任務を終えて帰ってきたカンタは、自室に向けて城内の廊下を歩いていた。
       すると前方に通路の真ん中で談笑しているアレンとラビを見つけた。

       『?何だ?』
       楽しく談笑している二人を見て、カンダは胸の奥が疼いたことに内心眉を寄せる。
       自分と一緒にいる時には見ることのできなかった大輪の花が咲くような満面の笑顔。
       そんな笑顔、自分は知らない。
       カンダが知っているアレンの笑顔は華やいだ笑顔ではないが、ひっそりと咲き誇る花
       のように淡く温かみのある、それでいてどこか寂しそうなものであった。
       華やかな笑顔。自分の知らない表情・・・・・・・・・。
       それがカンダをひどく苛立たせる。


       「あっ!ユウだv」
       「ん?あ、本当だ」
       「!!?」
       こちらに向かって歩いてくるカンダをアレンが見つけて嬉しそうに笑う。
       「・・・・・・モヤシ、テメェなんでオレの名前を知ってやがる・・・・・・・・・・」
       アレンに自分の下の名前で呼ばれたことにかなり驚いたが、なぜ下の名前を知ってい
       るのか気になったのでカンダは問いただすことにした。
       「なんでって、それは・・・・・・・」
       「オレが教えたんだv」
       「お前が?」
       アレンの言葉を遮り、ちゃっかりとアレンの肩に手を回しながらラビが答える。
       ラビがアレンの肩に手を回して仲の良さをアピールしているのを見て、ピクッと眉が
       跳ね上がるのをカンダは必死に押し止める。
       ラビに悪気が無いのはわかっているが、一連のやり取りでカンダの不快指数度は一気
       に上昇した。
       『一体何だっていうんだっ!!』
       カンダの心の中にモヤモヤとしたものがいっぱいに広がっていく。
       ワケのわからない苛立ちにカンダは戸惑う。


       「はいっ!ラビにカンダの下の名前がユウだって教えてもらいました」
       アレンのその言葉に、カンダの原因不明の苛立ちが爆発した。
       「・・・・・・うな・・・」
       「はい?」
       「気安くオレの名前を呼ぶなっ!!」
       気づいた時には声を荒げて怒鳴っていた。
       突然の怒鳴り声にアレンはビクッと首を竦めたが、カンダは気にも留めなかった。い
       や、気に留める余裕が無かったのだ。


       「―――っ!!」
       「!おいっ!?」
       ラビが慌てて制止の声を上げるが、カンダはそれを無視してグイッとアレンの胸倉を掴
       み寄せてきつく眼を眇める。
       「・・・・・・不愉快だ」
       そう低い声で吐き捨ててアレンを突き放し、カンダはさっさとその場を後にした。




       「・・・・・・おい、アレン。大丈夫か?」
       「・・・・・・・・・・・・・・」
       何がカンダを怒らせたのか理由がわからないまま、一方的に怒鳴られて茫然自失な
       状態のアレンにラビは気遣わしげに声をかける。しかしアレンは反応しない。
       「アレ・・・・・・」
       「一体何だっていうんですか・・・・・・・・・」
       再びラビが声を掛けようとした時に、ようやくアレンがポツリと呟く。
       「僕はただ名前を呼んだだけなんですよ?何で怒鳴られなきゃいけないんですか
       っ!!」
       前半の言葉は淡々と、だが後半になるにつれ声を荒げるアレン。
       ただ下の名前を呼んだだけ。
       それだけのことでどうしてあんなに批難の嵐を受けなければならないのか。
       理不尽な思いがアレンの胸にこみ上げてくる。
       カンダというファミリーネームよりもユウと呼んだ方がより仲良くなれるのではないかと
       思ってのことだったのに・・・・・・・。
       その結果が自分の願っていたことと真逆になってしまうとは。
       「僕はっ・・・・・・・・・!」
       怒りよりも、理不尽な思いよりも、他の何の感情よりも哀しさが勝る。
       荒ぶる感情に言葉は詰まり、目からは涙が溢れる。


       「な、泣くなよアレン!?ほら、カンダだって素直じゃない所があるし・・・・・・」
       泣き出してしまったアレンをラビは慌てて慰める。
       「ひっく、う・・・・・ぐすっ!」
       「アレン〜〜〜〜〜」
       一向に泣き止む気配の無いアレンにラビは途方に暮れて情けない声を出す。
       「う゛〜〜っ、・・・・ひっく!」
       「はぁ・・・・・・・・」
       ラビは一つ溜息をつき、アレンを抱き寄せてやさしく目じりに溜まった涙を拭ってやる
       が、次々と溢れ出てくるそれにあまり意味がなかった。
       ラビはアレンの涙を拭うのをやめて、背中をポンポンとやさしく叩いてなんとか落ち着か
       せようとする。
       「・・・・・・・・」
       「・・・・・・・・」
       しばらくの間そうしていると、やっとアレンの泣き声が聞こえなくなった。が、依然として
       その肩は細かく震えていた。
       「―――大丈夫か?」
       「・・・・・・・・」
       ラビの言葉にアレンは声を出さずにこくんと首を振ることで答える。
       「まぁ、お前の気持ちがわからないわけじゃないけど・・・・・」
       さっきのカンダの態度はラビも流石にあんまりなとは思った。
       「―――うっ」
       「あっ!そこで泣くなって!!」
       せっかく泣きやんだと思った矢先にまた泣かれては困る。
       「〜〜〜〜もう泣きません!」
       「―――って、お前ねぇ・・・・・・」
       涙目で言ってもあんまり説得力ないぞ?
       内心ツッコミながらもラビはゆっくりとした動作でアレンの髪を手で梳く。
       「あ―――、目が真っ赤だぞ?早めに冷やした方がいいって」
       「・・・・・・・・そうします」
       目だけではなく、目許も泣きはらしたせいで赤く腫れてしまったので、アレンの顔はそ
       れはもうひどいの一言に尽きる。
       「すみませんでした、ラビ。それじゃあ僕は部屋に戻りますんで・・・・・・あの、ありがと
       う」
       「ん―――、これ位どうってことないって」
       気まずげにアレンが礼の言葉を言うのに対し、ラビは軽い調子で返す。
       それじゃあ、と言って去っていくアレンをラビは見届けて、その視界からいなくなってか
       らようやく盛大に息を吐いた。
       「ったく、あんま冷たい態度をとってアレンを泣かせると、オレっちが頂いちゃうからな〜
       〜〜」
       今は目の前にいない相手に宣戦布告めいた言葉を呟くラビは、これで結構本気だった
       りする。
       バレバレだっつーの
       カンダはバレてないと思っているだろうが、自分がアレンの肩に手を回した時、あから
       さまに眉が跳ね上がったのだ。
       対外的に見ればほんの些細な変化だったが、それなりの付き合いになってるラビが気
       づくのには十分な反応であった。
       「あいつ、絶対好きな子はイジメるタイプだな〜」
       などと声に出して言っても回りには誰もいないのでラビの呟きは誰にも聞かれることは
       なかった。










       ※言い訳
       この話は一応神×アレのつもりで書いているのですが・・・・何故かラビ×アレ(という
       よりラビ→アレかな?)も混じってるしさ・・・・・。
       カンダは絶対に好きな子は虐めてしまうタイプだと思います。といいますか個人的希望
       です。
       今回アレンは泣き虫になってしまいました・・・・(こ、こんなはずではっ!?)
       当初の予定とかなり違う話になってしまったのは何故でしょうねぇ・・・・。
       ラビの口調がよくわからないので、多少異なっていてもご了承ください。
       次回はカンダのイラつきの理由などをかけたらいいなと。(って、書かずとも大体わかり
       ますよね?)

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2005/4/23