明るい未来計画


















「おい、見つかったか?」

「いんや、まだ。・・・・どこにいるんだ?」

「なぁ、あの話本当だったのか?」

「本当だってば!他のやつが見たっていってたぞ!!」

「本当にいるのかよ?晴明の孫が・・・・」


巷にその名を轟かせている彼の大陰陽師の邸―――安倍邸。
その邸の中を雑鬼達は家主に断りも無く上がり込み、目当てのものを探すべく徘徊していた。所謂無断進入である。

彼らは晴明の孫が新しく誕生したという情報を聞き、一目見ようとわざわざ邸へとやって来ていたのである。


「あ!あれじゃないか?」

「え?どこ??」

「あそこだよ!几帳の陰の所!!」

「ん〜どれどれ・・・・・お、本当だな」


どうやら雑鬼達は目当てのものを見つけたらしく、嬉々として近寄る。

雑鬼達の視線の先には、すやすやと寝息を立てて眠っている嬰児が一人いた。
嬰児が眠っている場所は、先に雑鬼が言ったように几帳の傍元であった。


「へ〜、これが晴明の新しい末の孫かぁ」

「人間の赤ちゃんって本当に小さいんだな。俺よりちょっと大きいかくらいだしよ」

「手、ちっちゃいなぁ〜」

「っていうか、俺らが近くにいても全然起きないんだな」

「そう言われてみればそうだな。意外と肝が据わってるんだな、今回の孫は」


雑鬼達の視線の先にはいまだにすやすやと眠り続ける赤子が一人。
結構煩く騒いだはずなのだが、全くと言っていいほど起きる気配が無い。


「つっついて見たら起きるかな?」

「って、おい!本当につっつくなよ!!」

「いいじゃんいいじゃん♪お、かなり弾力があるんだな!」

「へぇ?そうなのか?」

「ほんと、ほんと!お前も触ってみろよ!!」

「お、おぅよ!」


一匹の行動を皮切りに、雑鬼達は赤子を恐る恐る触り始めた。
触ってみると赤子特有のしっとりと柔らかい弾力が伝わってくる。

雑鬼達は赤子を触るどころか、間近でみるのは初めてである。
自他共に認める最弱の分類に入る雑鬼とて、所詮は妖。
人あらざるものが近づこうとすれば、周囲の気配に敏感な赤子は皆反応を示す。故に傍へ近づこうにも近づけないのである。
そんな彼らが今回赤子に触れる機会が巡ってきたのだ、こんな機会を逃せるはずも無い。


「ふーん、髪も柔らかいんだなぁ・・・・・・・あ;;」

「ん?どうかしたのか??・・・・あ゛っ」

「へ?どうしたんだよ――って、そうだよな、これだけ触ればいくらなんでも起きるか・・・・・・」


雑鬼達の視線は赤子の顔―――主に目の部分に集中していた。
つい先ほどまで閉じられていたはずの赤子の目が、今ははっきりと開いていたのだ。つまりは起きたということ。


「あ、う・・・・ど、どうしよう?」

「どうしようって、なぁ?」

「お、落ち着けって!なんてったって俺らは最弱の妖!そうそう姿なんか見えないって!」

「そうそう!気配も力も最弱だしな!」

「・・・・・おい、それはこいつの眼を見ても言えるのか?」


目を覚ました赤子は、そのくりくりと大きな瞳を精一杯開いて雑鬼達へと向けていた。
たまたま視線が合ったのかもしれないと、左右あちこちにぱたぱたと動き回ってみると、赤子の視線もその動きに合わせて移動した。これはもう決定的である。
一匹の雑鬼が言ったとおり、赤子の眼ははっきりと雑鬼達の姿を捉えられているようだ。


「あぅ!そ、そうだよな。普通の家に生まれたやつならまだしも、ここは安倍邸。あの晴明の血を引いてるんだし、見えてても不思議は無いか・・・・・・・」

「そうだよな、見鬼の才――しかもかなり強いやつを持ってても納得と言えば納得できるが・・・・・・」

「なぁ、それだと将来有望株なんじゃないのか?」

「・・・・・今のうちから仲良くなって、将来的には色々と助けてもらえる?」

「あ〜、強い妖やおっかない妖から守ってくれればいいよなぁ」

「なぁ、お前。俺達のことを守ってくれるか?」


一体何年後の話だ!というような内容をさも真面目な顔をして話す雑鬼達。
が、生まれて一年にも満たない赤子に言葉がわかるはずも無い。

(あくまでも)真剣な顔をして見つめてくる雑鬼達を、赤子はただじぃ〜っと食い入るように見つめ返していた。
が、次の瞬間。にぱぁっ!と大輪の花が咲き誇るように満面の笑みを浮かべた。


「お!笑ったぞ」

「そうかそうか。守ってくれるんだな」

「頼りにしているぞ〜、晴明の孫」


ただ笑みを浮かべただけなのに、何故か了承の意と取られてしまった。なんというご都合主義だろうか。


その後しばらくはきゃいきゃいと赤子と共にはしゃいでいた雑鬼達であるが、段々と邸の者達が帰ってくる時刻になってきたので、その時はそれで邸を後にした。










後日、再び赤子のもとを訪れた雑鬼達は、その赤子の傍に紅の神将の姿を見つけてしまい、近づくに近づけない状況に陥ってしまった。
迫りくる本能の恐怖を無視すれば幾らでも近づくことができたのだが、その神将のみに向けられる赤子の輝かんばかりの笑顔を遠目からでも見れるのならばそれで良しとしたのであった――――――。












※言い訳
このお話はリクエストしてくださった夜月様のみがお持ち帰り可能となります。
えぇと、今回のリクは昌浩と雑鬼とのことだったので、昌浩が小さな頃に雑鬼達が会っていたのなら・・・・というのを想像して書いてみました。雑鬼達は昼間にも出るのだろうかという疑問は敢えてスルー!若菜の時にも色々とちょっかいを掛けていたようだし、別にいいですよね?いいと言ってください!!(必死)



2007/6/18