注)現代設定でこのお話は進ませて頂きます。













鬼役は鬼に非ず
















時は平成。


稀代の大陰陽師安倍晴明が現世を去ってから凡そ1000年の時が過ぎた。

安倍晴明の魂も無事転生を果たし、以前の名のまま『安倍晴明』として生を送っている。
嘗ての主が世の営みに戻ったことをしった十二神将の面々は、以前のように彼の人物を主と仰ぎこの度は人の身をとって共に暮らしている。
そして彼の孫であった昌浩の魂も同じくして転生を果たし、年は三歳となった。
もちろん昌浩の傍らには十二神将最強と謳われる騰蛇こと紅蓮の姿があった。


さて、話を進めるとしよう。


今日は節分。

炒った豆を年神に供えたあと、その豆を年男(その年の干支の生まれ)が「鬼は外、鬼は外、福は内」呼ばわりながら蒔きます。このとき蒔かれた豆を自分の年の数だけあるいは、年の数+1だけ拾って食べ、一年の無病息災を願うというお馴染みの厄払いの行事である。
また、鰯の頭を焼いて、ヒイラギの枝に刺し、家の入り口に差す風習もあるようだ。

そんな日本中どこの家庭でも行う行事を、ここ安倍邸とてやらないはずがない。
大量の豆(安倍家の人+十二神将達の分を用意すればそれなりの量となる)と、大量の海苔巻(どこから仕入れてきたのか、恵方を向いて一言も話さず、海苔巻を丸かじりするという行事がとある地域であると知った太陰が食べたいと言い出した)を用意していた。


「ったく、何でこんなことしなくちゃいけないのよ!」


太陰がぶつくさと文句を言いながら、海苔の上に酢飯を乗せ、それを均等な高さになるように広げている。


「何を言っているのだ。海苔巻は太陰が食べたいと言い出したのではないか、手伝うのは当然だと我は思うぞ」

「うぅ〜、確かにそうだけどぉ・・・・・」


ぶつぶつと文句を言っている太陰を玄武は呆れたように見ながら、太陰が広げた酢飯の上に穴子・干ぴょう・しいたけ・玉子・キュウリ、時折おぼろを綺麗に乗せていく。
そうして綺麗に具を乗せた状態で隣にいる勾陳へと渡す(流石に子どもの容姿をとっている二人では、些か太い巻物を巻き簾で撒くにはいまいち手の大きさが足りないためである)。
それを受け取った勾陳はなるべく具の位置を崩さないように、丁寧な手つきで巻いていく。
巻き終わった海苔巻は現在お吸い物を作っている六合のもとへと渡される(一番まな板の位置に近いから)。
出来上がった海苔巻を、六合は均等に形崩さず綺麗に切り分け(といっても半分)、それを皿に盛る。
そして完成した皿に盛られた海苔巻を天后が受け取り、居間へと運んでいく。
素晴らしいほどの流れ作業、素晴らしいほどの共同作業である。

ちなみにこの場(台所)にいない他の神将達はそれぞれ分かれて部屋の掃除をしている。
部屋に撒いた豆は拾って食べるのだ、流石に埃の中につっこまれた豆を口の中に入れるのは抵抗がある。
しかし、天一と朱雀だけは別行動で玄関にいた。
焼いた鰯の頭を柊に刺したものを飾りに行ったのである。


「天貴はこのお盆(柊in鰯の頭の載ったもの)を持っていてくれ、俺が飾ろう」

「そんな、朱雀。私が飾るわ、貴方が持っていて」

「何を言っているんだ天貴!お前のこの白魚のような手にいくら調理済みとはいえ鰯の臭いが移るなんて、この俺が耐えられないんだ!!」

「朱雀・・・・・」

「わかってくれ、天貴・・・・・」


そして玄関先で手を握り締め合い、甘ったるい空気を醸し出す二人。

この空気の方が余程破邪の効果があるのでは?
偶然通りかかりそれを目撃してしまった不遇な近所の人はそう思った。

そして、そんな近寄ることもできないくらいピンク色のオーラを出している二人に、果敢にも近づく者がいた。


「すざくー、てんいつぅー、そろそろまめまきするよって、じいさまがいってるよ?」


とてとてと可愛らしい足音と共に主の後継もとい孫である昌浩が駆け寄ってきた。

普通、この雰囲気の二人に声を掛けよう者がいたのなら、朱雀から物理的攻撃が可能であったのなら射殺せるほどに鋭い眼光がプレゼントされる。
が、そこは子どもの特権。二人に近寄った昌浩はとくに邪険に扱われるわけでもなく、近寄ったら肩車をしてもらえるといった風に寧ろ可愛がられている。もちろん、隣では天一がその様をニコニコと微笑ましげに見つめている。

どこのアットホームな家族絵図だ。

しかし、誰もつっこめるものはその場にいないので、ピンク色からオレンジ色がかった黄色に変わる空気を止めることはできなかった。







さて、時間は流れていよいよメインイベントの豆まきをする時間となった。

皆が皆、それぞれ豆を持っている。
別段家にいる者全員が豆を撒かずともいいのではないかと思われるが、そこは騒がしいことを好む晴明。にっこり笑むという脅しを掛けて全員に強制参加させた。
しかし全員参加といっても何人か欠けている。

それは何故か。

答えは簡単だ。小さい子のいる家庭では誰かしら(といっても主に父親の役目だろうか)が鬼の面を被って鬼役をするものだ。
ここ安倍家とて小さい子(昌浩)がいるので例に漏れない。

では、誰が鬼役をするのか。

これがひと悶着あった。
紅蓮が鬼役をするのは即行で決まった。それはもう反論を差し挟む余地がないくらいに即行で。
問題はその他数人になる。
次が六合。本人はあまり乗り気ではなかったが、晴明に頼まれればあっさりと了承した。
その次に決まったのが白虎。まぁ、これは苦笑して本人も承諾してくれた。
問題なのは最後の人物。・・・・・・青龍だ。

赤鬼(紅蓮)がいて、黄鬼(六合)がいて、緑鬼(白虎)がいるんだから青鬼だっていた方がいいだろう。
という話になって直ぐさま目をつけられたのが青龍。
色彩的にも、恐怖感的にも正に適役!はっきり言って本人が承諾するとは思えないが、そこは孫から狸と称される晴明。面白がってやらせようとしないはずがない。
それを面白そうと感じたのは何も晴明だけではない。
勾陳や天空、何故か太裳も賛成派に回った。
あの手、この手、隠し手を使って鬼役をやれと青龍に詰め寄る。

しかし、そこは十二神将一の堅物。断固拒否の姿勢を貫き、青鬼のお面を被ることは無かった。
チッ!とどこかしらから舌打ちの音が聞こえてきたようであるが、そんなことしったこっちゃない。
己の矜持をかけて、それは完全に拒絶したのであった。


そんな、こんなで始まった豆まき。

が、ここでもひと騒動。


「?なんでれーんがおにさんなの??」

「Σえっ、いや。これはだな・・・・・・・」

「りくごーとびゃっこも、みんなじゅーにしんしょーでしょ?おにさんじゃない・・・・」

「「・・・・・・・・;;」」


見知った仲ということもあって昌浩から怖がられることはなかった鬼達であるが、追いかけっこ紛いのことをしたりなど、それなりに楽しい時を過ごした。


豆まきが終了したら撒いた豆を拾い集め、作っておいた大量の海苔巻と豆を自分の年の数だけ食べた。








こうして安倍家の節分の日は過ぎていった――――――。










×おまけ×


「・・・・・・・なぁ、晴明」

「ん?なんじゃ??」

「俺達(十二神将)は一体いくつ豆を食べればいいんだ?」

「・・・・・・・・・・・さぁのぅ・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」












※言い訳
久々にフリー小説を書きました!今日は節分なので突発的に書きました。
今回は現代パロでお送りさせていただきました。
ここで注訳!じい様と昌浩の魂は転生し、じい様は過去(平安時代)の記憶を思い出していますが、昌浩はまだ記憶を思い出していないという設定です。3歳児の癖して中身が老成してたらかなり嫌です。

もし気に入ったら、ご自由にお持ち帰りくださいませ!!(言葉遣いおかしい・・・)

2007/2/3