―居場所―













       僕はここにいてもいいですか―――――?






       ヤキン・ドゥーエ攻防戦、先の戦争が停戦してから一年がたった。

       その戦争締結に大いに貢献した、第三勢力の中心人物であるキラ・アスラン・ラク
       ス・カガリ、その他AAクルー達などは地球にあるオーブに降り、各々の生活を送っ
       ていた。




       雲一つない、高く澄んだ蒼い空が広がっている日。

       潮の匂いが強く漂う砂浜の波打ち際に、人影が一つぽつんと立っていた。

       潮の匂いを運ぶ心地よい風が、チョコレートブラウンの髪を軽く揺らしていく。
       空の蒼と海の青が交差する水平線を飽くことなく見つめる瞳は、光の加減で様々な
       色合いを見せるアメジスト。
       はっとするほどよく整った顔立ちがとても眼を引く美しい青年―――キラ・ヤマト。
       公に発表されていなてが、先の戦争を終わらせた英雄の一人である彼は今、ラクス
       と共にマルキオの孤児院でマルキオや子ども達と暮らしている。




       「―――――!」
       遠く離れた所から、誰かの叫ぶ声が聞こえてきたので、キラは水平線を眺めるのを
       やめ、そちらの方へ振り返った。
       誰だろう?と振り返った眼に飛び込んできたのは、今ここにあるはずのない太陽の
       光を模したような金。
       「キラ―――――ッ!!」
       金色のそれが近づいてくるにつれ、何を叫んでいるのか聞き取れることができた。

       それは自分の名。

       それと共に近づいてくる金色の全貌もはっきりとしてくる。
       金色の髪、琥珀色の瞳、色彩こそ違えど、色を交換すれば見分けがつかないほど
       酷似した顔の造り。
       そう。キラの唯一の肉親であり、双子の片割れでもあるカガリ・ユラ・アスハ。
       「キラッ!・・・・・・はぁ、ここにいたのか」
       「どうしたのカガリ?」
       息を切らしながら駆け寄ってくるカガリを、キラは不思議そうに見つめる。
       「お前を探していた」
       「僕?なんで??」
       カガリの簡素な返答に、キラは首を傾げながら問いかける。
       「今日、休暇をもらった。だから気晴らしに街へ買い物にでも出ようかと思ってな」
       「え?カガリは今日休みなの?」
       カガリの返答にキラは驚く。

       なといってもカガリはオーブ国の代表、停戦して一年が経ったといっても国の復興
       やら何かと多忙の身なのだ。
       だからそうほいほいと休みを取ることもできない、かといって一国の代表とて人間、
       休まなければ体を壊してしまう。
       そういう意味を含めば、何も休みだということは不思議ではない。

       「そういうことだ。だからキラ、お前私の買い物に付き合え」
       「僕が?」
       「そういうわけだから、カガリの買い物に付き合ってやってくれないか?」
       「―――アスラン、ラクス・・・・・・」
       カガリが目の前に立っていたので今まで気づかなかったが、カガリのすぐ後ろに
       アスランとラクスが立っていた。
       「キラ、たまには街でお散歩というのもいいのではないですか?」
       「・・・・・・そう、かな?」
       「はい。こんな所にお一人でいらっしゃるよりは、きっと気分転換になると思います
       わv」
       「うん、そうだよね」
       そこでラクスとキラはお互いに微笑み合う。
       と、今まで黙って三人のやり取りを見ていたカガリが動きを見せた。
       「わかったのならさっさと行くぞ、キラッ!!」
       「えっ、うわぁっ!?」
       早く街へ買い物に行きたいカガリは、焦れて困惑しているキラの腕を取り、そのまま
       引きずるように道に止めておいたエレカに向かう。
       遠ざかる二人の後姿を、アスランとラクスは静かに見送った。




       「これで少しは気分転換になって頂けるといいのですが・・・・・」
       「あぁ、そうだな・・・・・・」
       キラはあまり笑わなくなった。仮に笑ったとしても月影のように淡く微笑む程度で、
       華なやかな笑顔を見せることはなくなった。
       戦争に巻き込まれる以前―――といっても、月にいた頃の話だが、その頃のキラは
       本当によく笑う子どもだった。
       しかし戦争が終わった頃には、控えめでどこか翳りのある笑い方しかキラはしなくな
       ってしまった。
       そんなキラを、アスランとアスランからよく月にいた頃のキラの様子を話してもらって
       いたラクスは居た堪れない気持ちで見ていた。

       地球に降りてからのキラは、どこか遠くを見つめるような瞳でボーっとたたずんで
       いるか座っているかで、魂ここにあらずな様子が常であった。
        それがここ最近のキラは顕著で、気配が儚く、薄いことに相乗して今にも消えてし
       まうのではないかと、キラを知っている周りの者皆が心配していたのだった。

       『―――どうか、彼をこれ以上追い詰めるようなことが起こりませんように・・・・・』
       それが周りの者達の一致した想いであり、願いであった。
       エレカに乗り込むカガリとキラの姿を彼らは見えなくなるまで見送っていた。



       「―――では、お二人が楽しんでいる間に、私たちも早く準備に取り掛かりましょう
       か?アスラン」
       「そうですね、ラクス。二人をびっくりさせてやりましょう」
       「ふふっ。楽しみですわねv」
       「えぇ。―――マリューさんやバルドフェルドさんにも手伝ってもらいましょう」
       「そうですわね」
       そして彼らは準備に取り掛かるべく、孤児院の方へ歩みを向けた。




       「―――ところで、なんで今日休み貰えたの?」

       街へ買い物に来ていたカガリとキラは、粗方欲しいものは買い揃えたので、一息
       つく為オープンカフェのテーブルの一つに座って、のんびりとお茶を飲んでいた。
       「ん?あぁ、日頃の私の働きぶりに感謝の意味を兼ねて、キサカのやつが休暇をく
       れた」
       「へ?」
       働きぶりに感謝って・・・・・・キサカさんはそういう理由では休みとかあげないと思う
       んだけど・・・・・・。
       キラは内心、苦笑をしつつそう思った。
       「――――っていうのは冗談として、ささやかなプレゼントだそうだ」
       「プレゼント?」
       小首を傾げて聞いてくるキラにを見て、カガリはやっぱりと呆れたように溜息をつく。
       「キィラ〜〜〜?お前、大事なこと忘れてないか?」
       「大事な、こと??」
       何のことだ?とカガリに視線で問うと、やれやれ・・・・と軽く額に手を当てる。
       「キラ・・・・・今日は何月何日だ?」
       「え?5月18・・・・・ぁ、ぁあっ!!?」
       何を当たり前なことを聞くか、と思いつつ応えようとして、はたとあることにキラは気
       づく。
       「やっと気づいたか。ったく私の誕生日―――ひいては自分の誕生日の日にちを忘
       れるやつがあるかっ!!」
       「あはははっ!ごめん、ごめん」
       前半は呆れつつ、後半はやや憤るカガリにキラは笑い誤魔化しつつ謝る。

       あはははって、んな大切な日を忘れるなよキラ・・・・・。

       良く言って天真爛漫、悪く言うと間の抜けた双子の片割れに、カガリは眩暈を覚え
       る。

       「それじゃあ、このお茶を飲み終わったらまた買い物に行こうか?」
       「え?何でだ??」
       キラの言葉に、カガリはお茶を飲む手を止める。
       そんなカガリにキラはきょとんとした表情で答える。
       「だって、ついさっきまで今日が自分の誕生日だってこと忘れてたんだよ?だから
       もちろんカガリの誕生日プレゼントなんて僕用意してないよ。それ買いに行こ?」
       「へ?プレゼント、買ってくれるのか??」
       「当たり前でしょ?誕生日忘れてなかったら、ちゃんと用意しといたよ」
       だって、大切な家族の誕生日だし。そう言ってキラはふんわりと微笑む。
       「そ、そうか・・・・だったら誕生日を忘れていた罰として高い物強請ってやるからな
       っ!!」
       カガリは久々に見たキラの暖か味のある微笑みを見て自分の頬が熱くなるのを感じ
       つつ、照れ隠しに少し拗ねたような態度をとる。
       「うん、わかった」
       カガリのそんな態度を微笑ましく感じつつ、キラはそう答えた。


       その後、お茶を飲み終えた二人は、カガリの誕生日プレゼントを買いに再び街へ
       出かけた。




       「ただいま――――って、あれ?」
       「なんだ?真っ暗じゃないか」
       街へ買い物に出かけた二人がマルキオの孤児院へと帰ってきたが、孤児院の中は
       電気が点いておらず真っ暗だった。
       「なんで電気ついてないんだろ?」
       「さぁな・・・・」
       暗い部屋に二人は怪訝に思いつつも、手探りで電気のスイッチを入れた。
       ―――――と、

       「HAPPY BARTHDAY!!!」

       パンッ!パンパンッ!!

       突然発せられた言葉と共に、部屋中にクラッカーの音が響き渡る。
       「なっ・・・・・・・・」
       電気を点けた部屋の中には、たくさんの料理を並べてアスラン・ラクス・マリュー・
       バルドフェルド・カリダ・マルキオ、そして子ども達がクラッカーを片手に皆立ち並ん
       でいた。
       「改めて誕生日おめでとう、キラ・カガリ」
       「おめでとうございます、キラ・カガリさん」
       「おめでとう、キラくん、カガリさん」
       「誕生日おめでとう、キラ・カガリ」
       「誕生日おめでとう、キラ、カガリさん」
       「おたんじょうび、おめでとう!!」
       皆口々にキラとカガリに祝いの言葉を述べる。

       「・・・・ありがとう皆」
       「サンキュウな/////」
       突然のことでぽけんとしていた二人だが、このビックリ企画の意図を理解すると嬉し
       そうにお礼を言った。
       「っはぁ〜〜〜、ったく!びっくりしたぞ!!」
       「ふふっ。お二人に内緒で準備をした甲斐がありましたわvvv」
       未だに目をぱちくりさせながら驚きを隠せないでいるカガリにラクスは嬉しそうに笑
       う。
       「驚いたか?キラ??」
       「アスラン・・・・・うん。何も聞いてなかったからびっくりしたよ」
       「当たり前だ。内緒にしておかないとびっくりしないだろう?」
       「それもそうだね」
       「だろ?」
       尤もな言い分に、二人はくすりと笑い合う。
       「キラ、アスラン。冷めないうちに料理を頂きましょう」
       皆から少し離れた所で笑いあっているキラとアスランにラクスが声をかける。
       「うん、今行くよ」
       「あぁ、わかった」
       ラクスに返事を返して二人はテーブルの席に着く。


       程なくして楽しげな話し声と笑い声が部屋に響く。
       「あのっ!」
       食事中、キラが突然声を上げた。
       「どうかしましたか?キラ?」
       ラクスがそんなキラに問いかける。
       今まで談笑しながら食事をしていた他の人達も、食事をする手を一旦止めてキラに
       視線を集める。
       「あっ・・・・・・えっと、――――ありがとう」
       少し口篭りつつも、キラは最近は滅多に表に出さない、きれいな笑顔をで笑った。

       誕生日を祝うことが出来て本当によかった。

       誰と無く、それが全員の一致した思いだった。
       「喜んでくださって、こちらとしても大変に嬉しいですわ」
       皆を代表してラクスがにっこりと笑って答えた。


       楽しく食事をする皆をキラは眺めながら、キラは改めてここにいてよかったと思えた
       のであった。

       自分たちの力で掴み取ったこの平和がいつまでも続きますように。
       キラはただそれだけを願った。
       もう誰も泣かずにいられる世界を、こうして笑い合える世界。
       ただそれだけを――――。








       僕はここにいてもいいですか―――――?


       皆が笑い合っているその傍に・・・・・・・・・・・・・・・。








       ※言い訳
       というわけで、キラ&カガリのお誕生日記念小説です。
       ちなみにフリー小説なので、皆さんどうぞご自由にお持ち帰りください。

       2005/5/18