晴れ、ときどき台風 |
「・・・・・・・あれ?ツナ??」 「ま、昌浩・・・・・」 休日ということで街中へと乗り出した昌浩は、その最中ばったりと綱吉と遭遇したのであった。 「奇遇だね。俺はCDを買いにきたんだけど、ツナも買い物?」 「え・・・・あ、うん!何か漫画本で新刊でも出てないかなぁ〜なんて思ったからね・・・・・」 昌浩と視線を合わせることなく、視線をあちらこちらへと泳がせながら綱吉は昌浩の言葉に首を振って返した。 本当であったら今頃家でゴロゴロしているはずであったのだが、そこは天上天下唯我独尊な家庭教師から放たれた「マフィアたるもの、己の治める街についての現状把握は大事なことだぞ。というわけで、街散策に出かけるぞ」という何とも横暴な(銃口の照準をこちらへと定めている状態での言葉なのだから横暴もいいところだ)発言により、こうして渋々街中へ足を運んできた綱吉であった。 まさかそのような事情を昌浩に話すわけにもいかず、取り敢えず無難な返事を返したのであった。 「ちゃおっス昌浩」 「こんにちは、リボーン。ツナと一緒に買い物?」 「違うぞ。これもマフィアのボスになるための勉強の一環だぞ」 「へ?買い物も勉強の一環なの?」 「厳密に言えば街散策だな。街に出て、色々見聞きすることは大事だぞ」 「へぇ〜、そうなんだぁ」 「って、それだけで納得しちゃうのー!?」 色々ツッコミどころのあるリボーンの言葉に、さして疑問を抱かずに頷いている様子を見ていた綱吉は思わずツッコんでいた。 と、その時。綱吉の背にドンッ!と衝撃が襲った。 さほど強い衝撃ではなかったが、小柄な綱吉は軽く前へつんのめった。 「うわっ!?」 「――あぁん?いてーじゃねぇかコノヤロー。お陰で俺様の腕が骨折しちまったかもしんねぇなぁ。一体どうしてくれんだよ?え??」 片足を踏み出すことで何とか転ぶことを防いだ綱吉は、声の聞こえてきた背後へと振り返る。 そこには学ランを盛大に着崩した、いかにも「俺たち不良です」といった様子の男たちが6人ほど立っていた。 その不良たちの一番前に立っていた男はわざとらしく己の右腕をもう片方の手で押さえながら、痛そうな(と言っても、ちっとも痛そうには見えない)素振りを見せた。 「!そ、そそっそんな!そっちからぶつかってきたんじゃ・・・・」 「はぁ?俺様の言うことにケチつけよーってんのかよ?いい度胸だ、ちょっと面貸せや!」 「んなっ!?」 今時そんな使い古された難癖をつけてくる不良に綱吉と昌浩は顔に出さずとも内心で呆れたが、あっという間に不良たちに囲まれたことにより気を引き締めることとなった。 綱吉にからんできた不良(おそらく、この男がこの不良たちの頭なのだろう)が、綱吉の胸倉を掴み上げると建物と建物の隙間に引きずり込んだ。 「ツナ!?」 「おぉっと!そこのお友達も一緒に来てもらうぜ?連帯責任ってやつだ。そこの黒くてちっこいやつは見逃してやるよ。赤ん坊を甚振ってもつまんねーからな」 ちらりとリボーンを一瞥した不良はそう言うと、さっさと綱吉を引きずって細道の奥へと進んでいった。 綱吉に続いて昌浩も不良たちに囲まれながら細道へと入っていった。 ドサッ! 「――って!?」 細道の奥――行き止まりまでやって来ると、不良は綱吉を乱暴に突き放した。 力任せに投げ飛ばされた綱吉は、受身を取ることもできずに尻餅をつく羽目になった。 「ツナ大丈夫・・・・?」 幸い、投げ飛ばされることはなかったが行き止まりを背にするように不良達に向き合っている昌浩が、尻餅をついている綱吉を心配そうに肩越しに振り返る。 現在の立ち位置としては、袋小路の最奥に投げ飛ばされた綱吉、そんな綱吉を背後に庇うように昌浩が立っており、そして唯一の出口を背に不良達が陣取っている。 「いてててっ!う・・・ん、なんとか大丈夫」 昌浩の心配そうな視線を受けつつ、綱吉は痛む尻をさすりながらも立ち上がる。 そんな二人の遣り取りを、不良達はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながら見ていた。 「さぁ〜て、おキレイな友情ごっこは終わったか?これからは俺達のお楽しみタイムだぜ!」 「ちょーどむしゃくしゃしてたところなんだよ、いいサンドバックが見つかって良かったぜ!!」 「ヒヒッ!たぁ〜っぷりかわいがってやるよ!」 指をパキパキと鳴らせながら、不良達はじりじりと昌浩と綱吉との距離を縮めていく。 昌浩や綱吉もそれに合わせて後退するが、すぐに壁際まで追い込まれてしまう。 「へへっ、それじゃあ覚悟はいいか?やっちま―――バキッ! やっちまえと続くはずであったその言葉は、しかしかなり痛そうに響いた打撃音によって遮られた。 「「「「「なっ!!?」」」」」 「「え?」」 ふいに生じた予想外の音に、その場にいた誰もが驚愕の表情をその顔に浮かべた。 その場にいた者達全員の視線が打撃音の発生場所へと向けられる。 すると、そこには棒状の武器――トンファーを手に持った少年が悠然とした様子で佇んでいた。彼の足元には先ほどまで威勢良く喋っていた不良が、白目を剥いて倒れ伏していた。 『風紀委員』と書かれた赤い腕章が付けられた学ランを肩に羽織っている、猛禽類を連想させる鋭利な眼をした少年の顔を見た瞬間、その人物に大いに見覚えのあった綱吉は「ひぃっ!」と情けない悲鳴を上げた。 「雲雀恭弥」――言わずと知れた並盛中の恐怖の風紀委員長である。 彼に獄寺や山本と共にそのトンファーの餌食にされた記憶はまだ新しい。 「あぁ?なんだテメー」 「俺たちにケンカを売るとは、いい度胸してるじゃねーか」 「ブッ殺すぞ!!」 額に血管を浮かべ、ギロリと睨んでくる不良達を一瞥し、雲雀はただ一言、言葉を紡いだ。 「ねぇ、こんな所で群れないでくれる?」 噛み殺したくなるから―――。 次の瞬間、彼の愛用の武器であるトンファーは眼にも留まらぬ速さで閃いた。 「ツナ、知ってる人?」 不良と雲雀の間で戦いが勃発している最中、昌浩は不良達の意識がこちらへと向いていないことを確認すると綱吉の隣へとやって来てそう質問した。 そんな昌浩の質問に、顔を蒼くしたまま綱吉は頷いて肯定した。 「う、うん・・・知ってるよ。あ、そっか。昌浩、あの時職員室に行ってていなかったもんね・・・・」 綱吉はそう昌浩に言うと、以前獄寺達と応接室へ乗り込んだ時のことを昌浩に軽く説明した。 「・・・・ということがあってね。その時に知ったんだけど、あの人は雲雀さんていって、俺達の学校の・・・風紀委員長・・・・・だよ」 「ええっ!?風紀委員長?・・・・今、正に目の前で不良の人達とやり合ってる人が?」 「そのとおりだぞ」 「うわっ!って、リボーンお前なんていう所から姿を現すんだよ?!」 壁の一部がペラリと剥がれて、そこから忍者のコスプレをしたリボーンが姿を現した。 「隠れ身の術だぞ。それよりもツナ、こんなことで一々驚いて声を上げてるんじゃねー。マフィアのボスたるもの、常に泰然としてないと部下に示しがつかないぞ」 「だから俺はマフィアのボスになんかなるつもりはないって!!」 「安心しろ。お前がどんなに嫌がろうが、この俺が家庭教師としてついているからには、きっちりと立派なマフィアのボスに育て上げてやる」 「よけいに安心できねー!!」 「ほぅ?この俺の教育方針にケチつけるとは、ダメツナの分際でいい度胸だな」 「ぎゃあ!こっちに銃を向けるな!!危ないだろ?!」 傍から見ると漫才にしか見えない彼らの遣り取りを、置いてけぼりにされた昌浩は彼らの傍で苦笑しながら見ていた。 と、その時、風を切り裂くような鋭い音が昌浩の耳朶を振るわせた。 昌浩はポケットに突っ込んでいた手を、咄嗟にその音へ向かって突き出した。 キィイン! 硬質な高く澄んだ音が小路いっぱいに広がる。 「ふーん?まぁまぁの反応速度だね」 「なっ・・・・・」 そういって眼前に迫っている人物は、先程まで不良達とやり合っていた雲雀恭弥その人であった。 彼と対峙していた不良達は、いつの間にか全員地面に転がっていた。 まるで品定めをするかのような視線を己へと向けてくる雲雀に、昌浩は驚きに言葉を喉に詰まらせた。 つい今しがた受け止めたもの――トンファーが先程の鋭い音の正体だと気がつき、昌浩は更に困惑を深めた。 自分は目の前の人物に対して何もしていないというのに、何故トンファーで殴りかかられなければならないのだろうか。全くもって理由がわからない。 それは雲雀恭弥という人物が戦闘狂で、少人数でも群れていたら噛み殺さなければ気が済まないという特殊な人成りである――ということを知らなければ、わかろうはずもないことであった。 「昌浩?!」 辺りに響いた硬質な音を聞いて、漸く視線をリボーンから周囲へと向けた綱吉は、雲雀にトンファーを向けられている昌浩に気がついて慌てて声を上げた。 その綱吉の隣で、リボーンは今頃気づいたのかと呆れたように息を吐いている。 そんな二人の様子を他所に、己の武器を受け止められた雲雀はそのを受け止めているものへと視線を下ろすと、僅かにその切れ長の眼を細めた。 「鉄扇?・・・へぇ、珍しいものを持ってるね」 「!どうして・・・・・」 「どうして?・・・・あぁ、そんなのすぐにわかることだろ?確かに見た目は普通の扇だけどね、さっき僕のトンファーを受けた時の音を聞けばわかることさ。そもそも、ただの扇だったら受け止めた時点で壊れるだろうしね」 「確かに・・・・・。ところで、一つ質問していいですか?」 「なんだい?」 「どうして俺は、あなたにトンファーで殴りかかられてるんでしょうか?」 先程からずっと疑問に思っていた言葉を、昌浩は漸く口に乗せた。 そんな昌浩の質問に、雲雀は鼻白らんだ様子で軽く哂い飛ばした。 「そんなの、肉食動物が草食動物に襲い掛かるのに理由なんて一つしかないでしょ?」 雲雀はそう言うと、受け止められているトンファーを持っている手と反対の腕――もう一方のトンファーを振り抜いた。 己へと迫り来るもう一つのトンファーの存在に気づいた昌浩は、咄嗟に後退することによってそれを辛うじて避けた。 しかし、そこで追撃の手を休める雲雀ではない。 休む間もなく、流れるような動作でトンファーを繰り出していく。 昌浩はそれを後退しながらも避け、避けれなければ鉄扇で受け止め、時として流す。 だがそんな攻防も短時間で終わり、昌浩は壁際まで追い詰められてしまう。 背後は断たれ、道幅も狭い小路であったため、昌浩は振りかぶられたトンファーを避けることができぬまま、物凄いスピードで迫ってくるトンファーを見ていることしかできなかった。 「昌浩!!!」 綱吉の悲鳴のような叫び声が耳に届く。 そんな綱吉の叫び声を聞きながらも、昌浩は咄嗟に腕を掲げてトンファーの攻撃を防御しようとした。 それとほぼ同時に、「ガッ!」と鈍い音が響いた。 やはりと言うべきか、腕でガードしただけでは雲雀の攻撃に耐え切れず、昌浩はそのまま地面へと倒れ込んだ。 「昌浩?!」 「まったく・・・・さっきから煩いね、君。喚くしか能がないのかい?」 「ひぃっ!」 昌浩を殴り倒した雲雀は、今度は標的を綱吉に変えてゆっくりと歩みだした。 そんな雲雀に気圧されて、綱吉はその場に尻をついた。 「大人しく噛み殺されなよ」 雲雀は無感動にそう言うと、手に持っていたトンファーを綱吉目がけて振り下ろ―――そうとした。 「そこまでだぞ」 「・・・・邪魔、しないでくれる?赤ん坊。君の相手はこの草食動物をやった後でしてあげるから」 己の首筋にぴたりとクナイを当てた忍者衣装の赤ん坊――リボーンに、雲雀はすぅっと眼を細めながらそう言った。 しかしリボーンはそんな雲雀の文句にも取り合わず、にっと口の端を吊り上げて笑った。 「今日はここまでにしとけ。もう十分な数はやっただろ?」 「僕としては是非君とやり合いたいんだけど?」 「また、そのうちな。それに、今日の目的は別のところにあるからな」 「・・・・・・・・興が冷めたね。ま、今日のところは見逃してあげるよ」 雲雀はつまらなそうな表情を作ると、さっさと武器をしまって体を翻した。 体を翻した際、キラリと一瞬何かに反射した光が目に入り眼を細めた雲雀だが、そんなことは左程気にも留めずその場を後にした。 スタスタと歩き去っていく雲雀の背を見て、漸く綱吉は大きく息を吐いた。 「た、助かった・・・・・ありがとう、リボーン」 「・・・んのダメツナが!」 「いてっ!なにするんだよリボーン!!」 容赦なく頭を殴ってくるリボーンに、涙目になりながら抗議する綱吉。 しかし、そんな綱吉をリボーンは冷ややかな眼で見遣った。 「雲雀相手に身構えるでもなく、腰を抜かすとはどういう用件だ!みっともないったらありゃしねー」 「ひっ、雲雀さん相手に無茶言うなよっ!あの人滅茶苦茶怖いじゃんか!!」 「だからお前はダメツナだって言ってんだ!それを言ったら防御だけでも頑張っていた昌浩の方がいくらかましってもんだ」 「!そ、そうだ昌浩!昌浩!大丈夫?!」 「人の話を・・・・って聞いてねーな」 リボーンの言葉により、我に返った綱吉は慌てて昌浩へと駆け寄っていった。 「昌浩!大丈夫?!」 「あぁ、ツナ・・・・ちょっと肘を擦りむいちゃったけど、それ以外は大丈夫だよ」 綱吉が昌浩のところへ駆けつけた時、昌浩は丁度立ち上がってズボンについた土埃を払っていたところだった。 慌てた様子をみせる綱吉に昌浩はにこりと笑みを返すと、軽く手を振って無事な姿を示した。 そんな昌浩の姿に、綱吉は目を大きく見開いて驚きの表情を浮かべた。 「擦りむいただけって・・・・・え?さ、さっき昌浩、雲雀さんに殴り倒されてなかったっけ?!」 「うん、確かに殴り倒されたけど、咄嗟に手を翳してガードしたから怪我はなかったよ。でも、流石に勢いだけは殺せなかったからそのまま地面に倒れこんじゃったんだけどね。肘はその時に擦りむいた」 「怪我はないって・・・手!骨折してない?!腫れてたりとか?!!」 「や、だから大丈夫だって。このグローブに鉄板仕込んであったから、それで受け止めたし・・・・ほんと、怪我とかしてないよ?」 常日頃からはめている己のグローブを指差して、だから大丈夫なのだと説明する昌浩を見て、綱吉は漸く安堵の息を吐いた。 「そ、そうなんだ・・・良かった」 「うん。心配かけてごめんね?ツナ」 「いや、それは別にいいんだけど・・・・・・なんでグローブに鉄板なんか仕込んであるの?」 「え゛っ・・・・・・・いや、なんとなく。仕込んでたら、何かの役に立つかな〜と。実際、今日役に立ったわけだし・・・・・・。備えあればってやつだね」 「へぇ〜。まぁ、とにかく昌浩に怪我がなくて良かったよ」 「うん、ありがと」 そう言って、昌浩と綱吉は互いにへらりと笑い合った。 そんな二人を少し離れた所からリボーンが静かに見ていた。 その口元は静かに吊り上り、その黒の双眸に何かを企んだような光が浮かんでいたことに、笑い合っていた二人が気づくことはなかった――。 街中を離れ、郊外を悠然と闊歩していた雲雀は、ふいに頬にピリリと微かな痛みを感じてそちらの頬にちらりと視線を向けた。 もちろん、視界に己の頬の様子など映すことなどできるはずもなく、雲雀は何気なく微かに痛みを感じた箇所へと指先を伸ばした。 そこに指先が触れると、再びピリッと微かな痛みを感じた。 指先が触れている場所、そこには確かに浅くではあるが切り傷がついていた。 一瞬、あの赤ん坊によってつけられたものかと思ったが、赤ん坊が武器を突き付けてきた箇所は己の首であり、尚且つ今切り傷がついている頬とは反対側であったことを思い出し、僅かに思案する。 あの時以外に己に傷をつけるタイミングなどなかったはずであるのだが・・・・・と思ったところで、雲雀はふと去り際に目に入ってきた光の存在を思い出した。 「・・・・・・・・へぇ・・・・」 思わず、といった感じで声が漏れた。 去り際には左程気にも留めなかったが、恐らくあの光を反射していたものが己に傷を負わせたのであろうとあたりをつける。 光を反射していたものが何であるのか思い出そうと、雲雀は記憶を深く掘り下げていく。 「針金・・・・・・いや、糸・・・・かな?」 そしてそれを操っていた者はあの時の位置取りから考えて・・・・と、更に考えを巡らせる。 あの赤ん坊であればどんな位置からでも攻撃が可能であると思うが、短い遣り取りの中から窺える彼の性格上、ああいったものを常の武器として扱うことはないだろうと思う。 そうなると、可能性としてはたった一人しか思い浮かんでこない。 「ふーん?・・・・少しは面白くなってきた・・・・・・」 口の端をゆるりと持ち上げながら、雲雀はそうポツリと呟いた。 喉の奥でクツリと笑うと、雲雀は再び歩を進めたのであった――――。 ※言い訳 あー、なんかクロスというか、リボーン比率の方が高かったような;;まぁ、REBORNの世界が舞台なのでそうなって仕方ないんですけどね・・・・。 雲雀さんの口調がよくわからず苦戦しました;; さて、ここで解説!リボーンが綱吉がマフィアである〜みたいなことを言っているのに、昌浩が突っ込まないのはリボーン登場シーンに居合わせていたからです。まぁ、そこはクロスネタ部屋にあるネタ語りを読んで頂ければわかるかと・・・・。 さて、このお話はフリー配布です。気に入りましたらどうぞご自由にお持ち帰りください。 2008/10/23 |