阻む蒼炎。







互いの力を合わせてそれを突き破る。







迎え撃つは銀色の妖。







そして終わりの時はすぐ目の前にまでやって来ていた―――――――。















沈滞の消光を呼び覚ませ拾玖〜














九尾の操る蒼炎を掻い潜り、時には武器で打ち消しながら神将・夜叉大将達は九尾に攻撃を加えるために懸命に近づいていく。
九尾も己の九つの尾や爪、牙を最大限に活用して彼らの猛攻を防ごうとするが、如何せん多勢に無勢。防ぎきれなかった攻撃が次々にその体を切り裂き、抉っていく――――。
最高を誇る治癒能力の高さも、ここに来てその癒しの速度を落としていた。いや、速度が落ちたわけではなく、その力をもってしても治りきる前に別の箇所に怪我を負ってしまい堂々巡り・・・いや、寧ろ状況は悪くなっていく一方であった。


「ぐ・・・・・お、のれぇぇっ!」


己へと群がってくる神将・夜叉大将達に苛立ちを覚えた九尾は、己の周りに炎幕を張ることで彼らに一旦距離を取らせた。
一度九尾から距離を取った彼らは、互いに顔を見合わせた。


「大分、追い詰められてるとは思うんだがな・・・・・」

「そうだな。少なくとも一呼吸置かせるような状況を作らないといけない程までには、追い詰めることができているとみていいだろう」

「傷の治りも初めの頃の勢いは無いようだ」


紅蓮の言葉に、勾陳と六合も頷いて同意する。
ふと辺りに視線を向けると、他の者達も各々に休憩を入れているところだ。
しかし、よく見ると全員その手に持っている武器を下ろすことをせず、油断無く炎幕の向こうにいる九尾の様子を窺っている。


「ここで九尾に傷を癒させる時間を与えるのは不味いと判断しますが、どうでしょうか?」

「あぁ、それには同意する。今攻めなければどちらかが体力尽きるまで延々と同じようなことの繰り返しになるだろう」


九尾の様子を窺いつつそう話す因達羅(いんだら)に、その近くで同じように大剣を構えている朱雀が同意する。
そんな二人の遣り取りが聞こえたのだろう、他の神将・夜叉大将達もそれぞれ頷いて同意している。


「と言っても、あの炎の壁を何とかしないと九尾に攻撃することもできないわよ?」


額爾羅(あにら)は眼前に渦巻く炎の障壁を見遣りながら、今一番の問題点を指摘する。
それに対し答えたのは宮毘羅(くびら)であった。


「そうだ。そこであの炎幕を遮り道を作る者達と、九尾へと攻撃をしかける者達とに分かれる必要がある。」

「わかった。では、こちらからは太陰と白虎を炎幕を遮る役に回す。そちらはそちらで決めてもらいたい」


宮毘羅の説明を後方で聞いていた晴明が、即座に判断を下す。
晴明の言葉に宮毘羅も首肯を返すと、即座に仲間達に役割を割り振った。


「では、こちらは伐折羅(ばさら)、摩虎羅(まこら)、珊底羅(さんてら)、真達羅(しんだら)の四人が炎幕を遮る役に回ってくれ」

「わかった」

「瑠璃様のためだから、仕方ないけどやってあげるよ」

「誠意、務めさせてもらおう」

「うん、頑張るね!」


宮毘羅に名を呼ばれた夜叉大将達はそれぞれ返事を返した。
それを確認した後、宮毘羅は言葉を続けた。


「毘羯羅(びから)、額爾羅、波夷羅(はいら)。この三人は瑠璃様の護衛を頼む」

「うん、任せてよ〜」

「わかったわ。瑠璃様のことは私達がしっかり守るから、安心して攻撃に励んでちょうだい」

「承知・・・・」


これにもまた、名を上げられた三人はそれぞれに返事を返す。
そしてすぐさま瑠璃の傍へと移動していった。
それを視線で追いつつ、宮毘羅はまだ名を呼んでいない者達へと指示を出す。


「因達羅、迷企羅(めきら)、安底羅(あんてら)、招杜羅(しょうとら)は言われずともわかっているな?」

「えぇ、わかっています」

「ま、やることは一つやな」

「もちろんよ!九尾の相手でしょ?」

「へっ!なーに、難しいことはねぇ。ただ攻撃するのみだろう?」


宮毘羅へと、残りの面々がそれぞれ答えて返した。
それを確認した後、宮毘羅は声を張り上げた。


「では行くぞ!」


その声を皮切りに、それぞれが己の役目を果たす為に動き出した。
そんな彼らを見送りつつ、晴明は後ろに控える玄武と天一へと声を掛けた。


「玄武、天一。昌浩と彰子様を頼んだぞ」

「あぁ、心得ている」

「お二人は必ずお守り致します。ですから、晴明様どうかご無事で」


晴明の指示を聞いた二人は力強く頷いて返した。
晴明もそれに微かに笑って返すと、九尾へと向けて動きだそうとした。しかし、己の衣の袖口に僅かな抵抗を感じ、そちらへと視線を向ける。
昌浩が晴明の袖口を掴み、引き止めていたのだ。
だが、引き止めたからといって何かを言い出すわけでもなく、きゅっと口元は引き結ばれたままである。
何かを言いたいのに気持ちの整理がつかず、胸の内で様々な感情が渦巻いているのがその瞳の揺らぎに表れていた。
晴明はそれを見て軽く息を吐くと、徐に手を昌浩の額へと持っていき―――ぴしりと爪弾いた。


「っ!」

「お前は黙ってそこで見ていろ」

「で、も・・・・・」

「そんな不安定な精神で向かったところで何かできるとは思えん。いつ煌(こう)と意識が交代してしまうのかわからないのだろう?ならば余計にお前は動かない方がいい」

「・・・・・・・・」


晴明の言葉は、そのまま昌浩も思っていたことなのだろう。特に反論することもなく、視線を下へと下げつつも昌浩はこくりと一つ頷いた。
晴明はそんな昌浩の頭をわしゃわしゃと掻き回すと、微苦笑を口元に浮かべた。


「行って来る。待つこともまた、大事な役割の一つだ」

「うん・・・・・いってらっしゃい」

「昌浩・・・・・」


些か元気の無い昌浩を案じ、彰子がそっと傍に寄る。
昌浩はそんな彰子に心配をかけまいとして笑顔を浮かべようとした。しかし、それも歪んだものにしかならずに失敗に終わる。
その様を終始見ていた晴明は、元気付けるかのように昌浩の頭を今一度ぽん・・・と軽く叩くと踵を返した。
表情を引き締め、真っ直ぐと前を見据えると綾絶の剣の柄をしっかりと持ち直した。
ほんの僅かな隙も見逃さないために、晴明は冷静に戦う彼らの様子を見つめ続けた――――。




時間は少し前に戻る。
それぞれ動き出した神将・夜叉大将達は己が役目を真っ当せんと、素早く行動に移していた。
夜叉大将達の放った攻撃が一点に集中して、炎の壁に小さな穴を作り出す。
その作り出された穴を、白虎と太陰が風で強引に押し広げる。
その結果作り出された通り道を、残りの神将・夜叉大将達が一気に駆け抜けて行く。


「ふん、存外早かったか・・・・・・」


己の張った炎幕に穴を開けてこちらへと向かってくる神将・夜叉大将達を見て、九尾は鼻で息を吐くと臨戦態勢へと入る。
負った傷は完全に癒しきることはできず、まだ所々血が滲む箇所も残るが仕方ない。
無抵抗にやられる気など更々にない九尾は、蒼炎を再びその身に纏った。


「全く、どこまでも忌々しい者達よ――――!」


九尾の妖気が爆発する。
対する神将・夜叉大将達も己の闘気を爆発させることによって、九尾の妖気を相殺させる。
突撃の勢いを殺さないまま、最高速度に乗せた攻撃を繰り出す。
それに負けじと、九尾も九つの尾を盛大に振るった。

神気と妖気が激しくぶつかり合う。
互いに攻めて守っての攻防が続くが、状況は次第に九尾の不利へと傾いていった。
双方息を大きく荒げる中、とうとう九尾はその動きを封じられる。
そしてその機を逃がさず、晴明が動いた。


「いけっ!晴明!」


激しく抵抗する九尾を全身全霊で抑え込みながら、紅蓮は声を大きく張り上げた。


「はあぁぁあぁぁぁっ!」


晴明はありったけの霊力を、綾絶の剣へと注ぎ込む。
それに合わせて眼が灼けんばかりの眩い光と共に、剣はその形状を一回りも大きなものへと変えた。
晴明はその剣先を九尾の胸元へとしっかり固定すると、迷わず突き出した。


「やめてぇえぇぇぇぇぇっ!」


剣先が九尾の胸元へと吸い込まれる直前、昌浩の―――いや、昌浩から主導権を奪い返した煌の絶叫が大きく響いた。
が、無情にもその刃は深々と九尾の胸元に埋め込まれた。

ずしゅ・・・・・!

刃と肉の擦れ合う鈍い音が、その場にいた誰の耳にも届いた。



そして全てが静止したかのような、無音の時間が流れた―――――。












                        

※言い訳
・・・なんか、最後を除いてはあんまり動きのない場面になってしまいました;;
神将・夜叉大将達の意気込みのシーンなんていらないんじゃ・・・と思いつつ、でも彼らに喋らせないでそのまま最終戦というのもちょっと・・・と思ったので喋らせたんですけどね。動く指は止められませんでした(笑)
晴明と昌浩の遣り取りが書けて、今回は個人的に満足しています♪
さて、次回で一応決着がつく予定です。追々微修正、追加がかかるかとは思いますが・・・・。

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2011/7/28