―紅き華が散る時―













       タカミカヅチは被弾して炎上する。
       炎上の爆発の際、艦内はひどく揺れる。






       「おまっ、お前!何をやっているんだトダカ!!これでは・・・・・!」




       これではミネルバを討つどころか、こちらが討たれてしまうではないか!!




       ユウナはトダカの襟を掴み上げて怒鳴り声を上げる。




       「ユウナ様はどうぞ脱出を!」
       「えぇっ・・・・・・!?」
       意外なことを言われたように、ユウナは驚きの声を上げる。


       「総員退艦!!!」
       トダカはそんなユウナの反応をお構いなしに周囲に脱出の指示を出す。
       トダカの指示に周囲は呆然とする。
       「―――――はっ!」
       一泊の間を置いて、アマギが返事を返す。


       『総員退艦!繰り返す、総員退艦!!』
       艦内に総員退艦のアナウンスが流れる。




       内心、葛藤するような表情でユウナが押し黙るのを見て、トダカは意外な言葉を口に
       する。
       「ミネルバを落とせとのご命令は、最後まで私が守ります」


       命令は最後まで守る。―――そうしなければ今まで行ってきた自国の理念を曲げる
       ようなこの戦闘の意味が成さない。
       だから守るのだ。いや、守らねばならない義務がこの戦争の一端を担う自分にはあ
       る。


       「ええっ!?」
       その言葉にユウナは驚いたようにトダカを見る。
       そんなユウナをトダカは見下ろしながら、更に驚きの言葉を続けて言う。
       「艦及び総兵を失った責任もすべて私がっ!!」
       「えっ、えぇっ!!?」
       これには流石のユウナも絶句する。
       そんな二人のやり取りをアマギ含め、他のクルーは黙って見守る。



       「これでオーブの勇猛も、世界中に轟くことでありましょうっ!!!!!」
       そう言葉を吐き捨てると同時に、トダカはユウナの襟首を掴んで力一杯壁に投げ飛
       ばす。


       そう。地球・プラントの間に立ち、不屈の精神で中立を突き通してきたオーブ。
       それが今、連合側に組し、目の前に在るザフトの新造艦であるミネルバを討ち落さ
       んと攻撃を行っている。
       中立という存続するのに極めて難しい理念を掲げる国。そんな自国を侵略しようとす
       るものから護るために鍛え上げた剣を今現在、間違った意味合いで振り下ろそう―
       ―否、振り下ろしているのだ。


       「う、うわあぁぁっ!!」
       壁に背を打ち付けて崩れ落ちるユウナ。しかし、助け起こそうするものは誰もこの場
       にはいなかった。
       「総司令官殿をお送りしろ!貴様らも総員退艦っ!!!」
       この指示には流石にその場にいたクルー全員が騒然とする。
       「これは命令だっ!!!!」
       そんな周囲のざわめきをトダカは一喝して黙らせる。
       「ユウナ・ロマではないっ!国を護るために!!!」
       「はいっ!!」
       その言葉に全員、敬礼をもって応える。


       誰もがわかっているはずなのだ。鍛え上げた剣を意味もなく振りかざす必要は無い
       ことを。


       「私は残らせて頂きます」
       意を決してアマギが進言する。
       「だめだ」
       その言葉をトダカは表情一つ動かさずに一言で切り捨てる。
       「聞きません!!」
       アマギは一言で切り捨てられても尚も言い張る。
       「だめだっ!!!!!」
       尚も言い募ろうとするアマギを、先ほどよりずっときつく、強い声でトダカは制す。



       「これまでの責めは私が負う!貴様はこの後だ!!」
       ひどく揺れる艦に、転倒しないようコンソールの所に手をついて体制を保ちつつ、トダ
       カは厳しく声を放つ。


       そう。これは戦闘を止めることが出来ずに、ただ上の命令に従うことしか出来なかっ
       た責任。


       「っ!いえっ!!!!」
       揺れのせいで床に座り込んだアマギは頑ななにその言葉を拒絶する。
       「すでに無い命と思うのなら、思いを同じくするものを集めてAAへ行けっ!!!!」
       「―――――っ!!」
       トダカの言葉に、アマギははっとした表情を作る。
       そんなアマギをトダカは襟首を掴み上げ、立ち上がらせる。
       「それがいつかきっと道を開くっ!!!!!」


       ただ目の前の敵を倒すだけの戦いではない、別の道を切り開くための光。
       それがきっとあの白亜の戦艦にある。
       希望という名の光が・・・・・・・・・・・・・。


       「――っ!トダカ一佐・・・・・」
       掴み上げられた状態でアマギは言葉を詰まらせる。
       「頼む!!私と、今日無念に散った者達の為にも・・・・・」
       最後は半ば懇願するかのように。
       トダカの表情かが今までよりも一層厳しいものとなり、それの為必死さがありありと
       伝わってくる。
       「くっ・・・・・・・」
       アマギは悔しさを噛み殺したように呻き声を一つ上げた。




       インパルスの攻撃により、今にも沈みそうな戦艦。


       それをボートで避難した全員が瞬きも惜しむかのように見つめる。
       今の目の前の光景を眼に・胸に・記憶に焼き付けるかのように・・・・・・。


       もう沈むしかない戦艦のブリッジの目の前に、インパルスは降り立つ。
       一歩一歩、恐怖を煽り立てるかのようにゆっくりとブリッジに近づく。


       確実に近づいてくるインパルスを炎上するブリッジの中で、トダカは毅然と見据えて
       いた。


       インパルスがサーベルを緩慢とした動作で振りかざし――――――一気に振り下ろ
       す。
       振り下ろされたそれはブリッジの中央を真っ二つに叩き割る。
       トダカ共々。


       トダカはサーベルが振り下ろされる瞬間、何故か二年前の地球軍がオーブに攻め込
       んできた折に助けた黒髪にルビーの瞳を持った少年のことが脳裏に浮かんだ。
       彼は今元気に過ごしているだろうか?
       二年前に辛い思いをしたのだから、今回のこの戦争には巻き込まれることがないよ
       う、トダカは静かに祈った。


       そして艦は今までの中で一番大きな爆発を起こして炎上し、散った。




       それに避難したオーブの兵一同が全員敬礼をする。
       その中には歯軋りしそうなほどに奥歯をきつくかみ締めたいるアマギの姿もあった。




       こうして、紅い大輪の華と共に、平和を願う一人の男の命が散った。















       ※言い訳
       今回の話はトダカをメインにして書いてみました。
       はたしてこの話を読んでくれる人はいるのでしょうか?(いなさそう・・・・)
       私は脇役キャラの中でトダカはかなり気に入っていたのですが、死んでしまいました
       ね。
       ショックでした、かなり。
       なんとなく早めに死にそうだなぁとは思っていたのですが、いざそうなるとやはり残念
       な気持ちになります。
       そういうわけなので、この小説はトダカの追悼の意を込めて書いたものです。
       トダカと話のやり取りをしていた相手の人の名前がわからなかったので、名前が間
       違っていたら掲示板などで指摘してもらえると幸いです。

       感想などお聞かせください→掲示板

       2005/5/5