ナナカマド研究所を出発してから5日。

 天気は相も変わらず快晴そのもの。

 そして俺達は――――



 いまだに森の中にいた。









【君と共に歩む道 第4話 ‐悩みの種が増えました‐】






 いや〜、ねぇ。いい加減、ポケモンセンターの一つでも見つかっていい頃合いだと思うんだがな?いまだに辿り着けてないって……そろそろ危機感を感じてもいいんじゃねぇか、これ。

 内心でぼやいている俺を余所に、コウヤは今日も今日とてポケモンウォッチングをしている。ホント好きだよな、お前……。
 今日の観察対象はミノムッチ。朝から観察しているがほとんど身動きをとらない。
 だというのに、コウヤのやつは何がいいのかかれこれ3時間もの間変化なしのミノムッチの観察を続けている。途中、スケッチブックを開いてミノムッチを描いていたりもしたが、よくもまぁ続くものだ。

 俺は視線を空へと向けた。
 見るも眩い光を放つ太陽は丁度真上の位置へとやってきている。……そろそろ昼時だな。

 俺はコウヤへと歩み寄ると、その服の裾を掴んで軽く引っ張った。
 しかし、コウヤは無反応。
 今度は少し強めに服を引っ張ってみる。
 だがやはり無反応。
 更に強めに…………

 ………………

 …………

 ……

 …


 全然反応しねぇ――――っ!!orz


 ふっ、ははっ!俺を無視するとはいい度胸だ………。
 お前が悪いんだからな?俺は懇切丁寧に6回も声を掛けてやったんだぞ?それをお前は無視した。

 …これは最終通告だ。これでもう反応しなかったら、実力行使にでるからな?それでは、いざっ!


「ピピチュ〜!(コウヤ〜!)」


 俺はコウヤの服をあらん限りの力で引っ張ってみる。が、勢い余ったのか掴んでいたはずの服が手の中からすっぽ抜けた。
 俺は支えを失ってしまい、勢いのまま後ろへとコロコロと転がってしまった。う〜、痛くはないが目が回った……。


「うん…?」


 ようやく、といった感じでコウヤが反応した。それまでミノムッチにのみ固定されていた視線が俺へと向けられる。
 そしてそんなコウヤの視界に入ったのが、目を回して頭をふらふらとさせている俺。ものすっごく不思議そうな顔をコウヤから向けられた。


「………何してるの?シセン」

「ピ、ピチューピッチュ!(や、やっと気づいたか。もう昼だぞ!)」


 俺は揺れる視界を気合と根性で押さえ込みつつ、指を真上――太陽に向かって指し示した。
 コウヤも俺の指が指し示す方向へと視線を向け、そこに太陽があることを確認すると納得したように頷いた。


「…あぁ、もうお昼だね。わざわざ教えてくれてありがとうね、シセン」

「チュー…(わかればいいんだよ…)」


 ただ、少し欲を言えばもう少し早く気づいてほしかったけどな!

 せめて3回くらいのうちに気づいてほしいものだ…。ここで1回って言わないのは、俺のささやかな心遣いだ。っていうか、絶対に1回では気づけないだろうしな。

 コウヤはスケッチブックと観察内容をメモしたノートをカバンの中へと仕舞い込むと、ボールの中からホムラを呼び出した。次に、容器にポケモンフーズを入れると、「はい、どーぞ!」と言ってその容器を俺達の前へと置いた。
 俺達はそれに対し元気の良い声を返すと、目の前の昼ご飯へと意識を向けた。
 コウヤはそんな俺達の様子を一通り見届けた後、カバンの中から自分の分の食事を取り出した。――見た目はお菓子のクッキーみたいな携帯食だ。日持ちはするし、栄養バランスとかはそれなりに考慮されているんだろうけどなぁ………絶対に味気ないと思う。それでなくても3食全て同じというのはいただけない。

 コウヤの食事。それがここ最近の俺の悩みの種だ。

 全くもって不思議な話なのだが、コウヤは俺達の食事に対してはかなり気を配ってくれる。それこそ、手作りのポケモンフーズを用意してくれるほどに…。
 朝、目が覚めて真っ先に行うのが俺達の体調チェック。その結果に合わせてポケモンフーズの配合を変更しているのだから、そこら辺の新人トレーナーとは一味違う。
 ナナカマド研究所に顔を出していた時にフーズの作り方を聞いて以来、コウヤは試行錯誤を重ねながら俺の分を作ってくれている。つい最近はホムラもメンバーに加わったので、味の好みから栄養のバランスまで一からレシピを考えているのだから素直にすごいと思える。

 コウヤはかなりの面倒くさがりだからな。ポケモンフーズを作るなんていう面倒くさいことをやっているだけ、その意外さをわかってもらえるのではないかと思う。
 だが、その反動というものもしっかりと返ってきている。
 それが先ほどから話しているコウヤの食事だ。

 あいつ、自分の食事に関してはとことん手を抜いている。まともに料理を作ろうなんて、少しも考え付かないようだ。
 その結果がクッキーみたいな携帯食のみの生活。……ありえない、ありえなさ過ぎる。何でこうもやることが極端過ぎるんだ?
 …まぁ、そんなわけで俺はコウヤの食事を何とかしたいと考えている。それはホムラのやつも同意見のようだ。

 一応、ここ数日はポケモン観察の合間に偶然見つけた木の実や果物なんかを採ってはコウヤに渡してるんだがな……ポフィン(俺達用のおやつだったよな?確か…)の材料になるとか言って食べずに大事に仕舞い込む有様。まぁ、それ以外(ポフィンの材料にならないやつ)のものは意地でも食べさせた。俺達に食べさせようという素振りを見せた瞬間に睨みつけてやった。(そこまでしないとあいつは食べてくれない)

 とにかく、コウヤの食事について少しでも改善させるために、俺達は色々と努力をしている。が、それもそろそろ限界だ。というか俺の堪忍袋の緒が限界だ。
 旅を始めて早5日。あいつはまだ一度としてまともな食事をとっていない。いやな、別にユエさんが作るような種類豊富な料理を作れとは言わん。でも、もう少し量のあるっていうか…食事らしい食事を食べてほしいのだ!

 あと、欲を言うようであればもう少し睡眠もとって欲しい……。
 ポケモンウォッチングが趣味なコウヤ。もちろんその時間は昼とはいわず、夜にまで及んだ。何せ夜行性のポケモンだっているわけだしな。
 日のあるうちも散々ポケモン観察に勤しんでいたというのに、夜は夜でターゲットを変えて昼同様に観察を続けるのだ。
 まぁ、それだって良い子が眠る時間までというのであれば許せる。だがしかしっ!コウヤの観察に対する執念はそれほど生温くはない。
 あいつは俺が無理矢理寝かせようとしない限り、自ら寝袋に潜り込もうとはしない。それこそ、草木も眠る丑三つ時っていう時間になっても起きているのだ、これにはもう溜息しか出てこない。そのくせ、朝は太陽が山裾から顔を覗かせる頃には起きているのだから始末に終えない。

 ユエさんというストッパーがなくなったことにより、その日常サイクルの崩壊っぷりは凄まじい。
 正直言うと俺の身体がついていけない。眠い目を擦りつつ、コウヤが自分の目の届かない所に行ってしまわないように気をつけなければならない。夜の森で迷子なんて、本当に洒落にならないからな。
 お蔭様で、俺の目の下には薄っすらと隈ができはじめている。くそっ!これがとれなくなったら絶対にコウヤのせいだからなっ!!

 コウヤの身を心配する云々以前に、自分の体調面が深刻な事態になりそうだ……。

 だから俺は決めた。



 今日こそは、コウヤをポケモンセンターへと連れて行く―――!!



 そして脱・野宿、脱・携帯食を目指す!!

 今日の午後はポケモンセンターが見つかるまで趣味のポケモン観察などさせん!どんなに嫌がろうが、今日は絶対にフカフカのベッドで寝てもらう!!
 旅をする上で5日程度の野宿なんてざらだろうと思うだろうが、コウヤの生活態度を顧みればこれくらいが丁度いい。何せ一人だと自分への労わりとか配慮が壊滅的だからな。人の目がある所に放り込んでやっと人並みの生活を送ってくれるだろう。(主に食事と睡眠)


『ふっふふっ!コウヤ、覚悟しろよ………』

『先輩、何か怖いですよ……』


 固く誓いを立てているその隣で、ホムラが若干引き気味になっていたことなど、色々と燃えていた俺が気づくはずもなかった―――。









「――…ホムラ、ひっかく!」

「ヒコ――!」


 コウヤは眠たげな目のまま、ホムラへと素早く攻撃の指示を出す。
 ホムラの方も指示に対し、素早く行動に移る。ホムラは相手――コロボーシに向かって「ひっかく」を繰り出す。


「コロぞう、がまんだっ!!」


 コウヤとは別の声が、コロボーシに威勢良く指示を飛ばす。
 相手のコロボーシはそれに合わせて溜めの姿勢に入った。そしてホムラの攻撃がヒットする。


「ホムラ、もう一度ひっかく!」


 ホムラの攻撃が再びコロボーシに当たり、コロボーシはそのままの勢いで後ろへと吹っ飛ばされる。が、それと同時に今まで「がまん」で溜めていたパワーが一気に開放され、ホムラも相手同様後ろへと弾き飛ばされた。

 ズサァッ!

 ホムラ、コロボーシ、双方の体が地面を転がり、停止する。


「ホムラ!」

「コロぞう!?」


 コウヤと相手のトレーナー(確かヨウスケと名乗っていた気がする…)それぞれの声が上がるが、それに対しホムラ達は反応を示さない。…どうやら両者相打ちで戦闘不能になったようだ。


「…戻って、ホムラ。お疲れ様」

「くそっ!戻れコロぞう!!」


 戦闘不能になったホムラ達をコウヤ達はモンスターボールへと戻す。
 ボールへと戻ったホムラに労いの言葉をかけたコウヤは、改めてヨウスケへと視線を向ける。


「……で、どうする?バトル続けるの?」

「当然だっ!俺にはまだナエぞうがいる!お前にだってそのピチューがいるだろうが!!」


 鼓膜が破れる…という程のものではないが、かなりの大声でヨウスケは試合続行を告げる。コウヤはその返事を聞いて、一つ頷くと俺へと視線を向けた。


「――そういうわけだから…シセン、行ってくれるよね?」


 その瞬間、俺の背筋をえも言えぬ戦慄が駆け下りた。

 コ、コウヤ…目、目が笑ってないから!!

 傍から見るとコウヤの眠たげな目は普段通りに見える。だが俺にはわかる。今、コウヤは口元に薄っすらと笑みを浮かべて(それはそれで十分に怖いのだが…)俺を見ている。が!その目は1ミリたりとも笑っていないし、常は穏やかな光を浮かべているそれが冷たいものへと様変わりしている……。
 コウヤ、怒るのは別に構わないんだが…その目を俺にまで向けるのは止めてくれ!冷気がこっちにも流れてきてるからな!!

 くそっ!ヨウスケのやつ、余計なこと言いやがって!!


 そう、ことはほんの少し前に遡る。





 あの後、俺は宣言通りコウヤにポケモン観察させる暇も与えずに強引に正規の(つまりは人間の使う)道まで何とか戻ることができた。
 その道すがら趣味のポケモン観察を散々遮られたコウヤは、傍からみても不機嫌そうだ。いや、この場合は拗ねているとでも言うのだろうか……。

 その甲斐あってか、ポケモンセンターは割りとすぐに見つけることができた。ちなみに、その時の俺の心境はというと、ものすごくショックを受けていた。
 こんなにすぐ近くにポケモンセンターがあることを知っていたら、コウヤの偏った食生活とか削りに削られた睡眠時間をある程度改善することなど容易かったというのにっ!
ポケモンセンターの近くまでやって来ていながら、その存在に気づかずに野宿していたなんてお笑い種だ。俺とホムラの苦悩していた時間を返せ!!

 …などと俺の胸の中が荒れ狂っている中、ポケモンセンターまであと少しという距離に来たその時、そいつ―――ヨウスケは俺達の前に立ちはだかったのであった。












                        

※あとがき
 果たして、これを読んでいる人がいるのだろうか……?と疑問に思う今日この頃。
 さて、中途半端なところで区切ってしまい申し訳ないです;;これ以上書くと、お話がずるずると延びていきそうだったので、一旦区切らせてもらいました。

 今回はシセンの愚痴がとにかく多かった。(まぁ、主人公ですからね…)
 ホムラの出番がほとんどなかった。というか、ほとんど喋ってない…。orz
 何故かコウヤが唐突に黒くなってる?!いえ、コウヤは基本黒くはないですよ?ただ、今回はマジギレしているのでそれっぽくなってますが…。
 というかヨウスケ、ネーミングセンスないなっ!(←自分で書いたんだろうが!!)

 いやぁ、今回のお話は色々と突っ込みどころがあったと思います。自分でもちょっとこれは…と思わないこともない。すいません、そのあたりは軽く流してください…。