「改めて問う。互いに誓いし心に偽りはないか?」
そう神父は目の前の男女に問いかける。
オーブ代表の結婚式。今、その会場の祭壇の上にカガリとユウナの二人と神父が立
っていた。
「はい」
「・・・・・・・・」
はっきりと言い切るユウナとは対照的にカガリは言いよどんでしまう。
『偽りはないか?って聞かれたら偽りありまくりだろうな・・・・』
いくら国の為とはいえ望みもしない相手と結婚してしまうのである。
カガリの胸中は喜ばしいどころか、悲壮感でいっぱいである。
自分には指輪を贈ってくれた相手がいるのに・・・・・。
「だめです!軍本部からの追撃、間に合いません!!」
余程非常事態のことだったのだろうか。
華やか且つ厳粛的な空気が満ちていた空間に、焦燥に駆られた声が突然大きく響き
渡る。
今まで静かにしていた式場に居た者建ちは、それを合図にざわざわと騒ぎ始める。
辺りに笛の音が響く。
「なんだ?」
「どうした?」
「カガリ様を・・・・・・・!」
「迎撃!!!」
突然の乱入者に、式場の警備のために配備されたアストレイが銃を向ける。
が、銃の引き金を引くよりも先に乱入者の攻撃が武器を持った腕だけを的確に捉え、
破壊する。
明るく高く澄み渡った青空をバックに、蒼い十枚の翼を広げ悠然と宙に留まっている
白い機体。
何事かと振り返ったカガリがその機体を目の当たりにして、普段も大きい琥珀色の瞳
を更に大きく見開く。
「キラッ!!!?」
「か、カガリ・・・・・」
驚きに声を上げるカガリ。ユウナにいたっては逃げ腰でカガリの後ろに隠れる。
ちなみに、そんなユウナのみっともないことこの上ない様をキラはコックピットの中か
ら眼を眇めながら見下ろしていた。
逃げ惑う際に誰かがぶつかったのだろうか、白いハトの入ったケージが落下し、その
反動で蓋が開いて中から何羽ものハトが飛び出す。
ハトが飛び交う中、舞い降りてくる蒼翼の白い機体――フリーダムはまさに天使のよ
うだった。
突然舞い降りてきた天使は、ほとんど振動を出さずに静かに着地する。
そしてゆっくりとカガリ達(厳密にいうとカガリ)に両腕を伸ばしてくる。
「ひ、ひいぃぃぃっ!?」
情けない悲鳴ともつかない声を上げて、ユウナはカガリの背後から逃げ出す。
「うわっ」
キラはそんなユウナにも眼をくれずにカガリをそっと抱き上げる。
その際には誤って強い力でカガリを締め付けないように、力加減に細心の注意を払う
ことも忘れない。
「何をするっ!キラッ!!」
自分の唯一の肉親にして弟(どちらが上であるか話し合った際に、キラは絶対に弟
だ!とカガリが言い張ったため)であるキラの思わぬ行動にカガリは慌てて声を上げ
る。
そんなカガリの様子にキラはふっと微笑む。
もちろんそれはコックピット内の出来事であって、外にいるカガリからは見えるはずも
ないが・・・・・・・・。
そんな時に
「待てっ!カガリをどうする気だ!!」
フリーダムから少し離れたところに避難していたユウナが堪らず声を上げる。
「ユウナ・・・・・・・」
「どうする気って・・・・連れて行くにきまってるでしょ?」
決死の思いで声をかけたユウナに、キラはさらりと返答する。
「なっ・・・・・何を馬鹿なことを!カガリは僕と結婚してこの国の母としていてもらわな
いと・・・・・・・」
「君とカガリが結婚?はっ、笑えない冗談だね」
「なっ・・・・・・・!」
「き、キラ?」
必死に言い募るユウナの言葉を途中で遮り、キラは鼻で笑って一蹴する。
ちなみにコックピット内のキラの様子はというと・・・・・・・黒い微笑みを浮かべて
いた。更にいってしまえば全身にドス黒いオーラを纏っていたりもする。
キラの言い様にユウナは無理やり言葉を飲み込む羽目となった。
そんなキラに驚いたのはユウナだけではない。カガリも常の弟とは異なった様子に戸
惑う。
「ねぇ、カガリ。いくら国の為とはいえ、なんでこんなのと結婚するなんてことになった
の?」
「そ、それは・・・・・・」
「こんなの、って失礼な!僕以外にカガリを幸せにできる奴なんていないだろう!?」
「シアワセ?国の母と表向き奉り上げながら、その実自分たちの都合の良い様に操
れるお人形になることが幸せなの?」
「―――っ!!?」
「キラ・・・・・お前って見た目によらず、結構毒舌なんだな・・・・・・」
図星を指されて声も出ないユウナ。カガリは口の端が引きつるのを感じながらも呟い
た。
「第一、MSが目の前に現れてカガリを守るどころか後ろに隠れちゃってさ、腰抜けも
いいところだね。なっっっさけない!」
「〜〜〜〜〜!!」
「しかも女の子を置いて自分だけ逃げるなんて、男の風上どころか人の風上にも置け
ないクズだよね。ね、カガリ?」
キラの勢いに押されて、思わず首を縦に振ってしまっていた。
「えっ!あ、あぁ。そうだな・・・・・・」
「そうだよねぇ。カガリを置いて一人で逃げた時にになんか、理性が吹っ飛びかけて
思わず全火力、最大出力でぶっぱなして殺っちゃいた
いって思っちゃんだよね!!」
キラは無邪気な声調で言っているが、その内容は果てしなく不穏である。
その壮絶で辛辣な会話の内容に当事者のユウナは背中に冷たい汗が流れるのを感
じた。
「それに何よりカガリにはきちんと彼女のことを想ってくれる立派な相手がいるしね。
自分の保身しか考えないどっかの誰かさんとは月とスッポンだね」
「き、キラ!?そのことは・・・・・・・・」
「大丈夫だよカガリ。名前を出すような間抜けなことはしないから」
「・・・・・・・いや、そういう問題じゃないだろ?」
どこか論点のずれた返事をするキラに、カガリは脱力する。
「だってさ、カガリ。容姿端麗、頭脳明晰、性格の方は・・・・ヘタレな所がちよっと問題
だけど礼節はしっかりしてるしさ。はっきりいってこの人だと張り合うどころか、足元に
も及ばないよ?」
「そんなことは判っている!」
キラの言うことも一応事実ではあるため、カガリは思いっきり肯定していた。
「なら、何も問題ないじゃないか」
「へ?」
どこをどうやったら”なら”になるのだろうか。
「だから、ね。彼が帰ってるまでの間僕がちゃんと守るから」
「別に私を守るのはお前でなくても!」
「え?なんで??僕はカガリの家族で姉弟で弟だよ?守るのは義務だと思わない?
”姉さん”」
「うっ・・・・・それは・・・・・」
カガリの上げた抗議の声に、キラはテンポよく切り返す。ご丁寧に『姉』付きで。
「わかってくれた?それじゃあそろそろ行こうか。マリューさん達も待たせてることだし」
そう話を締めくくってカガリを抱えたフリーダムは地面を思いっきり踏み砕いた後に、
蒼天へと舞い上がった。
そしてそのまま反転すると人々を気にすることもせずにその場を飛び去ったのであっ
た。
フリーダムが飛び去った後の会場には、唖然としている人々と呆然として魂をどこか
遠くに飛ばしてしまっているユウナが取り残されていた。
―おまけ―
結婚式場を後にしたフリーダムは無事にAAに帰艦した。
「カガリを無事に拉致ってきましたぁっ!!!」
そう言ってブリッジに入ってきたのはこの艦のエースパイロットで、カガリ奪還の為に
フリーダムで式場に殴り込みに行っていたキラ・ヤマトであった。
「やぁ、ご苦労だったね少年。姉君は無事だったかね?」
悠然と笑いながらキラに問いかけてきたのは<砂漠の虎>こと、アンドリュー・バルトフ
ェルドその人である。
「はいっ!後三分遅れていたらアスラン以外の男に唇を奪われるところでした」
ほんと、危なかったです!と少し憮然とした表情でキラは言った。
「そうでしたの・・・だからキラはそんなに機嫌がお悪いのですか?」
「ん?あぁ、それもあるんだけど。あの紫頭、ヘタレどころか虫けら以下な程いい性
格してたよv」
「まぁ、そうでしたの。では何事も無くただ帰ってきた・・・・・というのではありませんよ
ね?」
やわらかい微笑みを浮かべながら、小首を傾げてラクスはキラに問いかけ、というよ
りは確認をする。
「もちろんだよラクス!あと30cmで踏み潰されるかどうかっていう間隔で地面
を踏み砕いてやったよ!!―――あの時の顔といったら!スカッとしたね♪」
そう話ている時のキラの笑顔はとてつもなく黒かった。
「それはよかったですわね」
「うんvvv」
そう頷いて爽やかに微笑むキラ。
その隣では嬉しそうに微笑んでいるラクスがいる。
「お前ら・・・・・・・・・」
カガリに至っては、もう何も言う気力が無かった。
「そう気を落とさないで、カガリさん。取り敢えず無事でなによりだわ」
そう言ってカガリに暖かい笑顔を向けるAA艦長のマリュー。
「かんちょぉ〜・・・・・」
そんな暖かい笑みと言葉にカガリは泣きたくなる。
こうして『カガリを理不尽な結婚式から拉致ろう!』計画は無事成功し、幕を閉じたの
だった。
※言い訳
キラが黒くなってしまいましたねぇ〜。というか、性格そのものが違ってしまったよう
な気も・・・・・。
テレビでこの回を見たときずっとユウナをなじっていました。
だってカガリの後ろに逃げ隠れた挙句、カガリを置いて一人でにげちゃうんです
よ!?許せません。カガリは女の子なのに・・・・・・・。
そういうわけなので、この話はユウナをいじめたいが為だけの理由で出来ました。
もし、ユウナが好きだ!っていう方がいましたら、申し訳ありません・・・。
テレビに出てきた機体って、アストレイでいいのかな?機体とかは全くといっていい
程知らないので、間違っていたらみません。
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2005/4/17