蛙の子は蛙。狸の子はやっぱり狸? |
日もすっかり沈み、空のあちこちに星が見られるようになった時刻。 大路を足早に進んでいく影が三つ・・・いや、四つあった。 影の正体は安倍邸へと急ぐ昌浩、物の怪、成親、昌親の四人(三人と一匹?)であった。 「すっかり日が暮れてしまいましたね・・・・・」 四つの影の内の一つ、昌親が空を仰ぎながらそう言った。 「すまない、昌親、昌浩。思っていたよりも仕上げなくてはならない書類が沢山あったからな」 「俺は期日が余裕のあった仕事を早めに終わらせれたから、別にいいよ」 「私も調べ物があったので気にしてませんよ、兄上」 「ならいいが・・・・・・・・」 実は今日、久々に兄弟(家族)揃って夕餉を食べようという約束をしていたのだ。 しかし成親が予定外の仕事で残業する羽目となり、共に安倍邸に行こうと約束していた昌浩、昌親は成親の仕事が終わるのを待っていたのだ。 そして現在、成親の仕事も終わり、彼らは揃って安倍邸へと足早に向かっているのだった。 「そういえば、母上が喜んでたよ。久々に皆揃ってご飯を食べることができるからって」 「俺達が家を出て久しいもんな・・・・・。まだお前がいるから寂しく思うことはないだろうが、やはり家族揃ってだと気分が違うのかもしれんな」 「そうですね。私も兄上もきちんと家庭がありますからね、こちらに戻ってくるのもそうそう機会がありませんから」 「まぁ、それが普通なのだがな。偶には親孝行と思って顔を見せるのは悪くはないだろう」 「親孝行・・・・ですか。確かに喜んで貰えるのは息子としても嬉しい限りですけどね」 「それに、偶には弟の生傷が増える歯止めになれば一石二鳥だろう?」 成親はそう言って、少し先を歩く末の弟と物の怪の姿をとった神将へ視線を向ける。 昌親もそれにつられて前方を歩く弟を見、納得したように一つ頷く。 一見ぱっと見ではわからないが、昌浩の体のあちこちには沢山の擦り傷や切り傷がついている。 それらの大半は着物に隠されてしまうが、時たま真新しい傷が衣の袖口から覗いていたりする。 弟を可愛がる兄の心情としては、そんな傷を毎回の如く作っている昌浩にいい気はしない。 なので今日は無礼講と称して夜警に出掛けようとする昌浩を、成親は引っ掴んで放さないつもりなのだ。 昌親もそんな成親の考えはわからなくもないので、兄の行動を止めようとは思わない。 「昌浩が・・・・心配ですか?」 「愚問だな。お前とてそうだろうが。もしかしたら切り傷なんか比較にならないほど大きい傷があの服の下に隠されているのではと、この頃心配で仕様がない」 「そうですね・・・・・・・」 昌浩が直丁になってから幾度か長期の休みをとっているのは周知の事実である。 しかし周りで噂されているように、昌浩の体が弱いわけではないことを家族である彼らはもちろん知っているので、そんな弟が態々長期に渡って休みを取らなければならないほどの理由を考えれば良い顔はできない。 自分達の与り知らぬところで奮闘している弟。しかも命の危険つきとなれば心配しないわけにはいかない。 「気休めでも、息抜きになって貰えればいいですね」 「そうだな」 物の怪と談笑している末弟を見ながら、兄二人はそう言葉を交わした。 しかしそんな真面目な空気も、次の瞬間には遥か彼方に吹き飛ばされることとなる。 「「「「「孫ぉ―――っ!!」」」」」 「うわあぁぁっ!?」 大合唱と共に、大量の雑鬼達が昌浩目掛けて降り注いでくる。 べしょっと昌浩は盛大に押し潰された。 昌浩の足元にいた物の怪は危険を察知していたのか、いつのまにか昌浩から距離を置いて安全なところに非難していた。 「「・・・・・・・・・」」 後ろでその光景をまざまざと見せ付けられた二人の兄は、唖然とした表情で固まる。 昌浩ほど見鬼の才がないといっても、彼らにだって雑鬼を見ることが叶う位の見鬼の才は持ち合わせているのだ。 故に今現在、弟を下敷きにしてこんもりと山を作っている雑鬼達も簡単に見ることができた。 なるほど、これが生傷の原因の一つか。 今目の前で起こった現象が、かねがね聞き及んでいる”一日一潰れ”だというのは理解できた。 しかし盛大にずっこけさせられている弟を見て、生傷の原因の一部にこのことが含まれているのもわかってしまった。 確かに面白い。面白いのだが・・・・面白くない。 事情を何も知らないであくまでも第三者として見てる分には大変面白い光景であるが、たった今まで弟の怪我について談議していた身としては嬉しくない光景。 「お前らどけぇ―っ!ていうか毎回毎回人のことを潰すなっ!!」 がばぁっと雑鬼の山の下から勢いよく起き上がった昌浩は、恒例の如く彼らに抗議する。 が、そこは恒例事項。 雑鬼達はにへらぁっと笑って、昌浩の抗議を軽く受け流す。 「何言ってるんだよ孫!一日一潰れされてこそ孫だろう?」 「そーだ!そーだ!潰されない孫なんて孫じゃないっ!!」 「つーか、止めたら俺たちの楽しみが減るじゃん!」 「だよなぁ〜」 「どんな理屈だっ!!(怒)」 口々に好き勝手言う雑鬼達に、昌浩は青筋を立てて怒鳴る。 しかしこれも恒例事項なので、あっさりと流される。哀れだ。 そんな中、雑鬼達はいつもとは違う面子がその場に居合わせていることに気づく。 「あっ!成親に昌親じゃん!珍しいなぁ〜孫と三人揃って」 「ほんとだぁ〜。里帰りか?」 「ばっか!同じ都の中にあるのに里帰りなんて言わないだろ!?」 「あっ、それもそうか」 珍しいものを見たと言わんばっかりに、雑鬼達は成親達に視線を集中する。 成親達はそれに対し、苦笑を返すばかりだ。 そんな中、昌浩だけが不機嫌そうに雑鬼達をじと目で睨んでいる。 「お前ら・・・・・何で兄上達は名前で呼んで、俺だけ名前で呼ばないんだよっ!!」 「え?だって孫は孫じゃんか!」 「そうそう。孫以外に何があるっていうんだよ?!」 「孫は兄上達だって同じだろ?!俺は一番下っ!!」 「あ〜、無理無理。孫が一番孫ってしっくりくるんだよ」 「はぁっ?!何だよそれっ!!」 無茶苦茶な言い分に昌浩は呆れたように雑鬼達を見る。 そんな昌浩と雑鬼達の遣り取りを眺めつつ、成親と昌親は二人の間でのみ会話を交わしていた。 「う〜ん、害意はないんだろうがなぁ・・・・・・・」 「どうしますか?兄上」 「そうだな・・・・・・・・・・一回だけ釘刺しておくか?」 「そうですね。一度、物事をはっきりさせておいた方が後々後腐れなくて済みますしね」 何やら不穏な会話内容だ。 「―――じゃあ、そういうことで・・・・・・・昌浩っ!ちょっとこっちに来い!!」 「?何?兄上」 「実は少々野暮用ができてな・・・・・・・悪いが一足先に騰蛇殿と邸へ帰っていてくれないか?」 「えっ、何で?待ってるよ?俺・・・・・・・」 「いや、もう直ぐ着くと母上達に知らせて欲しい。用事はそう時間は掛からないからな」 やけににこやかに語りかけてくる上の兄を訝しげに思いつつ、昌浩は素直に頷いた。 「わかった。それじゃあ先に帰ってるね。もっくん!行こうっ!!」 「あぁ、わかった」 先に歩き出した昌浩に物の怪は返答を返しつつ、ちらりと成親達に視線を飛ばす。 成親達はそんな物の怪に笑みを返すだけで何も語らない。 何やら物言いたげな物の怪であったが、何も言わずに昌浩の後を追っていった。 その場には成親と昌親、それと雑鬼達が残ることとなった。 「それじゃあ俺達も帰るとするか!」 「いや、待て」 「ん?俺達に何か用か?成・・・・親・・・・・・・・・」 引き止めた成親を見上げた雑鬼は、その表情を見て顔を引き攣らせた。 見上げた二人の表情は、気持ち悪いくらいに眩しい笑顔を振りまいていた。 「あぁ、お前達に用があってな。・・・・・少し確認作業をしたと思って・・・・・・・・」 「か、確認作業・・・・・?」 「そうです。・・・・・・あぁ、大丈夫ですよ。そう時間は取りませんから」 「う・・・・・・ぇ、あ・・・・・・・・」 「それではさくさく用件に移るか!」 蒼褪めて固まっている雑鬼達に、成親達は笑顔のままで近づいていった――――。 この後に行われた”確認作業”については皆さんのご想像にお任せしよう。 でも、これだけは言える。雑鬼達は後々に語る。 あの時、やっぱりあいつらも晴明の血を引いているんだなって認識させられた、と―――――――。 ※言い訳 はい、安倍三兄弟&雑鬼ーずのある日(夜?)の会話という内容でお送り致しました!会話文、少し少なかったですかね? 前半シリアスだったのに、最後の方ではギャグっぽくなってしまいました・・・・・何でだろう?一応、このお話のテーマは『弟の身を案じる上の兄二人』です。こんなお話でいいんでしょうかね? このお話は水樹様のみお持ち帰りが可能です。 2006/9/14 |