ミネルバ内にある一室で、シンたちは世界のニュースを見ていた。チャンネルを変えていると、オーブのニュースが映し出された。

『5月18日にはアスハ代表の生誕を祝うパーティーが盛大に行われることになり・・・』

「あっ!」

 突然真っ黒になったモニターにルナマリアは声をあげ、そのままシンに非難するような視線を向けた。モニターの電源を切ったシンは、憮然とした表情でルナマリアを見返す。

「アスハの誕生日なんてどうでもいいだろ」

「ニュースに一通り目を通すのは当然のことでしょ!もう・・・」

 シンがアスハを嫌っていることは百も承知だが、だからといって・・・と、ルナマリアはため息をついた。もう少し大人になって欲しい・・・と思いたくなる。キラがいれば、絶対こんなことしないだろうに。

「・・・レイ?どうしたの?」

 と、そんなやり取りの横で黙り込んでいるレイに、ルナマリアは首をかしげた。

「5月18日・・・」

「カガリ・ユラ・アスハの誕生日がどうしたの?」

 先ほどのニュースで言っていた日付を繰り返すレイに、ルナマリアはなおさら首をかしげた。そんな彼女に、レイは考え込んだ表情のままで、ポツリと言った。

 

 

 

「いや・・・双子なのだから、キラも同じ日ではないのかと思ったんだが・・・」

 

 

 

「「・・・ああぁ!!!」」

 レイの言葉にようやくその事実に気づいた2人の叫びが、ミネルバ中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後、自室にいたキラの耳にパタパタとかけて来る足音が聞こえてきた。

「キラ!」

 元気にそう声をあげて部屋に入ってきたのは、桃色の髪の少女。

「ミーア?どうしたの?」

 突然のミーアの来訪に、キラは目を瞬かせた。彼女だけでなく、この家に来る人はたいてい前もって連絡をしてから来る。それはここが最高評議会議長の家であるがためだ。

 だが、今日は何も聞いていない。キラがそう思って首をかしげると、ミーアはにこっと笑ってキラの傍に来た。

「キラに渡したいものがあって、寄らせてもらったの!」

「え?」

「これ!」

 きょとん、とするキラに、ミーアはなにやら差し出した。一つはリボンで飾られた箱で、もう一つは可愛くラッピングされた袋だ。

「なに、これ?」

 首をかしげるキラに、ミーアはなんでそんなこと聞くの?といわんばかりの表情で言った。

 

 

「何って・・・誕生日プレゼント!」

 

 

「誕生日・・・?」

 ミーアの言葉に、キラはふとカレンダーに目をやり、納得したように言葉を漏らした。

「・・・そっか・・・。今日・・・」

 今日は5月18日。自分の誕生日だということにキラはようやく気がついた。というか、正直なところ自分の誕生日は別にどうでもよかったのだが・・・。

 そんなことを考えていたキラの手に、ミーアは差し出していたプレゼントを乗せた。

「こっちはラクスさんから預かったもので、こっちは私から!」

「え、ラクスからも?」

 ミーアの口から出てきた名前にキラが思わず聞き返すと、彼女はこくりと頷いた。

「そ!本当は自分で渡しに来たかったみたいなんだけど、ちょっと難しかったみたいで・・・。これだけ送ってもらったの」

 普段オーブにいるラクスがそう何度もプラントを訪れたらアスランやカガリに怪しまれる、と判断したのだろう。前回は父親のお墓参り、という手が使えたが、さすがにそれは暫くは使えないだろうし。だからラクスは、代わりにミーアに託したようだ。

「そっか・・・ありがとう、ミーア」

「ううん!喜んでくれたなら、ミーア、嬉しい!」

 微笑を浮かべて御礼を口にするキラに、ミーアは嬉しそうに笑った。こういう笑顔は、ラクスとは似ても似つかないな・・・とキラは思った。

「失礼します。そろそろ・・・」

 と、そこに見知らぬスーツを着た男性が入ってきた。その男性の姿に、ミーアが不満げな表情を浮かべる。

「え〜・・・、もう?」

「はい。お願いします」

「は〜い」

 しぶしぶといった感じで返事をするミーア。どうやら何か用事の途中で寄ってくれたらしい。今はまだ『ラクス』が必要ではないとはいえ、彼女には色々としなければならない事があるようだ。

「それじゃあ、キラ!またね!!」

「う、うん」

 ミーアはそう言うと、その男性とともに部屋を出て行った。それを見送ったキラは、渡されたプレゼントをテーブルの上におき、リボンを解いた。

「あ、可愛い・・・」

 ラクスから、といわれた箱の中に入っていたのは小さな銀細工の羽根がついたイヤリングだった。ミーアがくれた袋の中に入っていたのは手作りかどうかはわからないが、美味しそうなクッキー。

「後でラクスにお礼のメールしておかないと・・・」

 そう呟いたキラは、ふと時計に視線を屋って、慌てて立ち上がった。

「っあ!今日、呼ばれてたんだっけ・・・!!」

 そう声をあげ、慌ててキラは身支度を整え始めた。実は昨日の夜、シンからのメールでミネルバに来て欲しい、といわれていたのだ。ミーアの突然の来訪で、危うくそれを忘れてしまうとことだったキラは、簡単に支度すると、急いで家を出た。

 

 

 

 

 

「キラ!!」

 軍本部に着くと、待ちかねていたかのようにシンが駆け寄ってきた。

「シン、どうしたの?こんなところで・・・」

 ミネルバまでの行き方ならすでに覚えているのだから、別に迎えにこなくてもいいのに・・・とキラが呟くと、シンはばつが悪そうに目をそらした。

「・・・仕方ないだろ。ルナたちに邪魔だって追い出されたんだから・・・」

「え?」

「あ、いや、こっちの話。とにかく行こうぜ」

 首をかしげたキラにあいまいに笑うと、シンはキラの手を引いて歩き出した。彼らが向かうのは軍港に停泊しているミネルバ。だが、ミネルバの中に入ると、普段入るはずのクルー達の姿がまったくといっていいほど見えず、キラはまた首をかしげた。

「ねえ、シン?今日、何かあるの?」

「あ、あぁ。まぁな」

 キラの問いかけにシンはそれだけ言うと黙り込んでしまう。まるで、余計なことは口にしないために・・・といわんばかりだ。

 そんな彼の様子に、キラはさすがに戸惑いを隠せなかった。だが、それを聞くより早く、別の声が響いた。

「シン、遅いよ!」

「好きで遅くなったんじゃねえ!」

 食堂のドアの前に立っていたのはメイリン。彼女の言葉に、シンは心外だと言わんばかりに言葉を返した。

「メイリン?いったいどうしたの?」

 状況がわからずに首をかしげるキラに、メイリンはにっこりと笑った。

「えへへ。いいからこっち来て」

 メイリンはキラの腕を引っ張ると、ドアの前に立たせ、そして中に声をかけた。

「キラが来たよ〜」

「?」

 今までは来たとしてもこんな風に言われることはなかったため、キラは頭の上にはてなマークを飛ばしてメイリンを見る。だが、彼女はその視線には答えず、ぽんっとキラの背中を押した。

「はいって、キラ」

「え、あ・・・」

 意外と勢いよく押され、キラはバランスを崩し、転びそうになりながら部屋の中へと入った。どうにか体勢を立て直し、顔を上げたキラの視界に飛び込んできたのは・・・。

 

 

 

「キラ、誕生日おめでとう!!!」

 

 

 

「・・・え?」

 聞こえてきたその言葉と目の前に広がる光景に、キラは呆然と目を瞬かせた。

 そこにいたのは全員ではないにしろ、ミネルバのクルーのほとんどだった。簡単なものではあるが、食堂内は何かのパーティーのように飾り付けられている。

「ほら、キラ。こっち来て!」

 呆けているキラの腕を取り、ルナマリアが促す。そんな彼女の行動に、キラはようやく我に返って声をあげた。

「こ、これ、どういうこと!?」

「どういうことって・・・キラの誕生日パーティーに決まってるじゃない」

「・・・って、なんで僕の誕生日知ってるの!?」

 先ほどのミーアはおそらくラクスから聞いたのだろうから分かる。だが、この船のクルーの人には教えた覚えはないのに・・・と思うキラに、ルナマリアは苦笑してレイを指し示した。

「私達は全然気づかなかったんだけどね。レイが気づいたのよ。アスハ代表の誕生日が5月18日なら、キラもそうなんじゃないかって」

「・・・あ・・・」

 ルナマリアのその言葉に、キラははっとした。確かに彼女の言うとおり、双子である自分とカガリの誕生日は同じだ。そのことを、キラはすっかり忘れていた。

「で、でも、こんな・・・タリアさんが怒るよ・・・?」

 ここは軍艦で、今は軍務中のはず。それなのにこんな、一般市民である自分のためにこんなことをしたら、艦長であるタリアが怒るのではないだろうか。そう思ったキラに、シンが言った。

「ちゃんと許可取ってるに決まってるだろ。今は任務中じゃないし、たまにはこういう気分転換もいいだろ、ってさ」

 だから心配するなよ、というシンにキラは言葉がでなかった。そんなんでいいのか、という思いと、それ以上に彼らの言葉と行動がとても嬉しく感じられて。

「キラ」

 レイがキラの手を取り、用意していた席に座らせる。それを待って、シンたちは声をそろえていった。

 

 

 

「それじゃ、改めて・・・キラ、誕生日おめでとう!」

 

 

 

「・・・ありがとう、みんな!」

 彼らの言葉に、キラは回りが見惚れてしまうほどに綺麗な笑顔で言葉を返した。

 

 

 

 

 

 

 それから暫くはルナマリアたちが用意してくれた料理などを食べ、色々な話をしながら過ごした。ちなみにシンが自分の迎え役になったのは、部屋の飾り付けをするのに邪魔だったから、らしいということだった。

 キラは断ったのだが、押し切られるように多くのプレゼントも貰ってしまった。シンからはカラフルなキャンディの詰め合わせ。レイからはシルバーのブレスレット。ルナマリアからはカジュアルな洋服。メイリンからはお勧めだという化粧品。それ以外にも他のクルー達からも大量に貰ってしまったキラは、それでも笑顔でそれらを受け取っていた。

 

 

 そんなことをしているうちに、いつの間にか外は暗くなってしまっていた。

「盛り上がっているところ悪いのだけど、そろそろお開きにしてもらえるかしら?」

 食堂に入ってきたタリアの言葉に、キラは「あっ・・・」と声をもらして立ち上がった。

「あの・・・タリアさん。ありがとうございます!」

 ぺこりと頭を下げるキラに、タリアはやさしい笑顔を浮かべた。

「いいのよ。いつも気を張り詰めていたんじゃみんな疲れてしまうもの」

 こちらも気分転換になったのだから・・・とタリアはキラに言った。もちろんそれは嘘でもなんでもなく、タリアは心からそう思ったのだ。

「ねぇ、キラ。これ・・・どうする?」

「え、あ・・・」

 ルナマリアの問いかけに視線を向けたキラは、困惑したような表情を浮かべた。その視線の先にあったのは、つい先ほど貰ったプレゼントの山。どう考えてもキラ一人で持って帰れる量ではない。

「なんだったら、俺が家まで持っていくか?」

「え、そんな・・・!悪いよ・・・!」

 シンの言葉に、キラは首を横に振った。こうして祝ってくれただけでもキラはとても嬉しくて、だからこそこれ以上シン達に余計な迷惑を掛けたくはなかった。シンたちからすれば迷惑でもなんでもないのだが、キラはどうしてもそうは思えないのだ。

 どうしたものか・・・と考える彼らに、タリアが苦笑を浮かべて言った。

「心配する必要はなさそうよ」

「え?」

 その言葉に視線を向けたキラは、はっと目を見開いた。タリアの後ろのドアから、男性が入ってきたのだ。

 

 

「ギルバートさん!」

 

 

「ぎ、議長!!」

 突如姿を見せたのはギルバード。その姿にルナマリアたちは慌てて敬礼した。それを片手で制すると、ギルバートはキラに近づいた。

「こうなるだろうと思ってね、迎えにきたのだよ、キラ」

「あ、ご、ごめんなさい・・・」

 また迷惑をかけてしまった・・・としゅんとするキラに、ギルバートは優しく微笑んだ。

「謝る必要はないよ。私が好きでしていることだからね」

 そういい、彼は優しくキラの頭をなでた。そして、シン達に視線を向ける。

「そう言うことだから、キラはつれて帰らせてもらうよ?」

「・・・はい」

 ギルバートの言葉にシンが不満げな表情を浮かべながらも頷いた。キラと同居しているのだから仕方ないとはいえ、やはり美味しいところを持っていかれるようで癪だったが。

「どうぞ」

 その横でキラの貰ったプレゼントを紙袋にまとめたレイが、それをギルバートに差し出した。

「あ、僕が・・・」

「キラには重いだろう」

 キラがそれを受け取ろうとするが、ギルバートはそれより早くレイからそれを受け取った。レイも初めからギルバートが持つものと判断して彼のほうに差し出したようだ。

「それでは行こうか」

「はい。・・・あっ」

 ギルバートの言われて歩き出そうとしたキラだったが、ふと足を止め、少し考えるような仕草を見せた。

「・・・キラ?」

「えっと・・・シン、ちょっと来て?」

「え?俺?」

 指名されたシンは困惑しながらもキラの傍に行った。すると、キラはくいっとシンの腕を引き・・・。

 

 

「あ〜〜〜!!!」

 

 

「っ!!」

 食堂内にいたクルーの叫びが響き、シンは呆然と目を見開いた。キラが、シンの頬に口付けたのだ。

「シンも、みんなも、本当にありがとう」

 キラは周りの驚きには気付かずに笑顔でそう言うと、ギルバートとともに食堂を出て行った。

「・・・さて、彼はどうなるかな・・・」

「?」

 ギルバートの含んだ笑みとその言葉に、キラは小首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 その後キラは帰りの車内でギルバートから小さな天使の飾りがついたネックレスを貰った。そして帰宅した後は家の人たちが誕生日を祝ってくれた。それは、キラにとってはとても嬉しいことだった。

 

 

「ふぅ・・・」

 自室に戻ったキラは、ベッドの上で息を吐いた。今日一日驚きもあったがとても楽しいものではあった。ただ、体力的には少々辛いものもあり、少し疲れてしまったのだが。

「・・・ありがとう・・・」

 静かに目を閉じたキラは、そう呟いた。みんなが祝ってくれたことは本当に嬉しかった。だが、それは『祝ってくれたから』だけではなく。

 

 

―――『僕』はまだ・・・生きていていいんだよね・・・?

 

 

 自分が生まれてきたことを、生きていることを喜んでくれた彼らに、キラは喜びと同時に強い安心感を覚えていた。彼らは、全てを知っているのに。それでも、『生きていていいんだ』といってもらえたような気がして。それが、キラにとっては何よりも、どんなプレゼントよりも嬉しかった。

「・・・あ」

 と、キラは思い出したように声をあげると、ベッドから起き上がった。そして、パソコンの電源を入れ、メールを打つ。

「こんなの、自己満足だけど・・・」

 呟きながら、キラは、短い文章を打つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『誕生日おめでとう、カガリ。君に、ハウメアの加護があらんことを・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 件名も書かず、送信者さえも分からないようにして、キラはそれを送信した。そんなメールが、彼女の目にとまるわけがない。開かれる前に削除されるのがオチだろう。それは、十分分かっていた。それでも・・・。

―――それでも、僕は君が生きていてくれることが、嬉しいんだ・・・。

 どんな理由があろうとも、例え世間的に認められることはなくとも、彼女は自分の唯一の肉親なのだ。今、ここにいるとはいえ、彼女のことが嫌いになったわけではない。ただ、自分の存在が彼女たちの足枷になるのが、嫌だから。そして、彼女たちに縋るわけにはいかなかったから。だから、彼女たちのもとを離れたのだ。

 

 

―――産まれてきてくれて、生きていてくれてありがとう、カガリ・・・。

 

 

 

 

 窓から夜空を見上げたキラは、心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

Novel

 

 

 

 

 

 と、言うわけで(?)キラ誕生日記念小説です。でもカガリの誕生日も祝ってます。

 ストーリーが駆け足で、なおかつギルさんやシンたちのシーンが短めなのはメインが一番ラストの部分だからです。一番書きたかったのが、カガリにメールを送るキラのシーンだったので。他のシーンはそこにたどりつかせるまでに付け加えたのでむちゃくちゃです(汗)

 キラがシンの頬にキスしたのは単なるお礼です。ギルさんがよくそういう事をしてくるので、キラもなんか『変だ』と感じなくなっちゃってるようですね(苦笑)あの後シンがどうなったのかは皆さんのご想像にお任せします・・・(ぉぃ)

 それでは、こんな駄文でよろしければどうぞお持ち帰りください。