注)このお話はサイト内連載中の『沈滞の消光を呼び覚ませ』の設定の下に書いております。あらかじめご了承のもとでお読み下さい。















確かな陽だまり













ある天気の良い日。様々な色の花が咲き乱れる野原に、昌浩と瑠璃、十二夜叉大将達は訪れていた。





「昌浩っ!ちょっと屈んで!!」


そう言葉が聞こえたかと思うと、腰にどんっと衝撃が走った。
昌浩は思わず前に倒れこみそうになるが、何とかこらえた。
こんな行動をするのは一人しか心当たりがないので、昌浩は苦笑しつつその人物を呼んだ。


「安底羅(あんてら)・・・・・」


目線を下に落とすと白色が目に飛び込んできた。
腰に抱きつきっぱなしの安底羅の頭を撫でてやり、次いで頼まれた通りに腰を屈めた。


「こう?」

「うん!よっと・・・・」


腰を屈めた昌浩の頭に、安底羅は腕を伸ばす。

疑問に眼を瞬かせていた昌浩だったが、頭に微かな重みと芳しい花の匂いに軽く首を傾げた。


「・・・・・もしかして、花冠?」

「そう!私が作ったの!」

「そっか、ありがとうな安底羅」

「えへへへっ!////」


昌浩はにっこり笑ってお礼を言いつつ、再び安底羅の頭を撫でた。

見かけこそ昌浩よりも幼いが安底羅は神なのだ。妹に接するような態度は間違っていると思うのだが、やはり無意識にそうなってしまう。
まぁ、安底羅が昌浩に甘えるような態度を取ってくるのも要因の一つでもあるのだが・・・・・。

兄と妹のような二人の遣り取りを、他の者達は微笑ましげに眺める。


「あ!昌浩似合ってる〜♪」

「本当ですね。よく似合っていますよ」

「そう・・・・かな?ありがとう・・・・・」


悪気もなく真達羅(しんだら)と因達羅(いんだら)は純粋に昌浩を褒める。
昌浩は褒められて嬉しいような困ったような複雑な表情をする。
昌浩とて男。女の人が本来被るべきであろうそれを、似合っていると褒められても素直には喜ぶことができない。


「髪を解いたらもっと似合うんじゃない?昌浩、ちょっと髪を弄らせて!」

「えっ、それはちょっと・・・・」

「いいじゃない♪絶対に可愛くしてあげるから!!」

「え、あっ!ちょ、ちょっと額爾羅(あにら)!!」

「――参加。我も、髪、結う・・・・」

「は、波夷羅(はいら)まで・・・・・・・(泣)」


あっという間に女性陣に取り囲まれて弄られ出した昌浩を、瑠璃と男性陣は少し離れたところから見ている。


「遊ばれているな・・・・・・・」

「そうだな・・・・・・・因達羅達もも随分と昌浩のことを気に入っているからな」

「とても楽しそうにしてるねぇ・・・・・・」

招杜羅(しょうとら)と宮毘羅(くびら)は彼らの遣り取りを呆れ半分に、毘羯羅(びから)は微笑ましげに見ている。


「・・・・・確かに似合っていはいるがな」

「や、それは男としてはあまり喜べんと俺は思うんやけど・・・・・・」

「むしろ似合いすぎでは・・・・?」


静かに昌浩と女性陣を見守っていた珊底羅(さんてら)は、思わず呟いた。
それ位に昌浩は花冠の似合いっぷりが良かった。
何やら納得した風情で頷いている珊底羅に、迷企羅(めきら)はすかさず突っ込んだ。
が、更なる同意者が増えただけであった。


「伐折羅(ばさら)!そないな風に真実をいったら可哀想やで?!」

「何気に迷企羅が一番酷いこと言ってるんじゃない?まっ、昌浩が花冠が似合っていようといまいと、僕にはどうでもいいことだけどね」

摩虎羅(まこら)は瑠璃様以外は眼中にないからな」

「何か文句でもあるの?珊底羅」

「なに、我は事実を言ったまでだ」

「(くすくすっ)・・・・本当にこうして皆揃って穏やかな時を過ごせることは、とても喜ばしいわ」


軽快な会話をする大将達を見て、瑠璃はとても楽しそうに笑った。
瑠璃の隣にいる宮毘羅も、主の意見に賛同する。


「そうですね。この光景はとても大切なものだと、そう思います」


宮毘羅はそう言いつつ、昌浩達の様子を目元を和らげて見ている。

自分の軽率な選択のせいで三年もの間行方を眩ます羽目となった子ども。
宮毘羅はあの時の己を許すことは決してできないだろう。本当に愚かな真似をしたと思う。
故にこの平和そのものの光景が眩しく目に映った。

そんな宮毘羅を見て、瑠璃は笑みを益々深いものにした。


「ふふっ!宮毘羅はあの子を気に入っているのでしょう?」

「・・・・・・・えぇ、もちろんです。といっても、その言葉はこの場にいる全員に当て嵌まることだと思いますが」

「ちょっと、宮毘羅!それって僕のことも含まれてるわけ?勝手に一緒にしないでよね」

「もぅ、摩虎羅は素直ではありませんね。知っていますよ?この間あの子と二人でこっそりお出かけしたことを」

「Σなっ?!」

「・・・・・・摩虎羅、いつの間に・・・・・・」


昌浩は常に誰かと一緒にいる。
そんな中二人でこっそり出かけるなど至難の業である。(瑠璃は別として)よくもまぁ誰にも気づかれなかったものだ。


「ちっ、違うから!あれはあいつの方から言ってきたことだし!!」

「それでも、摩虎羅は了承したのでしょう?嫌だったのなら貴方の場合きっぱりと断ると思いますけど?」

「うっ・・・・・・////」


二の句も告げられなくなった摩虎羅は、気まずげに視線を逸らした。彼の頬は照れによって薄っすらと紅く染まっている。
そんな摩虎羅の様子からも図星だとわかる。

そんな珍しい摩虎羅の反応を見て、宮毘羅と瑠璃は共に笑った。


「やはり全員で間違っていませんね」

「そうね。・・・・皆人間が好きっていうのもあるでしょうけど、この場合はあの子があの子であるから皆好きなんでしょうね」

「そう思います。あの子の纏う空気はさながら陽だまりみたいに心地よいものですからね・・・・・・」

「あら?宮毘羅にそこまで言わせるなんて、余程気に入っている証拠ね!」


良き事だと瑠璃は輝かんばかりの笑みを振りまいた。








「ねぇ、額爾羅。そろそろ髪を弄るの、やめて欲しいんだけど・・・・・・・」


始めの方こそ大人しく髪を弄られていた昌浩であるが、そろそろじっと身動きを取れずにいることが苦しくなってきた。
控えめにではあるが、自分の希望を言葉にする。


「駄目よ!次は編みこみをするんだから!!・・・・うーん、結い上げるのも悪くわないわね」

「はぁ・・・・・・・(疲)」

「額爾羅、それくらいにしてあげたらどうですか?昌浩も疲れているみたいですし・・・・・・・」

「因達羅ぁ〜(感涙)」

「もぅ、仕方ないわね・・・・・・今日はこれくらにしてあげるわ。波夷羅もその三つ編みをほどきなさい」

「残念・・・・・・・・・」


額爾羅の言葉に、波夷羅は少々不服そうにしながらも編んでいた髪をほどいた。

漸く解放された昌浩は、大きく息を吐いた。
座り込んだままの昌浩に、安底羅は背後から覆いかぶさるように抱きついた。


「ねぇねぇ、昌浩!今度は昌浩も一緒に花冠を編もうよ!!」

「・・・・・しょうがないなぁ、わかったよ」


無邪気に頼んでくる安底羅を無碍にはできず、昌浩は諦めたような笑いを零しつつ花冠のための花を摘み始めた。
そんな昌浩の横に並んで、安底羅も一緒に花を摘む。


「なんか、いいお兄ちゃんって感じだね〜」

「微笑ましい光景ですね」

「あ〜駄目!また構いたくなっちゃうじゃない!!」

「・・・・・我も」


じぃ〜と昌浩と安底羅の様子を見ていた波夷羅は、無言のままトコトコと二人に歩み寄ると一緒になって花を摘み始めた。
そんな波夷羅に昌浩は笑いかける。
安底羅は二人っきりを邪魔されたのでちょっぴり不服そうであったが、昌浩と一緒に遊べることを考慮してそこは譲歩したようだ。


「・・・・・・・・外見が妹の特権ね」


無条件で安底羅と波夷羅には甘い昌浩に、思わず額爾羅は言葉を漏らした。
別に昌浩は差別しているわけではないのだが、妹のように懐いてくれる二人には特に態度が柔らかかった。兄の性分が目覚めたのかもしれない。


「微笑ましい限りでいいではないですか」

「まぁ、安底羅はわかっていたとして、波夷羅が懐いたのは以外だったわ」

「波夷羅は見かけによらず大人びてるもんね〜。迷企羅が兄貴の位置かなって思ってたけど、昌浩に対しての方が甘えてるって感じがするよね」


額爾羅の言葉に真達羅も同意する。

普段は迷企羅に対してどぎつい台詞を吐いている波夷羅ではあるが、二人の関係を傍から見ると駄目兄貴としっかりとした妹的な構図に見えなくもないのだ。

なので波夷羅のこの態度は以外なものとして目に映ったのである。


「新たな一面の発見としてみればいいのではないですか?」

「ま、それが普通ね」

「あれはあれでいいんじゃないの?別にさ」


姉的立場の彼女らは、仲良く花冠を作っている三人を温かく見守る。















心温まる光景が、目の前に確かにあった―――――――。
















※言い訳
というわけで7万打記念のフリー小説です。どうぞご自由にお持ち帰り下さい。
冒頭でも述べましたように、このお話は『沈滞の消光を呼び覚ませ』の設定の下に書いております。オリキャラについての詳しい説明は小説内にある設定をご参照ください。
それで、時間軸の方なのですが、事件も無事に解決した後の日常話となっております。十二夜叉大将達は直ぐに都を去らないで、安倍邸に留まっているという設定になっております。
連載中のお話の中でも言っておりますが、昌浩総受けなのでそういうお話だと納得してください。
ちなみに軽く説明しておくと、昌浩は安底羅と波夷羅のお兄ちゃん的立場になっております。その他の夜叉大将達は兄・姉立場で(笑)本編のほうではほのぼの黒い話になっているので、番外編くらいは純粋にほのぼのとしたお話が書きたかっただけです。
こんなお話でよければ貰ってやってください。

2006/9/28