彼の額に三つほどの青筋が見えた。


もはや、我慢の限界である。






堪忍袋の緒が切れる時






「いつもいつも、昌浩を目の敵にしやがって能無し共がっ!」
白い物の怪の姿、通称もっくんが腰に手を当てて怒っている。
「まぁまぁ、俺の仕事の遅さが悪いんだし。しょうがないって・・・」
もっくんの横で、困った顔をしているのが安倍清明の孫の安倍昌浩である。
本人を前に「孫」の「ま」の字を言うものならば速攻で「孫言うな」が返ってくる。

「その仕事を押し付けて、あまつさえ量まで増やしてる奴らを庇うのか?お前は!」

「だって・・・。それが直丁の宿命だし」
「宿命なわけあるかぁぁぁぁぁ!」
思わず突っ込んでしまった。
「くそぅ。なんとかしないとなぁ」
もっくんは昌浩に聞かれないように呟くと、その場を後にした。
その頃、もっくんが「能無し」といった彼らは塗籠で頭を寄せ合って話していた。
「お前ら、どうする?あの直丁、そろそろ・・・・」
「そうだな。良い気になってるようだし、懲らしめてやるか!」
何人かの陰陽生がなにやら良からぬことを企てていた。

「さぁて、どうしたもんかなぁ?」
もっくんは陰陽寮の中をテクテクと歩いていた。
すると、向こうから昌浩の父の吉昌が歩いてきた。
「あ、騰蛇殿。如何なされた?」
「おう。実はな?昌浩を目の敵にする莫迦共がなぁ」
っと、もっくんは今までの鬱憤も含めて吉昌に延々と愚痴り始めた。
「なるほど・・・。それで、昌浩は困っていると?」
「だろうな。平気な顔をしてはいるが・・・」
二人(一人と一匹?)は揃って溜息をつくしかなかった。
「あ。ではこのようなものはいかがかと・・・・」
「ふむふむ・・・」
こうして、昌浩の知らぬところで着々と歯車は回りだした。


「もっくん。どこいってたのさぁ」
もっくんが昌浩の元へ戻ってくると、昌浩は帰りの支度をしていた。
「ちっと、吉昌のところまでな」
「父上のところへ?なにしに?」
「ちっとなぁ」
なんとも思わせぶりな態度だが、問い詰めての話してくれないと判っているのでそれ
以上は聞かなかった。
安倍邸に返ってから夕餉を食べ、いつもの夜警を行い、そして―――――。

「「「「「孫ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」」」」」
恒例の“一日一潰れ”である。
「今日も夜警か?」
「精が出るなぁ」
「相変わらず、進歩ねえな」
「けど、潰れてこその孫だろ?」
「「「「「な、孫!!」」」」」
口を挟む暇さすらない。
「・・・・・・け」
「「「「「なんだ、孫??」」」」」
「いいからどきやがれぇぇぇ!」
何とか、立ち上がるも重さに耐え切れなかったのか再び大地とご対面。
「相変わらず、力ねぇなぁ」
「あっ!」
「そういえば、向こうに陰陽生が何人かいたぞ?」
「あいつら、俺らの事見えてないもんでつまんねぇよ」
「そういうことは早く言え!!」
さっきの大声は結構なところまで響いていたから、彼らにも聞かれている事だろう。

(まずい!早く、隠れないと・・・・!!)
しかし、すでに見えるところまで松明の火が迫っていた。
っといっても、彼らは松明の火を頼りに歩いている。それに対し、昌浩は松明を持た
ずに暗視の術を使っているのでお互いの

見える範囲は変わってくる。
急いで、同行していた六合に掘り起こして貰い、隠れる。
「ありがとう、六合」
「・・・・ああ」
相変わらず、寡黙な六合である。
「もっくん、今回も逃げてくれてありがとう!」
「礼を言われるまでもないぞ」
「・・・・・・・」
昌浩の皮肉は通じなかった。
そんなこんなしているうちに、陰陽生たちの顔が見えてきた。
彼らは検非違使と一緒に夜警をしているようで、中には敏次の姿も見える。
「あ、敏次殿だ」
その時、敏次たちの前に雑魚に等しい妖が現れた。
「あ」
昌浩が慌てて、助けようとするがなんとか敏次のお蔭で倒せたようだ。
「・・・・やっぱり、実行に移すか」
もっくんがぼそりと呟いた。


さて、彼らがお互いに企んでから数日後。
「此処に、陰陽寮第一回術比べを始める」
「この勝負、安倍昌浩殿の勝ちとする」
術(すべ)比べとは、安倍清明が蘆屋道満と行なった法力争いである。
対象者は陰陽生以上。しかし、誰かの企みか直丁の昌浩も対象者に含まれていた。
明らかに、犯人は丸判りだが。
その犯人の中に、爺馬鹿がいたとかいなかったとか・・・。
つまりは、安倍一族(清明を除いた)全員が参加となっている。
場所は陰陽寮の近くにある広場で、簡易屋根が作られていた。
吉昌ともっくんが考えたのは安倍一族の仲で誰が「清明の後継者」であるかを、ハッ
キリさせるのが目的である。
実はこの術比べで使うものはは昌浩の最も得意とされる術である。
安倍一族では清明を除いて昌浩に勝てるものはいない程だ。
「お待ち下さい。陰陽頭!」
「何かね?敏次殿」
「直丁の安倍昌浩殿が参加とは如何なものかと・・・」
本気で心配しているようだが、もっくんはご立腹。
「お前如きに、心配されるようなものは何もないわ!!」
安倍の面々は勿論、見えているので苦笑している。
「清明殿のたっての希望なのだ」
その一言で清明の思惑を悟った安倍の面々と、また七光りかと妬む陰陽生の面々。
「さて、疑問も解決した事だ。術比べを始めよう」
方法は至って簡単。
中が見えない箱の中の物を、自分の術で変える姿形を言いながら変えるものだ。
つまり、相手以上の法力でなければ姿を変える事は出来ないず、回を重ねる毎によっ
て難易度も上がってくる。
それ故、最後に言い当てたものが勝ちなのである。
最初の昌浩の相手は昌浩の一年先輩に当たる陰陽生の藤原景盛(かげもり)である。

「藤原景盛殿、安倍昌浩殿。先鋒は藤原景盛殿、始めなさい」
判定役の陰陽頭が開始を告げた。
今回、箱の中身は式神を作る際に用いる特殊な紙である。
つまりは式神を作る要領でやっていくことになる。
(はぁ。やんなるなぁ)
実は景盛は参加する気がなかった。
元々、殆どの陰陽生は昌浩を負かすために参加したようなもので、彼自身はそんなど
うでも良かった。
彼は実力主義だからだ。
力があれば、帝に尽くすという考えである。
(さっさと、終らそう。負けても良いし)
「オンアミリティインダラヤソワカ」
印を組み短く呪を唱え、中にある物を小さな鼠に変える。勿論、まやかしなので声は
出さないようにした。
「鼠です」
「次、安倍昌浩殿」
「オン」
昌浩は景盛よりも短い呪を唱え、鼠から雀に変える。
普通、陰陽生程の力では一呪だけでは力が足らずに失敗してしまうが、昌浩は清明を
師とするだけあって一呪だけで事足りて

しまう。
そんな昌浩に驚いている周りを気にせず、昌浩は箱の中身を告げた。
「雀です」
そんなやり取りが三度ほど続くと少し、辛くなったのか景盛が「参った」と告げた。

その時、昌浩は兎を蛇に変えていた。
判定人の陰陽頭が箱の中を開け、周りにいた陰陽生たちに見せる。
それによって誤りがないかを見るのである。
「勝者、安倍昌浩殿」
そうして、昌浩の初戦は終了した。
昌浩の横では昌親が判定役をして、藤原敏次と陰陽生の術比べが行なわれ敏次の勝利
に終っていた。


「昌浩、頑張ってるか?」
休みながら観戦している昌浩に判定役が交代したのか、小声で話しかけてきた。
「成親兄上。みんな凄いですね」
(((((・・・・・・・)))))
因みに、昌浩の周りにいるのは全員が安倍一族。
昌親、吉昌などの内孫、本家から始まり分家(後に土御門を名乗る子孫を持つ者)た
ちもいる。
彼らは昌浩の一言にただただ呆れるばかりだ。
なにしろ、彼らは「清明の孫」の言葉の真意を知っている。
昌浩は「清明の孫」といわれるのを嫌うが・・・・。昌浩以外、清明の「孫」とも
「息子」とも言われた事がないのである。
その意味をいつか知る事になるだろうが、今は誰もそれを言わない。
「昌浩。今後、皆の前でそれを言わないようにね」
「え?・・・あ、はい」
昌親の困ったような笑顔で頷きざるを得なかった。
因みに、先程の景盛と昌浩の戦いでは合わせて4回の術比べで済んでいるが、同じレ
ベル同士の戦いはかなり長いところで1

0回以上は続いている。
まぁ、それだけ昌浩の力が並外れていると言う事なのだが、陰陽寮の中で上位にいる
者達と安倍一族以外の者はそれを判って

いなかった。
そうして、いつしか残ったのは陰陽生では昨日昌浩を懲らしめてやろうとした者と、
敏次、昌親、成親。そして、昌浩のみで

ある。
彼らの実力を知っている者ならば、予想できた者達だろうが・・・・。
「次、安倍昌浩殿、秋月成雅(あきづきのしげまさ)殿。先鋒は安倍昌浩殿、始めな
さい」
今度は昌浩が先鋒である。
さて、この秋望成雅なる者。先程も述べたように先日、昌浩を懲らしめる基、いびろ
うとしている者である。
「オン。・・・・・刀です」
今回は、物にしたようだ。
「次、秋望成雅殿」
「オンアミリティインダラヤソワカ。・・・・・扇です」
一巡が終了した。
「次、安倍昌浩殿」
「オン。・・・・・蛙です」
昌浩の一言でその場がざわめいた。
何故ならば無生物から無生物、若しくは生物から生物に変えるのはそれほど難しいこ
とではない。
しかし、無生物から生物に変えるには力と精神力、経験がものを言う。またその逆も
然りである。
「静かに。最中です」
吉昌が回りを静める。
「オンアミリティインダラヤソワカ。帯です」
成雅は昌浩のしたのを生意気と思ったのか、それに対抗して無生物に変えた。
実は程の昌浩が行なった無生物から生物に変えたのは、もっくんの指示であった。
そして、今回も―――――。
「昌浩!今度は猫だ。しかも、黒くて鈴をつけたやつなっ」
(もっくん。注文多いよ・・・。結構、大変なんだよ?!)
大変で済んでる辺りが昌浩である。
「次、安倍昌浩殿」
「オン。・・・・・猫です」
その後、2度ほど生物から無生物へ、無生物から生物の変換がなされた。
流石に、通常の変換よりも霊力と精神力を成雅が苦しそうに顔を歪めた。
そして、成雅が苦し紛れに変換した。
「オンアミリティインダラヤソワカ。沓ですっ」
術を成雅は、息が乱れていた。
しかし、成雅を余所に昌浩はもっくんの指示するものに変えた。
「オン。・・・・・兎です」
「次、秋望成雅殿」
「ま、参った」
そこで、成雅と昌浩の術比べは終了した。
「成雅殿、お疲れさまです。凄く楽しかったです!」
昌浩は純粋に楽しめた事を喜んでいるが、成雅はそうでもない。
あれだけ必死になって変換を行ったと言うのに、こうもケロッと言われては殴りたく
なってくる。
(この餓鬼!)
しかし上位の者達もいる手前、手荒な事は出来なかった。
ここで、残ったのは四名。そこで、陰陽頭が一つ術比べの方法を変えた。
「これから、行なう術比べでは私が指示したものに変換して貰おう。異存はあるま
い?」
「「「「ありません」」」」
そして、対戦表は以下のようになった。
藤原敏次―安倍昌浩・安倍昌親―安倍成親である。
「宜しくお願いします。敏次殿!」
なんの思いもなく、純粋な笑顔で敏次に話しかけたが、その周りにいた陰陽生たちの
顔は歪んだ。
「おい。お前、まぐれで此処までこれたからっれ良い気になるな?敏次殿とあたるお
前も、ここで終わりだからなっ」
「今まで、お前と当たった奴らは調子でも悪かったんだよ!」
まるで、今時の不良である。
いや、不良の方がまだましかもしれない。人間並みに、危険回避能力はあるのだか
ら。
そう、彼らの足元には目をいつも以上に真っ赤にしたもっくんがいるからだ。
「糞餓鬼共がぁぁぁぁぁぁぁ。まぐれなわけないだろ?!」
昌浩は慌てて止めようとしたが安倍家以外の者達、誰一人見えていない物の怪相手に
話したらそれこそ不味い事になる。
まぁ、今更だが・・・・。
なので、昌浩は前に横にいた六合に視線で止めるように言った。
六合も内心、煮えくり返っているがそこは寡黙な旦那と言われているだけあって昌浩
の意志に従った。
「ぎゃわ!な、なにをする!!六合」
いつぞやと同じく、六合はもっくんを片手で抱き上げる。
「昌浩が困ってる。それにそろそろ、術比べが始まるぞ」



「安倍昌浩殿、藤原敏次殿。先鋒は安倍昌浩殿、始めなさい」
そして、二人の術比べは火蓋を切った。
今度は、中味を指示されたものに変えるので箱を取り去り小さな台の上に紙が置かれ
それを皆の前で変えるのである。
「安倍昌浩殿、刀に変えなさい」
「オン」
昌浩が呪を唱えると、それはゆっくりと歪んでいき長さを変え、大きさを変え、色を
変えて検非違使が持つような刀になった


「是。次は藤原敏次殿、筆に変えなさい」
「オンアミリティインダラヤソワカ」
また、先程と同じように形が歪み、今度は小さくなった。
それは、まだ使われたことのない筆のようだった。
「是。次は安倍昌浩殿、三匹の猫に変えなさい」
陰陽頭の言葉に、昌浩の力を知らないものたちはざわめいた。
紙は元々、一つ。
それを二つ以上にしろというのは完全に、もう一体は自分の力の塊で作らねばならな
いということ。
また、増えたものを消すのもかなり難しい。
相手の術を完全に消す、もしくは自分の術で相殺しなければならないからだ。
「オン」
昌浩はそれを、なにも言わずに呪を唱える。
そして、まるで分裂するかのようにそれらは三つに分かれて黒い猫になった。
ついでに、鳴き声つきである
「是。次は藤原敏次殿、四つの琥珀に変えなさい」
敏次は目を見開いた。
既に、先程の昌浩の術をみて驚いているのにさらに数を増やすように言われたのだ。

数だけでなく、大きさを小さくしさらに生物から無生物に変えるという難易度の高い
術を求められてしまった。
「オ、オンアミリティインダラヤソワカ・・・・」
昌浩は敏次が掛ける術の変化をじっと見ていた。
三匹のうち三つとも琥珀に変わった。最後は、自分の力で琥珀を作る事だ。
ゆっくりと、しかし確実に琥珀が出来上がっていく。
完成かと思われたその時、四つ目の琥珀は粉々になって消えた。
「この勝負、安倍昌浩殿の勝ちとする」
昌浩は、肩の力を抜いた。
その時、隣で兄弟同士の術比べが終った。
軍配は成親であった。
「昌浩、凄いな〜」
皆がいる手前、「余裕で勝てたろ?」なんていった日には昌浩が酷い目にあってしま
う。・・・・多分。
いや、恐らく酷い目に合わされそうに成るだけで相手の方が痛い目をみるだろう。
なぜなら最近の昌浩は影でかなりの事をしている。
実は、式を作って陰口を叩いたり苛めてくれる先輩共に報復しているのだ。
これを知っている者は、清明と勾陳だけである。なぜ、騰蛇が知らないかと言えば清
明と勾陳曰く「面白いから」だそうだ。
さて、話が逸れた。
最後の、術比べは昌浩と成親の兄弟対決になった。
「兄上、お手柔らかにお願いします」
「お前こそな」
お互いがにこやかに言葉を交わす。
「安倍昌浩殿、安倍成親殿。先鋒は安倍成親殿、始めなさい。初めに、沓に変えない
さい」
「オン」
成親も昌親も昌浩と同じく、一呪である。
「是。次は安倍昌浩殿、四つの扇に変えなさい」
「オン」
いきなり、一つから四つに変える術を要求されてもまったく気にしない。
他の者であったなら、動揺してしまう事だろう。
「是。次は安倍成親殿、二匹の猿に変えなさい」
「オン」
最早、周りも此処まで来ればなんでもこいである。
「是。次は安倍昌浩殿、自分に変えなさい」
つまりは人形である。
陰陽生にすらなっていない昌浩に出すもの課題ではない。
ちなみに、清明がやっても別段驚くことはないが昌浩が出来るとなると違ってくる。

自分と同じ容姿であり、動く事が出来、言葉も話し、術も使えなければならない。
そして、なにより術者本人の意思によってだけでなく式神の意志も必要となるから
だ。
おそらく、成親や昌親でも少々梃子摺るものであろう。
「オン」
昌浩はとりあえず、いつもと同じような感覚で霊力を込める。
本人も人形の式神はこれが始めてであるため、苦戦しているようだ。
しかし、確実にそれは形を成している。
二匹の猿が、ひとつになりゆっくりと昌浩と同じ大きさになっていく。
同じ大きさになったところで、今度は顔が猿から人間の顔へと変わっていく。
顔が昌浩と同じになったら、毛髪が出来、直衣を着せ、身体を人間の身体にしてい
く。
そうして、出来上がったのはドコから見ても今の昌浩とまったく同じ式神であった。

「是。では、昌浩殿。式を動かして見なさい」
「はい」
昌浩は術を通して式神を操り、舞台の周りを歩かせ吉昌と会話をさせ戻ってこさせ
る。
「是。次は自身で行動させなさい」
「はい」
昌浩は術を固定させ、印刀を解いた。
すると、式はゆっくりと舞い始める。
どれ程、舞っていたか定かではないが舞は終った。
陰陽頭ですら、この術は驚きである。
彼自身も昌浩が此処まで出来るとは考えていなかった。つまり、出来ないだろうと
思って出したものであった。
昌浩に出来ないのであれば、成親に行なわせて出来た方が勝ちとし、お互いに出来な
ければ術を上乗せさせ相手の力を上回っ

た方が勝ちとするつもりでいたのだ。
「是。次は安倍成親殿、自分に変えなさい」
「オン」
成親も昌浩の姿をしてる式を自分の姿に変えていく。
身長を変え、顔を変えて最後に体型を変える。
もう少しで、出来上がりそうなところで式がそれを拒否した。
つまりは、力不足で式を変えることができなかったのである。
「・・・・参った」
「この勝負、安倍昌浩殿の勝ちとする。よって、術比べの勝者は安倍昌浩殿」
成親は負けたにも関わらず笑って、昌浩の勝ちを喜んだ。
その場にいた清明も含め安倍家の者達は笑っていた。

「わ、私は認めないぞ!」
先日、昌浩を懲らしめようと宣言?した陰陽生の守藤輔雅(もりふじのすけまさ)が
立ち上がって叫んだ。
「たかが、直丁が暦博士のような方に勝てるわけがない!」
「そうだ。身内だからと手加減したんだ!」
などと、次々に皆が言い始めた。
そんな言葉の数々を聞いて黙っていられない者が何人かいた。
「いい加減にしろ!!」
彼の額に三つほどの青筋が見える。ついにキレたらしい。
「も、もっくん?」
つい、敏次達に見えていないと判っていても声をかけてしまった。
「・・・・・昌浩殿。その白い物の怪は?」
敏次が恐る恐る、昌浩に聞いた。
「え?これが見えるんですか?」
「昌浩、どうやら彼らは甚くご立腹のようだよ?」
昌親が肩を叩く。
「ま、昌親兄上?」
昌親は、昌浩を抱き上げてその場を離れた。
昌浩が敏次達の後ろに目を向けると、そこには・・・・。
成親と爺馬鹿こと安倍清明とその配下に下った十二神将の何名かが顕現し彼らを睨み
つけていた。
一人、扇で口元を隠しているが・・・・・。
「貴様ら、自身が実力で負けたにも関わらずいまだにそのような世迷言を並べる
か!!」
勾陳が、かなりキレぎみに彼らを見下ろしている。
まぁ、勾陳に限ってではないが皆それぞれ顔を怒りの表情に変え今にも攻撃をしそう
な勢いである。
「お前らの誰かが、昌浩に勝てるとでも?お爺様以外、勝てない昌浩に?」
しかめっ面の成親。
「これこれ。皆、彼らは昌浩の力を知らなんだ。仕方なかろう?」
っと言いつつ、清明の左手は何かの印を組んでいた。
「じいさま!何しようとしてるんですか!!」
清明が何らかの術を使おうとしているのに気付いた昌浩が待ったを掛ける。
「よく分かったなぁ。昌浩」
朱雀が感心する。
「え?皆も判るでしょ?明らかに霊力が上がったじゃん」
最早、此処が内裏内であることを忘れている。
そんなこんなしているうちに、敏次達がもっくんを払おうとしていた。
明らかに清明に関係あると判るだろうに、、それすらも判断付かなくなっているらし
い。
屋外だったのが幸いしたのか、敏次達の攻撃も難なく避ける。
それを見た昌浩が―――――。
「いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
キレた。
「あんたらいい加減にしろよ!いつもいつも俺やもっくんに迷惑掛けて嫌がらせする
のも別に結構。俺だけに被害が来るなら

ね。でも周りのことも考えてよ。それに七光りだって?仕事が遅いだって?仕事を押
し付けてるのはどこの誰?俺は最初に自

分に宛がわれた仕事は定時までに余裕で出来てるんですけど?その事を踏まえて、こ
の二つの理由を五十字以内で完結に述べ

てくれませんか?陰陽生の方々・・・」
ノンブレスである。
成親や昌親、もっくんたちにとってこれはまだましな方であろう。
霊力込みじゃないから・・・・・。
あの時は死ぬかと思ったとも言っていたから。(by.もっくん)
あの時とは、割と強めの妖と対峙していて疲れと睡眠不足から昌浩が切れた時の事
だ。
霊力をたっぷりと溜め込んでいるにも拘らず、ネチネチといびりつつ、ゆっくりと相
手の命を削ぎ落としていく。
しかも、笑いながら。とても、爽やかな笑顔でだ。しかし、目だけが笑っていない。

昌浩の背後にはとてつもなく、深く黒いオーラが見えたと当時の六合が語っていた。

話を戻すが、キレた昌浩の言葉を唖然としているだけで言葉が出ない陰陽生諸君。
それにすら、昌浩は追い討ちを掛けた。
先程の術比べで作った式昌浩。
未だに佇んでいたので、昌浩はそれを使うことにした。


「ふふふ。行け」


昌浩は笑いながら術で式を動かして、陰陽生の元へと向かわせた。
昌浩がしたのは、式を使った物理攻撃。
とりあえず、守藤輔雅を殴る。兎に角、殴る。
勿論、手加減はしている。
しかし、容赦はしなかった。
昌浩の思いも共有しているのか、笑顔で殴っている。
傍から見たら鬼にしか見えない。
事実、清明の顔も引きつっている。
(((((これからは、昌浩を怒らせないようにしよう)))))
その場にいた全員の思いだった。
そして守藤輔雅を思う存分殴ったのか、その他の陰陽生に移った。
またも、殴る。只管、殴る。そりゃ、飽きるぐらいに。
暫く、殴って割りとすっきりしたのか昌浩は最後のとどめに式を通して術を放った。

『オンキリキリオンバサラダソワカ』
すると、陰陽生の身体が震えている。
電撃を喰らったのである。しかも、結構痛い。
「これに懲りたら、くだらない事しないで下さいね」
にこやかに言った。






―翌日―
「何故、私が陰陽生なのですか?まだ、一年ほどしか経っていないのに・・・・」
陰陽頭に呼び出されたと思ったら、いきなり陰陽生になりなさいと言われた。
「昨日の術比べでの成績とあの術の使い方で、君にはそれだけの力がある。清明殿に
相談したところ、了承してくださった。

まぁ、私から言わせればそれでも低い位だがな・・・・」
陰陽頭は手を顎に当てて、苦笑した。
「そ、そんな!私如きが・・・っ」
「いやいや、君は他の陰陽生に比べれば月とすっぽんだね。っというわけで、これか
ら頼むよ」
部屋を追い出されてしまった。
「良かったな。昌浩!これで、奴ら何もいえないぜ?(何があっても仕返しが怖くて
言えないの間違いだけど。まぁ、アレの

後だしな)それに、堂々と夜警にもいけるしな!!」
フォローしても昌浩は考える姿勢を変えなかった。
「どうした?」
「いやね?そうなると、じい様が俺に任せる仕事が増える。陰陽寮での仕事も増える
気がするんだ・・・・」
(間違ってないだろうな)
もっくんは遠い目をして思った。

















コメント・・・・
す、すみません!かなり時間が掛かってしまって(^^;
しかも、“ギャグ”になってない・・・・_| ̄|○
自分としては術比べが書きたかったので良いんですが(良いのかよっ!)
あと、昌浩の微妙なばらしネタ。
しかし、ギャグに結び付けなかった・・・・。
こんなのでよければ貰ってやってください。
ってか、押し付けですね・・・・(^^;



※言い訳
素敵な小説どうもありがとうございます!!もう、想像以上に素晴らしいお話を頂いてしまいましたvv好みのお話のど真ん中を射ています!素敵な笑顔で黒いオーラ最高です!!昌浩を手伝おうとするもっくんが健気で可愛い////本当のほんっとうにありがとうございました!!!