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       今でも二年前の無残な光景が目に焼きついていて離れない。










       ギリッ、と手の中にあるピンクの携帯をきつく握りしめる。











       『はいっ!マユでーす!!でもごめんなさい、今マユはお話できません。後で連絡し
       ますので、お名前を発信音の後に・・・・・・・・・』
       携帯の留守電のメッセージに録音された愛しい妹の声が、耳の奥で木霊する。
       今となっては二度と聞くことのできない大切な家族の声。










       『大丈夫だ!目標は軍の施設だろ、急げシン!!!』


       『キャアアアァァァッ!!』


       『マユ!頑張って!!』



       あの日の出来事は忘れたくても忘れることができない。と、ふいに真っ赤に燃え盛る
       ような紅玉の瞳が揺らぎ、涙が滲んで目じりに溜まる。
       巨大な爆音と強烈な爆風の後に自分以外の家族は物言わぬ骸と化した。



       『ふっ・・・・あ、ああっ!!!!!!』



       あの時の絶望、そして喪失感。
       それは一瞬の出来事だった。
       たった一発の凶弾が自分の全てを奪い去っていった。










       はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・・
       荒い呼吸の音だけがいやに響く。
       海風がシンの黒髪を撫でていく。


       ふと視線を向けると、小さな石碑の前に黒い服を着た青年と思わしき人が立たずんで
       いるのが目に入った。
       夕焼けの逆光で相手の表情まではわからないが、向こうもこちらに気づいたようで視
       線を送ってくるのがわかった。

       「トリィッ!」

       黒い服を着た青年――キラの肩に乗っていたトリィが飛び立ったが、離れたところに
       立っていたシンにはそれが一体何なのかはわからなかった。


       「慰霊碑・・・・・・ですか?」
       「うん、そうみたいだね」

       そこでようやくその人物の姿がはっきりと見て取れた。

       「――――っ!!」

       驚くほど整った、それでいて今にも空気に溶け込んで消えてしまいそうな儚さを持っ
       ている人物に、シンは息を呑んだ。

       海風にさらさらとなびくチョコレートブラウンの髪、肌は透き通るように白く、極上のアメ
       ジストを思わせる二対の瞳は夕焼けの光を反射しながら不思議な色合いと深みを持
       っていた。


       
(め、めちゃくちゃ好みだあぁ―――――!!!)


      内心、大絶叫しているシン。
      考えるより先に行動するタイプのシンは目の前の人物にものすごい勢いで歩み寄ると、
      ガシィッとキラの両手を握り締める。

      
「どうか俺と付き合ってくださいっっ!!」
      「えっ・・・・・・・・」

      ものすごい勢いに押されて仰け反り気味な状態であったキラだが、シンの突然の告白
      の意図を掴めず、不思議そうな顔をしつつ小首を傾げる。

      
あぁっ!そんな仕草もめちゃくちゃカワイイッ////


      と、シンの思考は半ば暴走気味である。
      
いや、すでに暴走・爆走一直線コースである。


       「えっと・・・・・・」
       射抜くように真っ直ぐとと見つめられて、キラは戸惑いがちに口を開く。
       と、そこにシンの頭に向かって超速球で何かが飛んできた。


       
ドゴオオォォォッッ!!!!!!

       クリーンヒット。直撃の際にものすごく鈍く重そうな音が響いた。

       「「なっっ!!?」」
       驚愕の声が二人の口から同時に漏れた。
       そして直撃だったシンは地面に沈んだ。
       そこでようやく我に返ったキラは慌てて倒れこんでしまったシンに駆け寄る。
       「だ、大丈夫!?」
       「――――〜っ!!!!」
       あまりの痛さに声も出せないみたいだ。
       と、そこでシンに奇襲をかけた物体が目に留まった。
       奇襲の際の衝撃はものすごいものであったばずなのに、その物体は何事も無かった
       ように平気で飛び跳ねている。
       ピンクにカラーリングされた丸いボディー・・・・・・・・

      
 「ハロッ!ハロッ!アッカンデェ〜!!」

       そしてこの独特の喋り方。そう・・・・・

       「ハロッ!?」

       プラントの歌姫、ラクス・クラインがいつも連れているペットロボット?であった。
       キラは手の中で耳?の部分をパタパタ動かしているハロをまじまじと見た。
       と、そこでジャリッと誰かが歩み寄ってくる音がした。
       キラは音の方(ひいてはハロが剛速球で飛んで来た方向)に顔を向けた。

      
 「グッジョブですわピンクちゃんvvv」

       そう言って現れたのはラクス・クライン、その人であった。
       「オマエモナッ!」
       と、キラの手の中にいるハロが答えた。
       ほんわかな雰囲気を醸し出しつつ、ニコニコと微笑みながら歩み寄ってくるラクスを
       見ながら、

       こっちから飛んできたってことは、これを投げたのはラクスなのかなぁ・・・・・?

       とキラが疑問系で心の中で呟いたのだが、ハロをシンに投げつけたのは紛れも無くラ
       クスであった。
       さらにいってしまえば笑っているのは表情だけで、泉を思わせる碧い瞳は笑っていな
       い。

       「どうやら間に合ったみたいですわねv」
       「ラクス!」
       「ご無事ですか?キラ??」
       「えっ・・・、うん。大丈夫だよ?それよりあそこの彼・・・・・・・・」
       「あれは放っておいてもなんら問題ありませ
「問題大有りだろうが
    っ!!!」

       のほほんとした空気で会話をしている二人に、ようやく復活したシンがつっこむ。
       「あら、まだいらっしゃいましたの?」
       何気にヒドイこと言うなラクス・・・・・・・。
       「いらっしゃいましたの・・・・・・って失礼なひとですね!!」
       ―――と、そこでシンは相手の顔に見覚えがあることに気づく。
       (どっかで見たことあるよなぁ・・・・・・・)
       そこでようやく目の前の人物が誰なのかを思い出す。
       長いピンクの髪に泉のような碧い瞳、テレビで彼女が歌っている姿を見かけたのは
       一度や二度ではないだろう。
       「・・・・・・もしかして、あんたラクス・クライン!?」
       「もしかしなくても私はラクス・クラインですわv」
       「ミトメタクナーイッ!!」
       ハロがキラの手を離れて、ラクスの手の中にすぽッと納まる。
       「どうしてこんな所にいるん
「ごちゃごちゃとうるさいですわ
    ね!!!」

       シンのセリフを遮り、流麗としかいいようのないフォームでラクスはハロを投げ放つ。
       
「ごふぅっ!!!?」
       ラクスの手から離れたハロはシンに向かって、一直線に飛んできたのだった。
       シンの下顎にハロがクリーンヒットする。またもやハロ(実際はラクス)の強襲を受けて
       しまったシンは勢いに押されて仰け反り、そのまま地面に倒れ伏した。
       よく見ると、彼の口からはエクトプラズムなるものがはみ出ている。
       どこからか鐘を打ち鳴らす音が聞こえてくるのは気のせいだろうか?

       「ら、ラクス!何やってるのさ!!?」
       ラクスのシンに対する強攻にキラが慌てて制止の声を上げる。
       「何を、と言われましても・・・私は
ただ害虫駆除を行っただけですわ
       v」
       「害虫って・・・・そんなのどこにもいないよ?」
       ラクスの言葉を真に受けたキラはそう言いながら周囲を見渡す。
       そんなキラに

       (キラのそんな素直なところが私は好きですわ!!)

       とラクスが内心で絶叫していたが、キラの注意がシンからそれたことに、これ幸いと彼
       の腕を取り、さらには腕を引きながら話を続ける。
       「いいえ、キラ。
とてっっつもなく大きいのがいましたわ」
       「・・・・・そうなの?」
       
「はいvvv」
       ラクスが語尾にハートマークを付けながら、力一杯肯定する。
       その頃には倒れているシンからはだいぶ離れた所にまで来ていた。

       (作戦成功ですわ!)

       ラクスが心の中で黒い笑みを浮かべたことは内緒である。



       キラとラクスがそのまま立ち去った後には
       
「ちくしょぉぉ―――っ!!人のことを無視しやがって
     ――――っ!!!」

       というシンの空しい叫び声が響き渡ったのであった。






       それから数日後。
       「ちょっと!何やらかそうとしてるの、シン!!」
       最近、チームメイトが挙動不審な行動をしているので、ルナマリアが堪らず声を掛け
       る。
       「悪い、ルナ。俺今とっっっても重要な任務があるから話なら後にしてくれないか?」
       「重要な任務・・・・・って、あんただけ艦長から何か特別任務でも言い渡されたわ
       け?」
       「いや、艦長からは何も言われてないけど?」
       「じゃあ、重要な任務って一体なんな・・・・・・」
       と、そこでルナマリアはシンが抱えているダンボール箱に視線を落とした。
       「・・・・・何これ。釘と金槌と・・・・・・・人形?こんなの一体何に使うの?」
       「?あぁ、これのことか?」
       そう言って自分の抱えているダンボールの中身を見る。
       (うっわぁ―――――u)
       いつもは鮮やかに輝いている紅玉の瞳が翳り、口元には妖しい笑みを浮かべ、更に
       は背後に黒い靄なんか背負っちゃっている光景を目の当たりにしてしまった時には、
       背中に冷や汗の一つや二つ、後ずさりの一つや二つがあったとしても誰も文句は言
       わないだろう。
       
「これは魔女に捕まったきれいな紫苑の小鳥を助けるのに必要な道具
      だ」

       「―――は?魔女??」
       真面目な顔して何を言い出すか。
       「それじゃあ、準備をしなくちゃいけないから」
       「あっ!ちょっと、シン!!」
       ルナマリアはシンに慌てて声をかけたが、シンはスタスタと歩き去ってしまった。
       「んもぅっ!一体何考えてるのかしら・・・・」
       溜息と共に零れた呟きが誰もいない廊下に静かに響いた。

       その夜、ミネルバ艦内にはカーンカーンと釘を打つ音が不気味に響いていて、クルー
       達が眠れない不安な夜を送ったとか。

       更にその翌日には、シンが原因不明の謎の高熱で丸一週間苦しむ羽目になったらし
       いというのはまた別のお話。













       ―おまけ―

       「なんか今日は機嫌がいいみたいだね、ラクス」
       キラとラクスの二人は、海を眺めることができるデッキにテーブルとイスを並べて、向
       かい合うように座ってお茶を飲んでいる。
       「ふふっ。わかりますか?」
       「うん。なんかいいことでもあったの?」
       「クスクス。それは秘密ですわv」
       「むぅ――。教えてくれてもいいじゃないか、ラクスのケチ!」
       頬を膨らませてちょっぴり恨めしげに視線を送ってくるキラに、ラクスは微笑ましく見て
       いる。
       「あらあら、拗ねないでくださいませね。お侘びにこれを差し上げますから」
       そう言いながらながら焼きたてのアップルパイを切り分けたものを差し出す。
       「わあっ!ありがとうラクスvvv」
       さっきまでの不機嫌はどこへやら。キラは表情を一変させて嬉しそうにアップルパイを
       口に運ぶ。
       「おいしいですか?」
       「うん!!」
       キラがとてもおいしそうにアップルパイにかじり付く光景を微笑みながら眺めていたラ
       クスであるが、

       (私に呪いを掛けようなんて、一億年早いですわよ?)

       今は何処にいるかもわからない黒髪に紅い瞳をした少年に向けて黒い笑みを浮かべ
       ていたことは本人だけにしか知りようがないことであった。












       ※言い訳
       シンがかなり壊れてしまいました・・・・・・・・。
       シン、手がはやいなおいu
       一目ぼれで即告白ってどうなんだろ?
       しかもラクスに一方的にいじめられてるしさ。(遠い眼)
       更にラクスが黒いです。最強です。
       私的ラクスの位置づけはキラ一途な人、ということになっているのですが・・・・・。
       しかも!注目すべき所は、シンが呪術(丑の刻参り)やっちゃっています。更に言うと
       ラクスから返り討ちにされています。
       頑張れシン!魔女から小鳥を奪いとるには先が長いぞ!!!

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2005/4/15