「・・・・・・ラ―――ッ!キラ―――ッ!――――ったく、どこに行ったんだよあいつは・・・・・」
目にも眩しいほどに輝く太陽。その陽光を遮り、涼やかな影を落す木々の梢。
天気のとても良い昼下がり、少し不機嫌そうな呼び声が響き渡る。
「キラ〜〜〜っ、キラってばぁっ!!」
叫び声の主は一人の少年。
陽光を跳ね返さずに、そのまま吸収してしまいそうな少しクセ毛の髪。
燃え上がる炎のような真紅の瞳を持った少年。名前はシン・アスカである。
辺りを注意深く見渡しながら、ゆっくりとした歩調で道を歩く。
先程、キラを見かけなかったか?とそこらへんの生徒を捕まえて聞いてみたところ、何人か体のいい生徒たちに連れ
られて中庭の方へ行ったということがわかったので、中庭に彼の人物を探しに来ていたのだった。
呼び声に返事が返ってくるのを最初から期待はしていない。
ただ、何かしらささやかなものでもサインが貰えればそれでいい。
そうすれば自分はキラを見つけることができる。
しかし先程からずっと名前を呼び続けているが、何の反応も返ってこない。
もしかして別のところに移動したのか?と考え始めた頃、茂みの奥から数人分の怒鳴り声が聞こえてきた。
「はぁ・・・・・・あいつも面倒ごとが多いな全く・・・・・・」
まっ、俺も言えたことじゃないけど。
そう口の中で呟きつつ、怒鳴り声のした茂みの奥の方へ足を向けた。
〜僕らの日常〜
「大体お前は生意気なんだよ!なんでお前みたいなやつがトップ10に入るんだか・・・・」
「――――どういう意味?」
キラは今、8人の男子生徒に囲まれていた。
どうやら更正と称した私刑らしい。はっきりいって迷惑だ。
補説させてもらうと、今キラを囲んでいる男子生徒たちは現在アカデミー内、赤のトップであるシンをやたら目の敵にし
ていた。
当初は今のキラのように集団私刑をしようとしていた。が、相手を痛めつけるどころか逆に返り討ちにあい、病院送り
にされることがしばしばであった。(もちろん、大人のあずかり知らぬところで行われていた)
親の七光りを笠に着てアカデミーに入った連中なので、見た目ほど強くはないというのが現状。
しかし、自尊心だけが人一倍・・・いや、三倍くらいある連中なので、自分たちが成績不良でトップ10入りができないこ
とに苛立ち、周囲に当り散らしていたのだった。
そして彼らの目にちょうど留まったのがシン。明らかに自分たちより体つきが小さく、年下だ。更に言ってしまえば態度
がやたらとでかい。
もちろん、彼らの目にはただのチビで不遜な若輩者としか映らなかっただろう。
そんな輩に返り討ちに合って黙って引き下がれるほど彼らは大人ではなかった。
そこで目を付けられたのが常日頃シンと行動を共にしているキラである。
「そのままの意味だよっ!ちっこいし、細いし、いつもへらへら笑ってて緊張感の欠片もなさそうな態度しやがっ
て!!」
「そういうこと、見た目だけで判断しない方がいいんじゃないの?」
「はっ!それは自分が強いって言いたいのか?自意識過剰にも程があるな!!」
「え?そういうのとは言いたいことが違うんだけど・・・・」
相手の言葉を聞いて、キラは不思議そうに首を傾げて言う。
だって、とっても図体がデカイ人で意外に俊敏な動きをする人とか、腕力がなさそうな人で遠心力を利用してとてつもな
く鋭い攻撃をしてくる人とか、見た目からは判断のつかない人って結構いるんじゃない?というのがキラの考えなのだ
が、頭に血が上っている脳みそ極小腕力・体力バカ達には通じるはずもなく、逆に自分達を見下すセリフと取られてし
まったらしい。
「しかも女みたいな顔しやがって!」
「―――・・・・別に顔は関係ないんじゃないの?」
さすがにこのセリフにはキラもカチンときたので、声が少し刺々しいものになる。
「へっ!どぉ―だかっ、そのお綺麗な顔とか使って教官達を丸め込んで成績とか高くしてもらってんじゃねぇの?」
「―――本気でそんなこと考えてるの?だとしたら馬鹿じゃない?」
「んだとっ!このっ――――ぐはぁっ!!?」
呆れ果てたキラのセリフにぶち切れた生徒の一人がキラを殴ろうとしたところ、腕を振り上げて無防備になった脇腹に
突然襲った衝撃に言葉を止める。
「はぁ、やっと見つけた。こんな所で何油売ってるんだよキラ・・・・・・かなり探したぞ?」
「あ、シン」
相手を蹴り飛ばしたのはキラを探し回っていたシンだった。
「『あ、シン』じゃないっ!一緒に昼飯食べる約束しただろ?ルナ達も待ってるんだからな!」
「えっ、ごめん。ルナ達先にお昼ご飯食べてないの?待たせちゃってるんだ・・・・・」
「そう!だからこんなヘボイ奴等ほっといてさっさとメシ食いに行こうぜ」
「うん、そうだね」
「っていうか、俺等を無視してんじゃねェ―よ!!」
思いっきり存在を無視されてしまったシン曰くヘボ達は、無視されることに耐えかねたらしく五月蝿く喚く。
「別に無視したわけじゃない、アウト・オブ・眼中なだけだ」
「それって意味的にあまり大差ないと思うよ?」
「そうか?」
「うん」
「なめやがって――!」
とうとうキラ達を囲んでいた者達の内の一人がキレてシンに殴り掛かる。が、あっさりとシンに避けられ、逆に返り討ち
に合う。
「モーションが大きすぎ、そんなんだと簡単に動きが見切られて返り討ちに合うぞ?」
あっ!でももう返り討ちに合っちまった後だな。
半ば呆れたように言いながら、返り討ちに遭って地面に沈んだヘボA(仮)を見下ろす。
『このっっ!!!』
ヘボAの動きを皮切りに、他のメンバーもシンとキラに殴り掛かる。
「ったく、面倒だよなぁ〜」
「ごめんねシン。つき合わせちゃって」
「別にいいけどさぁ、早くこいつら倒して昼飯食いに行こうぜ」
「うん、そうだね―――っと!」
キラは自分に向かって真っ直ぐに突き出された拳を首を軽く傾げてあっさりと避ける。
「やっぱヘボだな」
「なんだとっ!!!」
シンの言葉に逆上した3人(仮にヘボB・C・Dとする)が同時に三方向から殴り掛かる。
「遅っ・・・・・・・・」
ポツリと呟きつつ、シンは一番最初に殴り掛かってきた相手の攻撃を、受け止めずに腕を取り後ろへ流す。
後ろに流した腕がシンの後方から攻撃を仕掛けてきた別の仲間に直撃する。
さらに言えば、その仲間の攻撃を腕を取って後ろへ流したそいつを盾にすることによって防ぎ、仲間同士の相打ちに
する。
そして残りの一人の腹に容赦なく蹴りを叩き込むことによってあっという間に決着を着ける。
「ふぅ・・・・・・弱っ!!?手応えのないやつらだな〜っと、キラは?」
そう言いながらシンはキラの方に視線をやると、キラの足元に転がっている残りの4人(ヘボE・F・G・H)が目に映っ
た。
「終わったか〜?」
「うん。こっちはそんなに時間が掛からなかったよ?」
「―――って、相手した数が俺より一人多いのにか?」
「え―・・・、だって懐ガラ空きだったし」
そういう問題じゃないだろ?
自覚無しな程質の悪いものはない。
シンは天然でぽやぽやしてるくせに、実は見た目を破格に裏切って自分がとてつもなく強いのだということをキラに自
覚してほしいと思った。
「じゃあ、食べに行くぞ!早く食べないと昼休みが終わっちまう」
「うん、そうだね。それじゃあ行こ「待ちやがれっ!!」
「うげっ、まだいたのかよ・・・・・・」
「あっ、シンが一番最初に蹴り飛ばした人だ」
「あのまま気絶してりゃあいいのに」
「うるさい、うるさい、うるさいっ!!お前ら二人ともなめたこと言いやがってぇっ!!!」
ヘボA(仮)はそう喚き散らしながらポケットからあるものを取り出す。
「・・・・――流石にそれは、なぁ?」
「それはちょっと拙いんじゃないかなぁ・・・・・・」
取り出したものはサバイバルナイフ。それに対してシンとキラは手ぶら。
はっきり言って洒落にならない。
「黙れェェッ!!!!」
そう叫ぶと二人に向かってナイフを斬りつける。
「うわぁっ、と・・・・危ないだろ!!」
「うわっ!殺傷沙汰起こして困るのそっちなのに・・・・・」
「いや、殺されたりしたらこっちも困るだろっと!!」
「あっ、そうか・・・・よっと!」
ナイフで斬りつけられて不利な状況だが、二人は余裕を持って会話をしながら刃の切っ先を鮮やかにかわす。
「ふざけるなぁぁっ!」
「いや、至って真面目なんだけど・・・え?うわっ!!?」
今まで余裕にナイフを避けていたキラだが、こともあろうか足元にあった大きめの石に躓き、体制を崩す。
「っらあぁぁっ!!!」
チャンスとばかりにヘボAは身動きの取れないキラに向かってナイフを振りかざす。
「―――っ!キラ!!」
それに気づいたシンは慌てて止めようとするが、わずかに遅い。
キラに容赦なくナイフが振り下ろされた。
「くっ・・・・・・!」
シンはヘボAの手を蹴りつけてナイフを弾き飛ばす。
さらに相手の米神に拳を容赦なく叩き込んで昏倒させ、地面に倒れこんだキを慌てて覗き込む。
「キラッ!大丈夫か!!?」
「う・・・・・ん、なんとか。頬を少し掠って切っただけ」
そう言われ頬の方へ視線を向けると、確かに少し切れていて血が滲んでいた。
「・・・・・・そっか・・・・・・・」
たいした(シンにとってはそうでもないが)ケガがないことにシンはほっと息をつく。
安堵すると共に、今度はキラの大事な顔に傷をつけてくれやがったヘボAにふつふつと怒りが沸いてくる。
「―――っ!・・・・うっ、くそっ!」
「―――まだ意識があったのか・・・・・ちょうどいい、俺、お前にたった今用事ができたところだったんだ」
そう言いながらシンは口元に暗い笑みを浮かべながら、一歩相手へと踏み出す。
「用、って何が・・・・・」
「俺ってさ、理不尽な暴力って大っっっ嫌いなんだ」
そう言いながらヘボAに近づいていくシンは、不機嫌オーラもとい暗黒オーラの勢いを増していく。
そう、許しはしない。自分の大事なものを全て奪っていったあんな理不尽な『力』など・・・・・。
ただ逃げるだけで身を守る術を全く持っていなかった自分達を容姿なく襲った爆発。
あの時、自分は己の非力さを嘆かずにはいられなかった。
力が欲しかった。自分の大切なものを守り抜ける力が。
だから許せない。守る為の力を一方的に奪うための力として使うやつが。
「へ?・・・・・っ、ひいぃぃぃっ!!!」
恐怖に慄く、引きつったような悲鳴は木立に反芻して他人の耳に届くことはなかった。
その後、彼がどうなったのか知る者はシンとキラの二人のみ。
「―――ふぅ、あ〜すかっとした!」
「・・・・・ちょっと気の毒な気も・・・・・」
「何言ってるんだよ、ああいう奴等はこれ位痛めつけた方がちょうどいいんだよ。・・・・・・・・それより傷の方は大丈夫な
のか?」
ブラックからホワイトに戻ったシンは、改めてキラに怪我がないか確認する。
(頬の切り傷以外にも、もしかしたら打ち身や打撲などあるかもしれないから)
粗方確認したシンは、キラが頬以外は何処にも怪我をしていないことに安堵の溜息をつく。
「だいじょーぶ!こんな傷舐めておけば治るような傷だし、ほったらかしにしても全然平気」
手をぱたぱた振って大丈夫だとアピールするキラをシンは目をやや眇めて見る。
「ふぅ―――ん」
「ふぅ―――ん、ってあのねぇ・・・・・・え?」
シンは気のない返事をしながらキラに顔を近付けると―――ペロリと傷口を舐めた。
「〜〜〜っ!シーンー!!?」
頬を舐められたキラは、一瞬呆然としたが、立ち直るとシンを睨みつけた。
対するシンの方はというと、斜に構えながらキラの方を見て意地の悪い笑みを浮かべている。
「舐めとけば治るんだろ?」
「あ〜の〜ねぇ、そういう問題じゃないでしょ?」
「いーじゃんか、減るもんじゃないし♪」
「あー、もういいよ。早くルナ達の所に行こ?ずいぶん待たせてるから」
「あぁ、そうだな。行こうキラ!」
そして二人はその場を後にした。
こうして二人は無事(?)に食堂に辿り着くことができたが、かなりの時間待ちぼうけをくわされたルナマリアに、その後
永遠と説教させられる羽目になった。
「―――今度は真面目に相手なんかしないで、即行で逃げることにするよ」
「・・・・・・そうだな、そうした方がいいぞ、キラ」
これがアカデミーでの彼らの日常。
※言い訳
今回のリクエストはシンキラとのことだったので、アカデミー同期設定で書いてみました。
こんな話でいいんでしょうか?あんまりシンキラっぽくない・・・・・・。
2005/8/17