温もり溢れる時間を貴方と共に |
「ぐれーん、ぐーれーん!」 「ん?どうした昌浩」 一口サイズに切られたにんじん、じゃがいも、豚肉やたまねぎ、糸こんにゃくにさやいんげんなどが、味付けされたつゆの中でコトコトと煮られている。 丁度小皿につゆを取り出してその味見をしていた紅蓮は、パタパタと近づいてくる足音にそちらへと視線を向けた。 数秒と経たぬうちにその足音の主――昌浩は台所へと飛び込んできた。 「ぐれん、ちょっときて!」 「Σうおっ?!ちょ、ちょっと待て昌浩!!」 己の腰の位置くらいにしか身長のない子どもがタックルを仕掛けてきたので、紅蓮は少しばかり体勢を崩してよろめいた。 そんな紅蓮の様子などお構いなしに、昌浩は紅蓮の手を取るとぐいぐいと引っ張り、どこかへ連れて行こうとする。 紅蓮はそんな子どもの様子に苦笑を漏らしつつも、鍋にかけていた火を止め、それに蓋をしておく。味の方はばっちりだったので、後は火を止めて具材につゆの味を染み込ませるだけなのである意味で助かった。これで天ぷらなど揚げ物をしていたら(と言っても自分は鍋物しかできないが・・・)、流石に火元から離れることなどできなかっただろう。 早く!早く!!と急かす子どもに手を引かれつつやって来たのは居間であった。 居間には天一と朱雀、そして勾陳がいた。 昌浩はそこに紅蓮を連れてくると、付けられているテレビを真っ直ぐに指差した。 「ねぇ、ぐれん。あれやりたい!」 「あれ・・・・?」 紅蓮は昌浩の言葉に首を傾げつつも、その視線をテレビへと移した。そして成る程と納得したように頷いた。 「―――あぁ、ハロウィーンか」 テレビの画面には、『ハロウィーン特集!』という文字が躍っていた。 その文字を見て紅蓮は、「そういえば。もうすぐ10月も終わりだな・・・・」と今更ながらに気づいた。 日本では馴染みのないイベントではあるが、そういったものがあるということは広く知られているので季節にちなんで組まれた特番か何かなのだろう。 「で、ハロウィーンということはわかったが、昌浩は一体それの何をやりたいんだ?」 「かぼちゃっ!」 紅蓮の質問に、昌浩はそう一言だけ返した。 昌浩の返答を聞いた紅蓮は、とても微妙そうな顔をした。 ハロウィーンと言われて真っ先に頭に思い浮かぶのはこのかぼちゃという存在であろう。 しかし、かぼちゃと一口に言ってもその用途は様々である。 かぼちゃの料理を食べたいのか、かぼちゃのお菓子を食べたいのか、はたまたかぼちゃのランタンを作りたいのか・・・いや、もしかしたらかぼちゃの仮装、とか? 様々な可能性に頭を悩ませている紅蓮の耳に、くすくすという笑い声が聞こえてきた。 そちらを見ると、天一が微笑ましげに昌浩達を見ながら笑っている姿があった。 「騰蛇、昌浩様はかぼちゃのランタンが作りたいそうです」 「あぁ、『まさもあれつくってみたい!!』って眼をキラキラさせながら言ってたからな」 「で、すぐさまお前の所へと走ったわけだ」 天一、朱雀、勾陳の順に先ほどまでの状況をわかりやすく説明してくる。 紅蓮は同胞の言葉にそうかと頷き、次いで期待を込めて見上げてくる昌浩へと視線を落とした。 「ね、いいでしょ?まさもやってみたい!!」 「それは、別に構わんが・・・・・どうして俺に聞く?」 そういった了承なら、その場にいた天一や朱雀、勾陳などにとればいいのに・・・・・。 わざわざ自分を居間に連れてきてまで了承を得ることだろうかと内心首を傾げている紅蓮に、昌浩はにっこりと笑ってその疑問に答えた。 「だって、ぐれんといっしょにつくりたいんだもん!」 痛恨の一撃。紅蓮は思わぬ言葉に数秒間フリーズした。 その様を外野(天一、朱雀、勾陳)は面白そうに見ている。 はっと正気に返った紅蓮は、改めて昌浩へと視線を向けた。昌浩は依然としてニコニコと笑っているままである。 紅蓮はそんな昌浩を見て、詰めていた息をふっと吐き出した。そして昌浩の頭に手を乗せると、くしゃりとその髪の毛をやや荒っぽく撫でた。 「・・・・・・・あぁ、一緒に作ろうな」 「ほんと?いいの??やったぁー!!」 ふっと優しげな光を宿して細まった金眼を見て、昌浩はぱぁーっと背景に花を咲かさんばかりの嬉しげな笑みを浮かべた。大好きな紅蓮に了承を貰えたことがそれほどに嬉しいのだろう。 そんな子どもの様子を、その場にいた神将達は微笑ましげに見ていた。 「てんいつ!すざく!ぐれんがいいってっ!!」 「えぇ、良かったですね昌浩様」 「うん!」 「こら、天貴から離れろ昌浩!天貴に抱きついていいのは俺だけだっ!!」 「朱雀、少々大人気ないですよ・・・・・」 朱雀の主張の少々困ったような表情を浮かべた天一であったが、朱雀が昌浩を抱き上げて頭をくしゃくしゃと撫で回している姿を見ると思わず笑みを零した。 口では何だかんだといいつつも、朱雀はそれなりに昌浩のことを可愛がっている。 天一にあれこれしても朱雀からの鉄槌が下されないのは、世界広しどいえども昌浩くらいしかいないだろう。 大いにはしゃぎ回る昌浩を見、そして隣にやや呆然とした面持ちで佇んでいる同胞を見て、勾陳はひっそりと笑んだ。 時代は変わろうとも、その魂の在り方は変わることのない人の子。 孤独の中にあった一人の神将の心を救ったその魂の輝きは今も健在。 その魂は今後もその輝きを歪めずに在って欲しいと切に思う。 そのためにまずは己ができる範囲で、何をしてやれるのかを考える。 「――さしあたって、まずはかぼちゃを買いにでも行こうかな?」 「勾・・・・?」 勾陳の口からぽつりと零れた言葉を聞き取った紅蓮が、こちらを訝しげに見遣ってくる。 それに対し、勾陳は口元に笑みを浮かべたまま更に言葉を続けた。 「いや、なに。今ある幸せを保たたせようという、ささやかな計り事さ」 ぬくもり溢れるこの幸せが、この先ずっと続いてくれることを願う。 枯葉散り行く秋の、ありふれた日常の1ページ―――――――。 【おまけ】 「―――ところで、騰蛇。今晩のおかずは一体何だ?」 「え?あぁ・・・。肉じゃがだが?」 「・・・・・・・・・・・・・・・お前、いい加減に(今回は土鍋でないぶんいくらかましだが)鍋料理以外も覚えた方がいいと思うぞ?私は麺類が恋しい」 「・・・・・それは旦那の方に任せる」 ※言い訳 はい、31日ギリギリにお話をUPしました!本当に遅くて申し訳ありません;; 果たして、最初のあの具材のみで紅蓮が肉じゃがを作っていることに気づいた人はいるのでしょうか?うーん、かなりどうでもいいシーンだった気もしますがね。 やっぱり現代パロで話を書くと、ほのぼのしたものになっていいですね♪特にチビ昌浩だと見ていて(書いていて?)微笑ましい限りですし。現代らしさのある少年陰陽師を書けたのではないかな?と思います。 もし、気に入って頂けたら、どうぞご自由にお持ち帰りください。 2007/10/31 |