はじまりの風











はじまりの風よ 届けメッセージ
“いつでもあなたを信じているから”

あの時 夢に見ていた世界に立っているのに
見渡す景色に 足を少しすくませ
だけど後ろ振り向かないで
歩いてゆくこと決めたから
見上げた空 七色の虹 あなたも見てますか?

はじまりの風よ 届けメッセージ
夢に駆け出した背中 見守るから
舞い上がる風よ 想いを伝えて
“いつでもあなたを信じているから”
羽ばたけ 未来へ








「良い天気ですね」
「ええ。本当に」

つい先日迄神隠しにあっていたと言う事で物忌みになっている(晴明の差し金、とも言う)昌浩は縁側に腰をかけ、薬師瑠璃光如来である瑠璃と空を仰いでいた。
彼女の紫がかった銀髪は太陽の光によって輝き、瑠璃色の瞳は流れ行く雲を見詰めて居る。

「瑠璃様、もう一枚何か羽織って下さい。お風邪を召されます」

穏やかな雰囲気の中、遠慮深げに尚且つ強く篭る願いが見受けられる声が投げかけられる。
二人が背後を顧みると赤茶色の髪の毛を腰の辺りくらいまで伸ばし、新緑色の瞳を持ち、身体に古風な甲冑を身に纏った女性が十二神将が一人凶将・勾陣と共に佇んでいた。
優しいその風貌には些か眉が寄っている。

「昌浩もだ。病み上がりが」
「あら、因達羅(いんだら)。私は人の身ではないのだから平気ですよ」
「勾陣まで…。平気だよ。ね、瑠璃様」
「ええ」

主として慕っている者に断言されてしまっては元もこうもない。
ないのだが。


「…泣きますよ?」
「天后に似てると思っていたら、段々と似てきましたね」
「天后が此処にいるみたいだよ」

可笑しそうに苦笑しだす二人に、渋い顔をしていた因達羅も勾陣も、どちらからとも言えずに笑みを零す。
本当に久しぶりだと思う。
十二神将や十二夜叉大将に人と同じ時間感覚はない。
だけれど、そう思えるのは大切な人が居なくなってしまったからだ。
傍に舞い戻って来てくれた今が、とても幸せだ。

「それにしても、宮毘羅(くびら)は遅いですね」
「紅蓮が一緒だから遅いのかも知れませんよ」

朝、晴明の命で出かける紅蓮に瑠璃は「是非、宮毘羅も」と言って同行させた。
珍しい組み合わせに驚きつつも不機嫌な顔をした二人を四人で見送ったのだ。
昌浩が帰ってきた今、十二夜叉大将に敵意を向ける十二神将は少ないのだが、紅蓮は未だ警戒を解いてはいない。
しかも、約一名には凄まじい敵意を向けている。

それは宮毘羅も同じで。

「あら、噂をしたら影、ですね」
「本当だ」
「良い加減この雰囲気のまま邸に帰ってくるのをやめて貰いたいな。太陰や玄武が脅える」
「本当よ。摩虎羅(まこら)や珊底羅(さんてら)達だって呆れているわ」

各自思い思いに感想を述べる中、見知った気配が二つ庭へと降り立った。
それはもう不機嫌全開で。
一人は十二神将火将騰蛇こと紅蓮。
もう一人は肩より下くらいの長さの銀髪に蒼い眼と左頬には梵字の『ウー』のような模様を持つ宮毘羅。

「貴様は何故もっと早くに太刀を召喚しなかった」
「十二神将最強の力を見る為だ。第一、瑠璃様の命でなければお前等助けない」
「俺だって昌浩の願いではなかったら貴様と行動を共にする等お断りだ」

そんな二人に呆れながらも勾陣と因達羅は肩を竦めるとそっと庭へ足を下ろす。

「騰蛇、喧嘩する暇があるならさっさと晴明に報告して来い」
「宮毘羅もよ。そんな事では瑠璃様が悲しんでしまわれるわ」

そう言い包められた二人は渋々当主である晴明の部屋へと足を進めた。
何だかんだ言いながらしっかり隣を歩いている。
その光景に彼女達二人は顔を見合わせて困ったように微笑んだ。
そして、己達も二人の後を追う様に部屋へと足を進めたのだった。

「ねぇ、瑠璃様」

そんな光景を見詰めていた昌浩と瑠璃。
穏やかな沈黙を先に破ったのは昌浩だった。
なぁに?、と声には出さずに眼を見る事で問う。

「瑠璃様は、十二夜叉大将をどうお思われですか?」
「…貴方には大変なご迷惑をお掛け致しました。あの子達の行動は私を思っての事。
ですが、それは嬉しくもあり悲しくもありました。貴方や貴方の御爺様、それに十二神将を巻き込んでしまいましたから」

静かに彼女の口から語れる言を聞き入っていたが、それが終わるとゆっくりと口を開いた。

「正直、俺は何で俺が、って思う時もありました。
だけれど、彼等には彼等なりの理由があった。
それに、こんな事言うと未熟者って怒られそうなんですけど、紅蓮達が必ず来てくれると信じていました。
瑠璃様も同じでしょう?十二夜叉大将を信じておいででしょう?」


己を解き放つためにこの子供を利用てしまった。
そして手の届かぬ場所へ行ってしまった子。
この子を取り戻すために都を走り回った。
必ず取り戻すと。
己の望んだ結果を見せてくれると。

「はい。信じています。彼等を。誰よりも」

そう言いきる瑠璃を昌浩は微笑んで見詰める。
立つ位置は違っても気持ちは、十二の仲間を思う気持ちは一緒なのだ。

「早く仲良くなると良いのですが…」
「“信じる”事で未来は変わるかも知れませんよ」
「そうですね」

暖かな風が流れる昼下がり。
互いに彼等の前では言えない一つの言葉。
隠すのは一つの照れ隠し。








例えば、たいせつなひとを胸に想う時は
誰もがきっと
優しい顔をしてるはず
道は時に果てしなくても
諦めずに行くよ

はじまりの風よ 届けメッセージ
遥かな旅路のその先で待ってる
舞い上がる風よ 運命も越えて
願いは届くと信じられるから
いつかまた逢えたなら
あの笑顔見せて

はじまりの風よ 届けメッセージ
遥かな旅路のその先で待ってる
舞い上がる風よ 運命も越えて
願いは届くと 信じられるから
恐れるものなどない“あなたがいるから”




song by 平原綾香






はい。相互記念として睡眠症候群の葉月凌様から素晴らしい小説を頂きました!!
お話は今連載中の『沈滞の消光を呼び覚ませ』に登場しているオリキャラと昌浩のお話です。
ヤバイ、嬉しすぎる・・・・・・/////
キャラの個性もしっかりと描かれてますし、このほのぼのとした空気が良すぎです!!
きっと事件が全て終わった後はこんな風景を見ることができるんだろうな・・・・と、もう私の予想を外さぬ世界観で書いてくださいました。
私も近々お返しの小説を書こうかと思います。

葉月凌様、本当にありがとうございました!!!