溢れる笑顔と笑い声













そろそろ西の青空が黄色みを帯びてくる時刻。


涼やかな風の流れと共に、チョコレートブラウンの髪が揺れる。

カサカサと紙が擦れる音に、ふいに瞬きをしてキラは背後を振り返った。


「買い物につき合わせてごめんね?シン、ルナマリア」

「やぁだー、そんなこと気にしないでくださいよ!皆でするパーティですよ?私達だって勿論参加するんですから、買出しくらいお手伝いしますよ。ね?シン」

「俺は別に・・・・・・今更ハロウィーンパーティなんて、そんな餓鬼臭いこと・・・・あだっ?!」


億劫げに文句をぐちぐち言うシンの後頭部を、ルナマリアは容赦なく叩いた。


「んもうっ!何渋面なんか作っちゃってるのよ!大体、パーティはマルキオさんの所の子供達のためにやるのであって、別にあんたのためにするわけじゃないんだから・・・・・・・。そんなに嫌なのなら今のうちに帰りなさいよ、私はキラ達とパーティを楽しんでくるから」

「誰も嫌だって言ってないんだろ?!ただ、久々だなぁとは思ってるけど・・・・・・・」

「前はシンもパーティやってたの?」


どこか懐かしむような目をするシンに、キラは問いかけた。
シンはそれに頷いて返した。


「・・・・・・家族がいた時は・・・・・マユがそういうの、好きだったし・・・・・・キラこそどうだなんだ?」

「僕?僕は月にいた頃ならやってだけど・・・・・・・・」

「えっ!キラって月に住んでた時があったの?」


ルナマリアが身を乗り出して聞いてくる。


「うん、小さかった頃に住んでたよ・・・・・・。その時はアスランとアスランのお母さんも一緒にパーティをしたけど・・・・・・・」

「・・・・・・あの人がそういったパーティに参加するなんて以外だ・・・・・・・」

「ははっ!うん・・・・アスランはあの頃からしっかりしてたからね、僕みたいにはしゃぐようなことはなかったよ?パーティだって僕がやりたがったからやってたようなものだし・・・・・・・」

「うわぁ〜、そんな小さい頃から可愛げがない子供だったんだな、あの人」

「まぁ、アスランのお父さんが議員の一人だったからね・・・・・躾とかは厳しかったんだよ」

「ふ〜ん?」


キラ達はそんな会話をしながら、マルキオ達が住んでいる家へと向かう。
家の前までやってくると、子供達が遊んでいるのが見えた。


「あっ!キラお兄ちゃん達だ。お帰り〜!」


遊んでいた子供の内の一人がキラ達に気がつき、近寄ってくる。
それに合わせて他の子供達も同様にキラ達の元へ集まってきた―――主にシンとルナマリアに向かって。


「あ?一体どうしたんだよ??」


シンは訝しく思い、目の前の子供達に問う。

子供達は互いに顔を見合わせ、にっと笑い合うと一斉にシン達に向かって手を出した。


「トリック・オア・トリート!!」


にこにこと笑いながら手を突き出してくる子供達の姿を見てポカンとしていたシンは、ふと我に返ると苦々しい表情を作って言葉を紡いだ。


「・・・・・・ハロウィーンパーティは夜にあるんだろ?その時に言えよ」

「え〜、不意打ちじゃないと面白くないじゃん!」

「そうだよ。じゃないといたずらもできないしねぇ〜」

「そっちが目的かっ!?」


どうやら子供達は悪戯をするのが目的のようだ。
シン達がお菓子を持っていないだろうとあたりをつけて言ってきている。


「で?お菓子持ってるの持ってないの?」

「そんなの持ってるわけ・・・・・・」

「はい、これ」

「わぁーっ!飴玉だぁ、ルナお姉ちゃんありがとう!!」

「はっ?!なんでお菓子なんて持ってるんだよ?ルナ!」

「別に私がお菓子を持っていようといまいと、シンには関係ないでしょ?」

「うっ・・・・確かに、それはそうだけど・・・・・・・」


子供達に好きな飴玉を選ばせているルナマリアに喚くシンだったが、ギロリと睨まれてしまえばそれ以上言葉を紡ぐことができない。

シンはルナマリアへ文句を言うのを諦め、その代わりにキラへと方向転換をする。


「ところで、どうしてあんたは『トリック・オア・トリート』って言われないんだ?」

「ん?あぁ・・・・・僕はもう朝の時に言われたから・・・・・・」


流石に二回言われることはないって。

そうキラは苦笑して答えた。


「ねぇ、シンお兄ちゃんはお菓子持ってないの?」

「・・・・・・・・;;」

「じゃあいたずらだ決定だね!」

「いたずら〜♪」

「おぅわっ?!こ、こら!首っ、首が絞まるって!!」


子供達の内の一人がシンの首へと飛びつく。
他の子供達もそれに倣って腕にぶら下がったりする。

もちろんシンは買い物の荷物を持ったままなので、荷物の重さに子供達の重さがプラスされて悲鳴を上げる。


「お、重っ!いやいや待てって!荷物を落としちまうだろっ!!?」

「あははは〜♪」

「笑い事じゃないって!!」

「まぁまぁ、とても楽しそうですわね〜」

「あっ!ラクスぅ〜。シンお兄ちゃん、お菓子を持ってないからいたずらしてるの〜」

「そうでしたの。でも、そろそろ家の中に入りましょうね?そろそろ日が沈んでしまいますわよ」


ラクスはそう言うと西の空を見上げた。

空は茜色に綺麗に染まっている。

ラクスの言葉に子供達は「はーい!」と元気良く返事をすると、いそいそと家の中へと入っていく。


「た、助かった;;」

「ふふっ!シンは子供達に大人気ですわね」

「まぁ、シンは遊び甲斐があるから・・・・・」

「なんだとっ?!」

「(クスクス)僕達も中に入ろう?パーティの準備をしなきゃね?」

「はい。子供達も楽しみにしていますから」


賑やかに会話をしつつ、キラ達も家の中へと入っていった。










「アスラン?言われたもの、買ってきたよ?」

「あぁ、すまないな。結構な量になっただろ?」

「大丈夫。シンとルナマリアが手伝ってくれたから」

「そうか」


買い物袋を抱えたキラが、ひょっこりとキッチンに姿を現す。
そして手に持っていた買い物袋をテーブルへと置いた。
後からやって来たシンとルナマリアも、キラと同じようにテーブルへと荷物を降ろした。


「は?あんたが料理を作るのか??」

「そうだが・・・・・何か問題でもあるのか?」

「いや、あんたって大概なんでもできるんだなって・・・・・・・」

「は?あぁ・・・大体のことは何でもできるが・・・・・全てが全てできるわけじゃない。完璧な人間なんて世の中には存在しないからな・・・・・・・・」

「まぁ、そうだろうけど・・・・・・」

「アスランの料理、美味しいよ?」

「いや、別に味付けの心配とかしてるわけじゃないんだけど・・・・・・・・」


っていうか、この人の場合なんでもできて寧ろ当然のように思えるし。料理だって凝ったものを作りそうだし・・・・・。


「―――あんた、生まれてくる性別間違ってないか?」

「ほぅ・・・・シンは夕飯が抜きで良いらしいな?」

「え゛っ?!い、いやっ!誰もそんなこと言ってないし!!」

「問答無用だ。馬鹿な発言をするシンが悪いんだぞ?」

「そっ、そんな〜(泣)」


半泣きのシンに、しれっとした表情で答えるアスラン。

それを見ていたキラは、思わず声を出して笑った。
それを見ていた周りの者達もつられて笑い出し、家の中には笑い声で溢れた。











その後、夜になってシンが夕飯にありつけたかどうかは定かではない―――――――――。















※言い訳
これまた久しぶりの種運命のお話です。
このお話は種運命の後の未来設定で書いております。キラ達とシン達の仲がそれなりに親密なものになっているという設定でハロウィーンネタを書きました。何分資料など何一つ持っていないので、名前とかどこかおかしいところがあるやも・・・・・・・。
もし、気に入ってくださったらお持ち帰りしてくださいませ。

2006/10/28