出張・虚討伐隊!!〜前編〜













Q.未来や過去へ行くことはできますか?


A.不可能です。




「――ところが、神という存在はその不可能を可能にすることなど容易いものだ」

「・・・・・ちょっと待て、一体何の話をしているんだ?」

「つい今し方お前たちが倒した虚は、まだ完全に存在は滅んでおらぬ」

「・・・・一体、どういう意味でしょうか?高於の神」


戸惑いを多分に含んだ視線を向けてくる人の子らを見、高於はさも愉快げに口の端を持ち上げた。


「あの虚は過去・現在・未来に同位体として存在している。故に現在の存在であるあれのみを滅ぼしたところで、過去と未来に存在する同位体の方まで滅ぶことはない」

「・・・えーと、よくはわからんが、つまり過去と未来ではまだあの虚が生きて存在してるってことか?」


小難しげな言い回しをする神に、物の怪は苦い表情を浮かべながらも話を簡素にまとめてみる。
そんな物の怪の言葉に、「まぁ、簡単に言えばそういうことだな」とあっさり頷いて肯定した。


「・・・まぁ、過去や未来と言っても、一秒一秒が過ぎてしまえばそれが過去であり現在であり未来になるのだから、その全てに同位体が存在するのであればお前達はそれら全てを倒すことなど不可能であることはわかるな?」

「そりゃあ、虚を倒した瞬間にまた別の場所にその虚が存在してるって言うんだったら、倒すことなんて不可能だろうが・・・・・・」


高於の言葉を聞き、常よりも割り増しで険しい表情を作る一護。彼の隣にいるルキアも彼同様に渋い表情を作っている。
はっきり言って、そんなめちゃくちゃな存在の虚がいるなどと信じられない。というか、いたら激しく困る。それはその虚を掃討できないということと同義だからだ。


「・・・確かに、それほど細かい時の別れで同位体が存在するのであればその存在を完全に倒すことは不可能だな。しかし、それが今より五年前と後にのみその同位体が存在するのだとしたら?」

「それは・・・その五年前と五年後に存在する虚を倒せばいいのでしょうが・・・・・」


どのみち無理な話である。五年後なら兎も角、五年前などとは過去の話である。時を進めることはできても、戻すことだけは決してできない。そもそも、現在より五年前にも後にも、今すぐに行くことなどできないのだ。どうも仕様がない。

そんな昌浩の呟きを聞いて、彼の神は当然だなと頷いてみせる。


「頑是無い子よ、確かにお前の言うとおりだ。・・・・そこで先の言葉に戻る」

「先の言葉・・・・神という存在はその不可能を可能にすることなど容易い、という話ですか?」

「そうだ。この高於であればその不可能なこと――時渡りなど容易く行うことができる」

「!それは本当か!?」


高於の言葉に瞬時に反応して、一護は思わず一歩前へとその距離を詰める。
高於はその問いにさも当然のような顔をして首肯してみせた。
くつり、とその喉から笑い声が微かに零れ落ちる。


「別に送ってやっても構わぬが・・・・行きは兎も角帰りが大変だぞ?」

「と、申しますと、何か問題があるのですか?」


さも意味深な言葉を紡ぐ神に、ルキアは探るように視線を向ける。


「いや、ただ強く想う必要がある。この時の流れに戻ってきたいという確固たる想いが、な・・・・・」

「それだけ、ですか?」

「確かにそれだけではあるが・・・・一歩間違えれば全く見知らぬ時の流れに飛ばされる可能性があるのだ、それだけとも言えぬであろう?」


まぁ、お前達には心配のいらぬ話であろうがな。

高於がそう言いつつ、徐に腕を振った。
次の瞬間、突風がその場を吹き荒れる。


「高於の神!一つだけお聞きしたいことがありますっ!」


風が荒れ狂う中、昌浩は声を張り上げる。


「なんだ?」

「五年前と五年後、この時に存在する虚を倒せばその虚は完全に倒すことができるのですね?!」

「そうだな。今からお前達を送る先に存在する虚を倒せば、それで完全に倒すことができる」

「おい!高於の神!どうしてそう断言することができるっ!?」


はっきりと断言する神を訝しく思い、物の怪が問いかけの言葉を投げ掛ける。
それに対し返された言葉は、思いもよらぬ言葉であった。


「何、あれを過去と未来に飛ばしたのが私だからな」

「んなっ?!ちょ、おい!それはどういうことだ!!」


しれっとした表情でさらっと物凄いことを言った龍神に、物の怪が噛み付かんばかりの勢いで問い詰めた。


「何、我が膝元でいつまで経っても騒いでいたのでな、煩わしさのあまりにその存在を三つに割り、内二つを過去と未来とに飛ばしただけのことだ」

「なーにーが!飛ばしただけだ!!そもそもの原因は貴様かっ!?」

「まぁそういう訳だな。人の子よ、後は頼んだぞ」

「己の責任を放棄するなーっ!!」


物の怪の叫び声を最後に、いよいよ吹き荒れる風の強さが最高潮に達する。
と、次の瞬間にはそれもぴたりと吹き止み、後には舞い落ちる数枚の木の葉のみが残された――――。







                        *    *    *







「どぉわっ!?」


一護は叫び声と共に地面へと転げ落ちた。
そんな一護の直ぐ隣に、スタッ!とルキアが着地する。


「〜〜っ、いてー・・・・・」

「ここは・・・・どうやら空座町のようだな。おい、一護!一体何をしておるのだ?さっさと件の虚を探し出すぞ」

「・・・・少しはこっちの身の心配もしてくれ・・・・・」


呆れたような視線を送ってくるルキアに、一護はがくりと肩を落とす。
地面に座り込んでいた一護であったが、さっさとしろ!と急かすルキアの声には逆らえず、仕方なしによっこらせと立ち上がる。
と、その時、ふいに背後から声を掛けられた。


「お兄さん達、何してるの?」


この場(現在は夜だ)に似つかわしくない、幼い声が響いた。

ばっと勢い良く背後を振り返ると、暗がりの向こうから人影が近づいてくるのが見えた。
月影がこちらへと近づいてくる人影を照らし出す。
月の光によって顕になった人影は、まだ10歳前後の幼い子どもであった。


「なっ!お前は・・・・・・」


一護はその子どもの顔を見て、驚きに眼を見開いた。


「昌浩!」


そう、子どもの名を紡いだのは一護の口ではなかった。
ザッ!と、白い影が一護と子ども――昌浩の間に割り込む。


「もっくん・・・?」

「死覇装・・・死神か。いや、そんなことはどうでもいい。貴様ら、一体どうやって現れた?」


通常の現れ方とは異なった現れ方を見せた死神達に、物の怪は不信感も顕に威嚇する。
そんな物の怪を、昌浩は困ったように見遣る。


「もっくん、このお兄さん達死神さんなんでしょ?どうしてそんなにけいかいしてるの?」

「昌浩・・・・いや、確固たる証拠はないのだが・・・ただ、俺の勘がこいつらは『異常』だと判じている」

「・・・・もっくん、それだけで初対面の人をいかくしちゃあダメでしょ?」


昌浩は物の怪の言葉に呆れたように息を吐き、次いで一護達へと視線を向けた。


「まぁ、もっくんの言っていることもわからなくはないし・・・・お兄さん達、あんまりにも突然現れるからね」

「驚かせて申し訳ない。こんな現れ方をした我々に警戒心を抱くのも当然かとは思う。しかし、私達はとある目的のためにここへ来たのだ。決して悪しき行いをしようなどとは考えておらぬ」

「はっ!どうだか。悪人は自らの行いを悪だとは言わないだろうが」

「こらもっくん!初めから相手を決め付けるようなこと言わない!!・・・・ごめんなさい、お姉さん。もっくんも決して悪気があって言ったんじゃないんだ・・・・・」

「あ、あぁ・・・・。無論わかっているとも」


申し訳なさそうに眉を下げて言ってくる昌浩に、ルキアは言葉を詰まらせる。
先ほどからも思っていたことだが、どうにも子どもの口から出る『お兄さん』『お姉さん』呼称に慣れない。目の前の子どもとの、外見上の歳の差を考えれば当然とも言えようが・・・・・普段は名で呼んばれているので違和感が尽きない。それは隣にいる一護も同様のようだ。彼の顔も何とも言えない微妙な表情を作っている。

ルキアは取り敢えず子どもの視線の高さに合わせるため、膝を追って相対した。(何せ身長差がかなりあるのだから、自分達を見上げる昌浩の首が辛いだろうと判断したためだ)


「名乗るのが遅くなってすまない。私は朽木ルキアと言う。そちらのオレンジ頭は黒崎一護だ。・・・おぬしの名を聞いてもよいか?」

「え、うん・・・おれの名前は安倍昌浩。それでこっちの物の怪がもっくん」

「物の怪言うなっ!・・・・で、お前達、一体何の用があってここを訪れたんだ?この地域の新しい担当・・・というわけじゃないんだろう?」

「あぁ・・・いや、未来であればここの担当になるのだから強ち間違ってはおらぬやも・・・・」

「未来?・・・・・どういうことだ、わかるように説明しろ」


ルキアの言葉に、物の怪は夕焼け色の瞳を細く眇める。
昌浩はそんな二人の会話を、不思議そうに首を傾げて見遣っている。








ルキアは二人にわかるように、これまでの経緯を話し始めた――――――。










※言い訳
ぐぬぬぬっ!一話で終わらなかった!!というわけなので、このお話は前編と後編に分けて書こうと思います。早ければ同日中に後編の方をUPできると思います(だめだったら翌日)。
さて、今回のお話では色々と捏造設定なところがあります。
まぁ、一番大きな捏造どころは高於の神に時空を超える能力があるところですかね?原作では絶対にありえませんよね、この設定・・・。あと、同位体云々な話も完全捏造。私、そういった化学の分野に詳しくないのでより詳しく説明しろと言われても無理ですので悪しからず。
あと、裏設定なのですが、このお話では一護が十六歳、昌浩が十四歳設定でお願いします。文中でもわかるとおり、一護達は五年前に行っております。なので、昌浩の年齢は9歳となります。まぁ、色々突っ込みたいかとは思いますが、どうか軽く流してやってください。

このお話はフリー配布ですので、どうぞご自由にお持ち帰りください。


2008/5/13