己が身の内でのた打ち回る黒き思い。 黒きそれは飢えを満たすものを欲し また、渇きを潤せるものを欲す。 飢えを、渇きを―――求めるもの全てを満たす、その存在をただ只管に求める。 今、黒が常闇より這い出る――――――――。 |
朧月夜の還る場所〜序章〜 |
我が手へと戻れ、人形よ―――――――。 視界の全く利かない暗闇の底、聞き覚えのない声が手招きをした・・・・・・・。 「ふっ・・・・・。まだまだだな、昌浩」 そう言って口元に微かな笑みを浮かべた祖父は、ついっと手を伸ばしてくるとぴしりと己の額を弾いた。 昌浩は条件反射で目を閉じ、次いで弾かれた箇所に手を当てた。 彼の目はじとりと半分に据わっていた。 「―――っ、俺が鍛錬不足なのはじゅーぶんにっ!わかりましたけど・・・・・・・・だからといって、どうして人の額を爪弾くんですか?じい様」 「なに、私は軽く注意したまでのことだ、それにささやかな制裁が加わったところで何も問題になるところはないだろう?」 「それはっ!・・・・・・そうですけど・・・・・・・」 しれっとした態度でそう言葉を返す晴明。 しかし昌浩は何となく納得し難いような、どこか煮え切らないような表情を作る。 何故か自分の都合良く真っ当なことを言っている風な気がするのは、自分の気のせいなのであろうか? 悩む昌浩は祖父―――今は若い姿をした晴明の眼を窺い、楽しげに細められている瞳とかち合った。 絶っっ対に気のせいじゃない!! 笑う瞳を見て、昌浩は内心で力強く叫んだ。 日課の如く毎夜見回りに出掛ける昌浩達。今夜は最近都を騒がせている妖の徒党の討伐に出た。 が、所詮雑魚は雑魚。彼の大陰陽師の後継と称される昌浩と、神に座する十二神将達相手では敵うはずもなくあっさりと倒された。 終わったと肩の力を抜いたその瞬間、どこに隠れていたのやら最期の悪足掻きと一匹の妖が背後から昌浩へと飛び掛ってきたのだった。 これには昌浩本人も、そして十二神将達も咄嗟に反応できずに妖の奇襲は成功するかに思えた。しかし、その時どこからともなく現れた(若)晴明があっさりと妖を消し去ったのである。 思わず呆然とする昌浩達。そしてそれを呆れたように見る晴明。 そして先の遣り取りへと繋がるのであった。 「私から小言をくらいたくなければ、いくら相手が取るに足らない存在だとしても、決して油断しないことだな」 「・・・・・・・肝に銘じます」 「素直でよろしい」 「・・・・・・・・(この糞狸!!)」 表面では殊勝な態度を取り、その裏では悪態を吐く昌浩。そしてそんな昌浩の内情など、とっくにお見通しの晴明。 更にはそんな二人の様子を少し離れたところから楽しげに眺めている十二神将達。 全てがいつも通りであった。その足音が耳へと届くまでは――――――――。 ザリッ! 昌浩と晴明は聞こえてきた足音に、はっとなってその方向に視線を向ける。 背後に控えている神将達も警戒の視線を鋭く向ける。 暗視の術を掛けた目に、大路の先から人影が近づいてくるのが見えた。 暗闇の中、ぽっかりと浮かぶ蒼い月。 こちらへと近づいてくる男の姿を、その月影が冴々と照らし出した。 「っ!お前はっ!!!!」 照らし出された男の姿を見て、晴明の顔が驚愕に彩られる。 明らさまな表情の変化を見せる晴明に、昌浩と十二神将は怪訝な顔を向ける。 「晴明、知っているやつか?」 物の怪が代表して驚きに顔を強張らせたままの晴明に尋ねる。 しかし、晴明はその問いには答えず、眼光を鋭くして相手を見据えた。 「・・・・・・随分と、懐かしい顔だな・・・・・・・・・・」 「そうですね、おおよそ九年ぶりでしょうか?お久しぶり、と言っておきましょうか父上―――いや、安倍晴明」 そう言って男は緩やかにその口元に笑みを浮かべた。それも温かみのある笑みではなく、酷く薄っぺらい笑みを・・・・・・・。 晴明は警戒心を強めながら、慎重に探るような視線を男に向けながら口を開いた。 「一体何のようだ?」 「私が用があるのは厳密に言えば貴方ではありません」 「なに・・・・?」 「返してもらいましょうか?私の人形を――――」 そう言う男の視線は真っ直ぐに昌浩へと注がれる。 「・・・・え?」 「帰って来い。”霞月(かづき)”」 聞き覚えのない言葉が耳へと届く。 瞬間、世界が暗く閉ざされたような気がした―――――――。 ※言い訳 はい、フリー配布小説がスタートしました! お話の展開が急すぎてわからない方は、ネタ部屋をこっそりと覗いてみてください。大雑把ではありますが説明文があります。少しでもネタバレが嫌な方は覗かない方がいいでしょう。 このお話を書いている際、一回パソコンの電源が落ちたんですよね・・・・・。その時保存してなかったので、もう一度最初から打ち直しました。少しやる気が飛んでいってしまったのは確か。 まぁ、こんな調子ですが、頑張って書き進めていきますので・・・・・。こんなお話でも持ち帰ってやろうという心の広い方は、どうぞお持ち帰りください。 2007/3/9 |