物語の核心に近づけました。この次が気になるところです(笑)
朧は『贄の巫女』で亜羅耶『生き神』です。
これも次には明らかになるかな・・・?

これはフリー小説なのでご自由にお持ち帰りください☆