記憶の底を必死に浚う。









探すものは過去の記憶。









しかし記憶はなかなか見つからない。









探し物はどこにある?









子どもは砂の中に埋まっている貝殻を探し続ける―――――――――。




















朧月夜の還る場所〜拾弐〜













昌浩は閉じていた目を開け、ぼんやりと天井を眺める。


あれから何とか眠りにつくことができた昌浩は、翌日は結局出仕を休む羽目になった。
本人は行く気は満々だった。体調だって気だるい程度であった、何も出仕を休むほどではない。

ではどうして出仕を休むことになったのか。
答えはとても簡単である。止められたのだ、晴明率いる十二神将、彰子、吉昌、露樹全員に・・・・・・・。
彼らは結託して昌浩を出仕に行かせまいとした。

晴明は例の如くよく回るその口先で、神将達は無言で見つめるという圧力で、両親の吉昌・露樹も心配顔を前面に押し出し、止めは彰子の必死のお願い。
こうまでされて昌浩が落ちないわけがない。負けだ、完敗であった――――。

そして昌浩は今、褥に半ば強制的に寝せられていた。
周りには誰の姿もない。
つい先程まで物の怪がついていたのだが、今は席を外しているので昌浩しかこの部屋にはいないのだ。
よって、昌浩は一人で大人しく寝ているしかない。
だが、生来じっとしているよりも動いていることの方が好きな昌浩である、暇に暇を重ね時間を持て余していた。

なので必死に頭を回転させて過去の記憶―――九年前、そしてそれ以前の記憶を思い返していた。


「はぁ〜、だめだ。全然思い出せないや・・・・・・・・・」


落胆の混じった溜め息が昌浩の口から零れる。
全くもって不思議なことに、九年前より以前の記憶はすっぱりと何も思い出せないのだ。
それより後の記憶は朧げながらも思い出せるというのに・・・・・。


「どうして思い出せないんだ?俺は、何を忘れているんだろう・・・・・・・?」


昌浩はぽつりと思ったことを零した。


その時、








「思い出させてやろうか?」








低く聞き慣れない声が割り込んできた。


「なっ!?」


昌浩は声のした方へ視線を向け、次いで絶句した。

男が―――己を霞月と呼んだあの男が立っていたのだ!
昌浩は驚愕よりも、じわじわと這い寄ってくるえも知れぬ恐怖心を強く心に感じていた。

イヤダ、コワイ、ニゲロッ!!

本能にも似た己の心がそう叫ぶのが聞こえた。
男は何もしていないというのに、昌浩の呼吸は乱れ、嫌な汗が流れ落ちた。


「ど、うして・・・・・・」


ここにいるのだ、と言葉は続かなかった。
言葉が喉の奥で絡まり、詰まって出てこなかったからだ。

血の気が下がり、目の奥がちかちかと明滅する。

昌浩のそんな姿を見て、男―――業啓はただ嘲笑して一言だけ言った。





「なに、私の人形を返してもらいに来ただけのことだ」





次の瞬間には、昌浩の視界は完全に暗闇に閉ざされていた―――――――――。















同時刻、晴明の部屋ではその部屋の主が驚いたように腰を浮かせた。


「この気配は――――――!」


晴明は驚いたように目を見開き、昌浩の部屋がる方角へと視線を飛ばす。
晴明の異変にいち早く気がついた神将達は、その原因を問うよりも先に晴明の部屋を飛び出し、昌浩の部屋へと駆ける。
彼らも察知したのだ、本来邸の内へ存在するはずがない異分子の気配を。


「っ!昌浩!!」


真っ先に昌浩の部屋に飛び込んだ物の怪は、気を失った昌浩を抱えた業啓の姿を見ると怒りの咆哮を上げた。


「昌浩を放せっ!!!!!」


牙を剥き、勢いもそのままに業啓へと突っ込んでいく。
が、あと一歩というところで見えない障壁に阻まれ、弾き飛ばされる。


「騰蛇!――――!昌浩っ!!」


欄干まで弾き飛ばされた物の怪を見て太陰は驚きの声を上げるが、部屋の中へと視線を向け業啓に捕らえられた昌浩の姿をみるとその顔を蒼褪めさせた。
ついで辿り着いた勾陳や六合も、業啓の姿を見止めるとその表情を険しくした。


「業啓・・・・・」


そして一番最後に辿り着いた晴明と玄武。


「業啓、昌浩を放して貰おうか」

「断る」


業啓は晴明の言葉をにべもなく拒絶する。
それに伴って晴明の背後に控える形でいた神将達の表情も険しさを増す。


「・・・・・・昌浩をどうするつもりじゃ?」

「私がそれを教えるとでも?人形の使いみちなど気にすることもないでしょうに・・・・・・・・」

「業啓、昌浩は人形ではない。人間じゃ、どしてそう物のような呼び方をする?」

「それこそ貴方が知ることではない」


取り付く島も無いとは正にこのことだろう。
晴明がどんな言葉を紡ごうと、業啓はその言葉を叩き切るだけだ。


「・・・・・昨晩、輝陽に会ったよ」

「あぁ、そのことは輝陽から聞いてますよ」

「何故、本当のことをあの子に教えていない?」

「さて、何のことやら・・・・・・」


視線を鋭くして問う晴明に、業啓は口元に笑みを刻んだまま言葉をはぐらかした。


「惚けるでない、あの一族が滅んだ理由、あれは真実ではない」

「いえ、事実だ。これが一族全員を斬り殺したことは間違いないでしょうに」

「じゃから真実ではないと言うたのじゃ。あの事件の真相は――――――」

「おっと、これ以上の無駄話は私はする気がない。そう、私の目的はこれを取り戻しに来ただけですから・・・・・・・・・」

「逃がしはせん」

「さて?それはどうかな・・・・・・・」


業啓が更に笑みを深めた瞬間、業啓の背後より炎が躍り出た。


「!ちっ!!」


視界が一瞬ではあるが紅に染め上げられる。
咄嗟に前に出た玄武が水の障壁を築くことによって、炎は部屋に飛び散ることなく全て消し去られた。

全ての視界が晴れた後には業啓と抱えられていた昌浩の姿は消えていた。
慌てて周囲へと視線を走らせると、丁度塀の向こうへと姿を消す業啓の姿が見えた。そしてその後に続いて塀を飛び降りていく輝陽の姿も――――。


「!後を追えっ!」


晴明の鋭く飛んだ号令に、神将達はすぐさま反応した。
晴明の護衛に玄武を残し、全員が業啓らを追うために邸の外へと飛び出していった。


「やれやれ、全く油断したわい・・・・・・・・」

「晴明・・・・・・・」

「案ずるな、玄武。昌浩は必ず取り返す」

「あぁ、わかっている」


そうして二人は邸の外へと視線を飛ばした。













愛しい子どもの無事を祈りながら――――――――――。




















※言い訳
やっとこさ続きを更新。なかなか進まないなぁ・・・・・。
もう、ネタ語りに載せてあるネタから話が逸れていってます。これ以上話は長くしたくないです。
兎に角さくさくと昌浩拉致。紅蓮達頑張って〜。(とっても人事)
後何話くらいで終わるのだろうか・・・・・・・・?



2007/4/30