愛しい大切なものはこの手をすり抜けていく――――――。 水鏡に響く鎮魂歌―拾参― 陰陽師の名家として知られている安倍家と比肩して存在する賀茂家。 その分家の一つに自分達は生まれた。 決して裕福とは言えなかったが、父は陰陽師としての実力はそれなりにあったので日々の生活を送る分には不自由しなかった。 しかし、まだ自分と二つ離れた弟が幼いうちに母が流行病で亡くなってしまい、父も自分達が漸く二十歳を越え、陰陽師として実力をつけて一息ついた頃にやはり病で帰らぬ人となった。 それから自分と弟の二人でお互いに支え合いながら決して楽とはいえない道のりを歩いてきた。 お互いを支え合い、励まし合って生きてきた自分達兄弟の絆は、他の者達よりも何よりも遥かに強固なものになっていた。 誰よりも優しくて、思いやりを持っていた弟。 両親がいなくとも、兄弟二人で生きていけばそれだけで十分幸せだった。 たったそれだけでよかったのだ。 しかし、その幸せは突然上がった弟の凄まじい叫び声と共に脆くも崩れ去った。 その叫び声に自分は慌てて駆けつけたが、弟はすでに息も絶え絶えな状態だった、 「!―――――瑞斗!!?」 「・・・・・・・・にぃ・・・・さ・・・・・・・・・」 驚いて慌てて弟を抱き起こす。 弟の尋常ならない様子を見て、呪詛が掛けられている事に気づく。 その事実に愕然とする。 陰陽師の生業の中には確かに綺麗とは程遠いようなこともある。 しかし、自分達はそのようなことに幸いにか、まだ一度も関わったことがなかった。 故に愕然とする。動機がわからないのだ。 今、こうして弟が呪詛によって苦しんでいる現実に。 「い、一体・・・・・・何故・・・・?」 「に・・・さん・・・・・・」 「―――っ!瑞斗!!しっかりしろ!!!」 途切れ途切れに聞こえた弟の声に現実に意識を引き戻し、そのひどく血の気の下がった、蒼白い顔を覗き込む。 弟に触れている手から、呪詛の禍々しい気が直に感じ取れる。 呪詛返しをしたくとも、相手の方が力・技術共に上であることは、弟を覆い尽くす呪詛の念の強さで嫌というほど思い知らされる。 弟を助けることができない――――――!! 血が出ることにも構わずに唇を強く噛み締める。 自分とて陰陽師だ。なのに今目の前で苦しんでいる弟を助ける術を持ち合わせていないなどと・・・・・・なんと無力なことか!!! 己の不甲斐なさに歯噛みしていた自分の腕を、弟が軽く握り締める。 微かな圧力に自分は再び弟に意識を向ける。 弟の顔色は青白さを通り越してすでに土気色だ。 「・・・・・・ぉめ!・・・・・ん・・・・・・・・・」 「瑞斗?いい、無理して話すな!話さなくていい!!」 話さなくていいと言う自分の言葉を聞かず、弟は尚何かを言おうと口を動かす。 それが微かな音になり、確かに言葉として紡がれる。 {ご、めん!・・・・・にい・・・さん。にぃ・・・・さんを、一人に・・・・・・してしまっ・・・・・・・・!」 「なっ!?何を言っているんだ瑞斗!!そんな馬鹿なこと・・・・・・・・・・・!」 「・・・・・おね、・・・・・・い。どう、か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「―――――瑞斗?っ、瑞斗!!!!?」 言葉の最後の方はほとんど掠れて聞き取りずらくなってしまったそれを残し、弟の声が途切れる。 瑞斗はそこまで言うと、ゆっくりと目を閉じる。 瞼が閉じきったと同時に、自分の腕を掴んでいた弟の手から力が抜け、自重に従ってぱたりと落ちる。 「っ!!瑞斗――――――っ!!!!!」 弟がこの世からいなくなったことを悟り、自分はこれ以上出ないというほど大きな声で絶叫した。 自分に残された唯一の暖かな光が失われた瞬間。 自分は光が届くことのない孤独という暗い闇の底に叩き落された。 「うっ・・・・・・・くっ、瑞斗・・・・・・・・・・」 心が急速に冷えていく。 「―――――て、やる」 嘔咽の中に混じって漏れた言葉。 復讐してやる。 自分から大切な存在を奪った、顔も名前も知らぬ相手に向けて吐き続ける呪いの言葉。 闇が全てを覆いつくす―――――。 ![]() ![]() ※言い訳 爛覇過去編です。 うーん・・・・・読み取りにくい文章になってしまった;; この後の話考えてないよ・・・・・・・・・どうしようかな? 感想などお聞かせください→掲示板 2006/2/3 |