「ピチュ〜…(はぁ〜…)」
ナナカマド研究所を後にして早3時間。 俺達はとある森の中にいる。結構前に通り過ぎた看板には『202■■■■』と書いてあった気がする…(人間の字はよくわからん!…まぁ、数字?だっけかは何とか読める)。 コウヤも「202ばんどうろだね…」って言ってたから、■■■■の文字はどうろって意味なんだろうな。
さて、話は戻るが研究所を後にして3時間。たった3時間しか経っていないというのに、早くも俺は疲れていた。主に精神面で。 主な原因は俺のトレーナーことコウヤだ。まぁ、言わずもがなだな。 コウヤは1時間前からビッパ観察に入っている。あー、あれだ。一度趣味に走るとなかなかこちら(現実)に戻ってこない。ターゲット・ロック・オン!とばかりに観察対象のポケモンしか眼に入らなくなってしまった。(やれやれ…)
そして現状そっちのけで放り出されている俺達。 そう、俺達だ。 今、俺の隣にはコウヤがナナカマド博士から貰ったポケモン――ヒコザルことホムラ(コウヤが早速名前を付けた)がいる。 俺は隣にいるホムラにチラリと視線を向ける。案の定、そこには困惑を前面に押し出している顔があった。
うん、まぁ…一つだけ言うならば、
これこそ我らがトレーナーだ。早々に諦めろ。
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【君と共に歩む道 第2話 ‐初めましての挨拶はアクティブに‐】
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さて、時間は少し前に戻る。
ナナカマド研究所を後にした俺達は202ばんどうろへとやって来たわけなのだが、その202ばんどうろへと入るとすぐにコウヤはあることをした。そのあることというのが、ついさっき貰ったばかりのポケモン―ヒコザルをモンスターボールから呼び出すことだった。 ボールから出されたヒコザルは、コウヤと俺の顔を交互に見遣る。 そんなヒコザルの様子など一切無視し、コウヤは何やら一人でうんうんと唸っている。
「ヒコザルは炎タイプだから…炎、エン……じゃあ捻りが無さすぎるしなぁ」
ブツブツと呟かれている言葉を拾い聞いてみるに、どうやら新入りの名前を考えているようだ。まぁ、名前を考えるのは別にいいんだけどな。本人を置いてけぼりにするのは良くないと思うぞ?…ほら、段々と不安そうな表情になってきた。いい加減、声を掛けてやれって。(←自分自身が声を掛けるという発想には至らない)
俺の心の声が届いたのか、はたまたやつの困惑の視線に気がついたのか…そこでようやくコウヤは呼び出したヒコザルへと声を掛けた。
「ん?あぁ…ごめんね?今、君の名前を考えていたところなんだ」
「ヒコー…(そ、そうなんですか)」
ようやく声を掛けて貰ったことにより、変に張り詰めてしまった気が緩んだようだ。(そりゃあ、呼び出しておいて一声も掛けられないで放置されればな…)やつの肩から僅かに力が抜けるのが見ている俺にはわかった。
そうこうしているうちに、隣で未だに考え込んでいたコウヤが一つ頷くのが見えた。 どうやら名前が決まったらしい。
「んー、それじゃあホムラ(焔)で。――君の名前は今日からホムラね。それじゃあ、よろしくホムラ」
コウヤはどこまでも自分のペースを崩すことなく、相変わらず眠たげな顔にゆるい笑みを浮かべるとヒコザル――ホムラに向かって己の手を差し出した。いわゆる握手ってやつを求める姿勢だな。
コウヤに握手を求められたホムラはちょっぴり驚いたように目を見開いた後、おずおずとコウヤの差し伸べられた手に己の手を伸ばした。 そんなホムラの様子にコウヤは一層笑みを深くすると、ホムラと握手を交わし――そのまま己の方へと引き寄せた。その一連の動作は流れるように行われたため当事者たるホムラは反応することができず、コウヤの思惑通りその腕の中にすっぽりと納まってしまった。 一瞬で行われたことに唖然としているホムラを余所に、コウヤはぎゅ―っと抱きしめる。
俺もやられたんだよなぁ…アレ。卵から孵ったばかりの俺にもコウヤは一連の動作(名付け→握手→ハグ)をやった。あれは恥ずかしい…というかむず痒い?とにかくすっごい照れる。あぁ…、ホムラのやつ慌ててる慌ててる。
急展開の硬直から解けたホムラは、今度はどうしたらいいのか分からずにすごく焦っているのがわかった。何せやつの目が忙しなく泳いでいるからな、傍から見てもやつの心情は一発でわかる。まぁ、わかってたことだがな。(←確信犯)
ホムラはとうとう居た堪れなくなったのか、コウヤの腕の中でジタバタと暴れ出した。 そんなホムラの動きなど物ともせず、コウヤはやつを抱きしめたままこちらへと体を向き直した。
「ホムラ、紹介するね。この子はシセン。僕の最初の仲間…君の先輩になるわけだね。シセン、ホムラに挨拶してくれる?」
「ピ〜、ピチュー…(あ〜、そういうわけでよろしく)」
「ヒコッ!ヒコヒコッ!!(はい!よろしくお願いします先輩!!)」
「ピ………(おい……)」
先輩って…先輩って!コウヤの言ったことを真に受けるな!!(いや、確かに先輩だけどさぁ〜年数的に) なにコイツ。真面目?真面目なの?!それとも天然かっ?!!
「ピ、ピチュー?(ちょっ、何で先輩って呼ぶんだ?)」
「ウキィ?キィー?(え?何でって先輩は先輩なんですよね?)」
「ピチュ、ピチューピー(いや、別に名前の方で呼んで構わないぞ俺は)」
「ヒコ、ヒッコー?(でも、先輩なんですよね?)」
「…………(…………)」
うん、こいつは天然で決定だ!
何でそんな不思議そうに見つめてくるんだよ…。俺、名前で呼んで構わないって言ったよな?言ったぞ?! なのに何で先輩?あえて先輩!な、なんだ?何だか無性にむず痒いぞ?!
思わず視線を横に逸らせると、丁度コウヤの姿が眼に入ってきた。
…って、何だその愛しさが溢れんばかりの視線は!?さも微笑ましいものを見るような眼でこっちを見るな―っ!!
ちょっ、スケッチブック取り出して何する気っ?!描くのか?描く気なんだな?
おい、そんなニヤけた顔で描くな!あぁぁ、描かないで!ホント、お願いしますから!!
――結局、しっかりとスケッチブックに描かれた。orz
スケッチブックに俺達のことを描き終えたコウヤは、その後見晴らしの良い原っぱで日向ぼっこをしているビッパを発見すると今度はそいつの観察に徹し始めた。
そして話は冒頭に戻る。
※以下、ポケモン同士の会話は『』書きとさせて頂きます。
『あ、あの…先輩』
『ん?どうしたホムラ』
『ご主人様、先ほどから何をやってるんですか?』
俺達の視線の先には地面へと腹這いになり、草むらの隙間からポケモンをウォッチングしている俺達のトレーナーがいる。 …時にコウヤ、服が捲れて腹が出てるぞ。風邪引いたらどうするんだ!!
俺はその小さな肩を軽く竦めると、コウヤの傍へと歩み寄ってその捲れていた服を元に戻してやる。この間、コウヤは俺に対して一度も反応を返さない。呆れた集中力だ。 そして俺はホムラの許へと再び戻ると、真剣な表情でこの新たな仲間へと話し掛けた。
『おい、ホムラ。お前が俺達の仲間になるに当たって、説明しておかなければならないことがある……』
『せ、説明しておかなければならないこと、ですか……?』
俺の真剣な空気を感じ取ったのか、ホムラは背筋をピンと伸ばして俺の話を聴く体勢に入る。 それを確認した俺は重々しく一つ頷くと、ゆっくりと話し始めた。
『……初めに言っておく。コウヤ…俺達のご主人様はな、一人で旅をしていくことがひどく難しいやつだ』
『…………え?』
ホムラは俺の言葉を聞いて思わず言葉を失っている。 言葉の意味自体はわかっていても、どうしてそういう話に至っているのかまではわからないのだろうということは、そのしきりに繰り返されている瞬きを見ればわかる。 まぁ慌てるな。それをこれから説明してやるんだからな。
『さっきまでのあいつを見てはわからなかったかもしれないが……コウヤは究極の方向音痴だ』
『へ?』
『南に進むつもりが北へ進む、右に曲がらないといけないのに直進する……とにかく、あいつ自身で目的地という場所に辿り着いたことはほぼ皆無と言っていいだろう。俺も彼此2年の付き合いになるが、あいつが道に迷わなかったことは1・2回あったかどうかくらいだ。本当に珍しいんだ……』
あぁ、話していて段々鬱になってきた……。そうだよ、大事なことを忘れてた。うわぁー、このことに気づかなかったなんて…俺、かなり迂闊じゃね?
俺を取り巻く気が一気に重くなったのを肌で感じたのか、ホムラが怪訝そうな顔でこちらを見てくる。
『ど、どうしたんですか?先輩……何だか急に空気が重くなりましたよ…?』
『やばい…かなりやばい……。うわぁー、こんな致命的なミスをするなんて俺のアホー、まぬけぇー!!』
『えっと、先輩?』
『目的地』
『え?』
『目的地、確認するの忘れてた……』
何度も重ねて言うが、コウヤは目的地がわかっていてもそこへ辿り着くことができない。そこまでの道のりをナビするのは俺だ。そこが知っている所だろうと、知らないところだろうとコウヤをそこへと引っ張って行くのはこの俺の役目なのだ。
無論、行ったこともない土地を俺が案内できるはずもない。だからその前段階の準備が必要なのだ。皆だって知らない土地に行く時はその経路を確認するだろう?そう、地図だ。 人間の字を俺は読むことができない。だから街の名前とか出されてもわかるはずがない。だから、コウヤに現在地(今いる街の位置)を教えてもらい、目的地がどこなのかを地図上で教えてもらう。後は目的地のある方角だけ覚えておくのだ。 細かい地図の見方なんてわからん。 例え地図の見方がわかったとしても、それがどうしたって話になる。何せ常時道から外れて歩こうとするコウヤなのだ。地図に描かれている道があったとして、そこを通らなければ話にならない。つまり意味がない。
そもそも、きちんとした道を歩けば迷うことなど万に一つとしてないのだ。こうして先を憂う必要さえなくなる。 でも、コウヤはきちんとした道を歩いてくれない。ポケモンの後を追っては道を外れ、道なき所へと入り込んでしまう。 俺もなるべくきちんとした道を歩いてもらうよう努力をしているのだが、所詮は体格差のある俺達。勝敗は体の大きいコウヤが勝ってしまい、結局道に迷うのだ。 だから、取り敢えず方角だけ覚えておくことにしたのだ。後はもう、運任せに等しい。
『―――だからだな、せめて方角だけでも確認しておかないとマズイことになる。何せここはもう森の中だ。さっきまでの見晴らしのいい原っぱじゃないからな』
『…………先輩、もう手遅れかもしれません』
『うん?なんでだ??』
『だって……ご主人様が………』
『?コウヤがどうかしたのか……って…』
ホムラの言葉に釣られて、俺はコウヤへと振り返る。 すると、すぐに捉えられたはずのコウヤの姿がどこにも見当たらない。
そう、『どこ』にも『見当たらない』。
『…………』
『…………』
…………あれれ?
『こ…コウヤアァアァァァァッ!!?』
『ご、ご主人様?!どこ行っちゃったんですかぁっ!!?』
俺とホムラは同時に叫び声を上げた。
や、やばい。コウヤを見失った?!一体いつから?!! いや、それよりも早くコウヤを探さないとっ!迷子云々よりもコウヤと合流できない方がマズイって!!あいつの傍に俺達がいないってことはイコール丸腰ってことだぞ?もし、野生のやつに襲われたらどうするんだよあいつ!!!
何かコウヤの後を追える手掛かりはないかと必死に周囲に視線を巡らせる。
!あった!!!
背丈の長い草がくっきりと左右に分かれ、踏み倒されているのを俺は見つけた。 草の倒れ方を見るにまだそんなに時間が経っていない!まだ十分に追える!!
『こっちだ!急いで追うぞ!!』
『は、はい!急いでご主人様を見つけましょう!!』
俺達はすぐさまその踏み倒されてできた草の道へと飛び込んだ。
頼むから無事でいてくれよ―――――!
![](i-next-b2.gif)
※あとがき というわけで、コウヤが博士から貰ったポケモンはヒコザルでした。名前はホムラ。 ホムラの言葉遣いは丁寧なのが標準装備。シセンは逆に荒っぽい感じで……。
ヒコザルやナエトルの鳴き声がいまいちわからない…これで合っているのだろうか?不安。
お話を書いていくうちに、何だかコウヤが段々ダメ人間になって行ってるような気が…え?初めから?そう言われてしまえば終わりな気がする。
気力があれば、今日もう1話書きたいな……。
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