※注意※ 諸事情にて、二話分の内容を一話分に詰め込んだ文章となっております。 なので、内容が急展開・唐突すぎる部分が多々あります。 後日、その辺りを補った補完版のお話を上げますので、じっくりした内容を読みたい方はそちらを読むことをお勧めします。 そんなことは問題なしに読めるよ!という方のみこの先にお進み下さい。 読んだ後の文句は受付けられませんので、自己責任でよろしくお願いします。 置いていかないで。 そう必死に手を伸ばす。 離れゆく銀影に無我夢中で追いすがる。 ただ傍に居たいだけなのだと―――――――。 |
沈滞の消光を呼び覚ませ〜捌拾〜 |
制止の声を上げた煌は、その目を大きく見開いて九尾を見つめていた。 その瞳に浮かぶのは絶望。 九尾の言葉によってひどく混乱していた煌であったが、それでも尚自分には九尾しかいないのだと改めて思い直し、自我を立て直した。 そんな中、ようやく意識を外へと向ければ九尾が晴明に剣を突きたてられる直前であった。 間髪入れずに制止の声を上げるが、それによって晴明の剣先が鈍ることも逸れることもせず、それは九尾の胸元へと深々と突き立てられた。 ―――どう見ても致命傷だ。 それは煌の眼から見てもはっきりとしていたし、煌よりもずっと近い距離でそれを見ていた神将・夜叉大将達から見れば尚のこと。 それ故に煌は絶望する。 例えどんなことを言われても、思われていても九尾の傍にいようと決めたばかりなのに……。 だというのに、九尾の命は今正に消えんとしているのだ。一体、自分はどうしたらいいのか?疑問が胸中を渦巻く。 と、その時――― 「ぐっ……う、ぅ……こ、うよ。なんという、顔を……している………」 「!久嶺っ!」 「なっ!まだ動けるというのか………なんてやつだ」 そのまま倒れるかと思われた九尾が、苦悶に満ちた声ながらも煌へと話しかけた。 それに煌は喜びの表情を顔に浮かべ、それ以外の者達は驚愕の表情を浮かべた。 そんな中、九尾へと剣を突き立てた晴明だけが険しい表情を崩さないまま、冷静に物事を見ていた。 「くっ、まずい。このままでは九尾の命が尽きる前に、この剣が先に駄目になってしまう!」 晴明の視線の先。手に握られている綾絶の剣は、その刀身に無数の皹を入れながらも九尾を滅さんと 未だに力を放ち続けている。 凄絶な気が九尾の体内で暴れまわっているのを身近に感じながらも、それも長くは続かないであろうことも察することができた。 故に晴明は選択する。 九尾を倒すことから、封印することへと。 このまま九尾を倒すことができずに剣が砕け、その後また長期戦を行うことは正直言って厳しいものがある。 それほどまでにこの九尾の治癒能力とは凄まじいのだ。 今も綾絶の剣が負わせている痛手を、片っ端から癒していっているのだ。 それでも今、僅かながらに綾絶の剣の与える痛手の方が上回っているため、弱っているその体をこの剣に封印することは可能であろう。 すぐさま判断した晴明は、ありったけの気を剣へと注ぎ込んだ。 「ぐあっ!安部…晴明……貴様、なにを……!」 「綾絶の剣よ、今しばらくの間耐えてくれ……!」 剣から発せられる白光は九尾の体内からも漏れ出し、周囲へと散って大きな陣を作り上げる。 その陣は九尾を剣へと封じ込めるために描かれた陣である。 九尾が無事である事に安息を漏らした煌は、その陣を見て再び焦燥感に囚われる。 「あ……いや、だ。俺を置いてか、ないで!」 制止をかける天一と玄武を振り切って、煌は九尾目掛けて走り出す。 しかし、その途中で六合に捕まってしまい、それ以上近づくことを阻止されてしまう。 「やめっ………久嶺!久嶺!ねぇ、待ってよ!」 「煌よ……われ、は…………」 「っ!くりょ――――っ!」 九尾が煌へと何かを話す前に、無情にも白く輝く陣は収束していき、九尾の体さえも白光に変えて綾絶の剣へと収まっていった――――。 壮絶な気の奔流が収まっていき、最後には刀身に皹を入れてぼろぼろな状態の綾絶の剣だけが残された。 「あっ、……あぁ…そん、な…………久嶺………」 必死に手を伸ばした状態で、目からは涙を溢れさせながら煌は掠れる声で九尾の名を紡ぐ。 その悲痛な声に、その場にいた全員が戦いに勝った喜びよりも、後味の悪さを感じた。 重い空気が流れる中、ふいに清冽な神気と共に玲瓏な声が響き渡った。 「その妖と共に居れる方法がある。………と言えば、お前はどうする?」 「っ!高於加美神!」 急な神の登場に、誰もが驚愕に目を見開く。 そんな彼らの反応を一切無視して、高於は子どもへと真っ直ぐに視線を注ぐ。 「え……久嶺と、一緒にいられる…の?」 「可能だ。お前の中にあるあの妖の魂の欠片。そして妖の中にあるお前の魂の欠片を入れ替えて元に戻す。その際、妖の魂の欠片にお前という意識を移して入れ替えれば、晴れてお前はあの妖と一緒にいることができるぞ?」 それはつまり、煌も一緒に封印されろと言っているのも同義である。 思わず抗議の声を上げようとした紅蓮に鋭く一瞥をくれ、高於は子どもの意思に任せるよう制止をかける。 開きかけた口を何度か開閉させた後、紅蓮は沈黙した。 そんな中、煌が出した答えは――― 「それで、久嶺の傍に居れるのなら………お願い、します!」 やはりと言うべきか、九尾と共に封印されることであった。 「煌………」 「何度も言うけど、俺の居場所は久嶺の傍だけなんだ……久嶺の………」 「煌、それほどまでに………」 思わず声を掛けた紅蓮に、煌は固い意思を宿した眼差しで言葉を紡ぐ。 その想いの深さに、さすがの紅蓮もそれ以上声を掛けようがなかった。 「決まりだな。ではさっさとやるぞ、主のいなくなったこの空間は長くは持たないだろうからな………」 高於はそう言うと、剣と煌それぞれに手を翳した。 そう間も置かずに白い燐光が双方から立ち上り、それぞれ入れ替わるように消えていった。 その場にいた全員が状況理解に追いつかないうちに、高於加美神は「ではな」と一言言い残すとさっさとその空間から去って行ってしまったのであった―――。 ドサリという音共に昌浩が地面へと倒れ込んだのを皮切りに、それぞれが正気へと立ち返る。 「あの神はこのためだけに態々こんな異界にやってきたのか……?」 「紅蓮、そのことに関しては追々高於加美神にお伺いを立てるとして、今はここから脱出するのが先だ」 「あ、あぁ……わかった。晴明……」 色々と言いたいことは山ほどあるのだが、取り敢えず今は昌浩を連れてこの異界から脱出する方が先である。 そう判断した紅蓮は地面へと倒れこんでいる昌浩を抱え上げた。 三年前と比べると随分と増した身長と重み。それを今現在直に感じ取ることができて、ようやく長年追い求めていた子どもがこの手に帰ってきたことを実感する。 それと同時に、今しがた九尾と共に封印という眠りについた子どもの存在も気になった。 「晴明。煌は………」 「何も言うな。私達がどう思おうと、それが煌にとっては幸せなことなのだろう…………」 「………………」 晴明も色々と思うところがあるのか、複雑そうに手にしている綾絶の剣を見つめていた。 しかし、緩く頭を振ると踵を返して声を張り上げた。 「さぁ、この空間が崩壊してしまわないうちに戻りましょう!」 それが今回の事件の終わりの合図。 その場にいた者達はそれぞれ頷くと、元の空間に戻るために動き出したのであった――――。 暗く、そして静かな空間。 綾絶の剣へと封じられた九尾は、己に寄り添う温もりに驚き、閉じていた眼を押し上げた。 そしてそこにあったのは居るはずのない愛し子の姿であった。 「煌、何故ここに……!」 「久嶺………俺の居場所は久嶺の傍だけ、だよ?だからお願い、傍にいさせて………」 「煌……我の、愛し子。お前だけだ、こうして我の手を取ってくれるのは………。あぁ、いつまでも我の傍にいておくれ」 「もちろん!」 そして二人は長い長い微睡みの中に沈んでいく。 眠りにつこうとしている中、九尾は煌へとそっと囁いた。 煌、お前だけが我の光であり、温もりだと………。 煌は九尾のその言葉を聞いて、ひどく晴れやかに微笑んだ―――――。 ![]() ![]() ※言い訳 はい、ということで一先ずは完結致しました!オツカレサマ〜。 ・・・・・・。すみません、すげー不完全燃焼です。 読んでて「なにこの急展開&唐突さ」と思った方もいらっしゃるんではないかと・・・・・・。 通常は仕上げるのに四時間かかるものを一時間で、しかも二話分の内容を一話へとぎゅぎゅっと詰め込んだらこんな感じになりました;;はい、れんこんやヘチマみたいに中身がスカスカですね・・・・。 いくら原稿の〆切ギリギリで仕上げたからといっても、これはないですよね(泣) いままで散々練りに練って書いてきたお話の終わり方としてはあんまりにも拙い文章で、自分で自分に愕然としています。 紫陽自身としても納得がいっていないので、近日中にこのお話に付け足しを加えた補完版と、その後話の終章。更に本来はオフ本に書き下ろしで書く予定だった番外編話など・・・・その他もろもろお話を書くつもりです。 この回でお話は完結扱いをしておりますが、そういった付け足しで書くお話が数点ありますので、『一応』完結という言い回しをしました。 そういったわけですので、完結しましたが今しばらくお付き合い下さい。 感想などお聞かせください→掲示板 2011/7/28 |