二人の仲は天の川より深い















7月7日。

それは一つの川によって分かたれた男女の二人が、年に一度のみ相対できる日――――――。











「それでは昌浩様、こちらの折り紙で笹の葉につける飾りを作りましょうね」

「はーい!」


色とりどりの折り紙を手にして、天一と昌浩の二人は笹の葉につける飾りを作り始めた。
あみかざりやふきながし、ちょうちんにわっかつづりなど、様々な飾りを作っていった。


「てんいつー、てんいつぅ!」

「どうしましたか?昌浩様」

「みてみてー、おりひめぇ!」


昌浩はそう言って、折り終えたばかりの織姫の形をしたそれを天一に見せる。
少しながらに不恰好なのはご愛嬌だろう。


「とてもお上手ですよ。織姫だけでは少し寂しいですから、彦星も作りましょうか?」

「うん!」


天一の言葉に元気よく頷いた昌浩は、青い折り紙を取り出して、今度は彦星を折り始めた。
そんな昌浩の様子を、天一は温かな眼差しで見守る。

そんなほのぼのとした空気が流れる中、天一の恋人である朱雀がやって来た。


「ん?天貴に昌浩。何をやってるんだ?」

「おりがみー!」

「今、七夕で笹の葉に飾る飾りを折っていたところですよ、朱雀」

「あぁ、今日は7月7日だもんな。朝から晴明達が裏山の方へ行っているようだが・・・・・じゃあ、あれは竹を取りに行ったんだろうな」

「そうでしたか・・・・・」


先ほどから何人か同朋の姿が見えないのはそのためか。
天一は漸く理解できたと、納得の笑みを浮かべた。

会話をする二人のもとへ、昌浩がトコトコと歩いて近づいてきた。
そして朱雀の衣装を掴んで引っ張りながら、精一杯上を向いて話し掛けてくる。


「ねぇ〜、すざくぅ」

「ん?何だ昌浩?」

「んーとね、どうしておりひめとひこぼしは、いちねんにいっかいしかあえないの?」

「何だ昌浩、お前織姫と彦星の話を知らないのか?」

「うん、しらない〜」

「そうかそうか。だったら教えてやるよ。ずっと昔にだな、織女という――――――」










天に燦然と輝く天の川の辺(ほとり)に、天帝の娘で織女という名前のそれは大層に美人の天女が住んでいました。
織女は天帝である父の言いつけをよく守り、毎日機織に勤しんでいました。
織女の織る布はそれは素晴らしい出来で、五色に光り輝き、季節の移り変わりに合わせてその色合いを変える不思議な錦の織物でした。
織女の父親である天帝は、織女の働きぶりにいたく感心していましたが、年頃の娘であるのに色恋沙汰のいの字さえ出てこないような状況にいる娘をとても不憫に思っていました。


「なぁ織女や、そう働きづめでは疲れが溜まる一方じゃろうて、少しは皆のように遊んでみてはどうかのぅ?」

「・・・・ありがとうございます。でも大丈夫ですから。休みもきちんととっていますし、気分転換にこの川沿いを散歩したりもしていますし・・・・・・・・」

「そ、そうか;;」

「はい。ですからご心配なさらないでください」

「・・・・・・・・・・」


上の会話を行って一旦身を引いた天帝でありましたが、やはり安心することができませんでした。
そこで、天の川の西に住んでいる働き者の牽牛という牛飼いの青年と結婚させることにしました。


「織女・・・・・・・」

「貴方は・・・・?」

「俺は牽牛。貴女の父上から貴女と結婚するようにと仰せつかった者だ」

「貴方が・・・・・。申し訳ありません」

「?・・・・何故、謝るんだ?」

「父は天帝です。天帝は頂点に立つ者。そのような方から命じられたのなら、私のような者でも嫌だと断りをいれることなどできないのではないですか?」

「っ!何を言う!織女、貴女は美しい。俺が今まで見てきたどの天女よりも!!」

「牽牛様・・・・・・・」

「牽牛と。敬いの言葉なんていらない。それはただの壁だ・・・・・・・・」

「!はい・・・・・牽牛」


こうして、織女と牽牛は共に生活を始めました。
結婚してからの織女は牽牛に夢中で、毎日甘ったるい日々を送っていました。
牽牛と結婚してからというものの、織女は機織をすることを一切止めてしまいました。しかし二人を引き合わせた天帝も、まぁ新婚だし・・・・・と最初は大目に見ていました。
でも、二人の間に流れる桃色の空気は止まることなく、むしろ日に日に濃くなっていくばかりです。
とうとう見かねた天帝は、二人を引き離すことにしました。


「ええぃっ!毎日毎日イチャイチャと!少しは頭を冷やせぃ!!」

「そんな!お父様っ!!」

「っ!俺と織女の中を引き裂くつもりかっ!!」

「お主らはべったりとくっつき過ぎなのじゃ!少し距離を置いて冷静になった方がよいぞ?
それに織女の織物の納期も迫ってきているしのぅ・・・・

「!貴様っ!一番最後のが本音か!!?」

《殴る》

「うごふっ!!」


といったような遣り取りもありましたが、天帝はなんとか二人を引き離すことに成功したのでした。






※キャスト 【織女】天一、【牽牛】朱雀、【天帝】晴明













「・・・・・とまぁ、そんなことがあって二人は一年に一回しか会えないようになったわけだ」

「へぇ〜」


一部捏造甚だしい部分もあったが、朱雀大まかに織姫と彦星の話を昌浩に話し聞かせた。


「まるで天一と朱雀みたいだね!」

「そうか?俺だったら天一の離れるなんて絶対にないぞ?」

「もぅ、朱雀ったら・・・・・」


こっちはこっちで桃色な空気が漂い始めている。


「ねぇねぇ!おりひめってどんなひとかな?てんいつみたいにきれい?」


昌浩は自分が折った織姫と天一を交互に見遣った。
そんな昌浩の言葉に、朱雀は話がわかる奴だと顔を綻ばせた。


「おっ!昌浩、お前もよくわかっているじゃねーか!だがな、一つだけ訂正部分があるぞ?天貴みたいに綺麗なのではなく、天貴の方が綺麗なんだ!!」

「朱雀・・・・・・」


拳を握り締めて力説する朱雀を、天一は仄かに頬を紅く染めて見つめる。
そんな天一の隣では、昌浩が納得したように頷いた。


「そっかぁ〜」

「そうなんだ。わかったか?昌浩」

「うん!てんいつのほうが、おりひめよりもきれいなんだよね?」

「その通りだ」


朱雀はよく言えたなと、昌浩の頭を撫でてやる。
昌浩もそれを嬉しげに感じているようだ。








こうして、また一つ昌浩に一部分間違った知識が蓄えられていくのであった―――――――。











※言い訳
久々のフリー配布小説となります。こんなのでもよかったら、ご自由にお持ち帰りください。

ほのぼの親子なお話を書くのが結構好きです。(笑)バカップルに甘い朱雀と天一に純真無垢なちび昌浩の三人セットが思いの外よく似合っていると思う今日この頃。現代パロを書くと何故かちび昌浩になってしまいます。イベント事が多いので、やや年齢水準を下げた方が楽しく書けるようなので・・・・・。織姫と彦星の話・・・・・捏造にもほどがあるな;;大筋は合っていると思うのですが、会話分のところは天一と朱雀だったらこんな風になりそうだなぁ・・・・と思いながら書きました。楽しかったです。



2007/7/3