糸の切れた人形。









その人形は独りでに動き出す。









操り手はそれに憤りを感じ、拳を振り上げる。









勝手は許さない。









それよりだったら壊した方がましだと――――――――。


















朧月夜の還る場所〜漆〜

















「こうして会うのは九年ぶりだな」






そう言って、昌浩と面立ちが似通った少年はふっと口の端を吊り上げた。
それに対し、昌浩は困惑げな表情で少年を見た。

神将達は警戒心も顕に、昌浩より前へと出て昌浩を背後に庇う。
しかし少年はそんなことなど気にも留めずに、ただ只管に昌浩へと視線を注ぐ。


「だ・・・れ?」

「おいおい、この俺を忘れたっていうのかよ?輝陽だぜ、霞月」

「き・・・・・よう?」

「そうだ。まさか本当に生きてたとはな・・・・・・・・・・・嬉しいぜ」

「え・・・・・・・?」


嬉しいと言って笑う少年―――輝陽。
しかし嬉しいという言葉の割りに、その瞳に浮かぶ光はとても不穏だ。

そのことに気がついた昌浩は、困惑を更に深める。
昌浩を背後へと庇う神将達は、その眼光を更に鋭いものへとする。


輝陽は口元に壮絶な笑みを浮かべたまま、その右手を宙へと差し伸べた。
すると、何処からともなく刀が現れた。
輝陽は戸惑いもなくその刀の柄を握り、ひゅっっと試すかのように一振りする。
曇り一つない直刃は、キラリと妖しい光を放つ。

武器を構える輝陽に対抗するように、神将達もまた己の武器を構えた。


「ふざけるな、この子に指一本たりとも触れさせはしない」

「ふーん、随分と大きくでたな。でもいいのか?神将は確か人を傷つけてはならないっていう決まりごとがあるんじゃなかったのか?」

「あぁ、そうだな。・・・・・・・だが、傷つけなければいいだけのことさ」

「威嚇だけでも十分だと?俺も舐められたもんだな・・・・直ぐにその余裕を崩してやるよ」

「はっ!言ってろ!!」


互いに鋭い視線を飛ばし合う。そして同時に地を蹴った。


キィィン!


鋼と鋼の交わる音が響き渡る。


「烈破っ!!」


刃を交わせながら、輝陽は手で横一文字を描く。
次の瞬間、爆裂が紅蓮達を襲う。


「紅蓮!勾陳!」


六合に庇われている昌浩が思わず声を上げる。
六合は爆裂の余波を長布で防ぎながら、その視線を爆発の起こった前方へと向ける。

濛々と立ち上る煙の中、紅蓮達が姿を見せる。
どうやら直撃は避けたらしく、全身が煤だらけなことを除けば特に傷らしい傷は負っていなかった。
昌浩はそれを見てほっと息を吐く。


「うわっ、無傷かよ?!案外すばしっこいんだな」

「これでも十二神将の最強と次点だからな、これくらいでやられてはいられないさ」


ふっと強気な笑みを浮かべて勾陳は答える。
その手に握られている筆架叉は油断無く構えられたまま・・・・・・・。


「ふーん、そう。ならこれだったらどう?―――――渦巻け、炎姫《えんき》」


瞬間、空気の色が変わった。

ヒィイィィィィン!!

輝陽が持っていた刀が鳴動し、その刀身を紅に染め上げる。


「なっ・・・・それは」

「どうだ、なかなか面白いだろ?この刀・・・・・」

「それは妖刀・・・・か?」

「さぁな、聞くとことによると代々家宝として受け継がれている刀らしいが・・・・・妖刀に見えるか?まぁ、俺は何だっていいけどな」


こうして力を与えてくれるんだからな。

そうして輝陽は刀を勢い良く横薙いだ。
それと共に紅の爆炎が紅蓮達へと放たれる。

その瞬間、紅蓮達の視界は紅色一色に染まり上がった。
紅蓮達が視界を封じられている隙を突いて、輝陽は六合と昌浩の下へと疾駆する。
六合はその手に銀槍を持ち構える。


「邪魔なんだよっ!!」


「砕!」


刀印代わりに薙ぎ払われた刀が霊気を帯びて一層輝きを増し、六合の銀槍を弾き退ける。


「縛縛縛、不動縛!!」


放たれた霊力が六合の足を地へと縫いつける。


「―――っ、逃げろ!昌浩!!」


状況にいち早く気がついた紅蓮が、鋭く声を上げる。
が、それよりも早く輝陽が昌浩へと距離を詰める。


「―――っ!」

「遅い!!」


昌浩は咄嗟に輝陽と距離を開けようとするが、それを輝陽は許さず昌浩に足払いをかける。
そして間を置かずに輝陽は倒れた昌浩に馬乗りする。


「っ、うわっ?!」

「へっ、相変わらず力ねぇーなぁ。ちゃんと飯食ってるのかよ?」

「相変わらず・・・・・?」


輝陽の下敷きとなった昌浩は、彼の発した言葉に怪訝そうな顔を作る

自分はこの目の前の輝陽と名乗る少年のことを知らない。
だというのに、この少年は自分のことをさも知っている風に話す。

それは一体何故か?

疑問が昌浩の内心を駆け巡る。
そしてその昌浩の疑問を感じ取ったのか、輝陽はその嘲りの表情を微妙に変化させる。


「なんだぁ?久々な兄弟との再会だっていうのに、随分とつれないじゃねーか」

「え・・・・兄弟?」

「・・・・・。まさか、九年たったくらいで双子の兄である俺のことを忘れちまったってことは・・・・無いよな?」

「九年?双子の兄??」


輝陽の言葉に、昌浩は更に困惑を深める。
輝陽は困惑顔の昌浩をまじまじと見下ろした後、すっと目を細めた。


「覚えていない?
――――いや、消されたか・・・・

「――――?どういう・・・・・」

「ま、細かいことは別にいいか。お前が目の前にいる、それだけで俺は嬉しいからな」

「嬉しい?」

「あぁ、嬉しいさ。








―――この手でお前を殺せるんだからな!!」








ぎらりと、紅く燃え上がる刀身がゆっくりと持ち上げられる。

ゆらりと毒々しいまでの紅が存在を大いに主張する。


輝陽鋭く尖れた剣先を、昌浩の喉下へと寸分の狂いも無く定める。





「あばよっ!役目から外れた人形は壊れちまいな!!」





そして、戸惑い無く振り下ろした―――――――。












※言い訳
久々の更新です。目標は一日一話だったのですが・・・・・何か色々あって更新が止まっていました;;
昌浩、いきなりピンチです。めっちゃ殺されそうになっています。
最近こんなシュチュエーションばかりな気が・・・・・。けど、このお話、三年くらい前に考えたやつなんですよね〜。随分古いネタを持ってきたんだよな・・・・・。



2007/3/24