『理由』なんてない。










自分はただその為だけにいるのだから。










それが当たり前で










それが必然










だからそもそも『理由』なんていらないんだ―――――

















          水鏡に響く鎮魂歌―捌―

















「久しぶりだね、昌浩。元気だった?」


にっこりと笑いながらそう聞いてくるのは自分と顔が良く似ている寛匡。
血臭漂う中、その笑みはひどく不釣合いなものであった。

叫び声を聞きつけ、慌てて駆けつけた昌浩達が見たものは懐剣というには長く、長剣というには少々長さが足りない剣を携えている寛匡と血溜まりに沈んでいる男。


「なっ!貴様・・・・・」

「だいじょ―ぶ!殺してなんかないよ。ちょっとだけ出血が多いだけだからv」


倒れ伏す男を見つけ目許を険しくする物の怪に、寛匡はにっこりと擬音語が付くような笑みで答える。
状況を見るからに―――いや、見極めるべくもなく男をその様にしたのは目の前で笑む少年。

正直言って、今までの行動からではこの少年の真意を図ることはできない。
標的対象はわかる。それは推し量るべくもなく安倍の血を継いでいる者。
しかし目的がわからない。
今まで襲われたのは成親達含めて六人。
最初に襲われた二人は軽傷、その後に襲われた残り四人は重傷。しかし、死人だけは未だに出ていない。
もし、安倍家に恨みがあるとして何故怪我程度に止めているのか・・・・・・・。
これがそこら辺にいるへっぽこ術者(物の怪曰く)ならばそれで納得もしよう。
しかし、この昌浩そっくりの顔をしている少年はそれには当てはまらない。
分家ならまだしも、吉昌が息子の成親・昌親にまで傷を負わせることができる術者。
これは弄んでいるとしか言えないではないか。

更に言えば理由もわからない。
本人が告げない限りにはわからないのは当たり前なことではあるが、それを差し引いても不信さが残る。
殺気を始め、恨みや怨念、嫉みなど様々なものがあるが、その様な負の感情に属したものが彼の少年からは全くと言っていい程感じられないのだ。
そんな少年が意味もなく安倍の者を襲ってくるというのも不可解なことである。
それらを総じて考えれば、この目の前に対峙している少年は《謎》の一言に尽きる。


「なんでこんなことを・・・・・・・・」

「するのかって?うーん、その質問には答えられないからなぁ・・・・・・・・というより答える権限を俺は持っていないと言った方が正しいかな?」

「権限を持っていない?」

「そう!だから昌浩の質問には残念ながら答えてあげられないんだ」

「・・・・・・・・おい、答える権限を自分は持っていないと言ったな?」

「―――うん、言ったけど?」


しばしの間黙していた物の怪がおもむろに口を開く。
物の怪の問いに対し、寛匡は至って軽い調子で言葉を返す。


「権限を持っていない。つまりはお前に行動を指示する上の立場の奴がいるってわけだな?」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「もっくん、それは・・・・・・・」


物の怪の問いの意味することを悟った昌浩は物の怪に視線を投げる。
物の怪はそれに一つ頷くことで返事を返す。


「あぁ。こいつに指示を出す奴がいる。それは間違いないだろう?」


前半は昌浩に、そして言葉の終わりでは確認するように寛匡に向けて言葉を投げかける。


「うん。当たりv・・・・・で、それがどうかした?」

「・・・・・・それは知られても困らないと?」

「困らないね。だって、別段こちらは隠しているつもりはなかったからね」

「・・・・・ということは、さしずめそいつが首謀者でお前がその手下か」

「そーいうこと!そんなの今までの俺の言動でわかることでしょ?」


あったりまえじゃん!

そう言って寛匡はにっと口の端を吊り上げて不敵に笑う。
癇に障る笑いだが、物の怪はそこをなんとか自制して比較的冷静に言葉を紡いだ。


「―――首謀者は誰だ?」

「やだな〜、そんなこと俺が教えるわけないでしょ?何?教えてもらえるとでも思った?」


嗤いつつ、寛匡は逆に物の怪に聞き返す。
無論、物の怪とてそう容易く相手が答えるとも思っていなかったので、その問いには無言をもって返した。
昌浩はそんな二人のやり取りを口を挟まずに黙って見守る。
とてもではないが口を挟みこむ余地がない。


「まっ、思ってはいないだろうね。それで?後は聞きたいことある?」

「・・・・・・・・・」


例え聞いたところでこちらの問いには答えまいと判断した物の怪はそれ以上口を開こうとはしない。
それに代わって今度は昌浩が口を開く。


「安倍の人たちばかり襲ってるみたいだけど、何故なんだ?」

「何故って・・・・それは安倍の奴らに恨み言があるからに決まってるだろ?」

「うん、それは他の人の指示って言ってるからにはその人は安倍を恨んでいるのはわかるけど・・・・・・じゃあ、君は?―――寛匡はなんでこんなことしてるんだ?」

「・・・・・・・俺?」

「そう。寛匡もやっぱり恨みとかあったりするの・・・・・・?」


そう、昌浩が聞きたかったのは寛匡の理由。
寛匡がこのようなことをするのは別の人からの指示だと言う。
では寛匡自身は―――――?


「恨み言か・・・・・・・・あるっていえばあるけど・・・・・・」

「けど?」

「けど、それは理由じゃない。そうだな・・・・・敢えて言うならば『成さねば為らぬこと』、かな?」

「・・・・・・・成さねば為らぬこと?」

「そう。それが俺の理由・・・・・・・って言ったとしても意味がわからないか」

「う――ん・・・・・・・・;;」


寛匡の返答に昌浩は唸りながら考え込む。
だから気づかない。
その時寛匡が口元にうっすらと笑みを浮かべたことを―――――。


「・・・・・・・・・・・そう、だからこれも『成さねば為らぬこと』・・・・・・・・・・・」

「え?」

「―――っ!昌浩!!!」


寛匡はそう言ったかいなや携えていた剣に霊力を込め、昌浩に向けてそれを抜き放つ!
寛匡の行動にいち早く気づいた物の怪は昌浩に警告を発する。
霊力の爆発と共に当たり一帯に轟音が響き渡る。
そして、しばらくの間砂埃で周囲が全く見えない状況に陥る。


「っ!見えない!もっくんどこ―――っ!!」


どこにいるんだ?と続けようとした言葉は、砂埃を切り裂いて襲い掛かってきた凶刃によって遮られた。


「―――――っ!!!!」


白銀の残像と共に紅が散る。
それと同時に声にならない悲鳴が響いた。










「―――もちろん、その対象には昌浩、お前も入ってるんだよ?」









紅を滴らせながら寛匡は誰にも聞こえないような声でそう囁く。
















そう、例え自分にとって昌浩が『特別』だったとしても、その対象から外れることは決してない。























                      

※言い訳
と言うわけで新年初の小説です。
なんかいつもよりちょっと短めです。
このまま書き続けると文が長くなり過ぎるので、ここで一旦切ることにしました。
もう、自分で書いててわけがわからなくなっていたり・・・・・・いや、大体は決まっているのでそんなに大きく脱線することはないと思うんですけどね。
一体どの位書いたら話終わるんだろ・・・・・・・・?書いてる本人でさえ見通しが立っていない;;
多分、前半戦の終わりくらいかな?と思うんですけどね・・・・・・・・・。
頑張って書くので、今年も皆さん応援のほど宜しくお願いします。

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2006/1/2