―ガラスノカイナ―











       「――――――?」


       最初に気づいたのはリナリーだった。

       中国大陸に入ってから四日たった日。
       今はまだ姿一つ、手掛かり一つ掴むことができない元帥について他愛も無い会話を
       していたのだが、リナリーが会話の途中にアレンの左手が細かに痙攣を起こしている
       ことに気づいたのが発端。




       「ちょっと左腕見せて、アレンくん」
       心中、怪訝から焦りに変わるのを抑えきれずに、リナリーはぐいっとアレンの左腕を自
       分の方へ引き寄せる。

       「あっ!」
       そんなリナリーにアレンはひどく驚いたような、焦ったような声を上げる。
       何事さ?とラビが二人に視線を向けたのと、リナリーが勢いよく服の裾を捲り上げた
       のは同時だった。


       『『―――!!』』


       捲り上げた服の下から現れた腕を見て、二人は表情を驚愕の色に染める。

       「うわ!?う、腕が崩れてんぞ、おい!?」
       ラビはアレンの腕を見て、そう叫ばずにはいられなかった。
       アレンの左腕は陽光の下、その無残な姿を晒していた。


       崩れかけた―――――と言うのには簡単だが、目の前に晒されているアレンの腕の
       状態はひどいものだった。

       そもそも、腕というものに対して「崩れる」という言葉は間違っても使われることは無
       い。
       が、目の前のそれに対して崩れているという言葉以上にぴったりと当てはまる表現は
       無いだろう。
       今のアレンの腕だったら、容易く叩き折る事だって可能のように思えてくる。
       ラビの目にはそうとしか思えない程脆そうに映った。

       まるでガラス細工のような腕だなとラビは思った。





       言葉を発することが出来ないほど、驚きに固まってしまった二人を見てアレンが慌て
       る。
       「だっ大丈夫!ケガじゃないですよ?ホラ!最近ずっとアクマと交戦続きだから・・・・」
       強張る顔で必死に笑顔を浮かべようとしながら、アレンは言い繕う。

       『これのどこが大丈夫といえる?』

       心配をかけまいと必死に弁解するアレンには悪いが、二人には到底「大丈夫」という
       言葉を信じることが出来なかった。
       「ちょっと武器が疲れちゃったっていうか・・・・・・・」
       「武器が疲れるなんて聞いたことねェぞ?」
       「なんだろ?寄生型だからとか??」
       「適当に言ってんだろ?」
       理由にするには厳しい内容の言い訳を言うアレンに、ラビは内心肩を落しながらも、
       的確にツッコミを入れる。

       そう。武器が疲れるなんて言葉は前代未聞の表現なのだ。

       そんなことよりなによりも、いくら寄生型の武器といえどイノセンスを発動している時は
       まだしも、通常の状態で形状が崩れること事態異常といえよう。
       あははは・・・・・と乾いた笑いで誤魔化そうするアレンをラビは複雑な気持ちで眺めて
       いた。




       「―――――アレン、ちょっといいか?」

       ラビがアレンのもとを訪れたのはその日の夜であった。

       「?はい、構いませんよ?どうかしたんですか、ラビ?」
       先ほどまで何やらリナリーと二人で話していたアレンだが、今は夜空を見上げることが
       出来るベンチに座っていた。
       「いや・・・・・・腕の方は大丈夫なのか?」
       言葉を濁しながら、ラビは気まずそうにアレンに問いかける。
       「えぇ。昼よりは大分よくなりましたよ?」
       「嘘つくなよ」
       「え?」
       にっこりと微笑みながら話すアレンだが、ラビにはその微笑みは無理やりに作られた
       ものだということに気づく。
       ラビは素早くアレンの左腕を掴み取り、昼にリナリーがやったことと同じように服の袖を
       捲り上げる。
       「あ・・・・・」
       「―――――やっぱりな」
       そう呟くラビの視線はアレンの左腕に注がれる。


       確かに昼に見た時より幾分かは良くなっているようだ。
       だが、それはあくまでも「幾分か」であって決してもと通りに治ったことを指すわけでは
       ない。
       「だ、大丈夫ですよ!?こんなの寝て起きれば治っちゃいますよ!!」
       「そんな軽い状態じゃねーだろ?」
       「・・・・・・・・・」
       黙りこむアレンを見て自分の言葉が的を射ていることを確信した。
       自分の腕の状態は自分が一番わかっているのだろう。
       「っ!うわぁっ!!?」
       ラビはいきなりアレンを抱きしめた。
       「ら、ラビ!?なにして「アレン」
       いきなり抱きしめられてうろたえ、離れようとするアレンに、ラビは静かに名前を呼ぶ。

       「頼むからあんま一人で無茶しようとしないでくれ・・・・・・」
       「してませんよ」
       「いや、してる。そんでその左腕が何よりもの証拠だ」
       そう言ってラビはアレンの左腕を指差す。
       アレンは事実なので反論のしようもなかった。
       「確かにアレンの左眼は便利さ。だからって無理をしてほしいわけじゃない」
       「それは、そうだと思いますが・・・・・」
       「なら、わかってくれアレン」
       ラビはアレンを抱きしめる腕に更に力を込めて、耳元で囁くように言う。


       「―――わかりました、無茶はしませんから・・・・」
       「あぁ・・・・・・」
       アレンの言葉を聞いてラビは納得したように頷き、すっと身を離して一度アレンと正面
       から向き合う。
       「・・・・・・・・・・」
       「・・・・・・・・・・」
       ラビはアレンの肩にそっと手を置き、お互い沈黙を保ったまましばらくの間見つめ合
       う。
       そして、同時にお互いの顔を近づけ、



      触れるだけの軽いキスをした。



      星空の下、二つの影は一つになったまましばらくは動くことがなかった。












       ※言い訳
       まず最初に、
       これは2000hit記念、フリー小説なのでお持ち帰りは自由です。
       連絡などは特に必要ありませんが、掲示板などで知らせてもらえれば管理人は喜ぶ
       ので、カキコなんかしてやって下さい。

       今回はびみょ〜〜〜に甘い?というかシリアス?書いた本人もよくわかってはいませ
       んが(←ヲイ!)
       とにかく、ラビアレを目指してみました。
       ――が、全然ラビアレって感じじゃないですね・・・・・・。
       しかもキスシーンなんか入れようとしましたが、見事に玉砕!私には甘いシーンを書く
       のは無理なんですかねェ・・・・。

       どうか、こんなのでよければ貰ってやって下さい!!

       2005/5/12