ビターなお菓子はいかがですか?













「ただいま帰りました・・・・・・って、わっ?!」

「アレ〜ン!おかえりvv」


ホームと呼べるノアの一族の住処へと久方ぶりに足を踏み入れたアレンは、途端に己へと抱きついてきたロードに若干体勢を崩した。
抗議の意を含めてロードへと視線を向けると、そこにはニコニコと上機嫌な笑みを浮かべた彼女の顔があった。
そんなロードの表情に怒る気もそがれ、アレンは出掛かった文句を飲み下し、はぁ〜・・・・と浅く息を吐いた。


「・・・・ロード、頼みますからいきなり抱きつくのは止めてくれませんか?」

「やだ♪」


なけなしに紡がれた懇願にも似た言葉も、彼女はたった一言で切り捨ててしまった。
どこか疲れたように肩を落とすアレンに、ロードは「それよりも〜」と言ってニッコリ笑いつつ手のひらを差し出してきた。そして――――


trick or treat!


・・・・と、言ってきた。
アレンはいきなりのことで一瞬ぽかんとした表情をその顔に浮かべたが、徐々に苦笑じみた笑みにへと変えていった。


「なんです?お菓子が欲しいんですか?」

「んーん!どちらかというと悪戯が目的v」


だってそっちの方が面白そーじゃん?

ニッ!と悪戯っぽく笑い、何やら企んだ顔をするロード。
あぁ、碌でもないことを企んでそう・・・・。と、アレンは心中でそう思った。


「・・・・で、お菓子持ってるの?持ってないの??」


ニヤニヤと意地悪く笑っているロードの眼は、「もちろん持ってないよね〜♪」と言っているのが良くわかった。
が、そこはアレン。ふぅ・・・と息を吐いた後、にっこりと華が咲くような笑みをその顔に浮かべた。


「はい、ロード♪」


アレンはそう言ってロードに手のひらに収まるような小さな袋を手渡した。
その袋はカボチャのランタンや星、魔法使いなど可愛らしいイラストがプリントされており、中には様々な一口サイズのお菓子が入っていた。
ロードはそれを確認すると、つまらなそうに口先を尖らせた。


「ぶぅー。何でお菓子持ってるのぉ?」

「だって今日はハロウィーンでしょう?お土産として買ってきたんです。まさかこんな形で渡すことになるとは思っていなかったですけど・・・・」

「ちぇっ、後になってから言えばよかった」

「ふふっ!残念でしたね」


口では文句を言いつつも、ロードは袋の口を縛ってあるリボンを解き、中のお菓子を取り出して口へと入れている。
アレンはそれをニコニコと微笑みながら見ている。と、ふいにアレンの肩に重みが増した。


「ふーん、じゃあ俺にもお土産あるの?」

「・・・・・重いですよ、ティキ。鬱陶しいから背後から覆いかぶさらないでください」

「え〜、いいじゃん別に。スキンシップ、スキンシップ♪」

「いいからさっさと離れろ?」

「いででででっ!!」



アレンはニコッ!と可愛らしい笑みを浮かべながら、肩に置かれたティキの手の甲を容赦なく抓り上げた。
手加減などされていないそれはもちろんかなり痛く、ティキは仕方なく距離をとる羽目となった。
ちょっぴり涙目になりつつ、赤くなった手の甲にふぅふぅとティキは息を吹きかける。


「ん〜、容赦ないねアレン」

「はっ!自業自得です」


詰め合わせのお菓子の中から選び出したキャンディーをペロペロと舐めながら、特に感慨もなさげにロードは感想を漏らした。
アレンはそんなロードの言葉に、馬鹿らしげに言葉を吐き出した。
ティキはそんな二人の会話に、「なんか二人とも俺に対して冷たくないか・・・・?」と寂しげに呟いているが、そこは完全に無視である。


「お前ら・・・・・俺を苛めて楽しいか?」

「まぁまぁ、ですかね」

「ん〜、ボクはあんまり。面白いよりもウザイの方が比率が高いし」

「Σうざっ?!・・・・・・・・・まぁ、いいや。で、アレン。俺にお土産は?」


ロードにウザイと言われてショックを受けたティキであるが、これ以上追求しても返される言葉は目に見えているので、その話題はそこで打ち切った。
そして先ほど問うた言葉を、もう一度重ねてアレンに聞いたのであった。
アレンは「ちょーだいv」と言わんばかりに差し出されたティキの手のひらを一瞥し、ニッコリと笑んで・・・・


「ありませんv」


とキッパリ言い切った。
それはもう物凄くええ笑みで―――。


「・・・・・マジで?」

「はい、マジです」

「・・・・・・・・・・・」

「♪」


もう、ここまでくれば立派に苛めである。
ティキは視線を遠くへと飛ばしつつ背中に影を背負っていたが、ふと何かを思いついたような表情になった。


「アレ〜ンv」

「・・・・何ですか、そんなニヤついた顔で」

trick or treat」

「・・・・・そうきますか・・・・・」


アレンは思わず半眼になってティキを見遣った。
そこまでしてお菓子を―――いや、この場合はお土産を貰いたいのか。
呆れた表情をするアレン。
しかしいつまで経ってもそれ以上の行動を起こさないことに業を煮やし、ティキはつかつかとアレンに歩み寄った。そしてクイッとアレンの顎を掬い上げるとシニカルな笑みを浮かべると、その耳元で囁いた。


「別にお菓子をくれなくてもいいんだぜ?その代わりにちょっとした悪戯を・・・・・」

「あ、今思いつきました。ティキへのプレゼント」

「・・・・思いついたの?思い出したんじゃなくって;;」

「はいvですから遠慮なく受け取ってくださいね?ティキ」


アレンは目が笑っていない状態でそう言うと、間を空けずに行動を起こした。
ティキが「やばい!」と思う間もなく、それはきた。

鳩尾へのストレートパンチ、下から抉るようなアッパーカット、そして止めは頚椎への回し蹴りの三連コンボ。
アレンは実に流麗な所作でそれを容赦なくティキへと叩き込んだ。
ティキは避けることもできずに、それをもろに食らった。そしてベショッ!と床に倒れ付した。


「どうです?なかなかにビターでしょう?」

「そ、そんな菓子いらねー。っていうか、そもそも菓子ですらないし・・・・」

「いやですねぇ〜。そこは憎悪溢れる家族愛でカバーですv」


くだらないことを考えるからですよ?

アレンは冷笑を浮かべつつ、いまだに床に潰れたままのティキを見下ろした。









trick or treat。ビターなお菓子はいかがですか―――?











※言い訳
ハロウィーン企画第一弾。少年陰陽師よりもこっちのネタの方が先に思いついたので、まずはこちらを完成。
今回はノアアレン設定で書いてみました。ティキ苛めがとても楽しかったです♪うちでの彼らの遣り取りは大体こんな感じです。ティキが憐れ。
こんなお話でよければ、どうぞお持ち帰りください。


2007/10/27