「うっ・・・・・・・・・・・・・・」
「―――!アスラン・・・・・・アスラン」
「キラ・・・・・・・・・・・・・・」
シンの操るデスティニーによって撃破され、そのまま気を失ったアスランが目覚めて初めて眼に映したものは紫
の色彩だった。
害虫駆除大戦―ヘタレvs女帝―
意識の底から目覚めたばかりのアスランは、どこか現実離れした心地で虚ろにその色彩を眺めていた。
が、次の瞬間、その色彩が自分の知る彼の友人の瞳の色だということに思い至って、アスランは痛む身体を無
視してキラに抱きつこうとした。
―――と、そこにアスラン目掛けて豪速球で飛来してくるものがあった。
「アッカンデェ〜〜〜!!!」
「くっ!」
キラ目掛けて抱きつこう(襲い掛かろう)としていたアスランは、持ち前の反射神経をフル稼働してその物体の奇
襲を回避する。
ドゴォアァァァッッッ!!!!!
ものすごい破壊音と共に飛来してきた物体が壁に突っ込んだ。
「な、何だ!?」
「え?何??」
突然の襲撃者に二人は驚きの声を上げる。
そして襲撃を受けたアスランは驚いて壁の方を見た。
ちようどアスランの顔の横―――つい数秒前までアスランの顔があった場所の高さに丸い球体なるものがのめり
込んでいた。
もし、避けていなかったら、脳震盪どころか頭蓋骨が粉砕していただろう。
どの位の威力を持っているのか、球体がのめりこんでいる周辺が異様に凹んでいて、蜘蛛の巣状に細かいヒビ
が入っている。
唖然としてそれを見ていると、ボコッ!と音を立ててその球体が壁から抜け落ちて、アスランの横でコロコロ
と転がる。
「ハロッ!ハロッ!アスランvvv」
丸いボディにピンクのカラーリング。耳のような部分をパタパタと動かしているその物体は――――
「なっ・・・・・ハロ!?」
横に転がっている球体、もとい襲撃の犯人の正体はハロだった。
「ふぅ・・・・・・外してしまいましたわ」
ハロを見て固まっていた二人の耳に残念そうな響きを含んだ声が届いた。
「〜〜〜っ!ラクス!!」
「お気づきになりましたか、アスラン?」
そう言って医務室に入ってきたのはピンクの歌姫こと、今は宙《そら》にある戦艦エターナルにいるはずのラクス・
クラインその人であった。
「えっと・・・・ラクス?ハロが突っ込んできたんだけど・・・・」
「あらあら、驚かせてしまいましたか?申し訳ありません、ちょうどそこに悪い虫が居りましたのでピンクちゃん
に退治して貰おうとしたのですが・・・・・・・巧く逃げられてしまいましたわ」
そう言ってラクスは頬に手を当てて、ふぅと溜息を漏らした。非常に残念そうだ。
「え?そんなのがいたんだ」
「えぇ、悪さをする虫だったので、早めに退治してしまおうと思ったのですが逃げ足がとてもお早いようで・・・・・・」
「―――そうなの?」
「はい、そうですわvvv」
ラクスの言葉を疑うこともせずに、キラは納得したように一つ頷く。
(いや、そこで納得するなキラ!ラクスはかわいらしく笑っているが後ろになんか黒いものが見えるぞ!!!)
二人のやり取りを見ていたアスランは、内心そうツッコミを入れていた。
「ところでラクス、どうして君がここにいるの?」
ラクスが宙へ上がっているとばかりに思っていたキラは、疑問の言葉を口にする。
そんなキラに、ラクスはにっこりと微笑んで答えた。
「実は私、うっかり忘れ物をしてしまいましたの。それで一旦AAに戻ってきたのですが、重傷を負ったどっかの
誰かさんを拾ったというではありませんか。私びっくりして慌ててこちらに来たというわけですの」
「へぇ〜、そうだったんだ」
「はい、そうなんですv」
少々、引っかかりのある内容の会話だが、傍から見れば穏やかに笑い合う美男美女のカップルの図である。
この絵はアスランにとってはひじょーにおもしろくない。
(『へぇ〜』じゃないっ!ラクスがうっかり忘れ物なんてするはずがないだろう、そんなピンク悪魔に騙されるなキ
ラ!!!)
内心、ラクスに悪態をついていたアスランに注がれる視線が一つ。それはラクス本人のもの。
アスランとラクス。二人の視線がぶつかり合う。
以下はアスランとラクスの目線だけで交わした会話です。
(お黙りなさいヘタレが!こんな変態が親友とは・・・キラが不憫でなりませんわ!!)
(んなっ!?誰が変態ですか!誰がっ!!!)
(そんなこと言うまでも無くあなたに決まっているではありませんか、アスラン)
(どこをどう解釈すればそうなるんですか!)
(そんなこと、先程キラに抱きつこうとしたことが何よりもの証拠ではないですか!)
(あ、あれは久々に生のキラを見て感動のあまりの行動でっ!)
(ほぅ、無意識の行動でしたの?では変態ではなく、野蛮人で上等ですわね)
(誰がっ!!!)
終了。
水面下の攻防など全く知らないキラは、二人の間に流れる微妙な空気に?を飛ばす。
アイコンタクトを強制終了したラクスはキラににっこりと微笑み掛ける。
「そうですわ!キラ、アスランに何か飲み物を持ってきては頂けませんか?起きたばかりなので、喉が渇いている
と思いますから」
そう言ってラクスはアスランを見遣る。
「飲み物?うん、いいよ。じゃあちょつと貰いに行ってくるね」
「あ、あぁ・・・・ありがとう」
「お願いしますわ」
キラは飲み物を貰いに行くために医務室を出て行った。
「―――さてと」
キラが医務室を出て行くのを見送ってからラクスは口を開いた。
「一人勝手に飛び出して行って、よくのこのこと戻って来れましたわねアスラン・ザラ」
キラ専用歌姫スマイルを消し、害虫専用腹黒スマイル(カガリ命名)を顔に浮かべる。
この瞬間、室内温度が一気に3〜5度位は下がった。
「カガリに断っておいたので勝手に出て行ったわけではありませんよ、ラクス。それよりも、ハロを改造しました
ね?俺があなたにあげたハロにはあれほど凶暴になるようなプログラムは組み込んだ覚えはないのですが?」
そう、アスランがラクスにプレゼントしたハロには確かに防犯機能を付けたが、催涙ガスや痺れ薬付仕込
針、熊もイチコロ☆超強力スタンガン、対人用レーザー
砲・・・・・・等々、ちょっとしたもの(←どこがっ!?)しか付けていないはずなので、製作者であ
るアスランにハロが襲い掛かってくるはずがないのである。
そう思い、アスランはラクスに疑問を問い掛ける。
「いえ、私はピンクちゃんのプログラムはいじっておりませんわ!ただ、ちょっと『キラに近寄って
くる害虫撃退プログラム』を別個に搭載しただけですわvvv」
あと、ピンクちゃんのボディの強度をほんのちょこっと上げただけですから♪
そう言って笑うラクスの表情はひじょ――に清々しく輝いている。そりゃあもう、背景が小川の流れ、花が咲き乱
れる原っぱが見える位に。
「そんな危ないもの、今すぐはずしてください。無闇にハロに襲い掛かられては他の人の迷惑になります」
こちらも負けじと、アスランもにっこりと微笑む。
ただし、こちらは冷や汗と少々引きつった笑みだが。
「それは出来ない話というものですわ、アスラン。ピンクちゃんが反応するのは、あくまでキラに近寄
ってくる害虫であってそれ以外の方たちには何ら害はありませんもの。ですから、キラに邪な考
えや不埒な考えを持って近づいたり、セクハラならびに変態行為をしよう
としたり、甲斐性なしのヘタレな悪い虫でなければノープロブレムですわv」
「・・・・・それが俺だとでも言いたいんですか、ラクス?」
「まぁ!よくお分かりになりましたわね!!!」
じと眼で問い掛けてくるアスランにラクスは頬に手を添えてビックリしたように答える。もち演技。
「『よくお分かりになりましたわね』じゃないっ!失礼にも程があります!!」
「どこら辺がですか?久々に対峙した親友に、自分のことは棚に上げて罵詈雑言を吐きまくったらしい
ではないですか!カガリやミリアリアさんからきちんと聞き及んでおりますのよ?そのようなことをほざいた口が害
ではなくて何になりますの?」
「うっ・・・・・それは・・・・・・・」
ラクスの糾弾する言葉に、アスランは口篭る。
「それは、何です?まさかあれほどの暴言、キラに言っておいてそ知らぬ顔で再開できるなどという、そんな虫
のいい話考えておりませんわよね?仮にキラが許しても、私含めAAの人たち・・・・その他大勢の人が何
かしらの制裁を実行するのは自明の理ですわ♪」
「え゛っ!?・・・・・あ――・・・・・・;;」
もしかして、今ここでベットに横になっていられるのは奇跡なのか?
現状を見、これから先の未来を想像してアスランは背中に滝のような冷や汗を流す。
「だいたい、あなたは―――」
「飲み物貰ってきたよ―――!」
マシンガントークでアスランを攻めに攻めるラクスの言葉も、キラが医務室に戻ってくると同時にぷつりと止まる。
「ごくろうさまですわ、キラ」
「うん。はい、アスラン飲み物」
「あぁ、ありがとう」
にっこりと笑って渡された飲み物を受け取り、アスランはキラに礼を言う。
そして飲み物を口に含んだ瞬間―――――
「―――!○△×☆?◇〆」
アスランは言葉にならない呻き声を上げた。
そんなアスランを見てニヤッと笑うのは飲み物を渡した張本人のキラ。
その隣にいたラクスも突然のことに眼を瞬かせたが、すぐにうふふふvとうれしそうに笑う。
「ゴホッ!ゴホッ!―――き、キラこの飲み物・・・・・・・・」
「うん。砂糖をこれでもかっ言うほど入れたやつ」
むせ返って半ば涙目で問い掛けてくるアスランにキラは実に爽やかな笑顔で答えた。
そう、アスランに渡した飲み物には砂糖がものすごい濃度で入れられていたのだ。
「なんでまたそんなものを―――――」
「あのね、アス。僕だってこの間のことは頭にこなかったわけじゃないからね。これ位のいたずらはもちろん許して
くれるよね?」
そう言ってニコニコと笑っているキラのこめかみをよくよく注意して見てみると、青筋がくっきりと浮かんでいまし
た。
「・・・・・・・・・・ごめんなさい」
「謝ることないよ、アスラン・・・・・・・・ただし、これからしばらくは一言も口を利かないからそれを覚悟しておいてね」
「え?ちょ、・・・おい、キラ!」
「それじゃあ行こうかラクス。向こうにお茶を用意しといたから」
「はい、喜んでvvv」
アスランに口を利かないと宣言したキラは、ラクスに向き直るとにつこり微笑んでお茶に誘う。
ラクスの方も全開の笑みでそれを了承し、退出を促す。
「それでは、私はキラと二人きりの楽しいティータイムを楽しんできますわ!アスランもお大事に・・・・それでは失
礼しますわvvv」
キラと二人っきりは決定事項なんですか?なんて野暮な突っ込みは決してしないように。
そうして、キラとラクスの二人は医務室の後にしたのだった。
これは余談だが、キラに一言も口利かない宣言をされたアスランはキラ欠乏症(←なんだよその病気;;)になり、
ラクスが新しく持ってきたジャスティスを強奪(厳密に言えば違うが)して、キラに会いに行ったがシンの乗るディス
ティニーに邪魔をされ(アスランの私的見解)、モニター越しの通信にさえ出て貰えなかったアスランはガックリと肩
を落してAAに戻るのであった。
おまけ
「ところで、キラ。アスランとはいつまで口を利かないおつもりですの?」
いい香りが立ち上るアールグレイを口に含みながらラクスはキラに問い掛ける。
「う〜〜ん、そうだなぁ・・・・・・特に考えてなかったな。その場の勢いで言ったようなセリフだし」
ラクスに問い掛けられたキラは、小首を傾げながらそう答える。
こちらはミルクと砂糖を入れてミルクティーにして飲んでいる。
「それなら、一ヶ月くらいにしてみては如何ですか?さらには、口を利かないだけではなく徹底的に避けてみれば
流石のアスランでも堪えると思いますわよ?」
「えっ?一ヶ月も?それはちょっと長いんじゃ・・・・・・・」
「いいえ!あんなデコには一ヶ月など短い位ですわ!!」
「そ、そうかな?(で、デコって・・・・・・・・)」
「はいっ!そうですわっ!!!!」
拳をぐっと握って力説するラクスのおかげで、キラがアスランに口を利かない+避け続ける期間が一ヶ月に決まっ
たのだった。
(うふふふふっ!いい気味ですわ♪私はずっと根に持つタイプですのよアスラン?)
この後、ラクスは手を変え品を変えて尽力の限りにアスランに嫌がらせをするのであった。
※言い訳
久々の害虫駆除です。
今回はラクスVSアスランを書きました。もちろんラクスは最強(凶)です。
今回、途中キラが黒っぽかった感じですが、白です。誰が何と言おうとも白なのです。
この害虫駆除は、最低一人は黒キャラがいるのですが・・・・・・次は誰が黒くなるのかな?
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2005/8/31