束の間の平穏。 彼らにとっては変わりない日々だとしても 己にとっては人知れずに行われている戦いと戦いの合間で 決して知られてはいけないが、自分もそれでいいと思っている。 すべては自分の大切な人たちが安心して時を過ごすことを願う心故―――――――。 水鏡に響く鎮魂歌―拾玖― 怪我を負ってから十日後。 何とか歩く分には支障が無いだろうと漸く出仕の許しを貰った昌浩は、早速その日から出仕を始めた。 許しをだしたが、心内では「もう少し養生しててもいいのに・・・・・・」と残念そうに呟いたのは一人二人だけではないだろう。 とにかく、昌浩は何とか出仕したのだった。 十日ぶりに見る昌浩に、皆「大丈夫か?」と声を掛ける。 昌浩はそれに対し、「はい、大丈夫です」と笑って返すのであった。 しかし、その笑顔に騙されない人というのは一人や二人はいるのだった。 「久しぶりだな、昌浩殿」 「敏次殿・・・・・・・・」 「出やがったか、口先だけいっちょまえの頭でっかち陰陽師め・・・・・・・・」 陰陽生の藤原敏次。 彼はその一人や二人の筆頭に上げられる。 敏次の姿を見た瞬間、物の怪はおもいっきり毛を逆立てた。 その姿はさながら敵を威嚇する猫のよう。 頭でっかちとは、知識だけあって経験がほとんどないということを指しているようだ。 長期休暇が明けた後の昌浩に対して、雑言罵詈の限りを叩きつけてくれたことを今だに根に持っているらしい。 いくら誤解が誤解をよんだためとはいえ、そろそろ許してやってもいいと思うのだが・・・・・・・・。 根は良い人なのだからと何度言っても聞きはしない。 「例の謎の術者に襲われたそうだが・・・・・・・大丈夫なのかね?」 「はい。・・・・・・あ、えぇと、快調とは言えませんけど、出仕する分には問題ないです・・・・・・・・」 はい。ときっぱり告げたところ、非常に疑わしげな視線を寄越されたのでほんの少し訂正を入れる。 昌浩のその科白に、敏次は盛大に溜息を吐く。 それに、ぴくりと物の怪が反応する。 ぴしっ!と不機嫌そうに尾を振る。 厳しい眼光を放つ眼は眇められ、「これ以上何か言ってみろ、たたじゃおかないからな」的な空気をその身に纏わりつかせる。 今にも飛び掛らんばかりの物の怪に、昌浩は内心冷や汗を流す。 (もっくん、頼むから手(足)なんか出さないでよ・・・・・・・・・?) 敏次がいる手前、声に出して言えないので心の中で語りかけるに止める。 「今回のことは人災だから別として・・・・・・・・・・君は体が弱い質みたいだから、無理を押して治るものも治らなければその間は周りの者にも迷惑を掛け続けるのだよ?そこのところを考えたまえ」 「はい・・・・・・すみません」 「確かに、君が休んで雑事が滞るのは困るが・・・・・・・・何事も体が資本。大事にしたまえ」 「はい、心掛けます」 敏次の物言いこそ尊大に聞こえるが言っている内容は正しいので、昌浩は殊勝に相槌を打つ。 足元にいる物の怪へ視線を向けると、その肩がふるふると震えているのが見て窺えた。 「それでは、私はこれで失礼させて貰うよ」 「はい・・・・・あの、ありがとうございます」 「・・・・・・病に掛からないよう、気をつけることだ」 説教じみた物言いになってしまったが、それは昌浩の体を心配するためからのものだと昌浩は承知しているため、素直にお礼の言葉を口にした。 昌浩のその意図が伝わったかどうかはわからないが、敏次は最後にそう言い置いてその場を去っていった。 敏次の最後の言葉に、やっぱり良い人だなぁと昌浩は再度思うのであった。 しかし、そうは思えないのが約一名。 足元に控えていた物の怪だ。 「あんのやろう!何が迷惑を掛け続けるだっ!!何が雑事が滞るだっ!!それもこれも、お前たちが役立たずだから晴明や昌浩にいらない負担が掛かってるんだろうがぁ!!!!!」 「(いや、陰陽寮の人達に窮寄やら他人の死骸に取り付いてまでこの世を殲滅させようと考えてるやつとかを倒せと?それこそじい様並の力を持った人じゃなきゃ無理だって;;)」 がおぅと吼える物の怪に、昌浩は声を出さずにそう突っ込む。 ちなみに、自分がその晴明並の力を持っている存在とは全く露ほどにも思っていなかったりする。 今昌浩が思っていることをそのままの事実に当て嵌めると、後ろに稀代の大陰陽師、安倍晴明がついているとはいえ、実質最終的に手を下していた昌浩は晴明並の力を持っていることになる。(事実、そうであるが) そうなると、自分の考えが激しく食い違っていることに昌浩は気づいていない。 「・・・・・もっくん、いつまでも吼えてないでよ。おいてくよ?」 「んあ!?待て、昌浩!おいてくなぁっ!!!」 いつまでも敏次に対する文句を吐き続ける物の怪を放っておいて、昌浩はさっさと歩きだす。 それに気づいた物の怪は、慌てて昌浩の後を追うのだった。 * * * 肌に絡みつくような瘴気。 怨嗟と怨念が渦巻く空間。 そこに男はいた。 思い出せ哀しき過去を 思い出せ苦しき過去を 御魂に刻まれしその記憶 嘆きの声は虚空に響き渡れども 嘆きに耳を傾ける者は無し さすれば願わん 我が声を聞きし者が在ることを 我が魂とその叫びに気づきし者を この魂尽き果てるまで謡おう 嘆きの唄を・・・・・・・・・・・・ 男の口から唄が流れ出す。 それと同時に、今まで地の底深くで眠っていた魂たちがその唄に呼応し始める。 「眼を覚ませ。思い出せ。誰がお前達を闇に葬った?誰がお前達を陥れた?」 オオオオォォォォォッ!!!!! 男の言葉に応えるかのように、地の底から身の毛のよだつような声が這い上がってくる。 「忘れるな、憎悪を。忘れるな、悲しみを。俺がお前達の”声”を聞こう」 オオオオォォォォォッ!!!!! 「今、地の底から蘇れ!存在を葬られし亡者達よ!!!!!」 男の掛け声と共に瘴気が一気に膨れ上がる。 地面に亀裂が入り、穿つ。 そこから数え切れないほどの霊が這い出してくる。 男はそれを見て凄惨に笑う。 「お前達の思い、都人に知らしめてやれっ!!!!」 男がそう言い放つと、亡者達は一斉に都へ向かって進みだす。 その場には男の狂ったような笑いが何時までも響き渡っていた。 さぁ、復讐劇を始めよう――――――。 ![]() ![]() ※言い訳 爛覇が動き始めました。 てか、あんたどこにいるんだよ・・・・・・・・・。書いた本人もわからなかったり;; かなりのハイペースで書いております。 実は今月の終わりから来月の初めにかけて引越しがあるのです。だからしばらく更新が滞りそうなんで急いで書いているんです。 目指せ二日に一回更新!!!! 感想などお聞かせください→掲示板 2006/3/8 |