あぁ、俺もう怖くてモンスターボールの中に入れねぇ…。(最初から入ってないけど)

 何で怖いかって?んなの俺の相方兼トレーナーのコウヤの行動がだっ!!

 卵から孵ってからこの方、ずっと一緒に生活してきたからあいつについては親であるユエさん達を除けば俺が一番良く知っているのではないかと思う。
 まぁ、生まれてからまだ2年しか経ってないから長い付き合いだとは言えない。だがその2年間日常生活において朝から晩まで一日中一緒に過ごしてきたのだから、密度的な意味ではかなり濃いだろう。
 そんなわけでコウヤの日常行動などはよく…よぉ〜く知っている。

 わかっているんだけどな……。
 わかっているんだけど…………



 頼むから100m歩かないうちに道から外れて別の方向に行こうとしないでくれ!orz








【君と共に歩む道 第1話 ‐フォローするのが役目です‐】






 というわけで、コウヤが道から外れようとするのを阻止すること5回。ようやく目当てのナナカマド研究所に到着。つ、疲れた……。
 全く、俺が軌道修正してやらなかったら今頃道に迷っていただろう。確実に。
 
 え?なんで俺が道を知ってるのかって?
 それはコウヤのせいだ。
 あいつの方向音痴は筋金入りだ。だから毎日のように道に迷う。
 コウヤの住んでいるところから割りと近いこのマサゴタウンに、用もなく辿り着くことがしばしばある。この街のジュンサーさんとはしっかりと顔見知りだ。家まで送り届けてもらったことなど片手を軽く超える。

 まぁ、そういうわけで何回かこの街にやって来てるので研究所がどこにあるのかも『俺が』しっかりと把握している。コウヤは駄目だ。コウヤ自身、目的地がわかっていてもそこへ絶対に辿り着けない。
 だからこの俺がナビゲートする羽目になる。もう慣れたけどな……(時々わざとやってるんじゃないかって疑いたくなる)。


「すみませ〜ん。博士いますか?」


 コウヤが研究所の入り口のドアを開け、間延びした声で研究所の中へと声を掛ける。
 しばらくすると助手の人がこちらへとやって来た。
 その助手の人は訪ねてきたのがコウヤだとわかると破願した。


「やぁ、コウヤくん。久しぶりだね」

「はぁ、お久しぶりです……」

「シセンも、久しぶり」

「ピチュー(おう、久しぶりだな)」


 傍から見ると眠たげな表情で挨拶を交わすコウヤと、片手を挙げて元気良く挨拶をする俺。
 そんな俺達を見て、助手の人は「君達は相変わらずだね」と笑みを零した。

 今までの会話を聞いてもうお分かりのことかとは思うが、俺達はこの助手と顔見知りだ。ついでに言うとナナカマド博士を始めとして研究所にいる人達全員と顔見知りだったりする。
 それもこれも全ての原因はコウヤの方向音痴に帰結する。
 コウヤはよりにもよって研究所の裏庭に迷い込んだのだ。挙句の果てに行き倒れるし…。
 発見された時にはえらい騒ぎになった。まぁ、今では良い思い出?だがな。


「それで今日はどうしたんだい?また研究所の見学かい?それとも裏庭に行くのかい??」

「あ、いいえ。今日は別の用件で来ました」


 実はコウヤのやつは研究所に迷い込んだ後、何回もこの研究所へと足を運んでいる。
 理由は方向音痴のため……と言いたいところだが、その理由は別のところにある。

 実はコウヤ、研究所の裏庭にいるポケモンが目当てで研究所へと何度も訪問するのだ。
 別に捕まえようとかどうこうしようというわけではなく、ただ観察するために……。
 そう、観察。
 何で観察するのかって?それがコウヤの趣味だからだ!!

 ポケモン観察が趣味……うん、まぁそれは別にいいんだけどね。その度合いが半端ない。
 一度観察対象のポケモンを見定めると、朝昼晩とぶっ続けで観察し続けるのだ。時間を忘れてな!!
 ホント、もう凄い通り越して呆れるしかないぞ?あれは。さっき時間を忘れるって言ったけどな、その時間には食事の時間も、睡眠の時間さえも含まれるんだぞ?!一日中、そのポケモンの行動を観察して、どんなものを食べてるかとか、移動距離とそれに所要する時間とか、活動時間はどれくらいなのかとか……それはもう、そのポケモンのタイムスケジュールができるんじゃないかってくらいに細々とメモをとったりするのだ。俺はあいつの考えていることがわからん。
 あー、後は絵を描くのが好きだな。もちろん、対象はポケモン。たまに風景とかも描いてるけど、やっぱりポケモンを描いてることが多い。俺も何回か描かれたことがあるし……(しかも巧い)。

 まぁ、そんなわけでコウヤはいつの間にかこの研究所の人達とはかなり親しい仲になっていた。コウヤのあまりの熱心さには苦笑を零してたけどな!
 でも気持ちはわからんわけでもないらしいので、差し障りのない程度に研究内容とかコウヤに話してくれたりする。これにはコウヤは大喜びで話を聴いていた。もう、こっちが恥ずかしくなるくらいキラキラと眼を輝かせてるんだもんなぁ…あれは邪険に扱えない。

 というわけで、今回コウヤが研究所を訪ねた理由も今話した内容の用件だと助手の人は思ったようだった。しかし、コウヤがそのことを否定したので不思議そうに首を傾げている。


「別の用件……?」

「僕、今年で10歳になるんで……ポケモン図鑑とか貰いに」


 コウヤの言葉を聞いた助手の人は、ようやくコウヤの言わんとすることを察し、しまったとばかりにペチリと額を叩いた。


「あちゃー、うっかり忘れてた。そういえば今年で10歳になるんだったよね……それじゃあ、今日来る新人トレーナーってコウヤくんのことだったんだ」

「一応、そういうことになりますね」

「そっか、うん、そういうことなら奥へどうぞ。今、博士も丁度いらっしゃるよ」


 助手の人はそう言うと奥の部屋へと向けて歩き出した。
 コウヤと俺もその後についていく。

 先に部屋の入り口を潜った助手の人は、部屋の中に向かって声を掛けた。


「博士〜、コウヤくん来ましたよ」

「うむ。よく来た」

「あら、コウヤくんじゃないの。いっらっしゃい、2週間ぶりね」


部屋の中にはナナカマド博士と女の助手の人がいた。
 その彼らの更に後ろ、診察台のような長テーブルの上に赤・青・緑色のポケモンが行儀良く並んでいる。彼らの目の前にはポケモンフーズの入った容器があるところを見ると、丁度食事の時間のようである。


「お久しぶりです。博士、図鑑とか貰いに来ました。10歳になったので……」

「うむ。ハガキを見せなさい」

「ハガキ?…あぁ、家に届いてたやつ……えっと、どこにしまったっけ?」


 そう言ってガサゴソとカバンの中を漁り出すコウヤ。が、ハガキは一向に見つかる気配がない。
 そんなコウヤを見て、俺は溜息を一つ吐いた。そしておもむろにカバンへと歩み寄る。
 これ以上カバンを漁らせるわけにもいかない。いい加減にしないとカバンの中がグチャグチャになってしまうからな。(もうすでに手遅れっぽいけど)
 カバンのすぐ傍までやって来た俺は、まだ捜索の手がつけられていないカバンの外側についている収納ポケットの内の一つを指差してコウヤへと声を掛けた。


「ピチュ!」

「ん?そこに入ってるのか?」


 コウヤはカバンの中を漁るのを止め、俺の指差したポケットの中を探し始める。

 どうして俺がハガキのしまってあるところがわかったのかって?
 その答えは単純明快。コウヤが荷造りをしている時、その隣には俺もいたからだ。だからハガキをしまっておいた場所ももちろん覚えていた。ったく、自分で入れたんだから自分できちんと覚えてろよな。

 探し始めて数秒とかからずに、目当てのものがポケットから姿を現した。


「あ、あった……はい。このハガキで良いんですよね?」

「うむ。そのハガキで間違いない」

「しかし、シセンちゃんは賢いわね〜。ハガキがどこに仕舞ってあるのかきちんと覚えているんだもの」

「ピチュ〜(いや〜、それほどでも)」


 まぁ、これくらいのことができないとな……色々大変なんだよ。

 そうこうしているうちに、博士がコウヤに何やら紺色の長方形の機械を手渡していた。どうやらあれが図鑑のようだ。


「うむ。これがポケモン図鑑だ」

「へぇ〜、これが……」


 コウヤは図鑑を開くとテーブルの上に乗っているポケモン達や俺に機械を向ける。すると、機械からパーソナルデータを説明する声が聞こえてきた。
 ふむ。どうやらあの機械をポケモンに向けると、その機械を向けられたポケモンのデータがわかるらしい……一体どんな造りになってるんだ?。

 一通り図鑑の機能を確認したコウヤは図鑑を仕舞い込むと、今度は博士からモンスターボールを貰った。
 すると、博士がふいに俺へと視線を向けてきた。


「うむ。ところでコウヤくん。そこなピチューはモンスターボールに入れないのかね?」

「へ?あぁ…、入れませんよ。こいつはボールの中に入りたがらないんで」


 さすがコウヤ!俺の気持ちを良くわかってるじゃねーか。あんな息が詰まりそうなものに、俺は進んで入りたいとは思わねーな。まぁ、それ以前にコウヤの方向音痴が心配でボールの中におちおち入ってもいられないってのが本音だがな。


「うむ。そうか……ならば私から言うことはもうないな。さて、それで君はどの子を連れて行くかね?」

「どの子をって……え?僕にはシセンがいるんですけど、頂いていいんですか?」

「うむ。構わん、連れて行きなさい」

「そうよ、コウヤくん。この子達、新人のトレーナーが来るって聞いて朝から妙に張り切っちゃってるから……逆に誰も連れて行かないなんて言うと落ち込んでしまうわ」


 だから連れて行ってあげて。と、女の助手の人は明るくウインクをコウヤに飛ばす。

 皆から了承を貰ったコウヤは「それなら…」と、改めてテーブルの上にいる初心者用のポケモン達へと視線を向けた。


「ウッキィー!」

「ポチャッ!」

「ナエー!」


 視線を向けられたポケモン達は、それぞれ元気良く声を上げると精一杯アピールをしてくる。
 コウヤは彼らを順々に見ていくと、一つ頷いた。どうやら誰にするのかを決めたらしい。


「それじゃあ、僕は――――」





 博士からポケモンを貰ったコウヤは、博士達にお礼を言うとそろそろ研究所を後にするために改めて荷物を持つ。(ちなみに、コウヤは肩掛けカバンだ)


「それでは博士、皆さん、行って来ます」

「うむ。何かあればいつでも連絡してきなさい」

「いってらっしゃい。別に何か用件がなくったって、いつでも連絡してくれて構わないからね」

「はい…では」


 コウヤは一礼すると研究室のドアを潜り出て行く……って、おい!?


「あっ、コウヤくん!出口は反対だよ!!」


 俺がコウヤに言いたかったことを、そのまま助手の人がコウヤへと告げる。
 コウヤを出口まで案内するために慌てて出て行く助手の人の後に続こうとした俺は、ふと視線を感じて走り出した足を止める。
 視線を感じた方へ向けると、博士が俺をじっと見ていた。

 数秒間、黙って視線を交し合う俺と博士。

 すると、博士がおもむろに口を開いた。


「うむ。まぁ……頑張りなさい」

「ピチュー……(あぁ、言われずとも)」


 むしろあれだ、頑張んないと後々大変なことになるだろうから嫌でも頑張んないといけない。特に、道に迷うのだけは……避けたい。

 力なく頷き返し、コウヤの後を俺は再び追い始めた。
そんな俺を、博士は黙って見送り出したのだった。






 その博士の眼にはどこか憐れみを含んだものであったということに、俺は気づかなかった―――――。







                        

※あとがき
 というわけで、今回はナナカマド研究所にてのお話を書きました。
 今回はオリトレのコウヤについて色々と説明文が多くなってしまいました……。途中、色々と話を挟んでいたので読み難い部分もあったのではないかと。(申し訳ないです)

 コウヤが3匹の中でどのポケモンを選んだのかは次の話で書こうかと思います。

 ナナカマド博士の言葉遣いがわからなかった!(言葉の始めに「うむ」と言うことしか覚えてない…)もし、違っていたらそこはスルーしてやって下さい。