俺と君と月下美人















漆黒の闇に浮かび上がる白き灯火。


その灯火は一夜にして燃え尽きる。


誰にも気づかれることなく灯火は、ただひっそりと月光に照らされる。


その灯火の存在に気づくことができたのは、非常に運のいいことなのだ。












「今日の夜、庭の方に来てくれないか?」


昌浩はそう言って楽しげに笑った。

彰子は黒の帳が降りきり青白い月が天頂近くに昇る頃、言われたとおりに庭の方へと足を運んだ。
庭に面した簀子に、お目当ての人物が佇んでいた。


「昌浩・・・・?」

「彰子・・・・・ごめん、態々こんな時間に呼び出して」

「ううん、気にしてないわ。それで?何か用でもあるの??」


言われたとおりにやって来た彰子に、昌浩は申し訳なさそうに眉を下げる。
彰子はそれに首を横を負って否定し、呼び出した訳を問う。

彰子に理由を問われた昌浩は、ぱっと顔を輝かせて彰子の手をそっと掴んだ。
その掴んだ手を引きつつ、昌浩は庭へと彰子を先導する。


「あのね、彰子に見て貰いたいものがあるんだ。今日あたりかなぁと思ってたんだけど、さっき見たときはもう一歩手前だったから・・・・・・多分、今だと丁度いいと思う」

「?私に見せたいもの??」

「うん・・・・・蛍とはまた違うんだけど、ね。もしかしたら蛍よりも見れる機会が少ないんじゃないかな?」

「まぁ!蛍よりも珍しいの?」

「う〜ん、どうだろう?見る人によって違うのかも・・・・・・・」


蛍よりも見る機会が少ないと言われて、彰子は興味津々に聞き返してくる。
昌浩はその質問にどう答えていいのか困り、小さく首を傾げるだけに止まった。

そうこうしている内に目的の場所に着いたのか、昌浩が歩みを止めた。
彰子もそれに倣って足を止める。

彰子の半歩先を歩いていた昌浩は、目的のものを見えやすくするために体を横に移動した。


「これなんだけど・・・・・・・・」


昌浩がそう言って示したのは、月下に咲き誇る白い花。


「花・・・?とても綺麗・・・・この花は夜に咲くの?」

「うん・・・・名前は月下美人って言うんだ。夜の間にしか咲かない花で、朝になる頃にはもうしぼんじゃうんだって」

「夜の間だけ?そう、だから月下美人と言うのね・・・・・・」

「うん。・・・機会を逃すとなかなか見ることができないから・・・・・予想が当たってよかったよ」


月の光に照らされた花を楽しげに見る彰子を見て、昌浩の頬も無意識のうちに緩む。
彼女の無邪気に笑っている顔を見ると、これを見せてよかったと本当に思った。

彰子が花から視線を上げて、昌浩を見る。


「本当に綺麗ね。昌浩、教えてくれてありがとう」

「俺としては彰子に喜んで貰えてよかったよ。彰子にどうしても見せたかったからさ・・・・・・・・・」

「どうして?」

「秘密」


昌浩は口元を緩く弧に描かせながら、一言そう言った。










闇に浮かぶ白い花。




それはさながら闇夜の中の唯一の導。




迷い人を正しい道に導く目印。




自分がいつも困難にぶつかった時に、救いの手を差し伸べてくれる彼女とどこか似ていると思ったのだ。




陽光のように強烈な光ではなく、淡く優しい月光。その下に寄り添うようにひっそりとさく花が、彼女の見せる優しさの雰囲気と似ているかもしれない。




自分がそんなことを思っているなど、彼女には到底告げることなどできない。




ほんの些細な照れ隠し。
















静かに時が流れていく中、昌浩と彰子は月下に咲く白き花を眺めていた―――――――――。



















※言い訳
はじめに、このお話は風花華月様のみがお持ち帰り可能です。
リクの内容は昌浩→彰子でしたが、実際に出来上がったお話は昌浩+彰子になってしまったような気も・・・・・;;でも、このお話は昌浩→彰子です!(←言い張る)
月下美人、この花はサボテンの仲間らしいです。なので、なんでこの時代にそんなものがあるんだ?!と突っ込まないで頂けると助かります。そこは作り話ならではのありえない設定だということで・・・・・。

2006/9/11