【君と共に歩む道 プロローグ ‐苦労の始まりの日‐】





雲一つない、快晴と呼ぶに相応しい蒼天。
眩い朝日の光が降り注ぐと共に、小鳥ポケモン達のさえずりが響き渡る。


俺は相方のコウヤと並び立ち、長年住み慣れた我が家と向き合った。
家の玄関の前では俺達を見送るためにコウヤのママ――ユエさんが立っている。
焦げ茶色の長い髪を首の後ろで結わえ、朝食の準備のためにエプロンを付けているその姿は代わり映えのない普段通りのものであった。


「忘れ物はない?」


旅立ちの日にする、お約束のような質問をユエさんは真剣な表情で問う。
 その髪と同色の瞳には真剣さと心配、一抹の寂しさが宿っている。


「ないよ。母さんも心配性だなぁ……」


 だが、そんなユエさんの複雑な思いなど露ほどにも知らないようなのんびりとした態度でコウヤが答える。挙句、母親譲りの焦げ茶色の髪をバリバリと掻き、特大の欠伸を一つ。


お前のその態度がユエさんの心配に拍車を掛けてるんだよ!気づきやがれ!!


 俺はじと目でコウヤを睨みつけるが、肝心のコウヤ自身は「ん?」と涙目で揺れる藍色の瞳(こちらは父親譲り)をこちらに向けてくるだけだ。俺のことはこの際どうでもいいから、ちっとは周りを気に掛けろってんだ!特に今目の前でお前のことを心配しているユエさんをだ!!

マイペースにも程がある相方に溜息を落として、大げさな動作でやれやれと顔を横に振る。
そんな俺の仕草にコウヤは頭上にハテナマークを飛ばし、ユエさんは俺の仕草からその意図を汲み取ってクスリと小さく笑みを零した。
 ほのぼのとした空気が流れる中(常時だがな!)、笑いを収めたユエさんはふと太陽を仰ぎ見てその日の高さを確認した。


「もうこんな時間ね…気をつけて行ってらっしゃい」

「……うん。行ってくるね」


 先ほどコウヤがバリバリと頭を掻いたために乱れた髪を、ユエさんは手櫛で丁寧に整えてやっている。
 コウヤはそんなユエさんの仕草に照れたのか、頬を常よりも薄っすらと紅く染めている。
 ふっ…タカンなお年頃ってやつかね?(確かそんな言葉があった気がする…)
 照れを誤魔化すために視線を泳がせていたコウヤは、ユエさんが髪を整え終えるのと同時に勢い良くクルリと反転する。


「い、行くぞ!シセン!!」


コウヤはユエさんに背を向けたまま俺の名を呼ぶと、そのまま早足で歩き始めた。
――て、歩くの早っ!?はぁ…どこまでもゴーイングマイウェーなやつだ。
置いて行かれないよう走り出そうとする俺の背に、ユエさんがふいに声を掛けた。


「シーちゃん!コウヤのこと、お願いね!!」


 おうっ!任せとけ!!

 俺はユエさんに向き直ると、了承の意を示すために指を天へと向けて突き立てた。




 ――この俺の姿を俺以外のやつの視線で見た場合、ニッ!と口の端を吊り上げて、短い手指で一生懸命にサムズアップして「ピチュ!」と元気良く返事をしているピチューにしか見えないだろう。






 き、決まんねぇ―――っ!!orz






 俺はユエさんに返事を返すと、慌ててコウヤの後を追った。
 遥か遠くに見えるあいつに追いつくために………。





「ピチュ―――ッ!!(待て待てぇえぇぇっ!!そっちはナナカマド研究所じゃねぇ!!真逆だ、真逆っ!!)」





 その後、コウヤに追いついた俺はコウヤのズボンの裾を引っ張って進行方向を修正し、時折脱線しようとするのを強引に戻しながら四苦八苦の末にナナカマド研究所に向かうのであった。



 このっ!究極方向音痴がっ!!!




 俺達の旅は初っ端から難航する模様。先が思いやられる…………。









「……大丈夫かしら?あの子達………」





                         

※あとがき 
このお話は憑依ものではありません。
ポケモン視点でお話を書いてみたいな〜という思いつきで勢いのまま書いてみました。

主人公はポケモン。かなり人間くさいのはスルーでお願いします。

ゲーム・アニメの流れをなぞる予定は今のところありません。。
オリキャラのトレーナーとポケモン達との日常的なお話。というのをコンセプトに書いていこうと思います。